初めてを君に。



深夜を犯してみたいと思ったのは、あの夜、偶然彼の姿を見てしまったからだった。
あの夜―――たまには息抜きに、と小百合に連れられて街中の買い物に付き合わされた帰り。
最初は見間違いかと思った。だが、何度見ても、日本であの眩いような銀髪、色素の薄い肌の組み合わせは
あまり見ない。そんな男が、スーツ姿の男と腕を組み、ひどく甘えるような態度を取っていたことに
グレンは少なからず衝撃を受けていた。
あからさまな媚びを売っているような態度。
しかも決定打は、そのスーツ男が深夜の腰に腕を回し、身体を密着させてきたからだった。
そして彼らが消えたのは、何やら怪しい、煌びやかな繁華街。
その先は、想像に難くない。
本当は後をつけたかったが、小百合を連れていた手前、追いかけることができなかったのが口惜しい。
とにかく深夜は、飄々とした態度を装っていながら、男をひっかけて援交をするような奴で―――
そう思ったら、一瞬見た深夜の、女のような綺麗な顔立ちが頭から離れなかった。
ただ、造形が綺麗だとか、そういう理由で性的な欲求を刺激されるのならば、
自分には眼福な美人の従者が傍にいる。彼女だって実のところ、そういう関係を望んでいるらしいから
自分が求めれば断る理由なんてないだろう。
だがそれでも、今までこういう気持ちになったことはなかった。
知識としてはある程度のものはあったが、己の浅ましい欲求は他人を巻き込む程大きなものではなかったし、
責任を取れない以上、女性に手を出すべきではない。ましてや自分の求める未来は野心の実現でしかなく、
可愛い彼女との先行き明るい未来などではなかった。
だから、この気持ちは純粋に興味だ。
男であるあの、自分に五月蠅くまとわりついてくる彼が、
あんな中年男の前で、どんな風に啼いているのか。
男に犯されて、どんなカオをしているのか、見てみたいと思ったのが発端だった。
ちらほらと、人がいなくなる時間の、放課後。
グレンは人気のない体育館倉庫の裏、生い茂った木の下に、深夜を呼び出した。

「おい、深夜」
「ん、何?」

グレンからこうして呼び出すなんて珍しいじゃない、と、整った顔立ちが楽しげに笑う。
グレンは真顔で、深夜の顔を見つめた。
昨晩のことを思い出す。
昨晩は、初めて深夜をオカズにして、抜いた。
あの男の余裕ぶった顔が、快楽に歪むのを想像するだけで、己の欲望が熱を持つことに、
自分自身すら驚いた。
だからきっと、相手が男だからといって、途中で萎えてしまうことにはならないだろう、と思う。
深夜は、自分に対してひどく無防備だった。
だから、近づいてきた深夜の腕をぐい、と掴んで、間近に引き寄せることなんて簡単だった。

「何、グレ…っ!?」

グレンは迷うことなく、頭の中で考えていたことを実行に移した。
もう、一度こうしようと決めてしまえば、特に直前で迷うことなどない。欲求のほうが勝っていた。
たとえ彼が拒絶したとしても、自分に迫られたことなど、彼が柊家に言うはずもないだろうし、
何より一瀬のクズにこんなことをされたとあっては、柊の人間としても恥のはずだ。
だからグレンは、間近に引き寄せた深夜の顎を掴み、そうして真っ直ぐに彼の蒼の瞳を見つめた。

「…土曜の夜は、お楽しみだったな?」
「…なっ!?」

深夜の顔が、少しだけ紅潮し、その後蒼ざめている。
見られたことへの羞恥を露わにしている彼に、グレンは面白げに笑った。
こんな男でも、動揺した顔をするのだと、少し溜飲を下げる。
神のように祭り上げられる柊家の人間でも、一皮むけば普通の人間で―――
「援交でもしてんのか?男のクセに」
「っ…、グレンも、あんなとこにいたわけ?何しに?」

その発言は、肯定を意味している。グレンは深夜の腕を掴む掌に更に力を込めた。
この感情が、どういうものなのか、自分自身でもわからなかった。
頭の中で、穢れた男の手のひらが彼に触れているのだと思うと、どうしようもない嗜虐心が込み上げてくる。
他人にこんな強い感情を持ったことは、今までなかった。
しかも、まともじゃない。
だが相手は、守るべき女性や子供ではなかった。自分と同じレベルで強いはずの、
好敵手のはずで。

「偶然、見かけたんだよ。
 ―――それから、お前がどんなカオで抱かれてんのか、見たくなった」
「っ…、どういう、意味…?」

警戒するように深夜は睨み付けるが、今のグレンには、そんなものどこ吹く風で。

「なぁ」
「…嫌だね」

にべもなく断ろうとする深夜の顎を、更に乱暴に掴む。

「お前、俺に気があるんだろ?」
「っえ…はぁ?!」

先程の比ではなく、深夜の顔が真っ赤に染まる。
グレンが言ったのは、確信があったからではない。ただ挑発して、カマを掛ければ、彼が乗ってくると思っただけだ。否定にせよ、肯定にせよ、今はどちらでもよかった。
だが、深夜のこの、真っ白な肌を一気に染め上げる様子は、どうやら図星らしい。
真昼の婚約者のくせに、まさか男好きだとはね。
グレンは内心鼻で笑ったが、実の所、自分も同じ浅ましい欲望を持っているのだから、お互い様だろう。

