花屋の2人。vol.2



「それで、君達はこれからどうするんだい?」

ベッドに横たえたフラガの髪を弄りながら、ふとロイは呟いた。
しんみりとした空気になったのは、さきほどのフラガの言葉を思い出したからだ。
2人の居場所が本来ここではないことくらい、知っている。
彼らの故郷は海に囲まれた島国だという。
想像もできない、宇宙の彼方を戦争と称して飛び回っていたことも聞いた。
明らかに違う世界。
どうして出会ってしまったのか、ふと疑問に思うことがある。

「君たちがここに来てしまったのは、おそらく大規模な錬成で生じた時空のゆがみのせいだ。
それを追えば、きっと元の世界に戻れると思うがね」

淡々と、ロイは可能性だけを告げる。
今の自分は、彼らを元の世界に戻してやりたいという気持ちと、引き留めたい気持ちが半々で、
いまいち判断がつかない。
半年は長い。無駄に情が芽生えてしまうものだな、と内心ロイはひとりごちた。

「・・・そうだろうな」

クルーゼもまた、ロイの言葉に無感動に反応した。
ベッドに腰を下ろして。
眠るフラガを見つめる。
時折、彼は思い出したようにあの世界のことを口にする。
帰りたいのか、それともただ憧憬に浸っているだけか、フラガ本人に聞けばきっと後者というだろう。
けれど、クルーゼはわかっていた。
彼の本心は、きっと違う。

「・・・私は、別にあの世界に未練などない。だが、こいつはどうだろうな」

誰にでも気さくで、人気を集める彼。
今でもそうであるように、当時の彼も誰もに好かれる好青年だった。
軍にいて、少佐に地位にまで就いて下士官の面倒もよく見て、頼りにされて。
たくさんの友もいた。
きっと、ふと思い出しては会いたいと思っていることだろう。

「・・・難儀な子だね。私と、・・・君までいて、まだ他に大切なものがあるというのかい」

ロイの言葉に、クルーゼは苦笑した。
少しだけ、悲しみを滲ませて。そう、幾度となく味わってきた感情。
何度かれを独占したいと思ったかわからない。
かれの目を、心を、その意識のすべてを自分だけに向けたいと、何度願ったことか。
けれど。

「それが、ムウ・ラ・フラガという男だ」

すっと頬を包み込むように触れると、小さく声が洩れた。
軽く開かれた唇は甘く、その唇の柔らかな感触を思い起こさせる。
決してそのつもりはないだろうが、無意識のフラガの誘う姿に欲を煽られ、2人は口の端を持ち上げた。

「・・・節操がないな」
「褒め言葉かい」

気持ち眉を顰めたクルーゼの発言を軽くあしらって、ロイの手がフラガのシャツの中へとするりと入り込む。
ぴくりと震えた身体を抱きしめるようにして、クルーゼは顔を近づけた。
頬に、濡れた感触。
あっ・・・と小さく吐息が洩れる。
静かに外れされていくシャツのボタンが妙に卑猥だ。
ひとつひとつ外れるたびにフラガの素肌が目の前に晒される。白く、焼けない肌。
染みひとつないそれに唇を寄せるロイは、露になった小さな飾りを口に含んだ。

「・・・っ、や・・・」

アルコールのせいでまだ目覚めないフラガに、男たちは嬉々として彼の身体を貪っていった。
指先の腹で唇の感触を確かめながら、耳の下のくぼみに舌を這わせて。
首筋を辿り、時折その肌に花弁を散らす。
敏感なそれは軽く吸い付くだけで紅色に染まり、クルーゼは口元に笑みを刻んだ。
今では、こんな所有の証を、何を気にすることなくつけてやることができる。
前までは、人目を気にするフラガの散々な抵抗に合っていたからだ。
同僚たちに気取られては堪らない。
確かに、そもそも敵同士だった自分らの関係を知られては困るフラガの気持ちもわかっていたから、
仕方なく遠慮してやっていた。
だから、クルーゼはよく思うのだ。
あの、敵同士という立場から決して逃れられない時代に生きていた時よりも、
きっとこの場所は幸せだろう。
自分はそもそもフラガにしか執着などなかったから、なおさら。
彼さえいれば、クルーゼはどうでもよかった。
それに、何より。
こうして彼を自分のものにできるのだから。
・・・・・・確実に独占できた、というわけではなかったが。

