叶わないのならいっそ



犬は犬でも、プライドのない犬は嫌いだ。
たとえば、ただ食べ物さえくれるなら、誰にでも尻尾を振るような犬。
もともと、恥も知らずにみっともない真似をするような生き物が大嫌いだった。
そしてまさに、今目の前にいる存在は、それに当てはまるのではないか。
与えられた以上のものを求めて。
汚れた床を舐め続ける意地汚いその姿は。
奇妙な嫌悪感が、湧いた。

「・・・ぐうっ!」
「いつまで、食ってるつもりだ?」

小さな少年の腹を蹴り飛ばす。生き物はおもしろいように転がり、近くの壁にぶつかった。
綺麗に舌で磨かれた皿を、腰を曲げて手に取る。
持ってきたトレーの上に置き、そのまま地下室を出ようと踵を返す。
足首に、弱々しい違和感を感じた。

「待っ、て・・・くれよ・・・」

眉を顰めただけでそれに応じた。
床に転がったままの小動物は、必死に私の足首を掴んでいた。
痛む体を引き摺って、膝下にしがみつく。

「どうして、こんな・・・」

その先を紡げず、唇を噛む姿に、冷めた目を向ける。
どうして?今更、何を言っているんだ、君は。

「身に覚えはないのか?」
「え・・・」

戸惑ったような、怯えたような表情に背を向けて。
生き物を置き去りにして、そのまま地下室を出る。目に眩しい太陽の光。陽の光すら、地下で動物のように転がっている少年に気付かない。
あんなに太陽の下が似合う子供だったのにな。
今はきっと、捕らわれ、絶体絶命の状況下で喘ぐ姿のほうが似合うだろう。
こみ上げてくる笑いに、喉を鳴らした。
ああ、エドワード。
まだ私の元から逃げ出すつもりなのかい?
身動きすらままならない、その身体で。
どうしてこんなことを、と言ったな。
本当に、その身に覚えはないのか?
皿を流しに置く代わりに、今度は壁に掛かっていた乗馬鞭を見つけ、それを手に取る。
やれやれ、別にSM趣味というわけでもないんだがな。
あの滑らかな白い肌にも、飽きてきたし。
扉を開けると、今度は生き物は、ガリガリと石壁を爪で引っかいていた。
ああ、そんなことをしては綺麗な爪が折れてしまうよ。
壁には、例のごとく錬成陣。
だから、本当にものわかりの悪い少年だね。
いつもの聡い君はどこへ行ったんだい。
カツ、と靴を鳴らして生き物に近づく。気付かないのか、気付いていてもそうなのか、壁を引っかく行為を止めようとしない。
・・・気に食わない。

「痛・・・!」

ぴしり、と音がして、少年の手が壁から離れた。
鞭の先が、正確に彼の手の甲を叩いていた。
ああ、痛かったかい?すぐに手が赤く腫れ、私は少しだけ笑みを見せた。
そのまま靴の爪先で彼の手を踏みつける。体重をかけると、痛い、痛いと泣き言を吐いた。
苦しげに顔を歪ませる少年の喉元を手にしたそれでなぞる。
顔をあげさせると、床や壁に擦りつけ、汚れてしまった顔がそこにあった。

「・・・可哀想に。こんな場所から、早く抜け出したいだろう」

白い肌を、ゆっくりと辿ってやった。
敏感な肌は、それだけで肩を震わせ、そんな身体にエドワードは嫌だ、というように目を瞑った。
相変わらず片手は私の足の下。片腕はトルソー。残った片足は真っ赤に焼け爛れ。
ああ、本当に。
可哀想で、ぞくぞくするよ。
私を見上げるその金の瞳は、次に与えられるであろう痛みに怯え、そして微かな期待に揺らめいていた。
なんだ、それほどして欲しいのか。
懇願するような瞳に、意地の悪い笑みを向けて。
肩越しに背を鞭打つ。高い嬌声を上げて、生き物は仰け反った。

「後ろを向くんだ。」

少年の扇情的な情景に、自身の欲がもたげてくるのを感じていた。
少年は大人しく命令に従った。足を引き摺り、手を引き摺り、動物のように腰を上げた。
目の前に晒されたその部分が、行為を欲して赤く染まる。
指を挿入すると、肛内に残っていた精液がぐちゃりと音を立てた。
抽挿を繰り返すと、次々に白濁が腿を伝い、床に零れた。なんとも卑猥な光景じゃないか。

「っ、あ!」
「はしたない身体だな?」

精を零すその部分を、鞭で打ってやった。
びくり、と反応を返す体は、しかし痛みよりも快感を覚えているのか。
少年は恍惚とした表情で床に這いつくばっていた。
それを皮切りに、ぴしり、ぴしりと尻に朱線を刻む。時折その中心に巧く当たると、エドワードは嬉しそうに仰け反り悲鳴を上げた。
何度もそうしていると、皮膚が破れ、しまいには血を流していた。
舌でなぞる。からだがぞくりと震えるのがわかる。
自分のほうが耐えられなくなって、そのまま激しい責めに切れたその部分に侵入した。

