Jealousy vol.1



「・・・嫁ぇ?!」

顔見知りの意外な言葉に、エドワードは素っ頓狂な声をあげた。
幸い、ここは昼時も過ぎた司令部の食堂。話題の張本人は会議が長引いていて不在。
そのため、報告書提出のために東方司令部を訪れたエドワードは、
いつもの面子に囲まれているわけだった。

「なんでも、バラしたのは大総統だとか」
「そーそー。なんか同棲までしちゃってるらしいんだわ、これが」
「それでも、今だにファンレターの数は減ってませんけどね」
「司令部の中でものすごい噂なんですよ。大佐は何も言っていないんですけど・・・」

「ふ〜〜〜〜〜ん・・・」

口々に言うマスタング大佐の部下達に、エドワードはしかし胡散臭げな目を向けた。
エドワードはロイという男の性格の悪さをよくよく知っている。
まともに会って2日目には弟を人質に脅された。信用ならない男、というのが第一印象だ。
ついでに言うと、プライベートでも男女問わずとにかく遊びまくっているのも知っている。そんなヤツが、嫁?!

「そうだよね、大佐ももう29歳だもんね。結婚したってむしろ当然じゃない?」

そう言うのは根が穏やかなエドワードの弟、鎧姿のアルフォンス。

「馬鹿言え!あんな遊び人、誰か1人に本気になるわけないだろ。結婚なんかしたらそれこそ罪だ、罪!!」
「何妬いてんの、兄さん」
「妬いてねぇっ!!」

ふんっ、とそっぽを向いてむくれる少年に、アルフォンスは内心ため息をついた。
子ども扱いされるのが大嫌いなくせに、こうして素直じゃない兄である。

「ったくよー。こっちとしても、早く身を固めて世の女性を俺たちにも向けさせて欲しーもんだぜ!」
「あ、それは同感ですね」
「でもそう簡単にいきますかね」
「せめてそうでも思わないとやってらんねーーーーーっ!!!」

先日またもやフラれたハボック少尉がおいおいと泣き出した。
頷く面子。相変らずの光景。そして、やっぱりおもしろくないエドワードである。
別にアルフォンスの言うとおり本気で嫉妬しているわけではないのだが、
本当に同棲しているというのが事実ならば非常に困る。
エドワードはイーストシティに立ち寄ると、決まってロイの家の書斎で寝泊りしていた。
何を隠そう、本当に好きなのは、
国家錬金術師であり、大佐という地位にある有能(であるらしい)な男が所有する大量の蔵書!!
一日中、いや、一生居てもいいくらいの、
まさにエドワードのような錬金術師にとっては夢の園、なのである。
そのため、まぁ弟や軍部の皆に多少誤解されようと、
むしろ多少カラダ売ってもいっかなーとすら思ってしまうエドワードであった。
だが、誰かと本気で同棲していては、そう軽々しく自分が男の家に押しかけられないではないか!
一大事である。よく考えたらかなーり一大事だ。

「あ、終わったみたいですね」

フュリー曹長が廊下を仕切るガラス窓に目をやった。
大会議室からぞろぞろと出てくる上官たちの中には、勿論マスタング大佐もいるだろう。
おし、とエドワードは立ち上がった。

「・・・エドワードさん?」
「報告ついでに、真相を確かめてくる。アル、先帰ってていいぜ」
「あ、じゃあボク図書館寄ってくね」
「おー、ガンバレよー大将」
「いい加減身ぃ固めろって言っといてくれよー!」
「あ゛ー、はいはい」

いや、だからそれだとオレが困るわけで。
なんともフクザツな気分を味わいつつ、エドワードはロイ個人の執務室の前に来た。
すぅ、と息を吸い、そして右足を振り上げる。

「・・・くぉら、大佐!!」
「ぶっ!」

バンッというドアを蹴り開けた音ののち、なぜか鈍い音を聞いてエドワードは眉を寄せた。
開けた先に、ロイはいなかった。どうやらまだ戻っていていないらしい。
しかし。
何か嫌な予感がして、エドワードは開け放しのドアの裏を見た。
・・・男が、倒れていた。
青い軍服はまぁ珍しくもなんともない。だが、その顔に見覚えは無かった。
こんな奴、東方司令部にいたっけ、と思いつつ、
自分の不注意で攻撃してしまった金髪の男の身を支える。
男は額をしたたかにぶつけたらしく、手で顔を押さえていた。

