No Look



「・・・大佐ってさぁ」
「・・・なんだい」

執務室の中。部屋には、たった2人しかいない。
もちろん、隣室には補佐官であるホークアイ中尉がいる。
けれど、ロイは執務中の間は基本的に部屋には入らぬように、といつも忠告していたため、
無断で誰かが入ることはない。
それは、1人落ち着いた場所で仕事をしたほうが当然集中できるからであって、
確かに昔はたった一人、
時折物思いに耽りながら目の前の書類を片付けていた。
けれど、今もう1人増えたからといって、ロイはさして気にしない。
書類に目を落としたまま、もはやロイにとっては空気のような存在になってしまった少年の声に応じた。

「本気で笑わないよね」
「そうかな」

口元には相変わらず引かれている薄い笑み。
それを見て、エドワードは顔を顰める。
さきほどまで座って本を読み耽っていたソファから立ち上がると、デスクに座る彼の顔を横から覗き込んだ。

「・・・鋼の?」
「っだから、それだよ」

憎憎しげに、エドワードは舌打ちをする。
ロイは眉を寄せる。
エドワードがぐい、と彼の身体を自分のほうに向かせると、ロイの手の中の書類がバサバサと音を立てて床に落ちた。

「それが、笑ってないっていってんの」

言うなり、エドワードはロイの唇に自分を重ねる。
強引に。ロイの眉間の皺がより一層本数を増す。
けれど、ロイはエドワードを拒否しないまま、彼から与えられる体液を飲み干した。
口の端から流れる銀糸。エドワードはそのまま舌で顎をなぞり、彼の軍服の襟元を辿る。
唇を解放されたロイは、一瞬デスクのほうに視線を彷徨わせ、小さく息をついた。

「・・・仕事が、残ってるんだがね」

デスクの上には、まだ数時間はかかるであろう書類が積み上がっている。
エドワードはそれをちらりと見やって、それからまた彼の胸元を肌蹴にかかる。
・・・エド、とたしなめるように彼の髪に手をやると、沈黙していた彼が口を開いた。

「仕事なんて、あんたならすぐ終わらせられるだろ」

ちょっとぐらいで文句言うな、とエドワードは呟く。
そんな部下らしからぬ発言にため息をついて、結局ロイはエドワードの好きにさせていた。
ロイは、ほとんど日に焼けない肌を晒す。
どこか健康的でない、蒼白くもあるそれに、エドワードは口付ける。
薄い皮膚はひどく敏感なのか、ロイは少年の唇が滑るたびに目を細めて小さな吐息を洩らした。

「・・・大佐・・・」
「痛っ・・・」

コリ、と歯を立てて胸の飾りに触れる。寒さのためか、それとも感じたためか、
既に立ち上がった小振りのそれは彼に欲情する者をひどく煽る。
鮮やかに色づいたそれを、片方は爪で、片方は歯で千切るように刺激を与えると、
ロイは喉を仰け反らせて痛みに堪えた。

「っ・・・」
「ねぇ・・・見せてよ、大佐」

エドワードは甘えるようにロイの胸元に身を寄せる。
猫のように身を寄せる彼を、彼の上官はその背を抱く。
エドワードは胸元から顔を上げると、もう一度背を伸ばしてロイの唇を貪った。
その間に、エドワードの開いた手は彼の臍の辺りをなぞり、未だ着衣のままの彼の軍服のボトムの中に手を差し入れた。
びくり、とロイが震える。
背に回された腕に力が篭るのに、エドワードは口の端を歪ませる。
上半身への愛撫だけで反応を示し、固さを持ち始めているそれを手で握り締めると、
エドワードの上官の眉が扇情的な様に顰められた。

「あんた・・・綺麗」

喉のラインに、エドワードは口付ける。
強くその場所を吸いながら、彼の手はロイの下肢を弄ぶことをやめない。
窮屈そうなボトムの前を開け、彼の雄を解放する。
指先で先端を握り、親指の腹で割れ目を擦るように刺激してやれば、ロイは耐えられないままに甘い声を上げた。

「っ・・・あぁ・・・」

厚い壁に隔てられ、声が隣室に届くことはなく、
少年とその上司の淫靡な行為は続く。
激しい刺激によって張り詰めたそれを見て、エドワードは笑った。
ロイの身体は、何より素直だ。
自分の愛撫に立ち上がり、蜜を零す。感じていることを如実に表す、その器官。
―――けれど。

「・・・大佐。あんたの『本当』って、どれ・・・?」

いつもいつも澄ました顔で。
こうやって強引に行為を求めても、さほどの抵抗もせずに、受け入れる。
同僚には笑いもするし、時にはバカなことをやってみせたり。
でも。
どれが、本当の大佐だろう。
1人でいる時の、彼の空気。
孤独、という言葉が相応しいだろうか、彼の笑みの合間に、影が付きまとう。
だが、相手は自分の2倍も生きてきた大の大人。
たかが子供が、そんな彼の闇を追及したとて、どうなるというのだろう。
案の定、下手に近づいた自分はこうしてこの男に絡め取られた。美しい肢体。甘い声音。
それに目を奪われて、いつもロイに求めていたものを見失う。
決して見せない彼の内側を覗きたかった。
彼の内側に隠している全ての闇を―――・・・引きずり出して。そして抱き締められれば。

「っあぁ・・・エド・・・」

しかし。
そんな少年の望みは、彼の口元が薄っすらと形作った笑みによってまたもや叶わないことを知る。
理性なのかそれともただ淫乱なのか。それは彼を抱く者にすらわからない。
いらだたしげに、エドワードは自らのベルトを緩める。
憎しみか、苛立ちか、それとも焦がれる想いか。
自らがロイに向ける正確な感情すらも分からないまま、エドワードは彼の内部に腰を打ち付ける。
そんな屈辱的な行為ですら、このロイ・マスタングという男は歓喜の声音を上げて少年を受け入れる。
内部の熱さに意識をもっていかれそうになりながら、
エドワードはそんなロイを抱き締めた。




欲しいものは、たった1つのはずだった。
弟―――アルフォンスの身体と、自らの失った四肢。
けれど、エドワードはロイを抱くたびに思う。
彼の、心が欲しいのだ、と。





目の前で抵抗なく喘ぐこの男の心が、欲しいと―――・・・・・・







Update:2004/01/25/SUN by BLUE

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