哀れな子羊に口づけを



※宗教パロ
※神聖な子供の精液呑むお話
※グレンはショタ深夜のお世話係



それは、正式に神の啓示を受けた子供として扱われる聖なる儀式だと言われ、
深夜は戸惑いながらも頷いた。
羞恥がこみ上げるが、彼は逆らうことができない。

幼い頃から神の子供だと、神の代理人だと言われ続けてきた。物心ついた頃からずっと。
だから、同世代の友達などいないし、知り合いもほとんどいない。
たくさんの信者の顔を少し高い位置で見下ろしてきたが、彼にとって、それは気持ちいいものではなかった。
そんな距離感よりも、本当は、母親や父親、家族に、傍にいて欲しかった。
なのに、自分には彼らがいないという。
神の子供として啓示を受けた以上、本当の家族の傍にはいられないのだと半ば強引に連れてこられ、
厳めしい教皇以下、年老いた聖職者たちに壊れモノに触れるようにして扱われてきた。
唯一、自分の傍にいてくれたのは、グレンという世話係だけ。
綺麗な顔立ち、高貴な艶のある黒色のくせっ毛。深夜はもっと彼のことが知りたがったが、
彼は「信者たちならともかく、下々の者に興味を持ってはなりません」と突っぱねられていた。
だから深夜は、密かに彼への想いを募らせながらも、
神の子供として年相応に扱われることはついぞなかったのだった。

そんな生き方をしてきた深夜が、今日、儀式だという。

「・・・儀式って、なにするの?」
「今まで、貴方がこうして努力してきたその成果を、信者の皆の前で披露するんですよ」
「こうして、って・・・」

深夜は微かに顔を赤らめる。
今やっていたのは、10歳の誕生日から始まった、毎日の夜のお勤めだ。
最初は、痛くて痛くて仕方がなかった。手解きをしてくれたのは世話役のグレンで、確かに彼の掌は優しかったのだが、それでも幼い子供のまだまだ初心な性器を、強引に絶頂まで導くのはかなり辛い。
けれど、時には恥ずかしさと苦しさで涙を流しながらも毎日続けているうちに、
次第に、性器を触られることの抵抗感、痛みは消え失せ、甘い声をあげずにはいられないほどの快楽が残る。
閉じようとする足を強引に開こうとするグレンの肩にしがみつくようにぎゅ、と身体に力を込めれば、次の瞬間にはビクビクと身体が痙攣して
頭が真っ白に染まる。ぐったりと疲れ切り、ベッドに沈み込む自分に、グレンはいつも優しげに微笑んでくれた。
それがまたひどく恥ずかしく、けれどグレンにだけは心を許せそうだと感じる。
そうしてひと月前、初めて『精通』というものを経験した。いつもの快楽と共に、彼の掌の中に、白く濁ったような体液を吐き出してしまい、
深夜は泣きそうなほど羞恥を覚えたが、
けれどグレンは、彼らしからぬ喜びの表情を浮かべ、強く自分を抱きしめてくれた。
よく頑張ったな、とも。深夜にはそれがとても嬉しかった。
だから、彼が、儀式を受けなければならない、と言うのならば、
それは仕方のない事だと思った。

「・・・グレンも、傍にいてくれるの?」
「いえ、私は・・・」
「2人切りじゃない。どうして敬語なの?嫌だよ」
「・・・っ深夜様。今はもうお時間が迫っていて・・・」
「嫌だ。いつものグレンがいい」
「・・・」

本当に、今は時間が迫っていて、グレンは困ったように眉を顰める。
神官長には早く連れてくるよう言われていた。もう会場には信者たちが集まり、彼の初めての聖液を与えられるのを今か今かと待ち望んでいる。
神の子の聖液は、万能薬であった。不治の病や、こころの病、奇病にも効くそれは、
しかし神の子が降臨しないうちは、夢物語でしかないのである。
深夜は生まれた頃にその素質を見出され、育てられた。
けれど、きっと、この子供にとっては、それはどれほど酷な勤めであろうか。
グレンは溜息をつくと、深夜に儀式用の装束に着せながら諭すように口を開いた。

