永遠の一瞬



ぎぃ、と玄関のドアが開く音がした。
時計を見やれば、12時などとうに過ぎた深夜。
布団に包まっていた武人は、眠い目を擦って寝返りを打った。
家に帰ってきたのは、言わずもがなの同居人だ。
実際には互いに家庭があるからそう上手くはいかないが、それなりに共に過ごせる日々を送っている。
けれど、最近はどちらも仕事で忙しく、時間的なすれ違いもまた多い。
特にかれは今、役者としての舞台が近くに迫っているため、こうやって深夜に帰ってくることも度々だった。
いちいち、何をしてきたかなど問いただすことはしない。武人は強く信頼しているし、そもそもそんな人間ではないことぐらいよくわかっている。
寂しい、と思うことも確かにあったが、その分傍にいる時はたくさん愛してもらっている。
傍にいさせてもらえるだけで幸せだと、そう思えた。
そして、こうしてベッドを共にしていられるのだから。
(・・・関さん)
耳を澄ませば、聞こえてくるのはシャワーの水音。
それは、布団を被れば聞こえなくなるくらいの微かな音であるのに、なぜかひどく胸に響いてくる。
俊彦がいる―――・・・それを実感できるその音は、
先ほどまで1人寝だった武人の心に高鳴りを覚えさせた。
ぱたり、とドアが鳴った。
布団に包まったままの武人には、俊彦の姿は見えない。武人は息を潜めた。
起きて、俊彦と話しても構わないのだが、なぜか寝ているふりをしていたい。
俊彦もおそらく、自分がとっくに寝ていると思っているのだろう、音を立てないように歩く気配を感じた。
俊彦が傍にいる。かれが自分を覗き込んでくるのに対し、
自分は息を殺して寝ているふりをする。
鼓動は高鳴るばかりだったが、必死に赤くなる顔を抑えて寝ているふりを続けていると、頭の上からふっ、と小さく笑う気配が降って来た。
2人切りの時、俊彦の自分を見る目はひどく優しい。
今もまた、そんな表情を自分に対して向けているであろうことを想像し、武人は暖かな気持ちになった。
俊彦といると、本当に幸せな気持ちになれる。
ずっと、こうしていたいと。永遠―――とは陳腐な表現だが、いつまでもこのままでいたいと思う心が確かに胸のうちに存在していた。
すっ、と俊彦の手が頭に触れてきて。
空気と同じ、温かな手に髪を梳かれ、武人は息を呑んだ。
起こさないようにひどく優しく触れるそれは、まるで愛撫のようだ。
それから、これまた武人を起こさないように、いつもの自分のスペースへと身体を滑り込ませる俊彦に―――・・・、武人はもう狸寝入りなどできなかった。
こんなに傍にいるのだ。自分からも彼に触れたかった。
ただでさえ、時間の合わないお互いなのだ。
けれど、自分は寝ていたからいいが、俊彦は今まで稽古で、やっと終わって帰ってきたのだろう。
疲れているのなら、休ませてやりたいという気持ちも、武人はあった。
そんなことを考えている間に、俊彦は布団を被り、武人の寝ている体勢を壊さないように、背を向けて、睡眠に入ろうとしている。
自分がぐっすり寝ていると思っている俊彦の態度は確かにありがたいものだったが、実際は眠っているわけでもなく、それどころか俊彦の存在に胸は高鳴り、眠気など吹っ飛んでしまっている状態だ。
せめて、おやすみの挨拶くらいはしたい―――。武人は目の前にある俊彦の背中を見ると、そのまま意を決したようにひとつ頷いた。

「―――っ!」
「おかえり、関さん」

唐突に後ろから抱きつかれ、俊彦は一瞬びくりと身体を強張らせた。
振り向くと、目の前にあるのはどこか悪戯っ子のような武人の顔。俊彦はやれやれと苦笑した。

「武人。ごめん、起こしちまった?」

俊彦のその言葉に、武人は首を振る。
自分のほうに向き合った俊彦の目はいつものように優しくて、武人はそれだけで嬉しくなった。
思わず手を伸ばすと、その手は俊彦の腕に捕らわれ、そのまま彼の胸の中に身体を抱き込まれる。
触れ合う体温に安らぎを感じた。

