嘲笑



「なぁ、どこにいくんだよ?」

素裸の少年を抱えて、カツカツと靴音を鳴らした。
向かうは、敷地内にある地下室。ひんやりとした空気に、エドワードはぶるりと震えた。
ギイ、と立て付けの悪い扉を開ければ、そこはなかなかに狭く、独房のようだ。
冷たい石床に少年を放り出すと、抗議するように罵声を浴びせてきた。
まったく、可愛いね。
私の中にある深い闇に気付かない。
まだ幼い、年端もいかぬ少年。

「な・・・ん、だよ、ここ・・・まるで」
「監禁されてるみたい・・・だろう?」

ふふ、と耳元で笑ってやると、びくりと少年の身体が強張ったような気がした。
構わず、両腕を拘束する。少年は無論暴れた。
だが、もう遅い。
部屋の中央にある石柱に、少年の上半身を彼の腕ごと括り付ける。
幾重にも巻き付いた麻縄が白い肌に食い込み、扇情的な様を見せる。知らず私は唇を舐めた。

「な・・・、どういうつもりっ・・・!」
「私に付き合えと、そう言ったはずだが?」
「い・・・言ったけど・・・、3日過ぎたら、解放してくれんだろ!?だったら、なにも・・・」
「だから、だよ」

低く告げ、エドワードの髪に触れた。
ここに、太陽の光が差す事はない。ただ薄暗い、今にも消えそうなランプが灯るだけだ。
だからなおさら、金の髪が美しく見える。滑らかで艶やかな髪。

「たった3日。それが過ぎたら、君はまた遠くにいってしまうんだろうな。私の手の届かない、遠くへ」
「あんた、何、言って・・・」

震える唇を塞いだ。
少年の身体がこわばり、眉が顰められるのがわかった。それでも、離すつもりはなかった。
そう、たった3日。それだけで、私の中のこの強烈な飢えが、収まるのだろうか。
きっと、今日よりも明日、明日より明後日と、この少年が欲しくなるに決まっている。
だから、こうして縛りつけた。
だって君は、1日が過ぎるごとに、戻ることを考えてしまうだろう?
私は、本当は、君を戻らせたくないんだ。

「そうだ、エドワード。ゲームをしよう」
「・・・っ、ゲー、ム?」
「君がこの3日間でここを抜け出せたなら、君の勝ちだ。好きな所に、そう、弟の待つ南部に戻ればいい。だが、もし君がここから抜け出せなかったら・・・・・・」

熱っぽい瞳でひたすら少年を見つめる。
息を呑む彼は、かすかな期待と恐怖に震えている。

「あ・・・たい、さ・・・ぁ」
「私の勝ちだ。」

少年の髪を解き、そのさらりとした金糸に指を絡ませた。
ゆっくりと梳きながら、エドワードの下肢をなぞる。
彼が今自由になる箇所は、首から上と、腰から下しかなかった。
必死に私から逃れようとしていても、たかが知れている。
少年の雄を手のひらで包み込むと、小さく擡げていたそれがはっきりとわかるくらい熱を帯びてきた。
こうやって、縛られて、自由を奪われて。
身動きすらままならない状態で犯されるのは、好きかい?

「やだぁ、っ・・・」
「こうやって私の傍にいさせてあげるよ。君は理由がなければ、素直になれないようだからね」

絶句するエドワードに、甘いキス。

「いい案じゃないか?私がこうして君を縛り付けていれば、君はなんの後ろめたさも感じることなく私の傍にいられる。君のせいじゃない。私の、身勝手な独占欲のせいで・・・とな」
「あんっ・・・や・・・!」
「どちらがいいか、ゆっくり決めさせてあげるよ」

どのみち、ここから逃れる術は与えてやらないけれど。
くくっと笑うと、少年はキツイ視線でこちらを見上げてきた。
そう、その気強い態度が、いつまで続くのか。
見物で仕方ないよ。エドワード。
さぁ、私から逃げてみたまえ。そして、自身の一番大切なもののために命をかけたまえ。
そうでなければ、私は君を私だけのものにしてしまうよ?

