Jealousy vol.2



「っあ、あ・・・・・・やめ・・・っ!」

狭い室内に、高い嬌声が響いていた。
悲鳴に近い、だが時折その声音に甘さを滲ませる男の名は、ムウ・ラ・フラガという。
ベッドに顔を押し付け、その手足を拘束されたままの彼は、
屈辱的なことに一回り以上も年下の少年によって組み敷かれ、犯されていた。
エドワード・エルリック。
弱冠12歳にして国家資格を取得した天才錬金術師である。

「・・・っあ・・・、い、ああ―――っ!!」

ひときわ高い嬌声をあげ、フラガは幾度目かの精を放った。
唇を噛み締める。シーツを噛む指を強く握り締めたが、受けた屈辱は収まらない。
それどころか、立て続けに身体を襲う強烈な刺激に、意識すら飛びそうになる。
フラガは首を捻ると、悔しそうに自分の後ろを見やった。

「っ・・・あ、も、やめ・・・!」

フラガの後孔に、恐ろしいほどの大きさをもった男性器の張り型が挿し込まれていた。
鋼でできたそれは、ものすごい硬さをもって青年の奥を刺激する。
達したばかりのフラガの身体を、またもや激しい衝撃が襲った。
彼の奥を好き勝手に蹂躙している少年は、
しかしフラガの切実な懇願にもにやにやと笑うばかり。

「どうよ、これ・・・すげーイイだろ?」
「っ、なわけな・・・ああ!!」

またもや入り口まで引き抜かれ、再び奥まで犯される。
フラガは仰け反って嬌声をあげた。羞恥に顔が真っ赤に染まる。
悔しさに少年を睨む。だが、快楽に潤んだ瞳は常に少年の熱を煽るだけで、なんの力もなかった。
エドワードは空いている方の手をフラガの前に伸ばした。

「・・・んなにしてんのに?」
「・・・!!ああ、も、や・・・あっ・・・!」

青年のそこは、つい先ほど達したにも関わらず、すぐに頭をもたげ、蜜を溢れさせていた。
エドワードは指先で先端を軽く弾く。それから焦らすように体液を指に絡ませ、砲身に塗りたくる。
フラガの張り詰めたその部分は、何より彼が感じていることをしっかりと証明していた。
フラガはそんな反応が嫌で嫌でたまらない。
だが、彼にはどうすることもできない。両腕を拘束され、両足を拘束され、
情けないことだが少年のいいようにされているだけ。

「あ・・・もう、やめ・・・」
「やだね。素直にならないと許してやんない」

からかうような口調で少年はそう言い、再び奥を突き上げる。
もちろんフラガは嬌声をもらした。身体がどうにかなってしまいそうな衝撃に、
声を上げずにはいられない。
人間味の全くない、熱すらもたない硬い金属に犯されるなんてこの上ない屈辱であったが、
今更どんな理由をつけようとどうしようもない。
事実、今まさに、
フラガはエドワードが錬成したそれに犯され、啼かされているのだから。

「っ、う・・・」
「ほら、言ってみろよ、イイってさ」
「・・・っ、誰が・・・!!」

喘ぐ青年の顎を取り、耳元で囁く。だが、一向にフラガは感じていることを認めようとしない。
素直に頷かない青年にエドワードはやれやれ、とため息をついた。
まったく、強情な男だ。
こんなに喘ぎ声を上げていて、まだ足りないというのか。
だが、フラガにしてみればたまったものではない。
いきなり現れた、年端もいかないような少年にいいように扱われ、
しかもそれに感じていることを認めろ、などと、
馬鹿げている。悪夢だ。サイテーだ。

「っ・・・いい、加減に、しろっ・・・!」
「ったく強情だなー。ま、別にいいけどね?アンタが痛いだけだし」
「っな・・・あっ!」

ジ、とファスナーを下ろす音。そして次の瞬間、下肢にあたるぬるついた感触に、
フラガの肌が粟立った。
あてがわれた熱は、少年のそれだと考えなくともわかる。
だが、彼の後孔には今だあの太い張り型が突き立てられていた。
たとえ少年自身がポーク○ッツ程度のちんくしゃだろうと、入る隙間などどこにもないだろう。
さすがのフラガも青褪めた。

