制服



「・・・ひとつ、頼まれて欲しいのだが」

先ほどの続き、という言葉通り前戯すらまともに与えられないまま男の楔を受け入れるロイに、
ブラッドレイは声をかけた。
もう、既に息は絶え絶え。苦痛と快楽がない交ぜになった強烈な感覚に翻弄されながら、
それでもロイはブラッドレイに顔を向ける。
涙はもう乾いていた。泣こうとも何の感慨も受けない男の前で、
それはただの生理現象でしかない。

「・・・っ、はぁ・っな、んで、しょう・・・」

あがる息を抑えて、途切れ途切れにロイは応じる。
理性的で、冷静な判断をする思考は全て失っていた。下肢に押し込まれた熱は、ロイの全てを奪っていく。
組み敷いた男の従順な姿は、いつだってブラッドレイを満足させる。
シーツにしがみつく男の手を上から包み込むように押さえて、ブラッドレイはぐっと腰を押し付けた。

「・・・・・・!」
「西の、ガロンという町なのだが」

男のその言葉に、ロイははっとする。
ガロン。それは、エドワードがもたらした情報によれば、軍支部との争いが激化しているあの国境近くの町だ。
知らず知らずのうちに顔がひきつり、身体が強張る。
だが、次の瞬間には絶え間なく与えられる快楽に流され、ロイは声をあげた。

「っあ・・・」
「知っているかね?」

ロイの微かな反応を気付いたのか気付いていないのか、
ブラッドレイは青年に問う。
朦朧としたままの頭で、ロイは首を振った。

「いえ・・・西の、国境近くの、町だということくらいで・・・」
「ふむ。・・・最近、そこがやっかいなことになっていてな。
 度重なる暴動に、西方司令部も手を焼いているらしい。・・・行ってはくれんかね?」

口調はやんわりとしたものだったが、それが断れない命令であることぐらいロイにはわかっている。
また、残酷なことが繰り返されるのか、とロイはシーツをきつく握り締めた。
途端、ブラッドレイの楔が奥を突き上げてくる。

「・・・っは・・・!」
「まったく、困ったものだ」
「え・・・」

ブラッドレイはロイの腰を抱えたまま、さも残念そうなため息をつく。

「折角、わが軍がよりよい生活を保証しようと言っているのに、聞く耳すらもたんとは」

ガロンという町の状況について、ロイは詳しくはわからない。
だが、基本的に軍との衝突は、軍の要求をあちら側が呑めないことから来ることが多い。
ブラッドレイの台詞からすると、おそらく、ガロンが所有していた資源か何かを、軍は自分の管理下におこうと試みたのだろう。
軍の傘下に入る代わりに、その管理や働く者について、責任を持とう、というところか。
だが、そんな軍の甘言に、人民が従うとは思えない。
過去の状況を見ても、武力行使を行う軍は横暴な支配者が多いのだ。そうやすやすと、軍の傘下に入るものか。
けれど、そんな民衆の心を、軍が認め、時間的猶予を与えてくれるはずもなく。
強引にことを運ぼうとすればするほど彼らの怒りを煽り、そして、・・・争いになる。
わかっている。今の軍のあり方はただ押し付け政治を行っているようなものだ。
お前のためだ、と言って、軍に都合のいい事柄だけを押し付けて。
だが、そんな軍が果たして民衆に受け入れられるだろうか?
答えはノーだ。
わかっている。わかっているが、今のロイにはどうすることもできない。
軍の狗として、この大総統キング・ブラットレイの狗として、ただ走り回ることしか。

「行ってくれるな?ロイ・マスタング大佐」
「は・・・はい・・・っ!」

また奥を貫かれ、ロイの息があがった。
ブラッドレイはロイの返答に満足気な笑みを浮かべる。

「頼むぞ、ロイ・マスタング。
 ・・・ああ、出立は早いほうがいい。明後日の朝には立ちたまえ。そのかわり、今夜は存分に愛してやろう」
「・・・・・・っ・・・」

勝手なことを吐くこの男が憎らしかった。
誰も、愛されてなどいないのに。
ただ、お気に入りの玩具に当分触れられないから、だからブラッドレイはあんな台詞をはくのだ。
この残酷な男に全裸の身体を囚われながら、ロイの心は虚ろだった。