「いっ、やぁ・・・ああ!!」

ぐちゅぐちゅと、耳障りな音がしていた。
何度も押し入れたそこは、エドワードの体力が低下していたこともあってか普段の締まりはなく、
ゆるゆると楔を受け入れていた。
これでは女以上に緩い。尻に鞭を振り下ろす。

「ひ、あ、あっ・・・!」

朱線が増えるたびに身体が強張り、ぎゅ、とそこが締まるのが愉しかった。
銜え込むその部分を感じながら、今度は無理矢理腰を引く。内部の皮膚が捲れ、赤い肉の色を覗かせた。そしてすぐに奥まで擦りあげる。
少年は襲う痛みと快楽に、思考もままならないようだった。
口の端から唾液が零れ落ち、床を汚していた。
すっかり力の抜けたからだは、ただ私の要求に素直に従うのみ。
ただ無意識に洩れる声音だけが、その口元から零れていた。

「・・・っ」

奥に放った体液は、内部に収まり切らず、隙間から零れていた。
身体を離し、すぐにその部分に鞭を下ろした。悲鳴を上げて、少年は仰け反った。
緩々と開閉していた穴は、すぐに締まり、それ以上液体を零すことはなかった。
そうだ、折角放ってやったんだから。
しっかりと飲み干しなさい。
苦しげに息をつき、少年は床にただ転がった。
もう、身体を動かす気力もないのだろう。
道端に捨てられ、泥に汚れた子犬のように、今のエドワードはか弱い。

「・・・、ア、」

だというのに、少年は何か言葉を紡ごうとした。
眉を寄せる。だが、そのまま聞き流せばよかったかもしれない。

「・・・・・・ア、ル・・・」

今度は、はっきりと聞こえてしまった。
みるみる、私の中の憎悪が蘇る。
ああ、別に君の弟に嫉妬しているわけじゃないよ?エドワード。
そんな君が、ものすごく気に食わないだけだ。
どうしてそんなに君は馬鹿なんだろうね。
無言で、少年の顔を蹴った。

「・・・ぐ、・・・」

ガッ、と乱暴に靴底で踏みつけてやった。
汚れた顔が、更に泥に塗れる。
捕らわれて、痛めつけられて、こんな踏み付けにされて、
それで悦んでる君が。
今だに外のことを気にする余裕があるとは、笑わせる。
まだまだ、躾が足りないようだな。
エドワードの手首を掴み、身体を引き摺る。

所詮は、叶わぬ夢ということか。

少年の頭からあの鎧の弟の存在を消すことは、私には無理らしい。
ならいっそのこと、彼を想うこと自体が苦痛になるように、もっと痛めつけてやろうか。
ちょっとやそっとのことでは諦めがつかないらしいから。
エドワードを引き摺ってきた先の物入れから、例の麻縄を取り出した。
怯え顔の少年を、ぐるぐる巻きにする。
片手片足がないとどうやって縛ってやればいいんだか。とりあえず邪魔な左腕を折れるほど背に持っていき、きつく縛り付ける。
ああ、それこそトルソーのようになったな。右足が邪魔だ。
赤く腫れ上がったそれに食い込む縄に、エドワードは呻き声を上げた。
ひどいものだ。何かに触れるだけで焼けるように痛むだろう。だがすべて君のせいだよ。
もうほとんど動けなくなった少年を、放り出す。
仰向けに転がり、背と床に挟まれ今にも折れそうな左腕を庇うように身体を捩る。
縮こまった少年の身体を、強く鞭で叩いた。

「む・・・ふっ、う―――・・・」

髪を引っ掴み、顔を上げたエドワードの口に、強引に割り込んだ。
少年は顔を顰めたが、ただそれだけ。
上向かされ、喉の奥に怒張した雄を突き入れられれば、涙しか零れてこないだろう。
案の定、エドワードは瞳を涙に濡らしながら、強いられるままに口腔性交を始めていた。
男に奉仕をするその下で、少年の細身のそれが、頭をもたげていた。
眉を寄せる。本当に、強欲なからだだな。
靴先で、それを容赦なく踏みつける。あまりの苦痛に、エドワードは呻いた。

