飛べない鳥



うつむく彼の顎を取り顔を上げさせれば、
見上げる瞳は久しぶりの緊張のためかどこか不安げで硬く強張っていて。
大丈夫だ、と囁いてやれば、何がだよ・・・と睨まれる。
どんなに口や表情で抵抗していても、自分の腕から逃げようとしない彼は、
おそらくは自分と同じように飢えていたのだろう。
軽く笑みを浮かべて。
そっと、何か大切なものに触れるかのように唇を触れ合わせる。
ああ、このまま、胸に溢れてくる感情のままに彼を抱き締めてしまったら、
彼が壊れてしまいそうだ。
小柄で、細身。一見すれば、ただの子供でしかないのに。
日の光を映しこんだ髪と、それ以上に濃い色の輝きを放つ金の瞳。



神様、ありがとうございます。
こんな場所で、まさか彼と会えるなんて思いもしませんでした。
けれど、貴方は残酷ですね。
私たちに、どれほど苦しめとおっしゃるのですか?




















「ああ、鋼の」

口にして、ふいに笑いがこみ上げてきた。
別に、バカだな、とか自嘲気味に笑ったわけでもなければ、
もちろんエドワードの素振りに笑ってしまったわけでもない。
ただ。
ただ、その彼の二つ名を口にしたとき、
ひどく嬉しかったのだ。
懐かしいとか、幸せだとか、安堵だとか、そういう感情がいくつも込み上げてきて。
胸が一杯になって、自然と笑みが零れてしまうような。
勿論、そんな自分の内心が全て目の前の少年に伝わるはずもなく、
エドワードは胡散臭げな目を自分に向ける。
けれど、そんな彼の反応にすら、どこかほっとしている自分がそこにいた。
思わず伸びてしまいそうになる手を、公共の場だぞと必死に戒めて。

「・・・なんだよ」
「来たまえ」

たった一言だけ告げて、背を向ける。
他に何か言葉にしようとすれば、下手にみっともない部分を曝け出してしまいそうで。
エドワードがついて来なかったら、ということなど考えもつかない。
勿論、彼が今来なかったなら、力づくでも彼を捕らえ、そして許しを請わせるが。
小さく、だがはっきりと意地の悪い笑みをつくる。
自分でもどうしようもない醜い感情が、自分の中に存在するのがわかる。
それも、エドワードだけに向けられるモノ。
やっかいな自分のこの感情を、願わくばエドワードには刺激して欲しくないのだが。
そう思ったところで、何か怒ったような声を背に投げかけられ、
結局パタパタと走ってついて来る音がした。
ふふ、と笑みを浮かべる。
自分の部屋の前まで来ると、廊下には誰も見当たらず、静まり返っていた。
エドワードが軍服の裾を引いてきた。
なんだね、と視線だけ向ければ、その先にはうつむいたままのまだ年端もいかぬ少年。

「なぁ・・・オレ、やだぜ」
「何を今更」

こんなところまで、ついてきて。
目の前は私の部屋だというのに、何を言い出すのか、この子供は。
裾をつかんでいた腕を、強く引く。
っ、と息を詰めた身体を、室内に押し込めて。
執務室でない、プライベートな私室は、大佐という地位にある者に宛がうにしてははっきりいって狭い。
ただ、必要最小限の家具と、そしてベッド。
その中に押し込まれ、そのままベッドへと転がされてしまったエドワードは、
途端噛み付くように自分に突っかかってきた。
―――可愛いね。
それすら、自分の中の熱を煽る以外の何物でもない。

「こんな・・・、やだ、オレ・・・っ」
「大人しくしていたまえよ」

不思議なことだが、妙に自信家な自分が表面に出てきていた。
普段、エドワードにだけは取り繕う余裕すら失いそうになる自分を必死に留めているのに、
今は全くそんな気は起こらず、ゆっくりと軍服を脱ぎ去っていく。
うつむいたままの少年は、相変わらずだ。
これほどまでに、自分が彼を好きだということを知っていながら、
自分の軍人としての一言一言に顔を歪ませる。
本当は、素直に言えればいいのだがな。
君に、傷ついて欲しくないから、だとか、君が心配だから、だとか。
だが君は、そんなことを言えば、反発して余計なお世話だ、とか思うだろう?
だから、私は言わない。
ただ、君に愛だけ注ぐ。形なんかどうでもいいんだ。
私が、私なりの方法で君を愛することができれば、それで。

