舐めてあげる



「ご苦労だったな、マスタング大佐」
「はっ!」

ひと月ほどして帰ってきたロイに、ブラッドレイはそう声をかけた。
西の、ガロン。
西方司令部が長年手を焼いていたテロリスト達は、
中央からのロイ・マスタングの派遣により捕縛もしくは死の運命を余儀なくされた。
ガロンは、いくつものテロリスト達のたまり場になっていた。
数年前、ガロンの弱小テロ組織が軍に抵抗しだしたのを皮切りに、
山に囲まれさながら要塞じみた地形が利としたこともあって、
その後いくつものテロリスト達がそこを拠点にするようになっていた。
元々、資源ルートの問題で住民と軍が対立していた場所だ、
軍を良く思わない者たちに紛れて潜むテロリスト達に、西方司令部はもはやなす術もなく、
今回殲滅、という強硬手段に出たのであった。
確かに、ひとつの町を潰すことで国家を脅かす反乱分子が消え、
また秩序と安寧の生活を送れるなら、と納得できないわけではない。
だが―――。
果たして、無関係な住民達まで殺してしまった罪はないのだろうか。
現場にあって、殲滅作戦を幾度もこなしてきたロイは、いつだってその十字架をその背に背負う。

「主要テロ組織のリーダー格は捕縛、メンバー、その他のテロ幇助を行っていたとみられる者たちは全て国家の名の下に処刑いたしました」

なんという言葉だろう。
国家の名の下に?処刑?
殺人鬼や本当のテロリストならばいざ知らず、
不確定要素しかもたない者たちまで、処刑、だと?
なんという横暴な国家権力。
これではますます住民達の非難を浴びるだけではないか。
ロイは内心舌打ちをする。
だが、大佐といえども軍人は軍人だ。
大総統の命さえあれば、どんな納得のいかぬことであろうと従わなくてはならない。
軍の狗、とはよく言ったものだ。

「・・・うむ。これでまだ数多いるテロリスト達への見せしめにもなろう。よくやってくれた」

恐ろしいことをさらりと口にする大総統には、もうなれた。
大総統の部屋にあって、彼の残酷な命を幾度となく聞いてきたロイにとって、
今更男の容赦のなさを感じても仕方ない。
これが、今の時代の最高権力者、キング・ブラッドレイ。
この国で、今ほど軍部が台頭してきた理由は、この男以外にあるまい。
さっと手をふり、ブラッドレイは秘書官達を退出させた。
これから何が始まるのか、想像したくもない。ロイは無表情にブラッドレイを見やる。
目の前の男は、ニィッと口の端を歪めて笑い、さて、と執務机を回りロイの前に立った。
どこか酷薄な笑み。知らず、ロイの身体に震えが走る。

「本当に、よくやってくれた。・・・何か、褒美をせねばなるまいな」
「はっ、そのお言葉だけで光栄であります」

意味深なブラッドレイの言葉をロイは無視して敬礼する。
その手を、ブラッドレイは掴んだ。
わかっている。わかっているのに、彼に怯える自分がいる。
男の一挙一動に揺れる自分が、ロイは嫌だった。

「閣下・・・っう・・・!」

案の定、強引に顎を掴まれ、そのまま唇を重ねられた。
ひと月ぶりの激しいキスは、意識すら奪うほどに濃厚なもので、
ロイに飢えた身体を自覚させるには十分だった。
目を開ければ、情欲に濡れた男のその瞳。
獣が獲物を追い詰めた時のように、その瞳は鋭い光を自分に向けて放っている。

「・・・っあ・・・」

唇を離され、思わず声が洩れた。
羞恥に顔が赤くなるのを感じる。これでは、まるで男を求めていたようではないか。
内心唇を噛むロイをよそに、ブラッドレイは面白がるようにロイを見つめていた。

「っや、あ・・・っっ」
「どうして、欲しいかね?」

下肢に伸ばした手で、服越しからロイ自身を擦りながら、
ブラッドレイは愉しげにそう告げた。
知り尽くしたその動きに、ロイが抵抗できるはずもない。柔らかく揉みしだかれ、足の力が抜ける。
男はロイの腰をぐっと抱え、なおも彼自身を刺激し続けた。

「あっ・・・やめ・・・閣下・・・ぁ」

震えの止まらない身体を支えるように、ロイの手がブラッドレイの胸元を握り締める。
普段ならば、男に縋り付くなどもってのほかだ。
恋人でもなければ愛人でもないロイにとって、許されぬことだったが、
今だけは口の端を歪めただけでブラッドレイはそれを許した。
ただ服の上からだけの刺激で、ロイは今にも崩れ落ちそうだ。