「ぐ、うっ・・・」

奉仕の動きが一瞬緩む。それを許さず、頬を掴む。
鍵盤楽器のペダルを踏むようにそこを刺激してやると、痛みか快楽か、いまにも昇天しそうな表情を少年は見せた。
また、1人でいい思いをするつもりか?
ぎっ、と強くそれを踏んで。
動きが緩くなると、構わず少年のそれを痛めつけた。
もはや、少年は涙するしか能がない。
痛い。痛い。ただ苦痛から逃れようと、必死に奉仕を続ける。
どうだ、少しは。
懲りてくれたかい?
エドワードの前髪を掴み、その顔を上げさせる。
上目遣いに見上げた金の瞳は、涙に濡れ、潤み、助けてくれと啼いていた。
助けてなど、やるものか。
私以上に大切なものがある君に、手を差し伸べてやる気はないよ。
喉の奥、強く突き入れて。
射精する。叩きつけるそれに、エドワードは顔を顰める。
だが、頭を掴み、その喉が嚥下するのを黙って見つめていた。
小さな喉仏が動いて、やっとのことでそれを飲み干した。口の端から飲み切れなかった体液を零していた。

「いい子だ」

唇を指先でなぞり、その小さな口に零れた精を押し入れた。
ぐちゅりと口内が濡れた音を立てた。構わず指を舌に押し付ける。エドワードが苦しげに顔を歪める。熱い吐息が洩れる。
ふと足元を見やると、黒い軍靴が白く汚れていた。
少年は、同じように精を吐き出していた。
ほとんどが苦痛を訴えてる状況下で、いとも簡単に絶頂に達する少年に、
皮肉げに笑ってやった。
調教しがいのある体だ。今度は何を使って遊んでやろう?

「今日は、その格好のままで眠るといい」

衣服を整え、少年を見下ろした。
白く滑らかだった肌は、跡形もなく穢されていた。
幾重にも巻き付いた麻紐、白い肌にはっきりと浮かんだ蚯蚓腫れ、焼け爛れた足先。
捻じ曲がり、今にも折れそうな左手の甲には、靴で踏みつけた赤い痕。
身動きすらできないだろう。いい気味だ。

カツリと音を鳴らして、地下室を出る。
これでも私のほうが強行軍なんだよ。なにせ昨日の昼間は他人と付き合っていたからね。
2日目の昼間はとりあえず仮眠を取る事にして、
上機嫌で地上へと戻った。















つかの間の休息に、コーヒー豆を挽いた。
昔は、たまにイーストシティに顔を見せたエドワードを連れ込み、
一緒にコーヒーなり紅茶なりを啜ったものだ。
旅の話を聞くのは、好きだった。
表情をくるくると変えてその様子を語るのは、なかなかに微笑ましかった。
だが、いつの日からか、それが苦痛で仕方なくなった。
口を塞いでしまおうと、強引に行為に及んだこともある。
もちろん少年は抵抗し、蹴られ、そうして逃げ出され、その時はふた月帰ってこなかったのだけれど。
台所で挽いたコーヒーを啜る。なかなかいい味だ。
この豆は少年が旅先で―――たしか西のほうのどこかで―――買って来てくれたものだった。
豆が豆のプレゼントとはね。そう言って笑ってやると、拗ねたように赤くなった顔を横に逸らしていた。
あの頃は、無邪気で可愛かったと思う。
素直だったしな。
けれど、今は。

がちゃん、と派手な音を立てて、コーヒーカップが手から滑り落ちた。

ああ、もう私も限界か?手のひらの震えが止まらない。
足元で割れたそれを拾おうとして、思うように手が動かなかった。
あの少年には決して見せたくない、自分の中の闇。
闇、という表現はおかしいかもしれない。
だが、彼に対してああいう態度を取ってしまうその理由は、確かにここから派生していたから。

・・・エドワード。

だるい身体を、ソファの上に投げ出した。
そうだな、ゲームと称してエドワードに挑戦を吹っかけたのは私だからな。
私が眠っている間にでも、あの場所から逃げ出すかい?
ガリガリと、そう壁に爪を立てる嫌な音が、ざわりと背筋を冷やした。
どんなに縛りつけ、自由を奪っても、不安でたまらないよ。
ただ、私は君を傍に置きたいだけなのに。
なのに彼の顔を見るだけで、自分の中の理性が音を立てて壊れていくようだ。
人間らしい感情なんかとうに砕けて。
ただ君を貪り尽くしたい想いに駆られる。
私の下で喚くといい。
君が他人に傷つけられたならどんな手を使ってでもそいつを捕まえ殺してやるが、
私の手でつけた傷は、あればあるほど美しく見える。
少年の痴態を思い出して、下肢が熱を持つのを感じた。
やれやれ、私も元気だな。
わざわざ地下に戻る気もなかったから、少年のそこの感触を思い出しつつ、手で扱く。
手短に抜いてやって、目を閉じる。
やはり脳裏に映るのは、あの少年の姿しかなかった。





to be continued.





Update:2004/09/20/MON by BLUE

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