「・・・まったく・・・深夜。
 ほら、我が侭を言うな。お前は神に忠誠を誓っただろう?なら、勤めはこなさなければ」
「・・・う、ん。わかってる。けど・・・」

ぎゅ、とグレンの袖の裾を握り、不安がる深夜に、
グレンは今だ大半が素裸のままの彼を、腕の中に抱き寄せた。
すっぽりと腕の中に収まる身体、それでも、初めて彼の世話係となった時よりは、
彼は格段に成長した。
幼い頃から、神に仕える一番神聖な人間として育てられた彼の身体は、
透き通るように白く、無駄な部分がひとつもない。
完成された肢体。そして、心もまた。
神に仕えることが、勤めを果たすことが至上の喜びとなるよう、教育されていた。

「グレン・・・」
「お前についていてやりたいが、残念ながら俺は神に仕えられるようなお綺麗な人間じゃない。
 あくまでお前の教育係だ。儀式の場にも、同席は認められてないんだよ」
「そ、んな・・・」

深夜の、蒼い瞳が揺れる。
それに、グレンは少しだけ自嘲するように笑い、彼の頭を撫でてやった。
そうして、禊を終えた彼の肌を、胸元をじゃらりと宝石をあしらった装束で包み込んでやる。
マントのような装束だった。
留める所はなく、両腕を通しただけの、シルクの艶やかな生地。
それで身体を巻き付けるようにして、深夜は恥ずかしげに頬を染める。
額には、神の代理の証である宝冠。
彼だけに許された、純金でできた、中央に大きなアメジストが嵌められた高貴な冠だ。
深夜の銀色に輝く髪にひどく映える。グレンは目を細めた。

「・・・綺麗だ」
「怖いよ、グレン」
「大丈夫だ。怖いというなら、これを飲むといい」

グレンが子供に差し出したのは、透明な液体。
深夜はおずおずとそれを受け取る。子供の手のひらに収まる杯の中に、深夜の顔が映る。
不安げな、幼い子供の顔だった。
これから、多くの信者の前に姿を現さねばならないのに、
この不安げな瞳といったらどうだろう。

「聖水に、ローズマリーの葉を漬けたものだ。気持ちが落ち着く。
 ・・・あとは、儀式中は力を抜いて、身を委ねろ。神はお前を必ず導いてくれる」
「・・・ん」

力強いグレンの言葉に、少しだけ励まされる。
手の中のそれに口をつけると、ひんやりと冷たく、甘い香りがする。
喉を通るそれがひどく心地よくて、深夜は目を細めた。ふわふわとした感覚、それは、まるでグレンに掌で優しく愛撫されている時のそれで。
深夜はうっとりとした気分になり、そのまま目の前の男の腕の中に身体を預け、瞳を閉じた。
意識は、既にない。

グレンが腕の中の子供を抱え上げると、その次の瞬間、
ぎぃ、と扉が開いた。
まだ若く、ごげ茶色の髪の、凛々しい顔立ちの男。
儀式を執り行う神官たちの中でも、一番の地位を持った、神官長だ。

「飲ませたか?」
「・・・ええ。これで彼は、一晩中快楽に魘れながらも、なんとか儀式に耐えることはできるでしょう」

口調を元に戻したグレンは、腕の中で自分を信頼しきっている子供を見遣る。
罪悪感が、少しもないといったら嘘になる。
だが、彼は生贄であった。
神に捧げる、贄。信者たちの心のよりどころであり、生きる糧。そのために彼は育てられた。
その運命は、もはや誰にも変えられないだろう。

「よし。ご苦労だったな。今夜はお前も、儀式に参列するといい」
「・・・私は、儀式に足を踏み入れる許可を、与えらえていませんので」
「そうか。そうだったな」

見下ろす若い神官長の顔を、グレンは敬う振りをして、強く睨み付ける。
男は男で、面白げにグレンを見下ろした。
その、艶やかな黒髪を。普通の人間にはあまり見られない、純血の濡れたような黒髪と、有り得ない紫電の色。
それは、彼だけがもつ組み合わせだった。
本来ならば、彼こそが、神に仕える神官に相応しい―――

「・・・俺を軽蔑するか?グレン」
「っいや。
 仕方ないだろう。時代はまだ俺達のモノじゃない。子が、親に振り回されるのは、よくあることだろ?暮人」

肩を竦め、グレンは腕の中の子供を暮人に渡した。暮人は目を細める。
これから、この幼い子供が、己が欲望を露わにした醜い信者たちに食いモノにされると思うと、
こちらも、少しだけ良心が痛んだ。
だが、漸く待ち望んでいた子供なのだ。
信者たちの強い信仰を維持するには、いつだって犠牲がつきものだったから。