「マスタング・・・」
「あ・・・っふ、う・・・んっ・・・」

うっとりと名を呼び、もう一度口付ける。
力の抜けた身体は抵抗なくブラッドレイの舌を迎え入れ、絡む舌の熱さに自分もまた煽られるのを感じた。

「・・・本当に、一月は長かったよ、マスタング・・・」

耳元で囁いて。ロイがそれを理解する前に、ブラッドレイは奥の寝室へとロイを押し倒した。
男2人の体重に、ベッドのスプリングがぎしりと音をたてる。
乗り上げてくるブラッドレイに、ロイの胸が高鳴る。
そんな自分に、ロイは唇を噛んだが、熱を帯びた身体はどうしようもなかった。
いつになく優しく触れる愛撫に、錯覚してしまう。

「閣下・・・っ」
「全く、遠くに遠征など行かせるものではないな」

ロイの衣服を剥ぎながら、ブラッドレイは耳元で囁いた。
低い声音。
まるで、その声に脳が犯されているようだ。
何も考えられない。
意識が朦朧としてしまう。

「このひと月の間、どれほど私が君に飢えていたか・・・・・・」

組み敷いた男の太股に、自分の下肢を押し付ける。
服越しでもそれとわかる男の熱に、ロイは息を呑む。
それと同時に、手に包み込まれたままの自分の下肢の熱もまたぐっと上昇したのを感じて、羞恥に頬を染めた。

「・・・わかるかね?」
「っあ、は・・・あ・・・っ」

手の動きが再開され、思わず声が洩れてしまっていた。
そんなロイを、ブラッドレイは満足げに見やる。
直に触れたロイのそれは、既にはしたなく先端を濡らしていて、
ぬめる体液を指先に絡めると、男は砲身になすりつけるように彼自身をしごいてやった。

「どうだ?」
「え・・・・・・」

快楽に浮かされるロイは、ブラッドレイの言葉すら理解できないまま。
彷徨わせていた視線をブラッドレイに向ける。
男は、ロイに顔を寄せ、その頬に口付けた。

「気持ちいいか・・・?」

甘い毒のような声音。
ロイは頬を染め、濡れた瞳を揺らす。
ブラッドレイの手に包み込まれた熱は、いい加減解放を求めて震えていた。

「は、い・・・閣下・・・」
「ふふ。イイ子だ」

ブラッドレイはそういうと、荒い息をつくロイの腕を強引に引くと、自分と場所を入れ替えた。
そしてさらに、青年の両足首をつかみ、自分の下肢の前に顔がくるような体勢にさせる。
男は、ロイの頭を掴むと、いまだ衣服に包まれた自身に顔を押し付けた。

「う・・・っふ、う・・・」
「・・・さぁ」

顔を真っ赤に染める青年など、お構いなし。
ブラッドレイは甘い声音で、ロイに口腔性交を強要する。
男の目の前には青年の性器が晒されていて、それを手で柔らかく扱いてやると、かれの口元から甘い悲鳴が洩れた。

「ほら・・・達きたいのだろう?」
「・・・っ・・・」

痛いほどに張り詰めたそれが訴えるままに、ロイは男のモノを受け入れようと唇を噛み締めた。
支えた両腕はそのままに、歯でジッパーを外す。
怖いくらいに張り詰めたそれを目の前に、青年は何度も唾を飲み込んだ。
こちらも、ひと月ぶりの『男』のそれに、興奮していた。
本人は、認めたくないだろうが。

「っふ・・・う・・・んっ・・・」

男のニオイが鼻につき、ロイは吐き気を覚えた。
だが、そんなことは許されない。喉の奥まで飲み込み、舌で、唇で男の快楽を必死に誘う。
奉仕に意識を向ければ向けるほど、
ブラッドレイのロイ自身を愛撫する手も激しくなり、
ともすれば力が抜け、崩れ落ちそうになる身体を必死に支えながら、ロイは舐め続けた。

「相変わらず・・・巧いものだな・・・」
「っう・・・んっ・・・」

くすりと笑われ、もうどうにでもなれ、と更に動きを激しくした。
理性を失わなければ、やってられない。
人間であることを忘れなければ、飢えた獣になどなれないのだ。
そして今、この男が求めているのは、飢えたように乱れる自分のその姿。

「っあ・・・は・・・ああっ!!」

不意に下肢により強い刺激を感じ、慌ててその快楽に耐えるべくシーツを噛んだ。
自身に触れる、熱くて濡れた感触。
これは他でもない、自身を口内に含まれた時に感じる感覚だ。
ロイは驚いた。今まで、ブラッドレイにそんなことをされた記憶がなかった。
自分が奉仕するならいざ知らず・・・、彼の男に奉仕される、そんなことなど。