例えば、もし。
自分が国家錬金術師でなければ、この青い軍服を身に纏っていなければ。
この男とは別の関係が築けていただろうか、と思う。
軍の狗、部下であるとか、そういう上下関係ではなくて。
・・・いや、おそらく無理だったろう。
軍人にならなければ、おそらく彼は自分を見てくれていなかった。
自分が彼に憧れて、力になりたいと思って、国家錬金術師になりたいと願ったからあの場所があった。
今のロイには、自分にとって何が一番幸せだったかなどわからない。
軍の狗にならなければ、こんな苦痛を味わうこともなかったろう。
自分の手で罪のない人々を殺めるなど、できやしなかった。
だが、だからといって軍の狗にならなければ?
拠り所がない当時の自分が、ブラッドレイなしで生きられたはずもなく。
いつ、どこで野たれ死んでいたかもしれない。
どちらが、よかっただろう。
こんな苦痛を味わうよりは、あのまま死んでいたほうがよかっただろうか。
目の前に映る黒い焔。
絶望しかなかった自分に、希望の焔を教えてくれたかれ。
だが、今更どちらがよかったかなど、意味がない。
現実は、ただ1つ。
軍の狗、ロイ・マスタングと、その飼い主、キング・ブラッドレイが存在する、それだけなのだから。





そう、この軍服の袖に手を通さなければよかったのに、など。

今更考えても無駄なのだ。











ばさり、と衣服が床に落とされ、ロイは乾いた喉に唾を呑んだ。
晒された男の腕や胸は、若くして大総統という地位に上り詰めただけあってたくましく、男でも見惚れるほど。
改めてその身体を認めて、ロイは軽く目を逸らす。
ブラッドレイは気にした風もなく最後の1枚をロイの手に投げ置くと、浴室へと足を踏み入れた。
セントラルに来てからというもの、幾度となく彼の夜に付き合わされていた。
もちろん、彼の求めるものは決まっている。

「さぁ」
「・・・は」

短い促しに、ロイは黙って膝まづく。
立ち尽くす男のそれを指で辿り、手のひらで包み込むと、そのまま口内へと導いた。
教え込まれた通りに喉の奥まで銜え込み、舌で幾度も砲身を舐め上げる。
次第に熱を帯びてくるそれは、気付けば大きさを増して硬くなり、ロイの口内を圧迫した。

「ん―――うっ・・・、ふ・・・」

ブラッドレイの腕が伸びてきて、ロイの黒髪を掴んだ。
男自身を唇と舌で扱いていた青年は、
不意に乱暴とも言える強さで喉の奥を貫かれ、思わずむせそうになる。
だが、苦しげに咳き込むロイに、しかしブラッドレイの容赦ない責め苦が続く。
吐き出そうと身を引いたロイの肩を強引に自分の方に引き寄せると、
半端に収まったままの頬を掴み、そのまま頭を揺らした。
苦しさに半ば朦朧としたままのロイが、生理的な涙をこぼす。
動きを止めた青年を、まるで道具のように扱うブラッドレイは、そのまま彼の口内に精を放った。

「んん・・・っ!!」
「・・・いい子だ」

ロイの喉が動くのを確認して、ようやく解放する。
けほけほっとむせる青年に、しかしブラッドレイはそれに目もくれず湯船に浸かった。
残酷な、男。
だが、そもそも今の自分達の間にあるものは、ただの主従関係であって、愛や恋などといった甘いものではない。
飼い主と飼い犬。
主は常に犬の忠誠を疑い続ける。
特にロイは、その能力を買われ、ブラッドレイの傍にいられた。諸刃の剣とも言える彼の焔を前に、
ブラッドレイは常にその優位を誇示し、忠誠を強制する。
苦痛を伴う快楽も、その手段の一つに過ぎなかった。