「もしかして・・・待っててくれた?」

眠れない夜。
俊彦が仕事で遅いのはわかっていたから、床についていたものの、
そういえばまともに寝ていなかった。
なぜなら、自分もまた、こうしてゆっくり寝ていられる時間が取れたのも久しぶりで。
明日は丸1日休みなのだ。無意識に、遅くまで俊彦を待ってしまっていた。
くす、と笑いが零れた。

「ただいま。武人・・・・・・」

自然に触れ合う唇に、武人は瞳を閉じた。
激しくもなければ、乱暴でもない。ただ、甘い感覚だけが武人の胸のうちに広がる。
もっと感じていたくて、自分から舌を差し入れれば、俊彦はそれをしっかりと受け止め、片腕を武人の頭に回した。

「っ・・・ふ、う・・・んっ・・・」

角度を変えて、キスを続ける。軽く触れ合うだけのキスで始まったそれは、気付けば体液を共有し合うほどに深いものへと変わっていく。
舌を甘噛みされ、痺れるような刺激が武人の下肢に走った。
ふと目を開ければ、間近に見える俊彦の顔。絡みつく視線に、胸の鼓動がより高まった気がした。

「関、さ・・・」

荒い息のまま男を呼ぶと、かれはくすりと笑いかけてきて。
前髪を掻きあげられ、そのまま俊彦は身体を傾けると、その場所に口付けた。

「明日は・・・休みだったよな?」
「そう、ですけど・・・でも、関さんが・・・」

夜遅くまで稽古をしてきて、また明日早くに出なくてはならないなら、
せめて短い時間でも休んで疲れを癒して欲しい。
武人の、自分を思う心を察して、俊彦は大丈夫だ、と微笑んだ。

「俺も明日は午後からだからさ。・・・それに」
「っ、は・・・ぁ・・・」

するり、と襟元に滑り込んでくる俊彦の手に、武人は思わず声を上げた。
薄い皮膚はかすかな刺激にもひどく敏感で、俊彦の掌の温かさをはっきりと伝えてくる。
見上げると、俊彦はきらきらと光る目で自分を見つめて。

「・・・抱きたい。武人・・・」

静かな声で紡がれるその言葉に、武人もまた熱い吐息を吐く。
自分そうであるのと同じように、俊彦もまた自分を欲してくれていた。その嬉しさに、武人は俊彦の首に腕を回す。
ぎゅっ、としがみつけば、俊彦もまた武人の心を知って、背に回していた腕に力を込めた。

「いいよな?それとも・・・眠たい?」

俊彦の言葉に首を振って。

「いいよ・・・僕も、関さんが、欲しい・・・」

肩口に顔を埋めてくる武人が愛おしい。俊彦は声を出して笑った。

「可愛いな。武人」

微かに染まった頬に口付けた。
ゆっくりと唇を滑らせると、行為の予感からか武人の身体が震えた。
だが、それは恐怖からではない。ひどく甘い・・・―――、幸福の予感だ。
胸元を這う指先が武人からシャツを取り去る。一瞬ひんやりとした空気が触れ、すぐに俊彦から与えられる熱に武人の身体は包まれた。
俊彦の愛撫は殊更に丁寧で、優しい。だから、すぐに身体が求めてしまう。
焦らされていないのに、焦らされているよう。早く―――と、知らず知らずのうちに口走ってしまう。
今日もまた、ゆっくりと首筋を降りてくる俊彦の唇に、武人はシーツに触れていた指をきゅっと掴んだ。
触れられてもいないのに、下肢が熱を帯びているのがわかる。
俊彦の存在は、それだけで自分を高ぶらせる。
感じているからか外気に晒された故か、既に立ち上がる胸上のそれを指先と唇で刺激され、武人は白い喉を仰け反らせた。