「ったく、図星かよ」
「…で、君の目的は何?回りくどいことには興味ないんだ」
「っは、俺もだ。―――ヤらせろ」
「―――っ!」

深夜は絶句した。
まさか、グレンの口からそんな言葉が漏れるとは思わなかった、とでも言いたげな目線。

「君、それ、本気?」
「男慣れしてるお前なら、なんてことはないだろ?―――俺は童貞なんでね。筆おろししてくれって言ってる」
「なんで、僕なの」

ごくりと、唾を呑み込んでいるのがわかる。
あからさまな動揺が見られて、グレンは口の端を持ち上げた。

「君が一声かければ、相手なんてホイホイ見つかるでしょ」
「女はいろいろ面倒なんだよ。
 それより、お前が俺を好きなら、利害も一致するだろうが。だから俺のために足を開けよ?」

グレンの歯に衣を着せない言いように、深夜は絶句する。
だが、彼も決心したようだった。予定通りだった。ここまで言えば、彼に逃げ道などないはずだった。
否定すれば、自分の本当の望みを自ら裏切ることになる。
それに、ここで自分の誘いを断ったところで、自分が深夜の秘密を握った事実は変わらない。
彼を追い込むネタはこちらの手中にあった。

「…お金は?」
「ああ?」
「童貞の筆下ろしは割高なの。最低、5万円はくれないと」
「っち、金取るのかよ。クズだな」

睨み付ける。対して深夜は、きっと夜用であろう、妖艶な笑みを浮かべた。
不覚にも、下半身が疼く。
この男のこんな顔が、間近に迫っている。欲望が頭を擡げてきて、心持ち、紅色に染まった唇を重ねてみた。すると、深夜の慣れた舌が自分のそれを絡め取り、体液を吸われる。キスの感触に酔わされながら、深夜の掌がグレンの下肢を探り始める。
こんな場所を、赤の他人に触わらせるなど初めてだったから、興奮する。
しかも相手は、自分を好きだとかいってまとわりついてくるウザイ男で。そんな彼が、今から自分に奉仕してくれるのだと思うと、更に下肢に血が流れ込んでいくようだ。

「っは…グレン、もう、こんなにしてんの?」
「お前のせいだから責任取れよ」
「…は?僕のせいにしないでよ、変態」

グレンの背を壁に押し付け、そうして深夜は彼の前に跪く。そうして、
目の前の男のペニスを外気に晒す。他人の指先に絡め取られて、グレンの身体が小さく揺れた。
少しの羞恥が込み上げるが、それ以上に自分のペニスが深夜の口内を今にも犯そうとしている状況に興奮する。
赤く濡れた深夜の舌が、見せ付けるようにして己の裏筋を舐めた。
たっぷりの唾液と、自身から溢れだす体液で砲身は濡れ光っている。夕方とはいえ、天気がいいから、
こんな場所で性的な行為にふけっているという事実にも興奮した。
亀頭を軽く口に含み、そうして深夜は見上げる。
彼の表情がみたくて前髪を書き上げると、彼の長い睫が震えた。その姿にぞくぞくする。深夜はそのまま、長い舌を使って、裏筋に沿って舐め上げる。グレンは唇を噛み締めた。
自分の掌で己自身を慰めるよりも、圧倒的に強い刺激だった。息が上がる。一気に射精感が込み上げてきて、もはや止める術もなかった。
深夜が再び口内に砲身を含もうとしたとき、唐突に精が放たれた。

「っ…イくっ…」
「んんっ―――!!」

視界が真っ白に染まり、深夜の顔に白濁がべっとりと絡み付いた。
ぎゅ、と瞳を閉じるその姿が、酷く欲望を煽る。頬や鼻頭、銀色の髪にまで己の精液がついている。
自分が穢した、という事実は、グレンの心を動かすには十分だった。
もっと、見てみたい。
彼が、男を受け入れて、どんな声を漏らすのか。どんな表情を見せるのか、余すところなく見てみたいと思う。

「っは…さすがに、上手いな」
「そりゃ…どうも。」
「じゃ、今度こそヤらせろよ」
「…がっつくなよ。これだから童貞は…」

呆れたように肩を竦めて、深夜は体勢を入れ替え、壁に手を着いた。
陽射しが落ち、影の色が更に濃くなる。
ベルトを緩め、ボトムがずり下がる。自ら晒した下肢の奥、双丘の間の秘められた箇所に精液と唾液に濡れた指を這わせ、差し入れた。慣れているとはいえ、やはり解さずには男のモノを受け入れられない。
それよりも深夜は、先ほど見たグレンのペニスを想い、熱い息を吐く。
想像以上に、大きかった。
少なくともこの年ではかなりの立派なもので、受け入れる側も興奮を隠せずにはいられない。
指で中を緩めていると、グレンがまた、深夜の前に掌を這わせてきた。
初めてで、したこともないくせに、己の屹立を昂ぶらせる手つきはひどく上手いと思う。砲身に掌の腹で包み込み、亀頭を中心にぐりぐりと指で何度も刺激する。かと思えば、先端から包み込むように掌でつかみ、全体を激しく擦り上げる。
おそらく、自分でしている時もこうしているのだろう。
そう思うだけで、深夜もまた、興奮せずにはいられなかった。
グレンの手のひらに包み込まれ、それが心地いいと思うのは、単純に自分が快楽に溺れやすいからなのか、それとも。

