流れていく



例えば。
―――そう、例えばの話だ。
自分の死ぬ期日が明確にわかってしまったら。
それが、自分が目指していた目的を達成するにはあまりに短すぎるとわかってしまったとしたら。
自分はどうするだろう。

私の目的はなんだ?
・・・大総統になること。
少し前に逝ってしまった友との約束を果たすこと。

だが、それを叶えるにはあまりに短い寿命を、
もし自分が持っていたとしたら?

それでも、命尽きるまで、手の届かないそれのために時間を費やすだろうか。
そして、志果たせぬままに死を迎えて、私を慕ってくれた者達の涙を誘うだろうか。

そう、すべては例え話。

死ぬかもしれないことなんて考えない。
そもそも、誰だって思いがけない死を迎える可能性がある。
それは嫌というほど友の死で知ったのだ。
だから、きっと。
死ぬときは、その直前まで死など考えないだろう。
死を考えるような生き方は、あまりに後ろ向きな気がする。
人間の寿命は、確か今は70年。
それならば、その70年間、いつ閉じるか知れない人生を、ただ歩むしかない。
流れていく時のままに。
窓を開ければ、頬を打つ静かな風。
残暑も過ぎ、風は涼しげな感触を与えていく。
ああ、このまま私という存在がこの世の中から消え去っても。
きっと世界は何も変わらず、冬を迎え、そして春が来るのだろうな。
そして、その時には、もしかしたら。
あの少年達は、目的を果たしているだろうか。
口元に笑みが零れる。
自分の目的の他に、確かに大切なものが胸の内に存在している。
大切?いや、違うな。
焼きついて久しいこの想いは、そんな甘い形容では表せない。

「・・・中尉」
「はい?」

書類を手に呆けている姿に苛付いていたのだろう、
私の有能な部下は目を吊り上げて上司の呼びかけに応じた。
そんな、怖い目で睨まなくとも。
今日のデスクは、そんなに書類で山積みになっていないよ。肩を竦める。

「エドワードを、呼んでくれたまえ」

途端、またしても吊り上がる彼女の眉を、真っ直ぐに見据えて。
ああ、これから私が告げる身勝手な要求を、彼女はどこまで許してくれるだろう。
これでは、どちらが上司だかわからないな。
けれど、敢えて何も言わず、言葉を続ける。

「それと、私は明日から一週間、休暇を取るから」

本当は、2週間と言いたいところなのだけれど。
さすがに2週間軍部を空けては、のちのち大変なことになるだろうし。
ますます機嫌を損ねたらしい中尉は、低い声で告げた。

「・・・ここにある書類は」
「ああ、全部今日片付けてしまうよ」
「エドワード君は、先日南部のダリへ向かうと連絡が入ったばかりですが」
「構わん。上司命令だ」
「せめて3日間にしてください。4日後に将軍が視察に来るのをお忘れですか」
「・・・すっかり忘れていたよ」

やれやれ、あの愛しい少年と何の邪魔もなくゆっくり過ごせるなど、
そうシアワセなことはやはり難しいらしい。
それでも、やっと3日の休暇をもぎ取って、胸を高揚させながら次の書類に手を伸ばす。
至急、上司命令。
その2つの単語を上乗せするだけで、
その日の夜にはばたばたとエドワードは顔を見せ、
私はこみあげる笑いを堪えて自分の屋敷へと迎えいれた。
もう、深夜も近い夜。
宿をとるなど面倒くさいだろうと、半ば強引に。
弟を南部に置いたまま、なにがあったのかと息を切らせてやってきた少年は、
その目的がわかった途端、猛烈に暴れだし、私は押さえ込むのに必死だった。
そう、事実、必死だったのだ。
至急というのも、満更嘘ではなかった。
これほど、エドワードという存在を近きに認めたいと、
そう思ったことは今までになかった。
もともと、彼が旅をしているという時点でいつでも彼を傍に置きたいという、そのような身勝手な望みは諦めていたはずだし、
彼がいなくとも、性欲の捌け口など一声かければいくらでも手に出来た。
だというのに、何故今は。
これほどまでに、『彼』の存在を、求めているのだろう?
飢えたような、そんな喉の渇きがひりついたように痛かった。