「っ悪ィ!!怪我はねぇか?!」
「・・・う、君は・・・」
「俺?俺、エドワード。・・・って知らない?もしかしてアンタ、新入り?」
「あ・・・いや・・・俺は・・・」

男は頭を振り、今の状況を思い出そうとした。
なにやらざわついている。ということは、会議が終わったのだろうか。
そこまで考えて、男は一気に青褪めた。

「・・・・・・やべっ!ロイが来ちまう!!」
「・・・ロイ、だって?!ってめ、まさかっ・・・!!」

エドワードの目がみるみるうちに据わっていく。
軍人でマスタング大佐のことをロイ、と呼べる男など、エドワードは彼の古くからの友人であるヒューズ中佐1人しか知らない。
だというのに、この有名な自分すら知らない新入りらしい彼が、
曲がりなりにも大佐の地位にまで就いているロイを呼び捨てにできるはずもないだろう。
となれば、この男はよりロイという男に近しい存在、ということだ。
そして、このエドワードの読みは当たっていた。
この金髪碧眼の男こそが、あの、ロイの家に居候しているムウ・ラ・フラガという男であった。
何より、大佐の私室に勝手に入るなど、まず普通の軍人には考えられない。

「ちょ・・・ごめん!俺、行かな・・・っ!?」

逃げ出そうとしたフラガを、しかしエドワードはその足を捕らえて再度床に押し倒した。
ついでに手を伸ばして開け放しのドアを閉める。
ばたり、と音がして、次の瞬間には広い部屋が外の喧騒から切り離された。

「なっ、何だよ・・・?」
「な、あんたが大佐の嫁ってほんとなのか?」
「はぁ?!!」

みるみるフラガの顔が朱に染まっていった。
羞恥と、焦り。それに、憤りも含まれていた。だから誰がそんなデマを流したんだよ?!
だが、あまりの唐突さに否定の言葉がうまく出てこない。

「ち、違・・・っ」
「うわ、ほんとに図星?ちくしょー大佐の野郎・・・誰彼構わず口説きやがってぇえええーーー!!」

しっかり嫉妬している暴れ豆である。
エドワードはひとしきり天に向かって叫んだ後、ずいっと自分が乗り上げている青年に顔を近づけた。
何がなんだかわかっていないフラガは、ただただ驚くばかり。
自分の顔を間近で覗き込まれ、知らず羞恥に血がのぼる。

「・・・ふ〜ん・・・」
「な、何・・・っう・・・!?」

次の瞬間、フラガの頭が真っ白に染まった。
エドワードはしばらく青年を品定めするように覗き込んでいたが、
いきなりニッ、と口元を歪ませたかと思うとその唇を塞いでしまったのだ。
フラガにとっては大変な災難である。
ついこの間はむちゃくちゃ年上のオッサンにも似たようなことをされた気がする。
不意打ちに動けないのをいいことに、
エドワードはその肩を掴んだまま、ひとしきりフラガの口内を味わっていた。
ただ唇を奪われるどころか、舌を入れられ、絡め取られる。
さすがに我に返って少年の胸を押し返すと、エドワードはまたしても意地の悪い笑みを青年に向けた。

「っ、なにす・・・っ」
「あんたが嫁、ってことはさ・・・・・・」

フラガの睨みつける視線も意に介せず、エドワードは男の腕を掴むと床に押し付けた。
無論、フラガは抵抗した。だが、小柄な少年にしては乗り上げる彼はものすごく重かった。
もちろんその理由は片手片足が機械鎧であるからなのだが、
今のフラガにはそんなことはわからないし、例えわかったとしても意味がないだろう。
それに圧し掛かられ、両腕を押さえられ、まさにフラガは絶対絶命の状況だった。

「・・・っ」
「あんたが抱かれてる側・・・ってことだよな・・・?」
「っ、ば、馬鹿にするのも、いい加減に・・・っ!」

初対面の、しかも一回り以上年下であろう子供に、
たとえ不意打ちとはいえ組み伏せられているなんてかなり屈辱的だ。
やっと驚きよりも怒りがこみ上げてきたフラガは、首筋に顔を埋めてくる少年の肩を必死に押し戻した。
なんでこんな状況になってるんだ?!冗談じゃない!!