「・・・っちょ、オイ・・・冗談は・・・」
「だーかーらー、冗談じゃないっての」

事も無げに少年はそう言った。逃げようとするフラガの腰を掴み、強く引き寄せる。
ごくごく狭いその部分に、エドワードはかなり強引に侵入していった。
青年の予想以上に割り込んでくるそれは大きく、
あのとき一瞬でも彼を挑発してしまったことを今更ながらフラガは後悔していた。

「・・・っい・・・!無、理だって、裂け・・・!」

あまりの苦痛にフラガは半泣きになって訴えた。
だが、少年は行為をやめようとするどころか、
いっそ裂いてしまえというくらいの勢いで彼の奥を犯し始めた。
鋼の塊を押し込んだその部分が、更に強く圧迫され、悲鳴をあげている。
痛みと恐怖と後悔が彼の胸の内でせめぎ合い、フラガの目尻からは涙が零れていた。

「あ、い・・・!やめ、おねが・・・!」
「強情なアンタが悪ィ・・・。それに、俺にもイイ思いさせろって!」
「!!・・・っああ!!」

言葉と共に強く腰を打ち付けられ、フラガは仰け反った。
その拍子に少年のそれが青年の内部に押し込まれた。熱い内部の感触にエドワードは吐息を洩らす。
若いからだは快楽を求めて更に質量を増し、フラガの中を圧迫した。
フラガは信じられない思いで後ろを見つめていた。
多少の違いはあれど、自分の秘部に男性器が2本、突き立てられているのだ。
彼の内部は真っ赤な色を覗かせ、少年を興奮させた。

「・・・っ・・・やべ、すげっ・・・イイ・・・」
「っ、やめ・・・!も、離せ・・・っ!!」

泣き喚くフラガをそのままに、何度も自身を滑らせる。
あれほどキツく、2本など到底入らないと思われた彼のその部分は、
今では容易にそれらを受け入れ、少年が動かす度に卑猥な水音まで響かせる。
そんな自身の反応に、フラガはたまらなく羞恥を感じたが、
それ以上に今まで感じたことのなかった快感に戸惑い、そして嬌声をあげるしかなかった。
奥を貫いた2本の肉棒。それを交互に抜かれては、また突き上げられる。
そして時折、同時に奥を犯され。内壁を擦られる感覚が、よすぎてたまらない。
何度もそんな行為を続けていると、
いつしかフラガは抵抗も忘れ、甘い声しかあげられなくなっていた。
エドワードはそんなフラガにごくりと喉を鳴らした。

当初、エドワードがフラガを抱いたのは、
彼を嫁として受け入れたらしいロイへの腹いせに、彼の大切なものをちょっとばかし苛めてやろうという気持ちがあったからだった。
なぜなら、まぁ目的のために放浪の旅を続けてはいても、
これでもエドワードは4年の歳月をロイと共に過ごしてきたのだ。彼はエドワードにとっては後見人であったが、けれど実際それだけの関係でもない。
だからといって、直接に互いを縛れるほどの深い関係でもなかった。だからこそエドワードは旅に出られるし、ロイもまた気の向くままの生活を続けている。
そのため、本当はエドワードには彼の行動に口を挟むどころか、腹を立てる筋合いもないはずだった。
だが、そう感情が理性通りに行くわけもない。
なんと言われようと、不機嫌になるものはなるのだから仕方がないのだ。
けれど、そんな理由で抱いたはずのこの青年を、
しかし気づけは自分の欲の赴くままに、激しく貪ってしまっていた。
それだけ、彼には魅力があったのだ。
その声も、身体も、
それだけで自身が熱を持ち、冷静ではいられなくなるほどに。
その証拠に、
どれだけ彼が啼こうとも、もう彼を手放せない。
彼を貪りたくて、身体が疼いている。