「エドワード」
「・・・っうっせー!さわんな!!」

いつも通りのはずの威勢の良さが、とにかくカンに触って仕方がなかった。
これほど飢えた私の心を、この少年はちっともわかっていないのだから。
だが、どこか冷えた頭の一部では、わかっているのだよ?
君が、私の気持ちなど理解できなくて仕方がないと。
おかしいのは私のほうだと。折角手がかりをみつけ、ダリに行こうとしていた少年を、
こうして組み敷くほうがおかしいのだと。
そう、ちゃんと。
わかっているよ、それくらい。

「っ、てめー、至急っつーから何かと思えば・・・!サイテーだっ!何考えてんだっ」

君のことだけ、と言ったら?
だが、今の私には、君を蕩かせるような甘い言葉を吐く余裕はない。
そう、言ってみるなら、―――即物的。
ただ、『君』を、感じたくて仕方がなかったんだよ。

「煩いな」

性急に服を剥ぐ。
全裸にしてしまえば、いくらなんでもそう簡単に外に逃げ出すことはできないだろう。
ボタンがブチブチと音を立てたが、気にせず床に落とす。
それでも逃げ出そうとする少年の足首を掴んで。
無理矢理、両足を肩に抱え上げた。
上から見下ろす素裸の少年は、久しぶりの行為に、いやそれ以上に私に怯えた表情をしていた。
いきなり奥に宛がうなど、今までの私にしてはあまりに余裕のない行動。
どうしてこうなったのか、自分でもわからない。

「・・・あんた、なんか、変・・・」
「そうかい」

硬質な声が洩れた。だがそれは、余裕のない自分を繕うものだったに過ぎない。
エドワードと肌を重ね、そしてその背を抱き締めた。
華奢な身体は、腕の中にすっぽり収まる。

「ほ、んとに・・・すんのかよ・・・?」

怯えた少年は、ぎゅっと首に抱きついてきた。
身体が痛みに堪えようと硬く縮こまる。だがそうすればするほど痛いのだということを、
まだ少年はわかっていない。
そして、自分は。
それほど行為に不慣れな少年に対し、
しかし強烈な欲望を覚えていた。
狭い内部を、めちゃくちゃに蹂躙し、壊してしまいたいくらいの想いが胸にこみ上げてきて、
抑えられない。
腕の中のエドワードを強く抱き締め、唇に触れる。
触れるだけでは留まらず、舌を絡ませ、深く内部を蹂躙しながら、
そのまま宛がった自身を少年の内部に押し込んだ。
勿論、少年は絶叫した。
けれど、唇を重ねていたため、くぐもった音しか洩れてこない。
ただ、悲鳴を上げるほどに苦痛な証拠に、腕の力が折れそうなほどに込められていた。
もしかしたら、その部分が切れ、鮮やかな色を見せていたかもしれない。
だが、気にする余裕も、優しさも今の自分にはない。
エドワードが込める力以上に、彼の背を抱き締めて。

「・・・っぃ・・・ああっ・・・!」

奥を、貪る。
根元までを深く押入れ、息をつく。
そうしてから、やっと彼のものを手にしてやる余裕が出てきた。
身体が、居場所を見つけたように安堵したようだった。

「ぃ、痛っ・・・」
「痛いかい?」
「・・・っの、バカ!!」

不覚にも、声を上げて笑ってしまった。
目元を赤く染めて、男の欲望を下肢に突き入れて、それでも反抗的な声音を投げ付ける少年が。
だというのに、これを今ゆっくりと動かしてやれば、快楽に喘ぎ声を洩らすのだぞ?まったく、淫乱で仕方のない奴だ。
ならば、もっと素直になればいいというのに。
自分も欲しいと。私が欲しいと、その身体だけでなくその口で。
その態度で、もっともっと。
だが、今のところ、その望みが叶ったことは一度もなかった。