「私も、舐めてあげよう」
「あ・・・、や、やめ・・・っう―――・・・」
「唇を離すな。そのまま、しっかり達かせてもらおうか」

ブラッドレイは、片手でロイの髪を掴み、思わず頭をあげようとしたロイを下肢に押し返した。
涙目になりながらもまた奉仕を再開するロイににやりと口の端を歪ませて。
こちらも口内にロイのモノを含ませる。
筋に沿って舌で舐め上げ、そのまま口内に受け入れて、歯を立てるようにして刺激を与える。
いささか乱暴なそれは、しかし痛み寸前の快楽をロイに与え、
ロイは奉仕を忘れ快楽に沈みそうになる身体を必死に支えていた。
下肢はもう限界。だが、ブラッドレイを達かせないことには自分もいくことなどできない。
案の定、爆発寸前で先走りを漏らすそれの根元を、ブラッドレイは指で締め付けた。

「んっ、ん・・・っう・・・」
「そろそろ・・・達きたいものだがな・・・?」

男は掴んだロイの頭を、強引に動かした。
余裕のないそれに、ロイは眉根を寄せたまま砲身を扱く。大きくなったそれはロイの口内を圧迫する。
息すらできないほどの苦しさに涙が零れる。
ひときわ奥を貫かれ、一瞬息すらできなくなった。

「・・・・・・っう・・・!!!」
「・・・っ」

短い呻きと共に、青年の喉の奥に男の精が叩きつけられた。
苦しさに思わず吐き出そうとして、だがそれすらブラッドレイの手に阻まれる。
口の端から洩れるぬるりとした体液が気持ち悪かった。
だが、それも慣れた感覚。

「あ、はっ・・・ああっ・・・!」
「ふっ・・・今日は特別だ。達かせてやろう・・・」

きゅっときつく先端を握られ。
っ、と息を詰める。そのまま、頭が真っ白に染まる。
次の瞬間には、解放の刺激でガクガクと震える体を支えきれず、ブラッドレイの上に倒れ込んだ。
男の胸元を濡らすそれに羞恥を覚えたが、今更どうしようもなくて。

「・・・ぁ・・・すいま・・・せん・・・」

唇を噛んで、申し訳なさそうにそういうロイに、ブラッドレイは哂った。

「ふ・・・今日は特別だと言ったろう・・・?」

力の抜けたロイを抱き締め、ブラッドレイは楽しそうに告げた。
そう、夜は始まったばかり。
一晩注中、手放す気はなかった。
飢えた身体を満たすには、一晩などでは足りない。
もっともっと。
啼かせて、請わせて、乱れさせてやる。
ひと月みていなかった分、その知り尽くした全てを再度確認するかのように、
その後もブラッドレイはロイを犯し続けたのだった。






























「ああ、そうだ」

ふと、思い出したように、ブラッドレイは声をあげた。
ロイは、息も絶え絶えでベッドに倒れ込んでいた。
意識はあったが、まともに受け答えができる状態でもなかった。ただ、聞き流すようにブラッドレイの声を聞いていた。

「知っていたかね?もうすぐ、夏祭りの時期だな」

ロイは朦朧としたまま意識を揺らした。
夏祭り。それは、夏の暮れにあるアメストリス国全土をあげてのカーニバルとは違う、
東の国の伝統に沿った小さな祭りだった。
たしか、その昔、東の国の旅人がこの国に気まぐれに住みついた時、彼を中心に始めたものだと伝わっている。
当時、いまよりもひどく戦争がちで不安定な情勢だったから、
その陽気な男は暗い表情の子供たちを元気付けようと、
東の国の祭りのアトラクションを見せたかったのだろう。
そして、そのアトラクションは、いまだにこの国に伝わり、そして続いていた。

「君は好きだったろう?久しぶりにここに来たのだ、見に行ってはどうだね?」

ブラッドレイが投げかける言葉に、過去の記憶を思い浮かべた。
暗い夜空に色とりどりの花々。
子供心に綺麗だと思ったときから、おそらくはずっと好きだった。
そうだ、とふとロイは頭の隅で考えた。

・・・エドワード。

彼らに、見せてやりたいと思った。
毎日毎日、ばたばたしてひとところに留まることのない彼らに、
たまには休息の時を。
けれど、そんな願いもおそらくは叶わないだろう。
違うところに思考を揺らす彼などおかまいなしに、ブラッドレイは言葉を紡いでいたのだった。




「そうだな・・・君の着物姿がみたいな。ふふっ。楽しみだよ」








to be continued...






Update:2004/06/06/SUN by BLUE

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