「さぁ、エドワード。」
「っ、そんな、ものに、俺が乗るわけ・・・!」
「乗るさ」
「・・・あっ!!」

ずっ、と2本の指を奥に押し込み、内部を掻き回した。
ひんやりとした空気に竦んで、そこはまた狭く収縮し、指を圧迫してきた。
やれやれ、強情な。
無理矢理入り口を開かせ、内部を拡げる。右足を膝に乗せ、ぐちゅぐちゅと音を鳴らすと、感覚のない機械鎧の左足がガクガクと揺れた。
エドワードは嫌だ、と首を振っていた。だが、そんな子供のような仕草にこそ、
私はひどく煽られる。
ほら、逃げてみたまえよ。自分自身の自由を求めて。

「どのみち、君に選択肢はないしな。私から逃れる方法は、たったひとつ」

耳元で甘く囁いてやりながら、深く下肢を蹂躙する。
ぎゅっと目をつぶり、私を意識から追いやろうとするエドワードに、
仕置きのつもりで強く彼自身を握り込んでやった。
ひっ、と怯えたように自分を見上げる少年に、意地の悪い笑みが零れる。

「ここから、抜け出すことだ」
「あ・・・」

指を、引き抜いた。
代わりに宛がわれる熱の塊に、エドワードは怯えたように喉を鳴らした。
懇願するように見上げる少年に構わず、更に片足を持ち上げ、奥を目の前に晒す。
今にも呑み込もうとする彼のその部分が物欲しそうにひくつき、
我慢できなくなってそのまま奥へと侵入した。

「あっ・・・ああ、やぁ・・・!」

ひときわ高く、響く声音。
いつもより感じているのか、自身を呑みこむ度合が強い気がした。
顔を近づける。つらい体勢であるにも関わらず、エドワードはキスを強請るように顔を傾けてきた。
だから、どうして。
正気に戻れば平気で私を置いていってしまうくせに、
どうしてこういうときばかり甘える。
自分で、身勝手で、ずるい子供だと思わんかね。
だから、キスを強請る彼に唇を触れさせない代わりに、その下肢を揺さぶった。
片足では足りず、重い機械鎧まで抱える。だが彼全部を抱えるよりは幾分楽だ。丸めるように両足を抱え上げ、自身の上に落とすように。
不安定な体勢に、エドワードは怯え、しかし両腕の自由を奪われ、喘ぐしかなかった。

「あ、やだ、あっ・・・!」
「こんなに感じているのに?」

するりと指を彼自身に絡ませる。
息を呑む少年は、その驚くほどの硬さに頬を染め、横を向いた。
先走りの液は少年の肌をひどく濡らしていた。汗に混じり、卑猥なニオイが立ち上る。

「ち、違・・・!」
「なにが違うんだ?縛られて、自由を奪われて・・・、こういうプレイが好きなのか、君は」

嘲るように笑ってやれば、必死で違うと首を振る幼い少年。
そう、嘘をついたって駄目だよ。
身体がこんなに反応しているくせに。そうか、私に縛って欲しかったんだね。
君が望むなら、なんだってしてあげるよ。
君が、苛む罪の重さに胸を痛めて、その償いの旅を続けなければならないのなら、
それすらできないようにしてやろう。
まずは、その両足がいらないな。
旅を続けるには、地を踏みしめる足が不可欠だ。

「ああ、さすがに機械鎧は重いな」

下肢を繋げたまま、左足を下ろし、エドワードは少しだけ安定したそれに安堵の息をついた。
だが、少年を安心させるためにこの足を下ろしてやったんじゃない。
要らないから、下ろしてやったんだ。

「当分、歩く必要もないだろう。邪魔なものは外すのが一番だ」
「え・・・あ、いや・・・やめ・・・っ!!」

接合部を少し強めに引っ張ってやると、ガシャリ、と音がして、簡単に機械鎧は外れた。
エドワードは悲鳴をあげた。繋げるときが一番嫌だとは聞いていたが、外れるときもそれは痛むものなのだろうか。
まぁ、どうでもいい。
手にした機械鎧を床に放り投げた。
嫌な音がしたけれど、そんなもので壊れやしないだろう。

「少しは、ラクになったかい?」

再び宙に浮いたからだに、エドワードは怯えた目を向けた。
先ほどまで義肢をつけていたその接合部を掴み、引き上げた。
剥き出しの神経に爪先が当たったのか、エドワードの足がびくりと震え、そして彼はぎゅっと痛みに堪えるように涙を浮かばせた目を瞑った。
ああ、なかなか扇情的だ。エドワードの中に埋めた自身が、一段と熱くなる。
そのまま、軽くなったエドワードの身体を抱え、揺さぶる。
重力に逆らわず落ち込もうとする体を、下から突き上げる。先ほどよりも繋がりが深くなる。
エドワードは、下肢の圧迫にまともに息もつけないらしく、
あえかな吐息をせわしなく続けていた。
時折、耐える様に唇を噛み、首を振った。汗が飛び散り、肌を汚していく。

「あ、おねがっ・・・やめ・・・」
「やめていいのか?」
「あ・・・」

ずるり、と引き抜かれ、エドワードは息を呑んだ。
中途半端なところで動きを止めて。今にもイきそうに高められていた少年は、
さぞかしもどかしい思いをしているだろう。
その証拠に、エドワードの濡れた瞳が、彼にできるかぎりの懇願を載せていた。
だが、それだけで許してやるつもりはなかった。
喉の奥で笑う。片足をもがれ、上半身を背後に括り付けられ。
いい格好だ。これほど似合うとは思わなかったよ。