「痛くても・・・、ここはイイんだろう?」
「っ、あ、んっ!!」

少し腰を引いて、それから強く奥を叩く。
ああ、血が出てしまっている。その部分を指先でなぞる。だが、このまま手放してやる気はない。
飢えたからだは、エドワードの内部の感触に悦を覚えていた。
そのまま、きつい内部を乱暴に擦ってやった。

「あ、い、あぅ・・・っ・・・」

痛いくせに、手の中のエドワード自身は頭を擡げていた。
ぎちぎちだった奥は、何度も抽挿を繰り返すうちに滑りがよくなってきていた。
少年は、男泣かせの身体をしていた。女のように、とまではいかないが、動かすたびにぐちゅぐちゅと音を立てる。
そしてそのたびに、甘い声が洩れる。
少年は抑えているようだが、大してその結果は出ていなかった。
そして、それを聞くたびに、私は。
飢えた身体を自覚させられ、なおさらに少年を手放せなくなるのだ。

「や、あんっ・・・ダメ、おねが・・・っ」

ぎゅっとしがみつかれ、笑みが零れる。
どうすれば、いいだろうね。
こうして、私の目の前に痴態を見せる君に、驚くほど魅せられている。
だが君は、こうして私に抱かれ、快楽を得て。
そうして満たして、また旅立つ。
一度旅に出たら、もう私の下で泣きながら懇願したことなんかすっかり忘れて、
一ヶ月も帰ってこない。しかも、「たったひと月」とまで口にする。
まったく、勝手なものだ。
これではほとんど、私は君の言いなりではないか。
君が逢いたいと思ってくれなければ、逢えない。
君が欲しいと思ってくれなければ、どんなに願っても君を抱けない。
私を置き去りにして、1人目的に向かってひた走る。しかも、唯一無二の弟を連れて。
今回ばかりは堪えられなくなってしまったよ。
だから、君を呼んだ。至急。そう、身勝手なのはお互い様だ。
君が責める資格はないよ、エドワード。

「エドワード」
「や、あ・・・あんっ!・・・」

腰を抱えあげ、彼の身体を折り曲げるようにして内部を貫くと、
エドワードの頬を濡らす涙がシーツを濡らした。
そんなつらい体勢でも、今だ彼の腕は自分の背にあって、
しがみつくエドワードに、キスを落とす。
乱暴に下肢を揺さぶると、もはや痛みも忘れたのか呑み込むように収縮を繰り返し、
私の快感を誘った。
一段と質量を増した私を、エドワードは気付いているだろうか?
顔を覗き込む。
羞恥と快楽に歪んだ顔が、情けなく私を見上げた。

「も、ダメ・・・ロ、イっ」
「・・・ああ、わかっているよ」

私も、もうすぐ限界のようだし。
まったく、余裕のなさにも程がある。
まるで子供のようではないか。いい年した大人が。自身の欲を制御できない。
だが、本当は、これでも。
この少年に対しては、自重しているつもりなのだがね。

そう、それだけ。
君が好き、と。そういうことなのかな。

「エド。」
「あ・・・っああ―――っ!!」

耳元で甘く囁いてやるだけで、あっけなく。
少年は脱力し、ずるりと腕をシーツに垂れた。
私は繋がった箇所に精を放ち、そのまま彼の内部に自身を埋めていた。
内部がひどく濡れ、そして熱く、心地いい。
シーツに沈んだエドワードの身体を、膝の上に抱えあげる。あ、とエドワードは声を洩らした。
くちゅり、と内部が卑猥な音を立て、角度の変わったその部分の隙間から微かに赤色に染まった精液が零れていた。
指でなぞる。そのまま濡れた内部に指を押し込む。
力の抜けたその部分は、やすやすと指を受け入れ、そして呑み込んだ。
掻き回すだけでぐちゅぐちゅと音がする。エドワードはぎゅっとしがみついた。洩れる声音が、耳元で響いた。

「イイね」
「・・・っ、何が・・・っ」

腰を抱えて、軽く上下に揺さぶる。
あ!と悲鳴を上げるエドワードに構わずそのまま上下動を繰り返すと、
一度吐き出した私自身がまた固さを取り戻し、エドワードの内部を圧迫した。