「・・・っ!」

フラガの身体が一瞬強張った。
フラガの胸元を弄っていたロイが熟れた果実に歯を立てたらしい。
軽い痛みに目を開けたフラガは、けれどまだ自分の身に起こっていることが理解できていない。
続けて与えられる刺激に、思わず声が洩れた。

「・・・、あっ、な・・・に・・・?」

濡れた感触に吸い付かれ、フラガが怯えたような声をあげる。
下を見やると、視界に金の髪が自分の喉元に埋まっていた。
そしてその先には黒髪が。
身を起こしたロイと目が合ってしまい、フラガは一気に頬を染めた。

「っ、な・・・」
「大人しくしていなさい」

優しく微笑まれ、フラガの鼓動がどきりと高鳴る。
ロイはすっと顔を寄せると、彼の唇を塞いでしまった。
ゆっくりと唇をなぞり、歯列を割るロイの舌は執拗に彼の内部を貪っていた。

「んっ・・・ふ、う・・・っ・・・」

苦しげに寄せられた眉が扇情的だ。
ロイは角度を変えながらそれを眺め、笑みを浮かべた。
甘く蕩けるようなキスは目覚めたばかりのフラガの思考をまた夢の中へと導き、
フラガは無意識のうちに鎖骨を食むクルーゼの髪を握り締めていた。
アルコールに酔わされているせいもあってか、2人にいいようにされているとわかってなお、
フラガの抵抗は薄い。
それどころか、まるで2人の愛撫を待ち望んでいるかのように差し伸べられる手に、
彼を抱こうという男たちは一気に熱を昂ぶらせた。

「・・・おい」
「ああ」

自分の衣服を脱ぐのも半ばに、フラガの身体を抱えて彼の下肢を剥ぎ取るようにして脱がせていく。
だが、フラガの身体に一切抵抗はない。
クルーゼの乱暴な手つきに、ロイは呆れたような表情を浮かべた。

「相変わらず、ムードがないな」
「男相手にムードも何もあるものか」

男の言葉に、やれやれ、と肩を竦めて。

「男も女も関係ないよ。それに、こういう事はゆっくり愉しまないとね・・・」

そう言ってフラガに手を伸ばす男の口の端に微かな笑みを認めて、
今度はクルーゼが呆れたようにため息をつく。
優男のくせに意地の悪そうなそれは、このマスタングという男の性格の悪さをはっきりと物語っていた。
だというのに、今だに世の女性達はこの男に憧れ、時に恋心を抱く。
女達が物好きなだけか、それとも騙されやすいからか。
まぁどちらにしろ、今は関係のないことだ。
体勢を変えると、今度はクルーゼがフラガの唇を塞いでいった。
甘さはないかわりに、激しく蹂躙するようなキス。
フラガの力を根こそぎ奪っていくそれにフラガが微かに抵抗を覚えたとき、
するりとロイの手のひらが彼の内股にかかった。

「っ、ひ・・・」

ひくり、とフラガの身体が竦んだ。
際どい部分を撫で回すいやらしいその手を拒むように、男の膝が立てられる。
フラガのそんな反応に、彼を犯す2人の男は共に笑みを浮かべた。
ぐい、と2人の手が彼の足を割り開く。
羞恥に抵抗する暇すらなく、フラガのその部分が男達の目の前に晒されてしまった。