「一晩で壊れないでもらいたいものだ」
「大丈夫さ。俺が仕込んだんだ、そこは信用しろよ」

不敵に笑って、グレンは背を向ける。
ひらひらと後ろを向いたまま手を振る男に暮人は肩を竦めると、
皆が既に集まっているだろう儀式の会場へと、深夜を連れて行ったのだった。












暗く明かり落とされた部屋、聞いたこともない厳かなオルガンの音色。
ゆっくりと開かれた深夜の瞳に入り込んでくるのは、仄かに灯されたいくつもの蝋燭の光だけ。
蝋燭は、広い室内の壁に沿うようにして並ぶ下級神官たちが持っている。
呻き声のように聞こえるのは、信者たちの経文を唱える声だった。
瞳が暗さに慣れた頃、眼下に己の前に跪く人間たちの姿が映る。それは、恐怖を覚えるほどに、会場内に犇めき合っている。
彼らは皆、自分に救いを求めてきているのだと、グレンが言っていた。
神の代理者たる自分が彼らにすべきことは、彼らの願いを受け入れ、癒しを与えることだと。
彼の柔らかな、しかし力強い声音を思い出して、
少し、深夜は意識を取り戻した。
頭が、うまく働かない。思考も纏まらなくて、今、自分がどうすべきかも考えられないでいるのに、
会場に焚かれた仄かな香が、更に意識を磨滅させていく。
それでも、なんとか思考をかき集めて、自分の置かれている状況を探る。
腕は、頭上で拘束されていた。といっても、鎖などの乱暴なものではない。深夜には確認することができなかったが、
手首をクロスさせ、まるで祈るように指を組まされている。
彼の腕を拘束しているのは、太さのあるブレスレットのような金属の枷を模した装飾具。
けれど、動けば金属が擦れる音が聞こえるはずだったが、彼の肘から上は、石にでもなったかのように全く動かない。
その装飾具には、拘束呪が込められていた。
大罪人の拘束に使われる程の、強い念が込められた特殊な呪具。
それでも身体がそれほど辛くないのは、自分が括り付けられている柱の腰の辺りが、凭れられるように少しだけ曲線を描いているからだった。
身体の力をかけるように凭れると、自然と足が開かれる。
己の下肢を見やり、深夜は一瞬、強い羞恥を感じた。
己の太腿に絡みつく、見えない鎖。蛇のように己の素肌に絡みつくそれが、足を閉じることを許してはくれない。
既に己の性器は彼ら前に露わになっている。
深夜の身体は火照っていたが、それでも、さすがに己の中心を他者に―――グレン以外の人間に晒すのは恐ろしくて、
まだそこは平常状態を保っていた。
丁寧に禊を受けた肌は、陶器のように白く、滑らかで、暗い室内でもまばゆいばかりだ。
自由にならない身体で、それでも周囲にグレンを探してしまう。
けれど、彼の、特徴的なウェーブのかかった黒髪を探すのは、ここでは非常に困難なことだった。

(・・・グレン)

声を出そうとして、深夜は声が出ないことに気付く。いや、正確には、声は出るのに、言葉がでない。
グレン、と名を口にしようとして、その言葉を形作ることができない。
愕然とした。
瞳が不安に揺れる。グレンは身を委ねろと、神が導いてくれると何度も言ってくれたが、
そもそも、本当に神様なんているのだろうか?
なにせ、見たことも、感じたこともないのだ。一番に信じるものを神と呼ぶならば、
自分にとってはグレンこそが神だったし、暗く寂しい人生に灯る一筋の光だった。
なのに、彼は神を信じろと、己の中の神を信じろと、そう告げる。
初めから、自分が神の子供だなんて、信じたことはなかった。
なぜ自分がここに連れてこられたのかすら、
自分は知らない。
けれど、彼が生きていくには、彼の住まう神殿のルールに従わねばならないのだ。
いつもの経文の合唱が終わり、神を讃える歌が流れる。
天使のようなソプラノの透き通るような声音と、死神のような血の底から響くようなバリトン。
だが、これから始まることは、自分にとってはきっと地獄のような行為だ。
音楽が止むと、自分の前に、1人の男が歩み出た。
見たことのある赤と白の法衣、金色の刺繍が施された長い冠。
神官長だった。
儀式の全てを取り仕切る、神官たち。その、下級、中級、上級神官たちすべてを束ねる、神官の中でも最上級の若長だ。
彼は深夜に向けて膝を付けて一礼し、そして背を向ける。