「…も、いいよ…来いよ」

自ら、指で下肢の入口を思わせぶりに拡げる。
女のモノとは違う、窄み。それでも、深夜が指先で拡げると、内部の朱さがグレンの目の前に晒される。
ごくりと息を呑んだ。
あの、激しく収縮を繰り返す内部に自分の雄が入るのだと思うと、
不覚にもそれだけでイってしまいそうになる。それだけ、彼の身体は魅力的で。

「っ…くそ、行くぞ、深夜…!」

先端を宛がう。思わず、きゅ、と締まるそこに入れようとして、先端が滑り尻の裂け目が何度か擦られる。
早く入れて欲しくてたまらない内部の疼きに、深夜はたまらなかった。
グレンもまた舌打ちして、指で己のそれを支え、ぐっと体重を掛ける。漸く先端の一番張り出した部分が内部に入り込み、グレンははぁはぁと息をついた。キツイ。
女性のそれよりもおそらく、かなりの締め付けだろう。千切られそうだと思う。

「っ…ち、力を抜け…」
「抜いてるよ、馬鹿っ…グレンのっ、デカすぎなんだよ…もっと、ゆっくり、っ…!」

内部の柔軟さに、息を呑む。吸い付くようにそこが己自身に絡み付き、中盤をとおりすぎると、
後は呑み込まれるように奥へと侵入を果たした。
満たされる感覚。これがセックスなのかと実感する。・・・悪くない。
自分自身で快楽を呼び覚ます自慰もいいが、ただ自己完結するのではない、他人を自分のモノにしている感覚が、心地いいと思う。ましてや、相手は自分のイチモツで、切なげな顔をしているのだ。
支配欲が刺激される。少しだけ腰を引くと、深夜の内部は追いすがるかのように、絡み付いてくる。

「っつ、う…深夜、お前ン中、すげぇ、熱いな…」
「…グレンも、ね…。っ、いいよ、動いて」

深夜に促されて、きつい内部を、最初はゆっくり、次第に大胆に最奥を擦り上げる。
奥を突き上げると、表情こそ快楽に浮かされていたが、声は上げなかった彼から、次第に鼻にかかったような甘い声が揺らされる身体に合わせて漏れてくる。
たまらない、と思った。
耳に彼の声音が入り込むだけで、背筋がぞくりと震える。
―――耐えられない。

「っイ、行くぞ、深夜…!」
「っあ、グレ、中、や…っああ―――!」

深夜の要求など、聞いてやる余裕などなかった。
内部に包み込まれたまま、最奥でどくどくと精液を溢れださせる。
深夜は息を詰めた。内部に放たれたものは、ひどく熱く、そして中から溢れだすほどの量だった。
深夜もまた、一番感じる部分に刺激を受け、彼自身からも精を放ってしまう。
放心したように壁に額を付けていると、グレンが下肢を繋げたまま深夜の顔をあげさせた。
もはや、取り繕う余裕はない。
じっと見つめられて、しかしはぁはぁと浅い息を漏らすことしかできない。
顔を近づけられて、唇を塞がれる。
舌が絡み、またしても下肢が疼くような気がした。
グレンもまた、ひどく疲れたような、けれど満足したようなすがすがしい顔をしている。

「…んもぅ…、満足した?」
「ああ…。正直、すげぇよかった」
「あっそ…。そりゃ、よかったねぇ…。」

こっちは、筆おろしの手伝いをさせられて散々なのだが。
それでも、グレンのそれにこちらもかなり気持ちよかったから、正直な話どっちもどっちだった。
あんな中年の男よりも、やはり彼のほうが数倍良くて、そう思ってしまう自分に、深夜は苦笑する。
ずるりと腰を引かれて、少し名残惜しい気すらした。

「…深夜」
「……なに?」

少し思案顔のグレンを見つめる。
深夜はまたもや嫌な気配がして、顔を顰めた。
また、よからぬことを考えているらしいグレンに、溜息をつく。
まぁそれでも。
自分なら、耐えられるだろう。
何せ、自分はグレンが好きなのだから。
彼が望むどんなことでも、おそらく深夜は受け入れてしまうだろう。
それこそが、彼が望んでいた本当の気持ちだから。

「…また、たまにはヤらせろ」
「…わかったよ。安くしとくから」

肩を竦める。
正面を向いて、肩に凭れてくるグレンに、深夜は苦笑して、彼の背を抱き締めたのだった。







end.






Update:2015/09/02/WED by BLUE

小説リスト

PAGE TOP