「すっげ・・・イイぜ、アンタ・・・。な、あんたもイイだろ?」

息を乱したまま囁くエドワードに、フラガはこくこくと頷いた。
すでに理性など吹き飛んでいた。もはやたかだ15の子供に犯されていることなど、
フラガの頭にはない。
下肢から疼く熱に、自ら腰を動かすフラガを見下ろすエドワードは、
こちらも上気した顔に満足げな笑みを浮かべていた。

「な、オレ、もう限界。中に出していい?」
「え・・・っあ、だ、だめ、だ・・・っ!!!」

少年の、一見無邪気な、しかし恐ろしい言葉にフラガは必死に首を振った。
だが、少年は一向にフラガの中から出ようとしなかった。
それどころか、自身をより高めるために、少々性急に腰を打ち付けてくる。フラガは焦ったように身を捩った。
犯されているという事実だけでも屈辱的なのに、その上中だしなんてされたら。
もう、サイテーだ。死んでしまいたいくらい。
それに何より、どんな顔をしてクルーゼやロイに会えばいいのだ。
彼らに隠れて、この司令部に侵入した。
ただ単にロイを驚かせるためにこんなことを始めたわけだが、
思わぬ事態にフラガは出くわしてしまった。
これがばれたらなんと言われるか。
考えただけでも恐ろしい。

「・・・っ、だから、やめ・・・!」
「大丈夫だって。後始末はしてやるからよ」
「っそういう問題じゃない!!いい加減、やめ・・・」
「もう、アンタうるさいよ」

うざったそうなエドワードの口調を聞いたと思った途端、
ぐいっと顎を捻られ、フラガは息をつめた。
その次の瞬間、濡れた感触が唇に触れる。少年は彼の煩い口を塞ごうと、唇を重ねてきた。
ねっとりと口内を嬲られ、フラガはもちろん抵抗するように顔を顰めたが、
両手両足も自由にならないままの彼にはどうしようもないことは目に見えている。
それどころか、少年の手がフラガの前を嬲った。
ちゅくちゅくと液体が弾ける音に、再びフラガの頬が真っ赤に染まる。

「あ、や、だ・・・っ!」
「なに、もしかしてロイのこと、気にしてんの?」
「っ・・・」

それ以前に、一回り以上年下の少年に犯されるなんて嫌に決まってるだろう、と思うのだが。
確かに、エドワードの指摘通り、フラガは気にしていた。
もちろん、ロイだけでなく、いやむしろクルーゼに対してである。
ロイはまだいい。そもそも彼自身好き勝手に遊んでいる男だ。自分が多少他人と交わりを持ったとて、大したことでは動じない。
だが問題はクルーゼだ。
なにげにクールでフラガを放り出す癖のある彼だが、
その内心はどうやら違うらしい。
以前ブラッドレイにフラガが奪われたとき、彼が居る前では確かにそれを容認する態度を示していたはずのクルーゼが、
その後ロイとブラッドレイが仕事で彼ら2人だけになったとき、
容赦なくフラガを責め立てたのである。
いや、というより、何かと理由をつけては仕置きのような酷い行為を強いてくるクルーゼは、
なにか確信犯的な気もするのだが・・・・・・。
まぁ、彼の内心がどうにせよ、
被害を被るのは自分であって、そんな状況は極力避けたい。
だが、今更この状況をどうせよというのだ。
どうにかして、クルーゼに知られないようにしなければ、と必死に考えるフラガに、
エドワードは言った。

「アンタって健気だなー。あんな奴に操立ててたっていいことないぜ?」

そういう問題じゃねぇ!!
というフラガの心の叫びは、勿論少年には届かない。
そもそももう3人にとっかえひっかえ抱かれているのだ。貞操もなにもあったものじゃない、とフラガは思う。
ああ、男のくせに、なんと情けない話だ。
そして、今まさに、またもや犯された相手が増えてしまったのだ。
不幸だ。本当に不幸すぎる。
けれど、情けなくも身体は快楽に酔い、溺れてしまっている。
今更、どうせよというのだろう。
少年が緩く手を動かすだけで、張り詰めたそれがさらに質量を増した。

