―――Squirt.



その男の部屋は、今は熱い吐息と甘い声音で充満していた。
ベッドの上で蠢いているのは、ほとんど全裸の人間2人。それも、男同士で、
知らない者が見たら、その異常な光景に言葉を失うだろう。
獣のような恰好で、男の一物に下肢を貫かれているのは、柊深夜だ。
柊家という、この国の裏組織を二分する宗教組織『帝ノ鬼』のトップの家柄の男。
この国に数百万規模で存在している信者にとって、柊の名を持つ者は神とも言える存在だが、
今、こうして男に組み敷かれ、身も世もなく喘いでいる姿は、
あまりに堕落しているといっていいだろう。
男が下肢を揺らすたび、細身の身体がガクガクと揺れる。もはや噛み殺し切れない声音が漏れ、甘い嬌声が響き渡る。
そうして、声音と共に、カチャカチャと耳を叩く金属音。
獣のように四つん這いになって下肢を犯される深夜の両手首は、ベッドのヘッドボードに取り付けられた鎖に捕われていた。
男の名誉のために敢えて言うが、
これは深夜を抱く男――― 一瀬グレンの趣味ではない。
深夜が自分から、下肢を犯される感覚に意識を集中しようとした結果、
無意識に前を刺激しそうになる掌を拘束したほうが快感を感じやすいと言って好んで使うプレイの1つだった。
快楽に耐える様に押し付けられる枕は、既に汗と涙で濡れている。
くしゃくしゃになったシーツは、もう既に何度もイかされた故の、深夜の精液でべたべただ。
身体を繋げられてから、随分時間が経った気がするが、
それでもまだ、下肢の中に男の飛沫を感じられてはいなかったから、
まだまだ、この際限のない快楽は続くはずだった。

「っ・・・も・・・グレンも・・・イってよ・・・」

はぁはぁと息をつく深夜は、濡れた瞳で、背後の男を見やった。
何度も何度も侵された内部が、長く重い快感を途切れることなく与えてくる。そのせいで深夜は、
一度も触れられてすらいない己の雄を、何度も吐き出させるハメになっていた。
ほとんど毎日、こうやって犯されている。始めての頃は、緊張もあって、なかなかイくこともできなかったし
己の前への直接的な刺激がなければ快感すら得られなかった。だというのに、
今のこの状態はなんなのだ。
男が内部に指を差し入れ、奥の敏感な部分を刺激されるだけで、もう、射精感に耐えられなくなった。
初めてまったく触れないままに限界を迎えて達してしまった時、グレンに笑われた。
淫乱だな、と。
自分をこんな身体にしたのは誰だ、と声を大にしていいたかったが、
残念ながら、こんな関係を望んだのは、他ならぬ自分だった。
最初は、身体を繋げる、などという背徳的な秘密を共有することで、少しでもグレンに近づきたかっただけだ。
愛とか恋とか、そんな生易しい感情ではなかった。
何度も、深く記憶を刻み付けることで、彼を束縛したかっただけだ。
なのに、気づけば束縛されているのは自分だった。
彼に惑乱される。
欲望に、負ける。理性が吹っ飛ぶ。快楽が欲しくて堪らなくなる。
引かれたレールの上で、へらへらと笑いながらなんとか生き延びてきた自分と、
強い野心を抱いて、自ら修練と苦行に明け暮れてきた彼とでは、そもそもの自律能力に圧倒的な差があった。
生きることに絶望していた自分は、
いつの間にかこのキツい環境を生き抜くための狡猾さだけが身に付いた。
自ら未来を切り開くことを切望していた彼との違いは、明白だ。
だから。
結局、こうなるのは、時間の問題だった。