「あ、っ・・・・・・!」

さすがのフラガも、羞恥と恐怖に現実に引き戻され、逃げ出すように身を捩った。
だが、今更遅い。
上半身はクルーゼに、下半身はロイに。
どちらか片方だけでも抵抗できやしないのに、2人に阻まれて動くことすら不可能なフラガは、
結局懇願するように揺れた瞳を向けるしかなかった。
だが、それは2人を煽ることにしかならず。

「気持ちよくしてあげるよ」

そんなロイの声を聞いた途端、フラガは下肢に強い刺激を覚えた。

「っ、あ、ああっ・・・」

先ほどのくすぐったいような焦らすような感触とは違う痺れるような感覚に、声を上げてしまう。
それを、再びクルーゼが唇を奪う。全てクルーゼに呑み込まれ、フラガは眉を寄せた。
胸元を撫で回す手と、自身を包み込んでくる手のひら。
砲身に絡む指先が彼の熱を煽るように動き、たちまちフラガのそれは硬さを増した。
だが、もっと、と刺激を求めて蜜を零すそれの先端を、
ロイは親指の腹で掠めるように撫でた後、期待に震える彼を裏切るようにそれから手を離してしまった。

「あ・・・や、ぁ・・・!」

すぐさま、少々強引に奥に指を挿れられ、フラガの身体が強張った。
まだたった1本だというのにぎゅっ、と締め付けてくる男の内部を、ロイは掻き回していく。
指の付け根まで奥に到達させ、関節を曲げてやる。と、フラガがひときわ高い声をあげた。

「あ!あっ、そこ・・・っ・・・や・・・」

奥を知り尽くした指が執拗に彼の場所を擦れば、
半端に刺激を与えられたままの砲身がより硬く大きく変化していた。
ロイがその部分を強く押す度に、甘い声と蜜が洩れる。
後ろだけでも達かされそうなフラガは、前への刺激欲しさに下肢に手を伸ばした。
しかし、寸でのところでクルーゼに阻まれる。
きつく手首を掴まれ、シーツに押し付けられるだけで息があがった。
涙目のフラガに見つめられ、クルーゼもまた下肢の熱を意識する。

「う・・・」
「意地が悪いな」

苦しげに眉を寄せるフラガの砲身を、クルーゼはぎゅっと握り締めた。

「そうかな」

自覚があるのかないのか、ロイは今度は2本の指を宛がい、ぐっとそこに突き入れる。
ぐちゅぐちゅと水音を立てて抜き差しされ、フラガの身体が揺れる。
乱暴なほどのそれは、しかし確実にフラガの快感を煽り、それを示すようにクルーゼの手のなかのそれが変化していた。

「あっ・・・や、ああっ!」
「ああ、すごいな。こんなに・・・」

ロイが指を動かすたびに、捲れたようにフラガの肉が目の前に晒される。
卑猥なその色は絶え間なく収縮を繰り返し、まるで男の指を自分から呑み込もうとしているようだ。
だが、その誘惑にロイは耐え、もう1本指を差し入れた。
圧迫感にフラガは息を呑む。

「ムウ・・・」
「達かせてあげるよ」

2人の声を聞いた瞬間、下肢への刺激が一段と激しくなった気がした。
身を縮めようにも足の間にいるロイに阻まれ、フラガは仕方なく快感に耐えるようにクルーゼのシャツの背に爪を立てる。
クルーゼが手にしているフラガ自身に、ロイは舌を這わせた。
裏筋を舐め上げられ、電流が走ったように快感がフラガの全身を走る。

「あっ、は、あんっ・・・ふ・・・」

眉を寄せ、快感に喘ぐフラガを、クルーゼは存分に貪った。
開いている方の片手で胸元の突起をきつく摘む。
敏感な部分各所に強烈な刺激を与えられたフラガは、
身体を襲う快楽に耐え切れないままぶるりと身を震わせ、クルーゼの手の中に精を放った。
はぁ、はぁと肩で息をするフラガに、クルーゼは笑みを浮かべる。
達したそれをきゅっと扱いてやると、後から後から体液が零れ落ちた。