「欲しいなら、その口で言ってみたまえよ」
「・・・っ・・・」

唇を噛み締める。
こちらを睨みつけるエドワードに、私は鼻で笑って見返した。
ああ、ずるいんだよ、お前。
自分の都合のいい時にばかりいい思いをして。
決して、自分から求めようとしないのだ。少年に翻弄されているのは常に私。
乱暴に頬を掴み、口を開かせる。
ほら、言ってみろ。
私が欲しいと。私のモノが欲しくてたまらないのだと、その口で言ってみたまえよ。
頬を挟む指に力を込めると、エドワードは顔を顰め、苦しげに声を洩らした。
少しだけ、力を緩めてやる。泣きそうな顔が、私を見つめる。

「ロ、イ・・・欲しっ・・・」
「からだが疼いて仕方ないと、そう言うんだ」
「っ・・・、か、からだが・・・、疼、いて・・・、仕方な・・・ぁんっ・・・!」
「どうしてほしい?」

中途半端に埋まっていたそれを、再び奥に押し込んだ。
エドワードは顎を仰け反らせ、声を上げた。
しかし、それだけでは満足できていないようだった。懇願の眼差しはまだ私を見つめていた。
そうだ、もっともっと。
私を欲しがりなさい。その身体も、口も、そのすべてで私が欲しいと。

「あ・・・や、ぁ・・・っ」
「言わなければ、ずっとこのままだぞ?」
「っ・・・ロイっ・・・おねが・・・っ」
「だから、何が」

段々、苛々してくる。
どうしてここまで強情なんだ?
どこまですれば、見栄も体裁も、すべて忘れてくれるんだろうね。
・・・まぁ、いい。
時間はたっぷりある。そう先走る必要なんてないのだった。
ただ、とりあえず。
言わせたい言葉だけは必ず言わせてやる。
少年を見つめ返すと、エドワードは羞恥に耐え切れずぎゅっと目を閉じた。

「い、イかせ・・・」
「人にものを頼むときは、どう言うんだ?」
「・・・イかせ、て、くださ、っ・・・!・・・ああ!」
「60点だな」

少年を揺さぶりながら、吐き捨てるように呟いた。

「今度はもっとしっかりと言えるようになりたまえ。ここから出て行きたくば」

せめて、私を悦ばせてくれないと。
ここから出て行くことなんて許さないよ?エドワード。
乱暴に少年の身体を揺さぶり、卑猥な水音と荒い吐息だけが部屋中に響いた。
散々焦らされた少年は、もはや抵抗するそぶりも見せず、ただ快楽に喘がされていた。
ああ、エドワード。
君を、深い闇の底へ落としてやりたい。
まぁ、もともと光を示し、そして引き上げてやったのは私だがね。
もう一度突き落としてやりたい気分だよ。
私と共に、奈落の底へ。
ああ、どうしてこんな気持ちになったのだろう。
私を残して自由に羽ばたく君に、どうして耐えられなくなったのだろう。
胸が、苦しいよ。
なぁせめて、
ずっとこの場所にいてくれないか?
私の命が尽きるまで、ずっと、・・・傍に・・・、

「っ」

どくり、と身体中の血液が沸騰したような気がして、
次の瞬間にはエドワードの奥に自身の欲を放っていた。
それと同時に、軍服の腹の辺りに白濁が飛び散る。エドワードのそれだ。脱力した少年は、意識すらまともに残っていないのか、放心したように焦点の合わない瞳を傾けていた。

「あっ・・・は・・・」
「エドワード」

縛り付けていた上半身の縄を解くと、ずる、と少年の身体がずりさがった。
床に倒れ込む彼の身体を抱え上げ、つとその重さに眉を寄せた。
鈍く光る機械鎧。
左足の先はもはやなにもなかったが、まだ腕は残っていた。
・・・目障りだよ。
君が言うように、これは君の罪の証だ。ならば、この場所ではまったく必要のないものだよ。
君を苛む、『罪』なんか。
要らない。
力の入らない少年の身体を壁際に下ろし、その肩を掴んだ。
エドワードは顔を顰めたが、もはや抵抗する気力も、声をあげる力さえ残っていないようだった。
そう、これでこそ本物のエドワード。
私が初めて会った時の、片腕と、片足を失ったエドワード。
アンバランスな身体のまま、壁を支えに座り込む。

「可愛いよ、エドワード」

立ち上がると、乱雑に置いてあった引き出しを漁った。
たしかここに、格好のものがしまってあったはずだけれど。
ようやく見つけて、少年を振り返る。
エドワードは、私の手にあるものを捕らえ、息を呑んだ。
逃げようとする体を、押さえ込む。私は哂った。そんな身体で、どこへ逃げようと言うんだ?