「皆の者、よく聞け。
 ―――今日は、各々、自分らの生活があるだろうに、よくぞ集まってくれた。私は神に仕える者の1人として、お前たちを誇りに思うぞ」

凛とした声音が響き渡り、彼の言葉が止んだ瞬間、会場にはち切れんばかりの歓声が響いてきた。
彼は現在の教主―――組織のトップである柊天利の正統なる長子であり、後継者だった。
幼い頃から、有り余る呪術の能力、身のこなし、そしてカリスマ性を身に着けてきた。今の信者たちにも人気が高く、
次期教主の地位に上るのは彼以外に在り得ない、とまで言われていた。
暮人様、と己を讃える声音に手をかざし、それを止める。

「そんな忠誠心の強いお前たちと共に、この神の降臨の儀を私の下で執り行うことが出来、大変嬉しいと思っている。
 さぁ、今こそ、20年ぶりの神の力を目の当たりにするがいい!」

バンっ、と音がして、己の上のライトが一気に眩しく輝いた。
深夜は、四方八方から、ほとんど素裸で動けないでいる己の姿を見られていることを改めて知る。
一気に顔に血が上る。額から流れる汗は、恐怖からの冷や汗か、それとも、頭上の白熱球の厚さだろうか。
怯える深夜は、暮人が従巫女から手の内に収まる位の杯を受け取ると、
たった数段だけの階段を上る。
深夜が拘束・・・否、祭られている神聖な儀式陣の中に足を踏み入れる。
暮人は再び彼の目の前で、跪くと、顔を上げないまま、告げた。

「深夜様」
「・・・・・・な、に・・・?」
「今こそ、貴方のこの2年間のお勤めの成果を皆に見せてくださいませ」
「っ・・・!」

壊れ物に触れるように、深夜の滑らかなひざ裏から内腿までを撫で上げられ、深夜の身体が震える。
初めての、他人の・・・グレン以外の、掌だから、戸惑う。
けれど、何故かいつもよりも身体が火照っていて、もう既に、快楽が欲しくて心臓の鼓動が聞こえるほど。
羞恥と、恐怖に、微かに首を振った。

「っや、あ、・・・っ、」

だが、暮人は笑顔を崩さぬまま、深夜の背後に回る。するりと己の砲身に指が絡められ、ぴくりと身体が反応を始める。
彼の指は、ひどく的確に、深夜の弱い部分を探り動いていった。
無駄な動きは一切なかった。初めてのくせに、深夜の弱い部分、幼い性器のまだはっきりとしない括れの部分を何度も挟むように擦り、
そうして亀頭を包み込む。

「い、やだよっ・・・」
「深夜様、周りは見てはいけません。祈りなさい。無心に」
「な、にに・・・?」
「自分の中の、神に。目を閉じて、思い浮かべるのです。神に捧げるために、その身は生まれてきたのだから」
「ん、ぅ―――、っ、そん、なっ、」

首を振りながらも、この、拘束された手足では、逃げることなどできない。
ましてや、身体が感じている快楽は本物だ。深夜は唇を噛み締めて、瞳を閉じる。
神に祈った。
自分の中の、神に。
そう、今の彼も、グレンもそう言っていた。だから、深夜は祈る。
脳裏に浮かぶのは、黒髪の、艶やかなウェーブのかかった髪。透き通るような紫の瞳、優しげな、けれど少しだけ辛そうな顔の彼。
彼の大きな手が、自分を撫でてくれる度に、励まされているような気がした。
辛い毎日の勤めも、勉強も、訓練だって彼がいたから耐えられたのだ。

(・・・グレン)

彼を瞳の裏に焼き付けると、その途端、一気に深夜の下肢の熱が増した。
あつく、そうしてぬるりと先走りが暮人の掌を汚す。暮人は目を細め、そうして逆の掌で持っていた杯を深夜のそれにかざす。
暮人は、深夜の絶頂の瞬間を悟り、きゅ、と先端を握り締めた。
固定する。
それから、既に拘束されているはずの深夜の両ひざを更に割り、そうして、信者共に見せつける。