「んっ・・・」
「そろそろかな」

ずるり、と指を引き抜くと、指先と奥の間に糸が引いた。
脱力した身体は、一切の抵抗を忘れている。
柔らかく解されたそこにもう一度触れると、ぎゅっと締め付けるように蠢いた。
ふふ、と笑みを浮かべて、フラガの顔を覗き込む。

「可愛いね」

ロイはフラガの身体を反転させ、シーツにうつ伏せた。
一応は抵抗しているフラガは、しかし力が思うように入らないまま彼のいいようにさせられる。
フラガの腰を高く上げさせるロイに、クルーゼは何かいいたげに顔を向けた。

「・・・おい」

自分のものに手を出されるのがいまいち気に食わなかったらしい。
今更なのだが、言葉少なにそれを訴えると、
ロイは肩を竦めた。

「ま、私はどっちでもいいけどね。・・・でも、どうせ君は私が仕事でいないときは独占してるんだろう?」

確かにここ2、3日、ロイは司令部詰めで家に帰っていなかった。
だが、クルーゼはあまりこの男の言葉を信用していない。
仕事とか言っておきながら、女との予定だったりすることも少なくないからだ。
そんな自分勝手な都合で家を空けておきながら何を言う、と抗議の視線を向けると、
ロイはクルーゼの言葉などどこ吹く風、とばかりにフラガの腰を抱え上げた。
ははっ、と笑って誤魔化す男も男だ。

「いいじゃないか。私がいるときぐらい、愉しませてくれたまえよ」

ぐっと腰を押し付けて。男の雄の部分を宛がわれ、フラガの奥が呑み込もうとするように蠢く。
ああ、と息を詰めシーツをきつく噛むフラガに、ロイは一気に最奥まで飲み込ませた。
先ほどまで散々弄んだおかげで、肛内は抵抗を示していない。
それどころか、離すまいとするようにきつく咥え込んでくるのだ、ロイは熱い吐息を吐いた。

「まったく・・・っ」

一方、フラガの後ろを取り損ねたクルーゼは、フラガの前で座り込んだ。
シーツに額を押し付ける彼の顔を上げさせ、手を掴む。
彼の目の前にそそり立つ自身を、手のひらに包み込ませる。
卑猥に蠢くその色に、フラガは頬を染めた。

「っ、や・・・」

まさか、と涙目になってクルーゼを見上げるフラガは、まるで仔犬のようだ。
彼の懇願に取り合わず、無言で頷いてやる。
催促するようにフラガの髪を掴み、先端に唇を近づけてやると、フラガは諦めたように舌を出した。
男に後ろを貫かれ、快楽に溺れながら、自分の砲身に指を絡めて口内に受け入れるその姿に、
クルーゼの背筋がぞくりと震える。
フラガの口の中は熱く濡れていて、快楽を呼び起こさせられるには十分だった。

「・・・動くよ」
「・・・んう―――っ・・・、ふ、っ・・・」

ずっ、ずっと奥に押し込まれ、フラガは口の端から喘ぎ声を洩らした。
ロイの動きが強さを増すたびに、フラガのクルーゼに対する奉仕が疎かになってしまい、
その都度クルーゼの手が彼の頭を動かしフラガを攻め立てる。
なかなか苦しいその体勢に、フラガは顔を顰めた。
だが、身体を襲う快楽は事実。
下肢から伝わる熱く重い痺れと、男のそれを手にし、男の快楽を煽る悦に浸るフラガは、
次第に甘い表情をクルーゼに見せていた。
口の端を体液に濡らし、潤んだ瞳がクルーゼを見上げる。
愉悦に歪む顔がかすかに笑いかけてくる。
クルーゼは堪らなくなって、フラガの身体の下に自分の身を滑り込ませ、そして彼の唇を貪った。
抵抗もなく、フラガはうっとりとした表情でキスに酔いしれる。
身体を貫く快楽も、彼の意識を朦朧とさせ、もはや痛みなど感じていないかのように声を洩らしている。
ぎゅっと自身を締め付けてくるフラガに、ロイは乾いた唇を舐めた。
汗に濡れた背に口付ける。舌を這わせ、その胸を抱き締める。