「・・・エドワード」

初めて、その名を口にするように殊更にゆっくりと彼の名を呼んだ。
途端、びくりと反応するからだ。
強張ったままの肩に触れる。その肩は微かに震えていた。逃げ出したいだろうに、逃げ出せない。
その身体の奥に眠る、かれの欲が邪魔をするから。

「大丈夫だ」

たくさんの、・・・本当に、沢山の意味を込めて、その言葉をエドワードに紡いだ。
唇を耳に触れるほどに近づけて。
甘く、甘く囁いてやれば、限界なのか、やっと自分のシャツにしがみついて来る。

「っ、何がだよ・・・」

反発しているくせに、それでもぎゅっと強く掴まれ。
ああ、と吐息を洩らして、手を伸ばしてその身体を腕に抱き込む。
はやる心を精一杯押さえつけて、ゆっくりとその唇に触れる。
エドワードの唇は、甘く、そして柔らかく、まるで眩暈がしそうなほどだ。
歯列をなぞり、くすぐるように肉の部分をなぞってやれば、
たまらない、とばかりに眉を寄せ、おずおずと口を開いてくれる。
ああまったく。
腕に抱いた存在は奇跡のようで、今にも掻き消えそうだ。
どうして、いつも傍にいないのだろう。どうして、いつもいないのが普通なのだろう。
それは、絶対に考えてはいけない甘美な罠。
エドワードという存在が、この腕に収めていられるほどちっぽけな存在ではないことは、重々承知している。
だから、極力考えないように、考えないように。
普段そうやっているからこそ、―――こうして、目の前にいて冷静でいられるはずもない。

「エド・・・」
「う・・・ふ、うんっ・・・」

彼の身体を抱えて、自分の膝に乗せる。
より近くなった距離感に、キスが深く絡み合う。
角度を変えるたびに洩れる声も、吐息も、全てが愛しいと思うのだ、
エドワードに関しては、自分が重症なことくらい、嫌でもわかっている。
不意に、なにか悔しさがこみ上げてきて、そんな自分に笑みが零れた。

「っう・・・くる、しっ・・・」

くぐもった声と共に、強く肩を叩かれてしまった。
息をするのも忘れて彼を貪っていたからだろう、彼の苦しげな様子が手にとるようにわかる。
名残惜しげに唇を離してやれば、離れた舌から糸が引く。

「・・・っ、はっ、は・・・ぁ」
「・・・エドワード」

軽く目を細めて、それから真っ白なシーツに背を押し付けた。
キスに溺れ、思考を麻痺させていた少年が、途端にじたばたと暴れだす。
無駄だとわかっているのに、どうしてこう、素直ではないのか、
いつも彼を組み敷いて、その顔を見下ろすたびに思う。
素直に、自分の愛情表現を受け取ってくれない彼は、自分を睨みすえている。

「なにか・・・不満か?」
「・・・・・・・・・別に」

微かに朱をはいた顔を、逸らすように。
露になった首筋は、キスを誘う。
白い肌が、ほのかにバラ色に染まっている。

「んっ・・・」

耳の後ろにキスを落として、そのままきつく痕を残してやりたい気分に駆られた。
かといって、もし本当にそれをしたら、
この恥かしがり屋の少年に殺されかねないのだが。
けれど、この白い肌に花弁を落としてやりたいという気持ちは抑えられない。
ちゅっ、と軽く吸い付くと、エドワードは仰け反った。

「んぁ・・・!あ、アト、つけるな・・・っ!」

ほら、やっぱり。

「ああ、残念だな。絶対、似合うのに・・・・・・」

するり、と彼の衣服の裾に手を入れて。
捲り上げると、既に感じてツンと立ち上がるそれが目の前に晒される。
仕方ない。痕を残すのは、せめて隠れる場所にしてやるとするか。
胸元をきつく吸い上げ、今度こそ朱く痕を残す。
エドワードは勿論抵抗したが、今更遅いことくらい、彼にもわかっていたのだろう、
髪に絡みつく指にまともな力が篭ることはなく、
それがなおさら自分を煽ってきた。