「それに、こんなにカラダ、飢えてるし・・・」
「・・・っ!!」

これだけは首を振って反対した。
冗談じゃない、昨日だって散々3人にヤられてくたくただ。
そもそも今日の朝何時に起きたと思っているんだ。
それでなくとも腰が痛いのに。いや、それはいつものことではあったが。

「く、くそっ・・・!覚えてろ・・・!」
「へいへい。・・・ほら、一緒にイこうぜ」
「・・・っ、あ・・・!」

強く奥を突き上げられると同時に、疼く前を擦られ、
その絶妙なタイミングにフラガはいとも簡単に登り詰めさせられた。
内部を擦るたびに、激しい快楽の波が彼を襲う。もはや耐えることなど不可能だ。なんども流されそうになる。悔しながらシーツを握り締め、絶頂の瞬間を心待ちにする。
エドワードの吐息が荒くなり、耳元に響いた。
絶頂が、すぐ目の前だった。
カラダが、痺れる。指先まですべての感覚がおかしくなり、頭が真っ白に染まる。

「っ、あ、ああ・・・!!」
「・・・っ」

だが、その瞬間。

『・・・閣下!!ですから勤務中に・・・っ!!』

ガチャガチャ

「「っな??!!」」

ばんっ!!とものすごい音が響き渡り、2人はその格好のまま硬直した。
そして、硬直したのは入ってきた人物も同じく。

「・・・か、・・・は、鋼の?!!」
「・・・た、大佐・・・」

ドアが全開し、その先には見覚えのある姿があった。
青い軍服、黒い髪。いわずもがなの、東方司令部司令官、ロイ・マスタング大佐である。
だが、もう1人、彼の後ろに男の姿を認め、フラガはこれ以上ないほど青褪めた。
そう、一番フラガにとって恐ろしい存在が、そこに立っていたのだ。

「・・・く、クルーゼ・・・」

ラウ・ル・クルーゼ。
そう、彼こそが正真正銘の、フラガの所有者(爆死)だった。
フラガは内心頭を抱えた。
どうして一番知られたくない者に、こうも現行犯でバレてしまうのか。
いや、そもそもクルーゼがこんな場所にいること自体おかしいのだが、
もはやフラガの頭は混乱し、まともな思考ができていない。
硬直した格好のまま、フラガは顔を引きつらせた。
そうして、顔を引きつらせたのはエドワードも同じく。

「・・・エドワード・・・」
「な、何?」

普段よりかなり低まった声に、エドワードは内心冷や汗をかいた。
それにしても、最悪な瞬間にバレてしまったものだ。どう取り繕うかと考えているうちに、
うつむいている男の拳が怒りに震えているのに気付いた。その手には錬成陣の描かれた発火布。
やば、と思った時にはもう既に遅く。
ロイの右手が宙を掻いた。

「―――っ」
「・・・の馬鹿者!!頭冷やして出直して来い!!」
「・・・っぎゃあああああああ!!!」

その瞬間、司令部の一角が、火を吹いた。
爆風で弾き飛ばされ、見事に外の池へとダイビングするハメになるエドワード。
そして、部屋に取り残されたフラガに、クルーゼが向かった。

「さぁムウ・・・どうしてこんなことをしているのか教えてもらうぞ・・・」
「え・・・い、いや、これは、その・・・!」

クルーゼに詰め寄られ、フラガは反射的に身を引いた。
ロイの炎によって自由を得た彼の両手首を、
再びクルーゼが拘束する。
怯えたように男を見上げたフラガは、
彼の瞳に怒りと、そしてそれ以上の情欲が燃え盛っているのを認め、またもや青褪めた。
他人に抱かれていたとはいえ、
涙に濡れ、真っ赤に紅潮した頬や、今まさに達さんというような状況の彼を目の前にしてしまったのである。
クルーゼの熱が一気に沸点に達するのも無理ないだろう。
さきほどの男のそれを2本呑み込んだ光景が脳裏に蘇り、クルーゼは知らず唇を舐めた。
だが、今のフラガがそれを素直に受け取れるわけもない。