「軍の狗には、丁度いいだろう」

皮のベルトを、エドワードの首に巻きつけた。
昔飼っていた犬用の首輪だ。人間用ではないけれど、なかなかさまになっているんじゃないか?
繋がったままの鎖を軽く引くと、苦しげに床に倒れ込んだ。
そうやって這いつくばう様子は、さながら本物の犬のようだ。
本当は、猫のほうが君の形容には似合うのだけれど。たまには犬もいいだろう。
長い鎖の先を、天井に近い場所のハンガーにかけた。
少年の背ではどうにも届かないような高さだ。可哀想に、またその身長を呪うかもしれないね。
エドワードは泣きそうな目で私を見上げ、そして視線を反らした。
困惑しているのかい?
そうだな、いつも優しくばかりしていた。
君の気持ちを一番に考えていたからね。


でも、もうやめた。


私は、これからは私の欲望に従うことにするとしよう。
そうしないと、君は傍にいてくれないようだから。

「しばらく、待っていなさい」

飼い犬には、餌を与えてやらないとな。

「くっ・・・、どう、して・・・・・・」

さぁ、ゲームの始まりだよ、エドワード。
喉の奥で、小さく笑って。
ぎしり、と音を立てて扉を閉める。あえて鍵はかけない。
少しだけ単純な仕掛けを扉の前に置いて、そうすればもう、部屋は外とは一切遮断された空間になる。
喉を枯らして叫ぼうとも、だれも助けになんか来てくれないよ。
君は、どうやってここから抜け出すつもりだい?
あと3日。
止まらない笑いを腹の中に押し込めて、私は食糧を調達しに屋敷へ向かった。




















・・・寒い。
冷たい石の感触に、エドワードは砂を噛んだ。
頭がまだ混乱していた。
どうして、あの男がこんな仕打ちを自分にしたのか。
別に、怒らせたつもりはまったくなかった。
だというのに、捕らわれ、監禁され、首には鎖。なんだってんだ、これ。
だるい身体を必死に起こし、エドワードは壁に背をつけた。
首から伸びる、長い鎖。
犬用だからか、かなり太いそれは、すこし弄るとガチャガチャと音を立てた。
それが耳障りで、エドワードは顔を顰める。
手放して、周囲を見渡していると、やっと少しだけ頭の中が晴れてきた気がした。

ゲーム・・・・・・

あの男は、もともとここから自分を出すつもりはないのだろう。
首輪をかけ、片腕片足をもぎ、錬金術を使えないようにして。
これも、毎度毎度のお遊びだろうか。

「くっそ・・・」

だが、だからといって、エドワードにそれに付き合う義務はなかった。
たとえ命令だとしても、今のエドワードにはそれ以上に大事なことがあったから。
南に残してきた弟。連絡もなしに3日も空けては、心配をかけるに決まっている。
それに、なにより。
賢者の石の情報が、目の前にあったというのに。
それが一番、エドワードの心をかきたてていた。
ここから、出なければ。
3日も弄ばれるなんてごめんだった。今彼がいないのなら、逃げ出すのは今しかない。

「っ・・・」

からだが、言うことを利かなかった。だが、無理矢理壁を使って、立ち上がる。
必死の思いで天井にかけられた鎖を外した。古い石壁についていたそれは、死ぬ気で引っ張るとぼろぼろと剥がれ落ちてくれた。
不幸中の幸い、とでもいうだろうか。
だが、首についた皮のそれは外せなかった。鍵が必要だった。当然、男が握っているのだろう。
片足で、どうにか扉までたどり着いた。
鍵のかかったそれを、どうして開けようかと考えて、
だが取っ手を引くとすぐにそれは開いた。
男が不用心なのか、それともこれは彼の優しさ?
重い扉、必死の思いでそれを引く。
少年の、しかも力の入らない片腕は、それを開けるのにさえ一苦労だ。
それでもやっとのことで、扉を開け、望んだ先は。



「――――――」



エドワードは、目の前に毅然と存在している石の壁に額を押し当てた。
硬く、冷たい感触。そのまま頬を押し当て、ずるずると脱力した体を滑らせる。
こみ上げてくる、おかしな笑い。
楽しくも、嬉しくもないのにこみ上げてくるそれに、エドワードは扉の前の石階段にうつ伏せながら肩をひくつかせた。
必死に開けたその先は、ただの壁だった。
改めて、男はここから自分を出すつもりはないことを知る。
あの男の、嘲るような笑みが脳裏に浮かんだ。
錬成陣を書こうとして、だが腕すらあげる力はない。
疲れ果てたエドワードは、強烈な睡魔に襲われ、そのまま目を閉じた。





to be continued.





Update:2004/09/11/SAT by BLUE

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