「―――ぅ、あ、ああっ・・」
「また、イきたそうだな。・・・何度目だ?」
「クソ、もう、やめ・・・っ」

悪態も、既にまともにつけない。
先ほどから、グレンの雄は、己の内部に収まったまま、激しく己の前立腺を突いていたから、
何度も何度も、目の前が真っ白に、あるいは真っ暗に染まる感覚を味合わされていた。
自分でもわからないくらいに、身体がガクガクと震え、そうして射精感を制する間もなく白濁を零してしまう。
かと思えば、ずるりと引き抜かれて、
ローションや男の先走りで既に弛緩しきったそこに指を差し入れられ、
奥の、快楽の根源をピンポイントで責められる。
それだけで、射精したすぐ後だというのに、己のそれが無理矢理に熱を高められる今の状況を、
しかし深夜は、涎を垂らして受け入れた。

「後ろだけでイけるとか・・・よくまぁ、こんな色狂いになれたもんだ」
「もう、なんかね・・・別に、元々、僕は君みたいに、自分を抑えて生きる必要もなかったしねぇ。
 それに、今となっては、もう、取り繕う必要もなくない?」

こんな、己の隠されていた部分も、弱い部分も、苦手な部分も、すべて彼に掌握されて。
最初こそ抵抗もあったかもしれないが、ここまでくれば、どんな澄ました顔をしたって無駄だった。
彼の前では、自分は常に裸だ。隠せるものなど何もない。
そうして、それは快感にすら繋がった。
彼が自分を見ていると―――自分だけを見ていると、一時でもそう錯覚させる行為は、
自分の存在価値を見いだせなかった深夜には、あまりにも魅力的だった。
既に精液やらローションやらでべとべとの、深夜の太腿を、グレンの掌がそろりと撫で、更にそこを開かせた。
ひくりと震える。それでも下肢には触れられない。
内部の指が3本に増やされ、ぐちゅぐちゅと卑猥な音が漏れる。

「でも、もう・・・そろそろ限界。無理だって・・・さっきだってまともに、」

出なかったじゃないか、と掠れた声で告げる。
もう数えた数も忘れたが、おそらく、射精した回数は5回を超えているだろう。
いい加減、濃度も薄まり、溢れる精も勢いを衰えさせている。
それなのに、グレンはほとんど欲情した様子も見せず、一度としてイっていなかった。
ただ、自分だけを快楽の波に突き落として、嗤うのだ。

「ね・・・グレン・・・そろそろ、欲しいよ」
「ん?そうだなぁ」

グレンは己の、未だ衰えない雄を掌で慰めるように軽く扱きながら、
深夜の、少しだけ力を失いかけているそれを見やる。
それからもう一度、朱く腫れ上がった結合部に己の雄を宛がい、

「っ・・・は、あ、あああっ―――!!」

ぐっと、深い部分まで貫いた。
圧迫感と、そして直接前立腺を犯される感覚。文字通り腰が砕けそうになるのを、
グレンの腕が支える。
一気に襲い来るぞくりとした快楽。強制的にイカされそうになる、そのグレンの乱暴な手つきに、
それでも深夜の雄は興奮し、先ほどよりも頭を擡げさせる。
先走りが、とろりとシーツに伝った。
グレンの両手が尻を掴み、激しく揉んだ。そうして結合部をよく見えるように開かせて
目の前に晒す。激しく奥を貫かれて、苦しいけれど、それでもまだ、苦痛よりも快感のほうが強かった。
貫かれる度に、押し出されるように漏れ聞こえる断続的な声が、止まらない。
喉も既に潰れ、もう辞めて欲しいとすら思うのに、
それを訴えられない。

「っ―――あ、ああっ、また、イきそっ・・・」

と、次の瞬間、あっけなく、深夜は六度目の射精を強いられてしまっていた。
もう、本当に、精液は何も残っていないようだった。白濁を溢れ出す代わりに、もう薄まった体液を少し零すだけだ。
やはり苦しい。
苦しいのにびくびくと身体が震え、目の前が真っ白に染まる。
繋がった箇所が熱さを増し、強すぎる快感が深夜の全身を支配している。
もう、いい加減、意識がとびそうだった。
不意に、グレンが己の背に、首筋にキスをしてきて、背を重ねられる。
内部で男の雄が、ぐっと質量を増した。今度こそ、彼も来てくれる―――そう思った矢先、