「あ、はっ・・・あんっ・・・」
「ムウ・・・」

クルーゼは手を伸ばし、泣き濡れたフラガの前を掴んだ。
びくりとフラガの身体が震えるのにも構わず、そのまま自身へと触れさせる。
ぐちゃり、というおそろしく卑猥な音も、もはや荒い吐息にまみれた室内には響かない。
クルーゼは彼自身と自分の雄を手で擦り合わせながら、なおも口づけを続けていた。
男3人、濡れた行為。
はたから見れば背徳的なそれを、しかし咎めるものは誰もいない。
ふいに、フラガの身体からがくりと力が抜けた。
男2人に囚われ、いいように犯される快感に酔う彼は、もはや甘い声しか洩らさない。

「う・・・ふ、んっ・・・」
「そろそろ・・・、達かせてもらえるかな」

荒い息を抑えてそう言うロイは、フラガの胸を弄んでいた手で彼の突起を押しつぶすように刺激を与えた。
ああ、と声をあげるフラガを抱く腕に力を込め、先ほどまでフラガの快楽を優先していたはずの男の動きが激しさを増す。
がくがくと身体を揺さぶられるフラガの腰を、クルーゼは両腕で支えた。
唇を離すと、ひっきりなしに洩れる吐息。

「あっ、やっ、ああっ・・・」

甘い声音に頭がおかしくなるのを感じて、クルーゼは癪に障ったようにフラガの首筋に歯を立てた。
ところどころに自分が先ほどつけた所有印。
またそれを辿り、きつく刺激を与える。
触れ合う下肢はロイの動きに合わせ互いを刺激し、もはや快感から逃れる術はない。
フラガの意思など関係なしに高まる身体は、しかし彼の心を如実に物語っていた。

「あ・・・やだ・・・っ!」

快楽の波に幾度も押し流されそうになりながら、
フラガはクルーゼにしがみついた。
恐怖にも似た感覚に怯えるフラガの耳元で、クルーゼはふふ、と笑い声をあげる。
それにすら煽られ、フラガが頬を染める。
熱く、重い衝撃に耐え切れない。
許してくれ、と小さく啼くフラガに、クルーゼは囁いた。

「達っていいぞ」
「っあ、や・・・あああっ!」

耳への刺激と、一際奥を貫かれた勢いで、ついにフラガは頂点へと押し上げられた。
完全に脱力し、意識を失いかけるフラガの身体を、クルーゼは抱きとめる。
胸元に埋まる男は、奥に熱い体液を注ぎ込まれ、放心した表情を見せていた。

「ふふ・・・。よかったよ」
「当たり前だ」

ロイがフラガから離れたのを見て取り、
クルーゼは腰を支えていた腕に力を込め、ぐっと自分のほうに引き寄せた。
精を吐き出されたばかりのそこに、自身を宛がう。
結局彼の後ろを貪らなくては気がすまないらしいクルーゼに、ロイはくっくっと笑った。
あぁ、と力ない声を出すフラガなど気にもとめていないようだ。
ただ、過度に濡れた音を響かせるその部分は、達したばかりだというのにクルーゼを締め付け、離さない。
フラガの腰を揺らすクルーゼは、得られる極上の快感に熱い吐息を洩らしていた。

「まるで獣だな?」
「誰がだ?」

濡れそぼった結合部分に指を這わせるロイに、クルーゼは剣呑な目を向けた。

「勿論、君が、だよ」
「お前に言われたくない」
「おや、そうでしたか?」

肩を竦めて。
放心したまま動かないでいるフラガに、唇を寄せる。
甘い甘いキスは、彼を夢心地に浸らせ、なおも下肢を貪る熱に溺れさせる。
汗に濡れた金の髪を弄りながら、ロイは静かに囁いた。



