それは、ほんの僅かな。



―――蒼い顔をしている。

いつものように、今月の研究成果を報告をしているサリヴァンに、
ロエンはふと目をやった。
元々、色白の顔だから、多少疲れが出ている程度ではわからない事が多いが、
今回は特別だ。いつになく蒼褪めているし、
何より声音に精気がない。
いつもなら、あの研究自体に疑問を抱いている自分を諭すような
自信のある口調で話すのに。
だが、彼の身を案じて、気にかけるのは何か悔しい。
何も言わずに、書類に視線を落とす彼を見つめていた。
不意に、ふらりと身体が揺れた。
気のせいではないだろう、慌てて彼は体勢を戻したが、
どうやら、今日の彼は、相当体力を失っているようだ。
こんな時ぐらい、理由を付けてでも自分の元に来ないで、ゆっくりと休んでいれば
いいというのに。
どうせ、20年という長い年月の中の1カ月や2か月など
大した時間ではないのだから。

「・・・大丈夫なのか」
「はい。・・・お見苦しいところをお見せしました」

そういいつつも、今にも倒れそうなほどの蒼白さ。
先程体勢を崩した際に見えた白に、ロエンは眉を潜めた。
袖の長い白衣の下に隠れた、手の甲。その上に、
サリヴァンは包帯を巻いていたのだ。
ロエンの視線に気づいたサリヴァンは、慌ててそれを隠すような仕草を見せた。

「・・・っ」
「まだ、あの少女を生かしているのか」

何も言わないサリヴァンに、それが図星であることを理解して、
ロエンは動かない表情を微かに揺らした。
彼が、最近拾った少女を彼の家に住まわせていることは知っていた。
言葉も話せず、幼い姿で、けれど動物のような角と、透明な羽根をもった少女。
ルキアで見つかった、およそバーゼルで育った人間とは思えない彼女の姿に、
当初ロエンは不安を覚えたものだ。
ルキアでの戦闘で、ビクトーの部隊が一人を残して皆殺しにあったのは
彼女のせいなのでは、と。
だがサリヴァンは、気味悪がるどころか、彼女を家に引き取り、
そうして血しか口にしない彼女のために、己の身体すら差し出しているのだ。
理解のできない男だと、ロエンはいつも思っている。

「・・・彼女は、我々バーゼルの住民とは違う力を持っている。必ず、我々の研究の力になってくれるでしょう」
「そうは、思えないが」

もっともらしく理由をつける彼の言葉には、
理論的な彼には似合わない抽象的なものばかり。
何より、淡々とした彼には珍しく、上ずったような響きを見せる口調。
ただの研究対象として見ているだけではないことくらい、
素人の自分にだってわかる。

「お前の考えていることは、全く理解できない」
「ご心配なさらずとも、クォーツの研究は順調ですよ。来週には、また新たな研究成果をお知らせできるでしょう」
「・・・違う」

サリヴァンの言葉に、小さく否定してロエンは席を立った。
彼が研究を疎かにするとは思わなかった。
元々、素直に彼が自分の目的に同調して研究を続けているとは思っていないし、
彼は彼なりに、ゼニスの研究を続ける理由があるのだろう。
本当の理由など、どうでもよかった。
ただ。

「?・・・どう・・・」

意外なロエンの行動に、息を呑んだのは不覚にもサリヴァンのほう。
幾重にも包帯を巻いていた右手を両手で包みこみ、
そうして少しだけ持ち上げる。

「・・・ロエン殿」
「少しぐらい、自分の身体を大切にしろ」

今、お前に死なれては困る、と、
そう控えめに呟く男に、サリヴァンもまた、少しだけ驚いたように目を見開いた。
こうして、彼のほうから感情を示してきたのは珍しい。
特に、最近は、呼び出されてもぶっきらぼうに用件を伝えられるばかりで、
こちらとしてもあの少女に構ってばかりで彼の元に足を運ぶ回数が減っていたから、

(ああ、そうか)

内心でくすりと笑って、空いていたほうの片手で彼の掌に重ねた。
それはきっと、嫉妬に近い感情。
素直に自分を表現できない彼の、微かな主張。

「今夜、貴方の元へ参りますよ。」
「・・・身体を大事にしろと言わなかったか?」
「大丈夫ですよ」

今日は、貴方の傍で休ませてもらいますから、と、
やわらかな唇を耳元に近付けて、甘くねだるように囁く銀髪の男に、
ロエンは苦虫を噛み潰したような表情で
彼の言葉を受け入れたのだった。





end.






お目汚し失礼しました。
以下、ネタバレ有のサリヴァン考察なんで
未クリアの方はご注意ください。





























サリヴァンて、たとえ外の世界でレベッカと生きていても、
環境に適応できないのではなかろうか・・・?
でも、よくよく考えたら、
あのかつてのレベッカの世界に入るわけではなく、
環境の正常化された世界で、記憶を失ったレベッカと共に
食べ物探したり血を分けたりして2人で生きていけばいいんだな。
永遠って怖いね。
外的要因がない限り、別れることはない。
死ぬこともない・・・
でも、もしレベッカがかつての自分を取り戻したら、
もしかしたらサリヴァンは殺されるかもしれないし、
外界の人間の世界に連れていかれて
タイヘンな思いするかもwww

ああー気になるなあ。






Update:2010/02/12/FRI by BLUE

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