「・・・っ、やめ、・・・!」

唐突にボトムの中に入り込もうとする手が嫌だったのか、
エドワードはその手を止めるように、自分の手のひらを重ねてきた。
まったく、素直じゃない。
このままやめてしまったら、つらいのは君のほうだろう?
服の上から焦らすように撫で上げて。
服越しからでもわかる。彼のそれが頭をもたげ、内部で蜜を零していることぐらい。
ボトムの上から、キスをする。
唇を寄せるだけで、感触、というよりは精神部分に作用する感覚で、エドワードはその吐息を洩らす。
ああ、どうしてこんなに可愛いのだろう。
この幼い子供は、自分の前でその艶やかな肢体を見せ、そして自分を誘うのだ。

「・・・嫌かい?」
「んっ・・・」

窮屈そうなその部分になおもキスを続けていく。
反抗的な彼の両足は男の腕で囚われたまま。きつく開かされ、服を着ていてもさぞかし恥ずかしいことだろう。

「あ・・・や、だ、やめっ・・・!」

ふるふる、と首を振って。
幼い仕草は私を煽るだけだというのに、どうして君はそうなんだ。
嫌だ、というくせに。私を誘ってばかりいる。
それなのに、見上げる瞳はひどく責め立てる様な色を見せる。
君のせいで私はこんなになっているのに、どうやって責任を取ってくれるつもりだい?
顔を覗き込むと、ぎゅっと瞳を瞑る。

「・・・本当に、嫌かい?」

互いに、今だ服に包まれたそれを押し付ける。エドワードは息を呑む。
ほら、感じて御覧。
これが、君の罪。私を煽った罪の証だよ。

「・・・あ、あんっ・・・」
「やめて欲しい?」

そういいながら、触れ合った部分を擦り合わせるように動いてやれば、
悲鳴のような声を洩らし、いやいやと頭を振る。
半端な快感が、彼を焦らす。エドワードは潤んだような瞳を自分に向けてきた。

「大佐・・・ぁ」

強請るような表情に、思わずキスをしてしまう。

「・・・どうして欲しい?」
「・・・っ」

我ながら、しつこい物言いに苦笑してしまった。
自分だとて、張り詰め、熱を帯びたそれをはっきりと自覚している。
本当ならば、もう待てずに、エドワードの折れそうな身体を欲のままに貪っているかもしれない。
それなのに、なぜか。
今日は、エドワードを極限まで追い詰めたかった。
理由などわからない。どうでもいい、というのが本音だ。
久しぶりに会ったエドワードを、存分に味わいたいと、そう思っただけだ。
見下ろした少年は、頬を真っ赤に染め、そしてこちらを睨んでいた。
意地の悪い物言いに、怒ったのだろうか。
だが、その表情すら可愛いと思う自分は、おもしろがるように彼を見つめ返してしまう。
ああ、これでは嫌われて当然だ。
エドワードの目の端に涙が浮かぶ。

「・・・も、や・・・っ・・・」
「言うんだ、エドワード。どうして欲しい・・・?」

もう既にエドワードのそれは痛々しいくらいに張り詰めているというのに。
なかなか強情な彼は、その口で言葉を紡ごうとはしない。
それほど嫌なのか、と少しだけ表情に不安が混じってしまう。
好きだよ、エドワード。
少しでも気を抜けば、君しか見えないくらいに。

「・・・さわ、って・・・っ」

か細い声。やっと口を開いてくれたエドワードにキス。

「直接?」
「あ・・・う、んっ・・・!」

小さく頷くエドワードのボトムに、今度こそ手を挿し入れて。
その部分に直接触れると、ああっ、とひときわ高い声音が少年の口から洩れる。
性急に彼を衣服を剥ぎ取れば、彼の全てが目の前に晒される。
さて、何をしようか?
時間は、たっぷりあるのだから。

「・・・や・・・ああ!」

零した蜜を舌で掬うようにして彼を口内に受け入れると、
エドワードは嫌だ、と自分の頭を押してきた。
だというのに、口の中ではさらに容量を増してくる彼の雄は、
彼の中で一番素直な部分だ。
素直に、快感が欲しいと戦慄き、ひくひくと入り口を痙攣させる。
舌で筋をなぞるように辿ってやれば、零れる液体は後ろへと流れていく。
卑猥な光景に、思わず舌で唇を濡らしてしまう。
つぷり、と指を1本、その奥に挿入すると、途端強張ったからだが指を締め付けてきた。
そういえば、ひさしぶりだった。
ただでさえ狭い少年のそこは、さぞかしきつくなっていることだろう。