「きたまえ」

ブラッドレイの声音は静かだったが、抗えない何かを秘めていた。
唇を噛んで、立ち上がる。男の浸かる湯船に、自分も足を踏み入れる。

「・・・っ!」

唐突に腕を引かれ、バランスを崩したロイは、
ブラッドレイの身体に受け止められた。
自分の顔の横でニィッと笑われ、背筋が震える。
腰を抱かれ、次の瞬間自分の奥にブラッドレイのものをあてがわれ、ロイは息を呑んだ。

「や・・・閣下・・・っああ・・・!」

思わず後ろ手で抵抗を示すが、ブラッドレイがその全てを捉え、押しとどめた。
そのまま、強引に男のそれを突き入れられ、逃れることすらできない青年は悲鳴ともつかない嬌声をあげる。
ブラッドレイの乱暴な扱いに、湯面がばしゃりと音を立てた。

「あっ・・・や、ああ・・・っ・・・!」

容赦なく腰を揺さぶられ、突き上げられる度に熱い湯が肛内が入り込んでくる感触は、
ブラッドレイ自身の熱に相まってロイの思考を蝕んでいく。
もはやセックスドールでしかない青年の身体は、主の意志に反して快楽を感じ始めていた。

「ふふ・・・」
「・・・っ、あ・・・はっ・・・!」

前を握り込まれ、ロイは息を呑んだ。
気まぐれに与えられる自身への刺激は、ロイの霞んだ頭の中で強烈な快感へと変えられていった。
不安定な身体を支えるために底についていた拳を耐えるように握り締める。
達する衝動が幾度も押し寄せてきて、ロイは唇を噛んだ。

「っ・・・い、ああ、・・・っ・・・」

達きたくなくて、耐えようと思うのに、耐えようと歯を食いしばれば食いしばるほどブラッドレイの手の動きが激しくなる。
玩具扱いの自分にとって、ブラッドレイよりも先に達することは許されない。
だというのに、自分を抱く男は激しい動きで快楽を誘い、ロイはそれに溺れてしまいそうな自分を必死に抑えた。
流されればどんなに楽だろうかと思う。今のロイには、快楽は苦痛でしかない。
身体が震える。ブラッドレイの大きな手がロイのそれを握り込み、砲身を強く扱く。
前への刺激と、休まることのない身体の奥底を犯す熱に、ロイは意識すら失いかける。
ふっと頭が真っ白に染まり、何がなんだかわからなくなった。
その瞬間―――。

「っ・・・、あ、ああ・・・っ・・・!」

ブラッドレイの爪先が自身の先端を強く擦り、堪らずロイは浴槽の中で果ててしまった。
自身を男に包まれたまま、どくどくと精を吐き出す。男は口の端を持ち上げる。
半ば放心したままのロイは、次のブラッドレイの言葉に震えた。

「先に達ったのか?」
「あ・・・」
「・・・君はまだ、自分の立場をわかっていないようだ・・・」

揶揄するような、だがどこか笑いを含んだ声音。
必死に耐える自分を無理矢理達かせておきながら、なんという言い草だろう。
だが、無論ロイがブラッドレイに逆らえるはずもなかった。
ただ、理不尽な男の物言いに、苦汁を嘗めるだけ。

「さて・・・どう仕置きしてくれようか?」

ふふ、と含み笑いをする男は、そのまま繋げたままの奥をその欲望のままに貫いた。
両腕で強くロイの腰を掴み、激しく揺さぶる。
強烈な刺激に達したばかりの身体はついていけず、
ロイは与えられる苦痛に顔を歪める。
この恐ろしい男の腕に囚われながら、ロイはただ行為の終焉が来ることを願っていた。
だが、彼の願いは虚しく、
青年はブラッドレイとの長く苦しい夜を過ごすことになる。
相変わらずのことだというのに、いつまでも胸の痛める自分を、ロイは呪った。










西の国境の町、ガロン。
軍との激しい暴動は、その後中央から派遣されたロイ・マスタング大佐の陣頭指揮によって、見事鎮圧された。








to be continued...






Update:2004/05/19/WED by BLUE

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