「っ・・・は、あ、やっ、触るなっ・・・」
「―――まだ、出るだろ」

今更のように、グレンの濡れた掌が己の雄―――それも亀頭の辺りを掌で包み込んできて、
正直深夜は焦った。
カシャンと、手首に絡まる鎖が金属音を立てる。ぐっと力を込めて耐えなければ、悲鳴を上げてしまいそうだった。
快感ではない、とにかく射精した後はすぐに触って欲しいとは思わないし、
掌の真ん中で亀頭をぐりぐりと刺激されると、くすぐったいような、こそばゆいような、何とも言えない感覚に襲われる。
必死にそれに耐えて彼の行為を受け入れていると、
今度は唐突に、尿意に襲われた。こんな状況で馬鹿げた話だが、
いや、セックスの前にきちんとトイレもいったし、シャワーも浴びたし、
こんなことには普段はならないはずなのだが、
カリ首の上の部分から、鈴口まで、とにかく執拗にグレンは刺激を与えてくるものだから、
思わず焦って、深夜は慌ててグレンの掌を退かそうと腰を揺らした。
無論力のはいらない身体では、抵抗したつもりで、ほとんど抵抗などできていなかったのだが。
ガチャガチャと、動揺したように身を捩る。

「や、駄目だって、ベツのモノがでちゃうってマジで」
「なんだよそれ」

グレンの言葉に、しかし深夜はさすがに本当の事を口に出来ず、唇を噛み締める。
本気で漏れそうな感覚を必死に耐えていると、今度は無意識に足が痙攣するようにぴくぴくと動き、
そしてまた、普段感じたことのない、しかし明らかな快感が腰の中心を襲った。
射精の性感とはまた違った、例えるなら、今にも漏れそうな時の、あのもどかしいような、早く出て欲しいのに
もう少しで出てこない、その瀬戸際のような感覚で、
逆に、いっそこのまま出してしまったほうが、すっきりするのではないかという
馬鹿げた意識が頭を過ぎる。
だが、さすがに、
さすがにグレンの前で、ましてやこんな、ベッドの上で、犬のような恰好で小便をしてしまうのは、
あまりに屈辱的だった。
じっと見つめられたまま、白いシーツの上に排尿するなど・・・
それを思うと、さすがに深夜も頭が冷える。
だから、ここは根気の勝負だった。
グレンの掌は、明らかに更なる快感を与え、不完全燃焼だった(と彼が勝手に思い込んでいる)先ほどのリベンジにと、
半ば無理矢理イかせようとしているのだから、全く、強引な男である。
こっちの意見なんかほとんど聞いていない、身勝手なセックス―――呆れた話だが、
まぁそれでも、深夜はグレンに抱かれて思いっきり感じていたから、
もう、どうしようもなかった。
とにかく、理屈的な思考回路はもう、ほとんど機能していなかった。
ただ、今は尿意にただただ耐える。そして、普段の射精感が戻ってくるのをひたすらに待つ。
もう、もどかしすぎて、この数分は、またひどく長い時間に思えた。
快感が、強くなる。自分でもわからないほど、頭がおかしくなるほどの快感に喘いでしまう。喉がカラカラだ。
もう、声なんて抑えられない。だが、油断すればきっと、ベツのモノが出てしまいそうだった。
ぎゅ、と拘束されたままの掌を握り締めて、震える足を踏ん張り、
そして貫かれたままの奥を意識する。
グレンの雄は、大胆な動きではなかったが、彼が気持ちいい程度には内部の感覚を楽しんでいた。
熱い。今度こそ、鉄串のような男のそれが、更なる圧迫感を増す。
奥が今までにないほど拡張され、このまま口が開きっぱなしになるのではと、わけのわからない恐怖すら覚えた。

「っあ、あ、グレ、やめろっ・・・あ、そこ、キモチッ・・・」

もう、自分で何を口走っているかもわからない。
意識を少しでも外にやってしまっては、途端に脱落するだろう。
まさに犬だ。かれの犬。下僕。
だから、必死に、男の雄の感覚と、己自身の尿意に、唇を噛み締めて耐える。
早くイって、終わらせたい。だが、この快楽も捨てがたいという感情も確かにあることに気付いて、
もう、深夜はわけがわからない。頭を振って、汗に濡れた髪を振り乱して、
枕に押し付けて、身体を震わせて、快楽に溺れる。
―――と、