「さぁ、皆の者、よく見るといい。彼に刻まれた聖紋の意味を、今、彼は証明してくれる」
「んっ・・・や、あああっ・・・!!!」

熱に浮かされた深夜の耳に、信徒たちの声音は聞こえない。

「深夜様・・・っ!」
「私たちをお救いしてくださる力を、見せてくださいませ・・・!」
「おお、これが・・・神の証の・・・聖紋なのか・・・深夜様こそが、神の名に相応しい」
「神の御子よ・・・!私たちが待ち望んでいた、救世主様・・・っ!」

歓喜の声音。
信者たちが釘付けになっているのは、彼の下腹部だった。
元々毛が薄い体質だったが、性器の上、本来陰毛に覆われている部分に、
痣があった。
青い色の、くっきりとした痣。その紋は、三角形に矢印をかたどったような形をしていて、
それはまさに、神の証である記号とほぼ一緒だった。
そしてその痣は、深夜が快楽を感じる度に、広がっていくものだった。
幼い頃、この部分に小さな紋を見出された深夜は、10歳のあの日からずっと、この紋を拡げるべく、毎日勤めを果たしていたのだ。
普段は決して見られない痣。
だが今は、彼が快楽に浮かされ、誰が見てもくっきりと浮かび上がっている。

「っ、あ、ああっ、も、イっちゃ・・・っ!」

聖紋が光り、じわりとその色合いを白い肌に拡げていく。
深夜はとうとう、脱落し、暮人が掲げる杯に、聖液を吐き出していた。
再び、耳をつんざくほどの歓声があがったが、もう、深夜はそんなことを考えている余裕はない。
だが、これが一晩中続くのだろうと、深夜はぐったりと背を預けたまま、ぼんやり思う。
地獄だった。
けれど、この日のために、まさに自分は訓練してきたのだろう。
そう思えば、やらないわけにはいかなかった。

きゅ、と性器の先を搾り取られ、びくりと身体を震わせた。
もうおそらく、しばらくは出すこともできないだろう。暮人は深夜にだけ見える場所で、少しだけ頷くように笑みを浮かべる。
そうして立ち上がると、彼の聖液のはいった杯を抱え、そして信者へと向けた。

「さぁ、この聖杯を第一に呑む者は誰だ?」
「この私に!」
「俺の病を患っている息子に!」 
「私めにくださいませ!」

信者の皆それぞれが、貪欲に深夜の精を欲しがることに、暮人はひそかに笑いを噛み殺していた。
深夜こそが、待ち望んでいた子供だった。
この20年、現れることのなかった救世主―――しかも、今回の深夜は、予言に記されていた特徴とまったく一致していたから、尚更。
では本当に彼の聖なる力は、信者や自分たちを救ってくれるのだろうか?
少し、興味があった。
暮人は、訴える信者たちの中で、一番辛そうな運命を背負っている人間を手招きし、杯を手渡した。
彼は深夜の前で膝をつき、額を大理石の階段の床にこすり付けた。
そして、感極まった表情で、深夜の精液を飲み干す。
赤い舌に、白い精液が溢れ、喉が動く。再び歓声が上がった。彼らも飢えていた。
そして、全員が全員、滑稽なくらい、呑めば運命が変わると信じていた。

「っ・・・深夜様、ありがとうございます・・・!」
「っ・・・」

深夜は、首を振りたかったが、できなかった。
信者の瞳は、皆、純粋で、無心に自分を求めていたのだから。
グレンが言っていた身をゆだねろ、というのは、こういうことだったのだと、今更思う。
もう、自分の意思ではどうにもならない世界だった。
運命に絡め取られたのは、おそらく自分。
下肢が、ひどく傷んだ。
初めは、幼い頃から強引に性的行為に慣らされるせいの痛みだと思っていた。
だが今深夜は、それが全く違うものだったことに気付かされる。
おそるおそる、己の身体を見やれば、その痣はもう、後戻り気でないほどにくっきりと残っていて、
恥ずかしいくらい。
だが現実は、信者の瞳がそこに釘付けになっていて。

「さぁ、深夜様。哀れな彼らに、神の精を与えて差し上げなさい」
「っは、はい・・・っ・・・!」
「深夜様・・・っ」

信者が彼に群がり、掌で、唇で、舌で、彼の性器を愛撫していく。
何人もの人間達の相手をするのは気が遠くなるようで、深夜は涙にぬれた瞳を、諦めたように閉じたのだった。





end.






Update:2015/09/08/TUE by BLUE

小説リスト

PAGE TOP