「っ冗談はよすんだ!!君みたいな小さな子供が・・・、っ?!!」

怒りのままに叫び少年を突き飛ばそうとしたフラガは、
しかしいきなり襟首を掴まれ息を詰めた。
少年を見やると、彼は沈黙したままうつむいていた。
先ほどまでの空気とは一変し、重苦しいものに変わる。だがその正体をフラガが知る由もなかった。

「・・・言ったな・・・・・・」
「へ・・・?!」

そう、フラガは少年の前で言ってはならぬことを口走ってしまったのだ。
なにやらアヤシイ空気に気持ち後辞去るフラガの前で、
少年は喉の奥で悪魔のような笑い声を洩らした。
そして次第にその笑い声は大きくなり、本気でフラガが恐怖を覚えたとき。

「っ上等だぜ!!俺がホントにちっさいかどーか、確かめてもらおうじゃねえかあああ!!!!」

叫び声と共にその腕を強く掴まれ、無理矢理執務室から引っ張り出された。
少年が向かった先は仮眠室。
佐官用・・・もといロイ専用のその個室に、エドワードはフラガを引き摺っていった。
たかが15歳の少年が大の大人のフラガを引き摺っていけるのは、
無論その怒り故の馬鹿力に他ならない。
さすがのフラガも抵抗できないまま少年に流されていた。

「っあ、おいっ、やめろおおおおお〜〜〜!!!」

恥も外聞もなく叫び声もあげたが、さして距離のない廊下ではそれもむなしく。
ばたん、と音がしてドアが開き、かと思うと部屋の中にフラガは押し込まれていた。
後ろ手に鍵をかける少年に、フラガは本気で青褪める。
なぜなら、こんな狭い、ベッドだけの部屋に少年と2人切り。
しかも、なぜかはわからないがその怒りに任せて彼は自分を犯すつもりなのだ。
これで冷静でいろというほうがおかしい。
フラガは一旦はベッドに転がされたものの、逃げ出そうとその身を起こした。

「っ、冗談じゃねぇ!!なんでこうなるんだよ?!!」

もはや誰に言っているのかもわからない。
だがいまだ入り口の前に立っていたエドワードは、
そんなフラガににやりと笑うと、パン、と手を合わせた。
次の瞬間、

「おぅわ!!」

薄暗く、狭い部屋に光が満ち、フラガは面食らった。
それでなくとも錬金術など初めて見たのである。ひるむのも致し方ないだろう。
だが、それが彼の運命を決してしまった。
エドワードの錬成によって、ベッドの上のシーツがうねった。
生き物のように伸びたそれが、フラガの両手両足に絡みつく。
逃げようとしたフラガを捕らえたそれは、そのままエドワードの意思に従って青年をベッドの上に押し付けた。
もはやフラガに抵抗する術はない。

「っ、な・・・!」
「へっへー。」

意地の悪い笑みを顔に張り付かせたまま、エドワードはフラガの上に乗り上げた。
フラガは身動きが取れなかった。ただ自分の上に乗り上げる少年を、恐怖と共に見上げる。

「ほ、本気かよ・・・?」
「決まってんじゃん。まったく大人のくせに往生際が悪いねぇ」

ガキに言われたくないよ、ガキに!!!!
と叫べたのは心の中だけで。
唇をねっとりと舌でなぞられ、肌が粟立った。
その間に、エドワードは手を伸ばし、その下肢を探った。
もちろんフラガのそこはまだ熱を帯びてはいなかった。だが、少年がぐいぐいと膝でそこを刺激してくる。
本来ならばこんな、初対面の人間に、ましてや少年に!など、
反応するはずもなかったフラガだが、
最近本当に好きな男以外にも身体を開かされることがしょっちゅうだったため、
免疫がついてしまったのか、
それとも、自分でも知らなかった誰彼にも反応する淫乱癖が目覚めてしまったのか・・・
いや、理由はともあれ、少年に反応するなんて!!
フラガはかなり自己嫌悪に陥っていた。それ以前に、こんな状況を作ってしまった自分が恨めしかった。
そんなことを考えている間に、下肢の衣服がすべて剥ぎ取られ、
少年にその部分を晒す羽目になっていた。
少年はにやにやと笑っていた。
手を伸ばし、下肢の奥に手を触れる。フラガは息を詰める。

「さーて、お待ちかねのホンバン。アイツの嫁ってんなら、やっぱデッカイのが好みなんだろ?」
「っ・・・」

ああ、もう、こうなったらヤケだ。

「へっ・・・それで、どうやって楽しませてくれるって?」

口の端を歪ませて、挑戦するように少年を睨んでやった。
少年ごときに焦る自分のほうが情けなかった。これはやせ我慢でもなんでも耐えてやる。
そして、小さな少年の小さな○○○(爆死)を哂ってやるのだ。
顔を引きつらせて硬い笑みを作るフラガに、
しかし少年は意に介せず意地の悪い笑みを浮かべるばかり。