「っあ、やめ・・・!」
「我々の知らないところで愉しんでいた仕置きをせねばな・・・」
「っ、愉しんでなんか・・・ああっ!!」

逃げようとしたフラガの足を、今度はロイが掴んだ。
高く腰を上げさせ、そこにクルーゼが自身をを押し込む。
フラガは恐ろしく猛ったそれを意識し頬を染めたが、更に横から割り開かれる感触を覚え息を呑んだ。

「・・・っちょ・・・!オイ、無理・・・!!」

クルーゼの隙間から、ロイのそれが入り込んできた。
申し訳ないが先ほど受けた2本責めよりもひどく内部を圧迫してきた。
しかも、こちらは生身が2本。
あまりの熱さに、頭がおかしくなりそうだ。
いや、それ以前に、苦しすぎる。
散々嬲られ、カラダもそれなりに慣れているフラガだが、さすがにこれはキツすぎる。あまりの苦痛に涙が止まらない。

「あっ、あ・・・!も、やめ・・・っ!!」

だが、頭では拒絶しているにも関わらず、身体は快感を訴えて小刻みに震えていた。
2人のそれが内壁を交互に擦るたびに、洩れる声が抑えられない。
苦痛で仕方ないのに、強烈な快楽が思考を埋め尽くしていく。

「・・・っ・・・あ、あんっ・・・」
「イイ顔だな」

クルーゼが手を伸ばし、彼の顎を取った。そのまま、涙を唇で掬い、そのまま口付ける。
慣れた男のキスにやっと緊張を解かれ力が抜けたとき、
ロイはその手でフラガ自身を扱き始めた。びくりと身体が震え、男2人を受け入れたその部分が収縮する。
熱く絡みつく内部の感触に、クルーゼとロイは息を乱した。
こちらもまた、新たな快感に興奮がおさまらない。

「もう・・・っ、あ、やだ・・・」
「ああ・・・、わかっているよ」

ロイの手が、一層激しさを増す。きゅっと扱かれ、フラガの身体が仰け反った。
そのまま、彼の手の中に本日何度目かの白濁を放ったフラガは、そのままベッドに沈んでしまった。
熱の解放に、彼らを受け入れた場所が、2人をぎゅうぎゅうと締め付ける。

「っ・・・も、私も・・・そろそろだ・・・」
「ああ・・・そうだな」

汗を額に滲ませ、2人はガツガツとフラガの後孔を貪った。
もはやフラガは放心状態。ベッドにうつぶせ、甘い声しか出せない状態だ。
それからしばらくの間2人に付き合わされたフラガは、ぼんやりと今日の出来事を思い出していた。
オレ、ここに何しにきたんだっけ・・・・・・
だが、答えを見つける前に、彼はその意識を失ってしまっていた。
本当に本当に、フラガには災難な1日だったのである。















「・・・全く、なんて奴だ!!」

フン、とずぶ濡れの身体のままそっぽを向くエドワードに、
ロイは憤慨していた。
機械鎧の身体で水の中はタブーだ。その重さで泳げるはずもないからである。
結局、あの後ロイに助けられ、こうして尋問を受けているわけだが、
エドワードは不貞腐れたように頬を膨らませた。
ちなみに、ここは再びロイ個人の執務室で、
中にはロイとクルーゼとエドワードと、そして意識を飛ばされたままのフラガの4人だけである。

「っあんたが悪ィーんだろ」
「なんで私が!」
「・・・オレの勝手に嫁なんか取ってさ・・・」
「くだらん噂を真に受けるな!だから嫁じゃないといってるだろうが・・・」

ああもう。
ロイは頭を抱えた。
大総統の遊び半分の言葉が、これほどにまで広まり、被害を及ぼすとは考えもしなかった。
これでは一度、きちんと彼に言わねば気がすまない。

「エドワード君・・・といったかな。それで、君はマスタングとどういう関係なんだね」
「居候人だ!!」
「ほう」
「・・・嘘も大概にしろ。月に1日もいないくせに」
「居るときは長いだろ!!・・・ったく、今回だってぜってー読みたい本があったのに・・・・・・」