「あっ・・・や、だぁ!」
「慣らさないと、つらいだろう・・・?」
「う・・・っ・・・」

抵抗を失わせるように、砲身を愛撫しながら、片手で奥を弄る。
少年の熱い内部はひくひくと蠢き、まるで自分を呑み込んでいくようだ。
どうして、こんなに身体は素直だというのに、
心はあれほど素直じゃないんだか。
自分の顔を見れば見るほど、嫌味、皮肉、反発、抵抗。しまいには人の腕から逃げ出す始末。
前まではただ可愛いと、素直じゃないと、それだけで済んでいた。
なのに、なぜか今は不安だよ。
君が私の目の前から消えてしまったら、私はどうすればいい?
君に嫌われたくないのは、私のほうだ。
愛している。閉じ込めてやりたいくらいに。

「エド・・・」

覗き込むと、呆けたような顔が自分を見つめた。
くちゅり、と内部で音が弾ける。指を増やして、快楽の根源をしつこく擦る。

「あっ・・・ふ、うんっ・・・」

もう・・・、と縋るように見上げる少年に、口づけて。
高まる衝動は、かれの肌を一層艶やかに見せていた。
汗に濡れ、髪のひと筋、ふた筋が顔に張り付く。
少年の身体が一層の強張りをみせた。行き着く瞬間。解放に向かって、駆け上る快感。

「っう―――・・・っ!」

しかし、少年が達することはなかった。
とっさに、片方の手で彼の砲身をきつく戒めてしまっていたからだ。
頭で考えた行動ではなかった。ただ、ただいかせるのが癪だった。
ああ、私もどうかしている。
行き場を失くした熱に、エドワードは浮かされる。

「や・・・、苦しっ・・・!」
「お願いだ、エドワード。言ってみせてくれ」

さらに、思ってもいない言葉が口元から零れていた。
熱に浮かされているのは、自分のほうではないのか。唇を噛む。だが、それはもう後の祭り。

「な、んだよ・・・っ!」
「好きだと」

―――バカだ。

なんという、大馬鹿者なのだ、私は。

「・・・言ってくれ、エドワード。私を、好きだと・・・」

その身体だけではなく、その口で。
確かめたかったのだ。エドワードの、自分への想いを。
だが、何を馬鹿なことを。強制して、言わせて、それが彼の本心からの言葉なはずがないのに。
それでも、聞きたいと思ったのだ。
好きだと言って欲しかったのだ。

「・・・馬鹿か・・・あんた・・・」

ああ、馬鹿だよ。

「オレは・・・っ!あんたが、大っ嫌いだ!」
「言ってくれたね」

頭の片隅で予想はしていたが、まさか本気で言われるとは。
しかも、面と向かって。顔が歪むのを、止められないではないか。
意地の悪い笑みが浮かぶ。
こうして私に囚われて、快楽に浮かされて、声を上げているくせに。

「嘘吐きには、仕置きが必要だな―――・・・」

そうか、大嫌いか。
ああ、わかっているさ。君が私を嫌いなことくらい。
それだけのことを、私が君にしてきた。
君を利用し、君の意思も無視し、道具のように扱ってきたことだってあるのだから。
なのに、こうやって、身体を支配させてくれているというだけの理由で、
私は君が本当は私のことが好きなのだと思い込んでいる。
なんと、都合のいい解釈をしていたことか。
それでも、嫌いといわれようと、いまさら離せるはずもなく。

「・・・っ・・・!」
「明日の朝、起きられないようにしてやろうか」
「・・・や、だめ、だっ・・・!」

嫌いなら、いっそ、憎まれてしまえばいいさ。
苛めて、苛めて、苛め抜いて。
憎まれて、その鋭い眼光に突き刺されるのもいい。
愛してる。
どんな形でも、君を私のところにとどめておけたなら。
でも、それも叶わぬ夢。
飛べない鳥は、ただ焦がれて空を見上げるばかり。
ああ、本当に。―――君の羽根も傷つけて、飛べなくしてやりたいよ。
どうだい、エドワード?