「心配すんなよ。アイツよりイイ思いさせてやるぜー・・・っと!」
「・・・?!!」

そういうと、エドワードは右手の手袋を外した。
初めて見る機械鎧。その腕にフラガは内心息を呑む。だが、本当の恐怖はその後にやってきた。
エドワードは両手を再度打ち鳴らした。
フラガの目の前でみるみるうちに変形していく鋼の右腕。
そしてその先には―――・・・

「ちょっ・・・まっ・・・まさか、ソレで・・・」
「イイだろ?ヨくしてやるぜーーぇ」
「い・・・や、やめろぉぉぉーーーーーー!!!!!!!」

フラガ、撃沈。















エドワードとフラガが執務室を去ってから数刻後。
会議から戻ってきたロイは、なにやら部屋・・・特に執務机のあたりが少々乱雑になっているのに首を傾げた。
ぱっと見にはあまり違いはないのだが、いまいち自分が整理していたものとは違うような気がする。
だが、別に盗まれて困る重要書類はそう簡単に見つかる場所にも置いていないし、無くなってもいない。
不可思議なことに頭を悩ませつつも、ロイはデスクに座り書類を片付けていた。
いつもなにかと世話になっている中尉は今日は昼上がりだ。
そのため、明日までに、と睨みを効かせて渡された書類はデスクの上に山のように積まれている。
サボりたいのは山々だが、そもそもここまで溜め込んだのは自分で、
後が無くなった書類ばかりなのも自分のせいなのだ。
はぁぁ〜と重いため息をつきつつ、ロイは次の書類に手を伸ばした。
その時、
さっと伸ばした手の甲に影がかかった。
窓を背にした、影などかかるわけもない位置の手に影がかかる。その違和感に、ロイは顔を顰めた。
まったく勘弁してくれ、と思う。
そもそも、よりによってどうしてこんな忙しい時に限って来るんだか。
どうせなら暇なときとか・・・ならまだいいのに。

「・・・閣下。せめて仕事中は邪魔しに来ないでください・・・・・・」
「ちょっと急を要するのでな」
「は、あ・・・?・・・あ、クルーゼ?!!」

てっきりブラッドレイだと思っていたロイは、予想に反する声に慌てて顔をあげた。
壁際に寄りかかっていたのはラウ・ル・クルーゼ。もう1人のロイの家の居候人だった。
ちょっと待て、なんでここにいるんだ。
しかも、そもそもロイのいる司令官室は司令部の敷地の裏側に面している。
真正面から堂々と面会を求めてきたわけでもあるまい。
となると、敷地内に無理矢理侵入してきたというのか、この男は。

「・・・不法侵入で捕まえるぞ」
「そんなことより、ムウを知らないか?」
「ムウ?」

唐突なクルーゼの問いに、ロイは首を傾げた。
そもそも今はまだフラガもクルーゼも仕事をしておらず、ただの間借り男であった。
だから、基本的に家のことは2人に任せ、自分はそれなりに安心して仕事ができているわけだったが、
そのフラガを知らないか、というのはわけがわからない。

「いなくなったのか?」
「・・・そのようだ。勝手に買い物にいったのかと思ったんだが、そうではないみたいだしな。」
「おいおい、人の家で痴話喧嘩はやめてくれ」
「そんなのじゃない。昼過ぎに忽然といなくなったんだ」
「そう言われてもな・・・。なんで私が知っているかと思うんだ。今日は軍議と、山ほどの書類に追われていると知ってるだろう・・・」

デスクの上の山ほどの書類を示す。
見るたびにため息が洩れてしまう。そもそも中身的には全然急ぎじゃないと思うのだが、
どうして締め切りが明日に迫っているのか。
間違っている。絶対間違ってる。
再度重いため息をつくロイに、だがクルーゼは構わず続けた。

「昨日のやりとりを覚えているか?」
「昨日・・・ああ、閣下が冗談半分に軍に入れてやるって言ってた話か?」

ロイは顔を顰めながらそう言った。
そう、昨晩、いまだに自分の家に泊まっているブラッドレイが、唐突にフラガを軍に入れたいなーといっていたのだ。
当然、クルーゼとロイは青褪めた。
理由は言わずもがな。
軍になど入れたら、それこそブラッドレイの思い通りにされてしまうではないか。
せめてロイの管轄ならばまだいい。
だが、ブラッドレイは、フラガが軍に入ったなら絶対自分の近くにおいてしまうだろう。
そこまでフラガの身柄を預けるのはさすがに心配だ。
そして、もう一つの理由。
それはなにかというと。