「も・・・、イイだろっ!ばかっ!!」

首を振って、エドワードはいやいやと抵抗する。
イイ?こんなもので?
たった1度だけで、それで私が満足すると?
まじまじと彼の顔を覗き込むと、エドワードは羞恥に真っ赤に染まった顔を逸らし、そのまま肩に顔を埋めた。

「・・・そう、エドワード」
「なんだよ」
「至急、といったのは、他でもない。君にひとつお願いがあってね」
「オネガイ?」

エドワードは胡散臭そうに顔を向ける。
あちこち飛び回る少年に、いろいろと面倒な用事を押し付けたことはよくあった。
だが、いつだってこの少年は素直に承知してくれない。
結局、脅しという形で秘密をばらすとか、弟を研究所送りにするだとか、銀行口座を閉鎖するだとか、
いろいろな手段で彼の手綱を取ってきたわけだけれど。
くすりと笑って、彼の腰を強く掴む。
軽く揺さぶり、緩い快楽を与えてやると、途端に甘く表情が変わった。

「あ、んっ・・・」
「明日から3日間、私に付き合ってくれ」
「・・・は、あっ?!!」

エドワードは、考えも及ばなかったらしい。
そんな、彼にしてみればくだらないことで、至急命令が下されるなんて思ってなかっただろう。
だが、私にとってはこの3日間は重要な意味を持っていた。
そう、今までになく必死になるほど。

「な、何考えてんだ、あんた!そんなことで至急かよ!?」
「悪いかね」
「悪いもなにも・・・、俺たち、今重要な局面を迎えてんだぜ?!折角『石』の情報を持ってる人を見つけて、でもあんたに呼ばれたから仕方なくアルだけあっちに置いて・・・。で、4日帰れないだぁ?!俺で遊ぶのも大概にしろよっ!!」
「ああ、煩いよ」

それはそれは。
運が悪かったね、としかいいようがない。
そうだな、君にしてみれば、賢者の石と私、秤にかけるまでもないのだろう。
だが、ね。

「っ!!」

ぐるりとエドワードの体勢を変えさせて。
内部を擦る楔の感触に、エドワードは嬌声をあげようとした。それを手で塞ぐ。
そのまま、強く腰を打ちつけた。くぐもった声音が、口元から洩れた。指で、唇を割った。あん、と甘い声がひっきりなしに聞こえた。

「あ、あ、大佐ぁ・・・っ」
「では、命令だ、鋼の。4日間、私と共に過ごしてもらおう」
「ん、や、やだ・・・!」
「上官に逆らうとはね。今回ばかりは許さんぞ」

首を振り、抵抗を続けるエドワードの髪を掴み。
そのまま後ろに引き、顎をあげさせた。
淡い色の首筋が、目の前に晒される。きつく、その部分を吸い上げる。
エドワードが悲鳴をあげ、そしてその次の瞬間には、
赤いどころか青痣になったような所有印が刻まれていて、エドワードは羞恥に頬を染めた。
彼の普段の衣服では、その部分は隠せない。

「・・・綺麗だよ、エドワード」
「やっ・・・あ、っ」

その部分に口付け、そして更に腰を打ちつけ。
エドワードはいやだ、と喘ぎながらも、真っ直ぐに前立腺にあたるそれにあっけなくイかされてしまっていた。
結局、君に逃げ場はないのだよ。
観念しなさい、エドワード。

「っとーに・・・、あんた、変だ・・・」

脱力したように、腕に身を預けながら。
エドワードは途切れ途切れに、そう、口にした。
そうだな、確かに。
くすりと笑いが洩れた。
どうかしているな。今回の私は。

「なにか・・・あったのか・・・?」
「ん・・・」

はぐらかすように、キス。

「ただただ流れていく時に不安を覚えたから、・・・かな」
「なんだそりゃ」

顔を顰めるエドワードに、ふふ、と意味深に笑う。
ああ、エドワード。
君にはまだ、わからないだろうな。
だから教えてあげるよ。
どうあがいてみても逃れられない、息の詰まるような絶望を。





to be continued.





Update:2004/09/09/THU by BLUE

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