「よい夢を。ムウ・ラ・フラガ君」



この現実さえ、夢のような気もするけれど。



















「うっ・・・」
「目が覚めたかい?」

腰にわだかまる鈍痛と、カーテンの隙間から差し込む光に導かれ、
フラガは眠い目を押し上げた。
頭も痛いし、身体も軋むように痛い気がする。
なんで・・・とぼんやりと思考を揺らす彼は、覗き込んでくる黒髪に目を移した。

「ロ、イ・・・?」
「大丈夫かい?昨晩は2人して少々羽目を外したから、心配だったんだけど」

見下ろす瞳は確かに心配そうだ。
だが、昨夜はなにがあったろう。
確か、夕方黒髪の男が店に寄って、どこかに行こうと言い出して、あの、美しい光景の店に行って・・・・・・

「・・・あ゛!!!仕事!!!」

昨晩のことを思い出す前に、フラガは花屋の仕事を思い出してベッドから飛び起きた。
・・・というのは彼の頭だけで、
実際には身を起こしただけで眩暈を起こし、まだベッドにうつぶせてしまったのだが。

「いっつー・・・」

身体も頭も重く、普段通りからだが動かない。
なんで、と考えてロイの顔を見ると、その気遣う表情の中に明らかにおもしろがるニオイを感じて、
フラガは数秒後、一気に全ての事柄を思い出した。
ロイの言う少々羽目を外した、どころではない。
人の身体を壊す勢いで犯された。否、輪姦(まわ)された。
思い出すだけで腹が立ってくる勢いに、フラガはロイのほうを睨み付けた。

「てんめー・・・っ!」
「おいおい、私だけを責めるのはやめてくれたまえよ」

ははっと笑ってまったく悪びれる様子のないロイに、フラガは頭を抱えて蹲った。
頭が痛いのはアルコールのせい、身体が痛いのは夜を徹して続けられた長い行為のせいだ。間違いない。

「まぁ、ゆっくり休んでくれてていいよ。朝一番の仕事はクルーゼが片付けてきてくれてるし、それに」
「・・・それに?」

言葉を切ったロイに、フラガは不審そうに目を向けた。
ロイは顎に手を当ててふむ、と考えている。
これは明らかに何かたくらんでいる顔だ。フラガは内心びくつきながら彼の言葉を待った。

「いや、ね。今日明日と、私は休みなんだよね」

どこか行かないかい?と視線を向けられ、んー・・・と思考を巡らす。

「・・・んー、あ、あのさぁ、北方の、滝で有名な避暑地!!俺、本物が見てみたくてさぁ!!」

さっきまでの不審そうな顔はどこへやら。
わくわくと胸を高鳴らせるフラガに、ロイは内心笑ってしまったが、顔には出さずにいらえを返した。

「じゃあ、そこへ行こうか。もちろん、3人でね」
「すっげー楽しみ!!ここよりどんくらい涼しいかなぁ〜vv」

既に滝に意識を傾けているらしい。
昨夜とまったく同じパターンだということも気付いていないフラガに、
はは、とロイは笑い声をあげた。
まったく、これでまた今夜の予定は決定だ。
枕の気持ちよさとこれからいく場所へ想いを馳せるフラガを見て、ロイは思った。

そうだ、こうやって。
この世界で、思い出を重ねればいい。
過去を忘れられなくとも、彼にまた新たな記憶を刻むことができればそれでいい。
そしていつか、手放せなくなるほどになればそれで。

「・・・この場所が、君の一番になってくれれば嬉しいんだが」

多少治安は悪くとも、一番愛する者がいて、愛してくれる者がいて、
何よりそれに対して後ろめたい気分にさせるものなどなにもないこの世界が。
いつか彼の一番になるようにと、ロイは本気で願っていた。




end.




Update:2004/07/04/SUN by BLUE

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