「・・・さすがに、似合いそうもないしな・・・軍服・・・」

そう、何を隠そう、フラガの軍入隊話は、彼の軍服コスプレから始まったのであった。
あまりの格好悪さに、はっきり言って2人とも閉口した。
いや、見慣れないせいもあるだろうが・・・
やっぱり変だ。いや、爆笑だ。

「そうなんだが・・・。あの話、満更でもなかったらしいぞ」
「は?」
「つまり・・・実は軍に入りたかったらしい・・・」
「・・・本気か?」

クルーゼは眉間に皺を寄せたまま頷いた。
確かに、家で大人しく家事をしているような男でないことは承知していた。
元々軍人だったこともあり、ばりばりと活動したほうが彼らしいといえば彼らしいだろう。
だが、まさか本気でこの世界の国軍に入りたかったとはかなりオドロキである。

「ということは、・・・まさか・・・」

昨晩のブラッドレイは、冗談半分に(酔っ払ったせいもあるだろう)、
入隊テストは『マスタングの執務室に侵入し、大事なものを奪って彼を困らせる』などといっていたのだ。
そんなわけのわからない入隊テスト、あるわけなかろうと思うのだが、
いかんせんこのおちゃらけた大総統閣下は、世の中楽しければなんでもいいらしい。
そんなことを思い出し、ロイは再度違和感を感じていた執務机を見やった。
・・・確かに、自分が置いたはずの位置がズレているものや、
移動しているものがある。
・・・これは、やはりフラガのせいなのだろうか。
だが、だとしたら、
あんな酔っ払いの言葉を信じるフラガもフラガだと思うのだが・・・。

「やっぱり・・・いるのか・・・?ココに・・・」
「・・・そう見ていいんじゃないか・・・?」

2人はほぼ同時にため息をついた。
なかなかフラガのお守も大変である。

さて、どうしようか、と書類も忘れてロイが腕を組んだとき、
丁度ドアが叩かれた。
一瞬クルーゼをどうしようかと焦ったが、まぁ自分がよしとして室内に入れている者に、
いきなり不法侵入と文句を言う者もいないだろう。
入ってきたのは、フュリー曹長だった。
案の定ちらりとクルーゼのほうを見たが、上司が何も言わないのならよいのだろう、気にせず手にした書類をロイに渡した。

「大佐・・・こちらにいらしたんですか」
「ああ。・・・どうした?」
「いえ、大佐の仮眠室の鍵が閉まっていたもので。てっきりお休みになられたのかと」

(エドワードさんも来てるし)とはフュリーの心の声である。

「仮眠室・・・?」

こちらも不可解な出来事に、ロイとクルーゼは顔を見合わせた。
普段ロイ専用となっている高官用の仮眠室が、そもそもロイ以外が勝手に使えるものではない。
だが、例外もいた。それがエドワードであり、大総統である。
大総統は正式にロイの上官であるから、仮眠室を使ってもおかしくはない。
エドワードに至っては、これはロイが勝手に使っていいと合鍵を渡しているので、
彼が司令部にいるときはよく使っているのだが。
しかしまぁ、エドワードなわけはないだろう。彼が戻ってきたという報告は受けていない。
・・・ということは。
そこまで考えて、ロイは顔を顰めた。
と同時に、クルーゼもまたロイの顔をみた。その眉間にはますます皺が寄っていた。
2人ほぼ同時に、同じ答えにたどり着いたようである。

「・・・か、閣下・・・」
「・・・きっと、奴もそこか・・・」

2人はまたもや同時に大きなため息をついた。
全く、大総統の身勝手な行動もいい加減にしてもらいたいものだ。
しかし、フラガもフラガだとは思うが・・・。

「ああ、フュリー曹長、ご苦労。それと、仮眠室はおそらく閣下だ。そっとして置くように」
「はい、わかりました」

フュリーが退出する。
それから2人は、部屋を出ると高官用の仮眠室へと向かった。
だが、彼らが向かった先には想像した以上の衝撃が待ち受けていることなど、
今の彼らには知る由もなかったのである。





to be continued.





Jealousy? vol.2




Update:2004/10/08/FRI by BLUE

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