「・・・っ、好きだよ。好きだってば!」

いい加減、耐えられないらしい。
熱い奔流に襲われ、苦しげに息をつく。
ただ解放されたいと願って紡がれるその言葉は、喜びどころか胸の痛みを呼び起こす。

「嘘っぽいな」
「・・・っ、あんたが言えっつったんだろ?!」

裏返るエドワードの声に、くっくっと笑って。
深く深く少年の唇を貪りながら、彼の熱を解放してやった。
どうせ、1度や2度で終わらせるつもりはないのだ。
覚悟してもらおうか?



つくづく、抑えの利かない性格だと自嘲する。
こんな、作戦のさなかに。部屋に子供を連れ込み、自分は何をやっているのだか。
しかも、相手は自分が嫌いときた。晩のやり取りで、いつも以上に反発心を芽生えさせたに違いない。
―――エドワード。
だが、どうすればいいというのだ。
私は軍人なのだぞ。軍の狗。そして君に命を下す立場。
けれど、情け容赦ない他の者が、君に残酷な命を下すのを黙ってみていられるはずがない。
たとえ、君に嫌われようとも、
私が君を縛る。君の大切な弟を盾に取り、弱みを握ってでも傍に。
でも、それでも、君は。
きっと、私の腕から逃げていってしまうだろうな。
それが一番、胸が痛いよ。
さぁ、ロイ・マスタング。お前はどうするつもりだ?
泣いて縋りつくか?勝手にしろと放りだすか?狂気に紛れて息の根を止めるか?
けれど今は、そんな時が来ないことをただひたすら祈るばかり。

























ふと目覚めると、隣にエドワードはいなかった。
はっと身を起こせば、既にシーツは冷たく。
周囲を見渡すと、そこは狭い部屋で、そういえば軍務で来ていたことを思い出す。
ならば、エドワードも自室へ帰ったか。
そう思うのに、なぜかはやる気持ちが抑えられなかった。
なにか、なにか、なにか。
・・・不安で。
軍服を身に纏い、慌てて部屋を飛び出す。
取り乱す自分が情けないなど、考えもしない。ただ、エドワードを探す。
不意に耳に飛び込んできた声は、紛れもない彼の声。
足を止める。目の前は、あの男の執務室。
フランク・アーチャー・・・大佐。
何を考えているのか、まったく掴み所のない男。・・・エド・・・エドワード・・!!





「エド!そこで何をしている!!」





何を、だと?
彼を縛る権利が、自分にはあると?
ああ、あるさ。彼の管轄は、この私だ。私の指揮下に入ったくせに、誰の命を聞いている。
だというのに、少年は表情すら変えない。湧き起こる感情に唇を噛み締める。
・・・ああ、くだらない。馬鹿すぎて涙が出るよ。
君を、縛り付けておくなんてできないことくらい、わかってるのに。
―――愛してる。エドワード。
君が傷つくのが、見ていられないんだ。

「エド・・・」

結局、彼に関しては無力な私は、力づくで彼を止めることもできなければ、
守ってやることもできない。
どうせ、いらないって言うだろうな。だからこそ、守ってやりたいと思うのだけれど。
足早に歩くエドワードの腕を掴む。
今更、言葉なんて届かないんだ。なら、私にはこんなことしかできないよ。
また、私を嫌うかい?

「っ、やめ・・・っう―――・・・!」

そうだな、また嫌ってくれればいいさ。
嫌って嫌って、その金の瞳を私に向けてくれればいい。
君を離さない。
きっと、地獄の果てまで。
キスの合間、目の前のエドワードを見やると、
これ以上ないほど鋭い、刃のような眼光。
ああ、君は強かったな。
私の手なんか要らないほど。・・・そうだな。私が、邪魔か?

「・・・邪魔なんだよ、あんた。オレのことなんか、ほっといてくれ」
「エドワード」

・・・すまない。
でも、それでも、私は。

「愛してる・・・・・・」
「・・・んなこたぁ、とっくにわかってんだよ」

苦笑するように口元を歪ませて。
背伸びをして首に手を回してくる、幼い少年。
驚く私は、彼の強い瞳に戸惑うばかり。
ああまったく、君に囚われているのは私のほうだ。

「オレも好きだよ、ロイ」

耳元で小さく囁かされ、らしくもなく胸が高鳴る。
そうして私は、彼を見守ることしかできないのだと知る。
自分から離れたエドワードは、背を向けると、挨拶がわりに片手をあげたのだった。

「んじゃ、行ってくる」





end.




Update:2004/07/12/MON by BLUE

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