ロイとエドワードのやり取りを見ながら、ふむ、とクルーゼは考えた。
要するに、この少年はロイの家に押しかけられなくなるのが悔しくて、腹いせにフラガを抱いたらしい。
ならば、今ロイの家には自分たちも含めて3人もいるのだ、
今更あと1人増えてもさして問題あるまい。
勿論、フラガは嫌がるかもしれないが、下手にこんな風に奪われるよりはマシというものではないか。

「別に構わないぞ。奴が否定したとおり、新婚生活を送っているわけでもないしな」
「ほんと?じゃあオレも行って平気?」

クルーゼの言葉に、エドワードは目を輝かせて彼を見上げた。
こういうところは素直に15歳である。なかなか可愛らしいとか思いつつ、クルーゼは頷く。

「ああ、ただし、家のルールは守ってもらうぞ。『フラガの一番は私』なんでね」

・・・何気に自己主張するクルーゼであった。

「なーんだ。じゃあ大佐の家にいるから間違われただけなんだな。悪ィ、勘違いしちまった」
「わかればいいさ。なに、1人くらい増えたところであの家なら問題ない。よし、今夜はパーティだな」
「勝手に決めるな!!というかクルーゼ!何家主のような発言してるんだ!!」

2人の会話にやっとのことで割り入ったロイだったが、
何気に一致団結したらしい2人に冷めた目を向けられ引っ込まざるを得なくなってしまう。

「今仕切っているのは私だろう。ふらふら出歩いているのはどこのどいつだ?」
「くっ・・・」
「まったくなー。大佐もいい加減身ィ固めねーと、ハゲ期に突入すっぜー」

エドワードのイタイ軽口に、ロイはキレた。

「・・・貴様・・・また燃やされたいのか?」
「やるか?上等だぜ!!今度こそオレが勝ってやる!!覚悟しろぃ!!」

エドワードはパンッと両手を合わせた。彼お得意の錬成陣なしの錬成である。
そしてロイもまた、発火布を右手に装着した。空気に手を伸ばす。指を弾く。火花が宙に散る。
錬成のエネルギーが部屋中に満ちた、まさにその時。

ばたーん

「首尾はどうだね、マスタング君!!」
「「?!!」」

いきなりドアが開かれ、部屋にいた皆は驚きに動きを止めた。
ものすごい音を立てて入ってきた人物は、・・・もう言わずもがなであろう。

「・・・だ、大総統閣下・・・・・・」

突然のアメストリス国最高権力者の登場に、3人はそれぞれに嫌な顔をした。
そう、こうなると、一番扱いがやっかいなのが彼だからである。
ブラッドレイは3人の反応など意に介せず、ずかずかと執務室に入ってきた。
半分ほどの背丈しかないエドワードを認めにっと笑われる。エドワードはぎくりと肩を揺らした。

「おお、鋼の錬金術師君ではないか。この間のすいかは美味しかったかね、ん?」
「・・・え゛。・・・あ、ああ・・・まぁ・・・はは」

ひきつったような笑みを、エドワードは彼に向けた。
もはや、彼の前では先ほどの戦意もすっかり失せてしまっていた。錬成途中の光が収束し、消えていく。
そして、それはロイも同じだった。
ブラッドレイは固まるロイの前に来ると、ふむ、と顎を摘んだ。

「なんだ、まだ終わってないではないか。寂しいの、折角一緒に帰ろうと思ったのに」
「う゛」

改めて書類の多さを指摘され、ロイは頭を抱えた。
それもこれも、全てフラガ・・・いや、エドワードのせいだというのに。
ロイはエドワードをさりげなく睨んだ。もちろん彼はそっぽを向く。

「っ・・・申し訳ありません、閣下。私はこの書類を仕上げてから帰りますので、ムウを連れてクルーゼと先に帰っていて頂けますか?」
「ん、なに?ムウ、とな」
「・・・はい、ちょっとワケありで。。。」