「っう―――あ、やだ―――あ、ああっ・・・!!」

堪えていたそれが、ついに決壊の時を迎えた。
それも、唐突に。深夜は漏らした、と絶望的な気持ちになりぎゅ、と瞳を閉じたが、
実際は、ぴゅ、とグレンの指先の隙間から、透明な液体が噴き出した。それも、彼の身体の痙攣に合わせて、
2、3回に分けて吐き出される。
普段の精とも、尿とも違う、また不思議な液体だった。さらりとしていて、透明で、
深夜は片目を開けて、そしてそれから、己の身体に何が起こったかを、
愕然とした表情で理解する。
まさか・・・これは・・・都市伝説だとばかり思っていたあの、

「・・・イったのか?」
「―――・・・」

覗き込んでくる男の顔が、既に笑いを噛み殺せていない。
そんな彼の表情に、グレンが意図的に自分をこんな状態に陥らせたのだと確信した。
深夜はぐったりと、それこそ普段の10倍も疲れたように脱力してしまった。
グレンの雄がいまだに突っ込まれたままの腰をグレンに支えられながら、他はまったく力が入らない。
これが、俗に言う、男の潮吹きか―――。
噂には聞いたことがあったが、本当に男でこんなことが起こるとは。
つくづく、人間の身体というものは不思議なものだ。

「気持ち良かったか?」
「・・・お前、僕の身体で人体実験しないでくれる?」
「はは。
 でもお前だって、気持ちいいのが好きなんだろ?毎日わざわざ抱かれに来てるなんて、相当の馬鹿か、ただの淫売だな」
「君みたいな変態よりはるかにマシだね」
「お前よりはまともだ」

そう、見下ろすグレンの顔が、本当にむかついた。
涙目で睨みつけると、未だに繋げたままの下肢がまたもや反応を示し始め、
今更ながら、まだグレンがイっていないことに気付く。
まさか、このまま終わるはずもない。
だから深夜は、今度こそ本当に、絶望的な気持ちになった。

「もう―――むり。絶対、無理。勘弁して。無理だから」
「まぁ、あとは勝手にやるからいい。そこでおとなしく眠ってろよ」
「お前馬鹿だろ。
 犯されたまま悠長に眠れるわけがないだろ!!」
「いいから力抜け」

ぐるりと身体を返され、腕の鎖がねじれる。さらに拘束がきつくなったが、
それでも繋がったまま、グレンの唇が降りてきて、漸く深夜は安堵したように唾液のたっぷり載せた舌を貪る。
本当に、本当に、あの追い詰められる瞬間の、あまりの快楽といったら。
あの感覚を思い出して、深夜の下肢は再び熱を持ち始めるような錯覚すら覚える。
両腕の拘束のままだとグレンを抱くことはできないが、
それでも、そのかわりに深夜は両足で彼の腰を挟み込み、縋るようにして力を込める。
今度こそ、彼に気持ち良くなってもらうために。
グレンの雄は、内部を強くえぐり、そうして初めて彼の中に、
ひどく濃度の高い、快楽の証を溢れるほどに吐き出したのだった。

「っ・・・グレン・・・ナカ・・・熱っ・・・」
「深夜・・・」

そっと抱きしめられて、その熱が、完全に力を失ったからだに心地いい。
もう、何もかも考えるのが面倒になった深夜は、
そのまま瞳を閉じ、彼の熱だけを追ったまま、心地いい眠りの世界へと旅立ったのだった。





end.




すみませんでしたぁ。
深夜様の潮吹きでした。最近BL界から離れていましたが
最近のBL界では、潮吹きネタが主流なんですか??
とあるふぉろわーさんが言ってましたw
腐女子もレベル高くなったもんだ・・・(笑)






Update:2015/06/14/SUN by BLUE

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