独白



永遠なんて、ありえない
それでも、そんな言葉に縋っていたかったのは私のほうだ
かの少年がいつか離れていくだろうことなんて
想像にかたくないことなのに
・・・一番、わかっていたはずなのに


それなのに、どうしてこんなに喉がひりつくのだろう


彼はもう、傍にいない
待っても、もう二度とその姿を見せてくれることはないだろう
居る場所は知っているのに
逢いに行けない 行けるわけもない

ああ、苦しいよ





人の付き合いに別れはつきもの
君に会えたということは、別れもまた運命づけられているということなのに
こんなこと、さして気にする自分ではなかったのに
当然の自然の摂理だというのに

どうして、くれる?

なにも、手につかないよ

積まれる書類
積まれる手紙
君の名のつかない紙などに興味はない

それでも、
仕方なく、その山に手を伸ばしてみる。

・・・あ。

バサリ、と音を立てて、積まれた書類が床に落ちる。
不意に笑いがこみ上げて。
止まらないままに、肩を揺らす。
広い室内、私だけの部屋に、
狂気じみた男の笑い声だけが響く。

なんて。

なんてざまだ。

拾う気にもならない。
やる気なんかないんだから当然だ。
広すぎる部屋。
1人は、辛すぎる。




















「なーにやってンだよ!バカか、あんた」
「煩い。さっさと拾え」
「いやだね。なんでオレが」

つんと顔を背ける金の髪の少年は、いつもいつも反抗的で、素直な時などあったことがない。
それでも、欲しいと思ったのはその瞳に魅入られてしまったからだ。
苛烈な光を宿すその瞳の奥には、焔。
消えることのないそれは、少年には美しすぎる。

「そうか。なら、これで仕事は終わりとしよう。・・・さ、来たまえ」
「はぁっ?!アホかーー!!!」




















かれといて、幸せだったと思う
切ないことも、苦しいことも、いろいろあったけれど
この部屋が、寂しいと思わないくらいには

幸せだった


そんなにたくさんのものを望んだわけじゃない
ただ、愛していたかっただけ
ずっと ずっと 愛していたかった
けれど、彼がこの場所にいる理由は、明確な目的のためなのだ
それさえ果たせれば用がないことぐらい
その歩む先を示唆した自分が一番わかっている
そうして、案の定、
どんな結果にしろ彼は運命に辿り着き
その結果として、この場所にいないのだ
私は、彼に祝福しさえすれ、ましてや、この場所にいないことが悲しいなどと

愚かしいことを言える立場ではない

わかっているよ
そんなことくらい

だから、何も言わずに故郷に帰る少年達を見送った


だというのに、感情が納得していない
くだらないそれが、私を常に億劫にさせてしまう
眠っていたい
ただ、1日眠って過ごしていたい
だって
夢なら、君に逢えるかもしれないだろう?




















「・・・エド」
「んっ・・・何・・・」

熱に浮かされた肢体を、抱き締める。
明日には旅立ってしまう少年。貪れば貪るほどに、悲しみが胸を満たす。
でも、それでも少しでもそれを忘れられるかと、
彼の身体をかき抱く。
目の前からいなくなる時の彼は、
いつもより少しだけ素直で、首に両腕を回してくれる。
甘い吐息が、耳をくすぐる。
繋がったままの下肢を揺らせば、途端びくんと震える少年に、
濡れた唇を重ねた。
また当分会えなくなってしまう。
相変わらずのことだというのに、寂しいと泣く心には逆らえない。

「・・・また、いつ会えるだろうね」
「・・・たい、さ・・・」

潤んだ瞳がこちらを見上げてきた。
蕩けるような金の瞳に、魅入られる。

「いつだって・・・、逢えるだろ」

少しだけ、照れたように視線を逸らして。
ああ、どうして、君は。
そんなに可愛いのだろう。どうしてこんなに私の心を虜にする。

「ああ・・・、そうだな」

君が、国家錬金術師であるかぎり。
私の命には逆らえない。
私が逢いたいならば、彼を呼ぶことなどさして大変なことでもない。
けれど実際は、それが実行されることはほとんどなかった。
それより、少年が来てくれるほうが多かったからだ。

「・・・それで、今度はどこへ行くって?」
「・・・・・・北部の町。避暑には丁度いいだろ?」

そういえば、今は夏だった。
絡む肌は熱く、べたついたような感触がする。

「北部か」

それはさぞかし涼しいことだろう。
軍服を襟元まで着込んだまま、司令部でデスクワークばかりをしているよりは、はるかに。

「だからー・・・ま、わかんねーけど、一月後にはいったん顔出すって」

そう言ってくれたエドワードに、キス。
安堵している自分が抑えられないよ。また逢える約束があるならば、どんな長いときだって待つことができる。
そう、また逢えるという保証があるならば。




















だから、もう 逢えないのだと
何度自分に言い聞かせたかわからない
唐突に訪れた別れは、
残酷に自分の心を奪っていった。
いつになれば、元の私に戻れるだろうな?

いや、きっと
元には戻れない。





傍にあったぬくもりは、
今はもう、どこにもないのだから






























「・・・今度の休暇は、丘にでも行こうかな」
「丘、ですか?」

共同の仕事部屋でぽつりと呟くと、
反応を返してきた部下が不思議そうに首を傾げた。

「そう、丘だよ。空が青くて、空気がきれいで、見晴らしがよければもっといい」

東部全域を見渡せるような。
そうだ、東には東部どころかセントラルを含めて遠くまで見渡せる丘があった。
見下ろせば、きっと美しいに違いない。
私の心がある、あの場所は。
珍しく、綻ぶような笑みが浮かんだ。
自分のバカさ加減に。遠く離れた想い人の故郷は、まだ自分の心に。
そして、かの少年も、また。





逢いに行けない、だから遠くでそっと想うだけ。
・・・幸せで、平穏な日々を過ごしていることを祈って。





end.




いや、ぜってーオレの邪推だ思うんだけどさ・・・
42話「彼の名を知らず」の43話次回予告で、アルが大佐、すみません、なんたらかんたらって言ってたじゃん。
それで、妄想が羽をつけ、エド国家錬金術師やめてしまうのではないかとか、
そのままリゼンブールでときを過ごすのではなかろうかとか、
大佐のもとから離れてしまうのではなかろうかとか、いろいろと切なくなってしまいまして、
テスト前だというのに・・・そんな大佐の切なさが僕の胸を満たして勉強が手につかなくなってしまいました。
いかんいかん。
と思い、吐き出すべくのこのポエムだか小説だかわからんネタ。
一緒に切なくさせてしまってごめんなさい。



Update:2004/07/26/MON by BLUE

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