理由は言うまい、と心に誓うロイである。
昨夜の酔っ払いようから見て、彼はあの時言った言葉を覚えていないだろう。
フラガが軍に入りたくてここに来た、など言ってしまったら、
本気で軍に迎え入れそうだ。
しかも自分の元に。
それは困る。まったくもって困るのだ。

「おお、本当にフラガ君ではないか。相変わらず、寝顔が可愛いのう」

ブラッドレイはソファで寝ていたフラガを覗き込んだ。
しかも、またしてもそれだけでは止まらず、フラガと唇を重ねてくる。
途端、フラガは苦しげに眉を寄せた。どうやら舌まで入れられているらしい。
これに焦ったのはエドワードだ。

「ちょ・・・!いいのかよ、アレ!」

問うようにクルーゼのほうを見やった。
だがクルーゼはやれやれと呆れたようにあさってのほうを向いている。
そしてロイはロイで、顔を顰めたまま、やはりブラッドレイの行動を諫めようとはしなかった。
否、出来なかったというのが本当のところだが。

「・・・今更・・・だからな」
「今更?」

エドワードは怪訝そうに顔を顰めた。
だが、家でのブラッドレイを見たことのない者には何を言ってもわからないだろう。ロイは肩を竦める。
どうせ、エドワードだって今夜には知ることだ。
やがてブラッドレイは顔をあげると、フラガを両腕で抱え上げた。
眠っているからいいものの、もし起きていたらさぞかし暴れたことだろう。
もう、これ以上騒動は起こしたくないから、幸いではある。

「さて、では帰るとしようかの」
「おー!!ああ、早く読みてぇ・・・!」
「お前も早く帰って来い。今夜はパーティだからな」

クルーゼはそうロイに告げると、フラガをお持ち帰るブラッドレイの後についた。
エドワードもそれに続こうとする。
だが、その瞬間ロイに首根っこを掴まれ、エドワードは息を詰めた。
なにがあったのかわからないまま、足が宙に浮く。

「パーティ?それは無理だな」
「?!!ちょ・・・何してんだよっ」

じたばたと暴れるエドワードににっこりと笑みを浮かべる。
だがその瞳は笑っていなかった。それどころか、彼の纏うオーラはとてつもなく怖い。

「っ・・・やめろ!」
「君には、この書類の山を減らす手伝いをしてもらう」
「なっ・・・なんでオレが!!」
「当たり前だろう。君さえあんなことをしなければ、私はとっくに仕事を終えていたんだ。罰として終わるまでは絶対帰すものか」
「っオレは、今すぐ読みたい本があるってのに!!!」
「そうか、では明日の朝、一緒に中尉に銃で撃ち殺されるとするかな」
「くっ・・・!」
「そういうことだから、クルーゼ」
「ああ」

クルーゼはあっさりとそういうと踵を返した。
本当は一番の原因はフラガだという気もするのだが、まぁ少年が犠牲になってくれるならそのほうがいい。
後ろから助けを求める声が聞こえてきたがすっきり無視して、
クルーゼはブラッドレイの腕の中で惰眠を貪るフラガを見つめた。
まったく、好き勝手他人の生活を荒らしておきながら、
結局こうして責任回避とばかりに眠り続けているなんて、なんてこの男は幸せなのだろう。
そう考えて、クルーゼは苦笑した。
それだけ、愛されているんだろうな、と言う答えにたどり着く。
さて、今夜はどうやって愛してやろう?

「まったく、幸せな男だな」

クルーゼはさらりとその金の髪に手を絡ませた。
今だに眠り続ける彼は、
彼らの思惑も知らず、幸せそうな笑みを浮かべていた。
まったく本当に、幸せな奴。
だが、そんな彼の回りにいる自分たちもまた、きっと同じように幸せなのだ。

フラガを囲うロイの家の居候人が増えたとある日の午後。
クルーゼは違う男に抱かれて眠るフラガに、ふっと笑みを傾けたのだった。





end.




Update:2004/10/10/SUN by BLUE

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