「あ・・・っ、関さ・・・んっ・・・」
「ああ、もうこんなにして・・・。嬉しいよ、武人」
「っ・・・」

不意に俊彦は武人の下肢へと手を伸ばした。
布の上からでもはっきりと誇張しているのがわかるそれを、俊彦は指で輪郭を辿るように触れていく。
昔は、男に触れられその部分を高ぶらせるなど考えられないことで、
自分がそんな反応をすることも、そして男を相手に声を上げるなどということも信じがたいことだったが、
どうやらそんな抵抗感もこの男―――関俊彦を前にすれば、ひとかけらもなくなってしまうらしい。
俊彦に触れられて、確かに羞恥もあったが嬉しいと思えた事。
そして、かれの傍にいて一番安らぎを覚える自分がいた事。
今はもう、それが自然になってしまった。
俊彦がいて、自分がいる。
かれも同じように思ってくれているのだ、これ以上の幸せはなかった。
俊彦の手がするりとズボンと肌の間に忍び込んできた。

「あ・・・っやぁ・・・」

上半身への刺激は休めていない。俊彦は飽きもせず武人の胸元に顔を埋めている。下肢への直接的な刺激ももちろん感じるが、それ以上に強く突起を食まれると全身が震えてしまう。
長年の付き合いで武人のそんな反応をよくわかっている俊彦は、そのまま歯で甘噛みする行為を続けたまま、下肢に纏う衣服を取り去らせた。
ぱさり、と床に服が落とされ。
俊彦の目の前に晒されるのは、一糸纏わぬ武人のその姿。
見下ろされる瞳に、武人は羞恥を覚えて横を向き、俊彦は薄闇に浮かぶ武人の白い肌に見惚れる。
男には似合わないかれの滑らかな肌は、上気し、女のもののようにしっとりと掌に吸い付くようだった。

「・・・綺麗だ」

意識もせずに洩れた言葉は、俊彦の本心。
嘘をつかない男だと知っている。ますます武人は羞恥心を募らせ、その視線にいたたまれなくなったかれは自分を抱く男の背に腕を回した。
伸ばした手に男の肌ではなく衣服が触れることが不満だ。
ぎゅっと俊彦の着ていたシャツを握り締め、それから武人は俊彦のそれを脱がしにかかる。
震える手が自分の服を脱がそうとしているのを感じて、俊彦は笑った。
からかうような、意地の悪い笑みを浮かべて、顔を覗き込む。

「性急だな?武人」
「だ、だって・・・・・・」

羞恥を煽る俊彦の言葉に、より頬を染めて。
けれど、動かす腕は止まることを知らず、俊彦は苦笑して彼と同じように全裸を晒した。

「武人」

晒した肌を触れ合わせて。
熱を持った肌同士が互いの想いを伝え合い、2人は鼓動を高鳴らせる。
耳元で囁かれる自分の名に、武人はごくりと喉を鳴らした。

「関さ・・・、っ・・・」

下肢で息づくそれに俊彦の指が絡み付いてきた。
武人は思わず息を詰める。敏感なそこは俊彦に握られるだけで快感を訴えてくる。
嫌なわけでは決してないのだが、無意識にシーツを噛んでいた手が俊彦の動きを阻むかのように下肢に伸びる。
けれど、俊彦もまたそんな武人をわかっていたから、切ない表情を見せるかれの耳の後ろに軽く口付けると、掌に包み込んだ武人自身を扱き始めた。

「あっ・・・や、んっ・・・」

快感に身を竦ませて、武人は俊彦を挟むように両膝を立てる。
慣れていないわけではない。だというのに、いつまでも慣れないようなそんな態度がおかしくて。
次第に濡れて来る手で激しい愛撫を与えてやりながら、俊彦は彼の首筋に唇を落とした。
印を刻むのはさすがに気が引けるし、武人にも悪いと思うから、
痕が残らない程度に歯を立てて。
くすぐったいような感触に武人は零れるような笑みを浮かべ、そして下肢から受ける強い刺激に熱い吐息を洩らした。

「すごいな・・・。もう、こんなになってる」

俊彦は嬉しそうに武人自身を弄んだ。
武人が、自分の愛撫で感じてくれている様を見るのが俊彦にとっては一番の喜びだ。
普段、決して見せない子安武人という男のもう一つの顔。
それが、自分の腕の中で、そして自分といるときだけ見せてくれるものだと実感できる瞬間。
俊彦は熱に浮かされたような武人の頭を撫でてやると、それから武人の下方へと身体をずらした。

「え・・・関さ」
「久しぶりだろ。・・・慣らさないと」
「・・・や・・・ぁ・・・!」

俊彦は武人の両足を上げさせると、そのまま下肢の奥へと唇を近づけた。
下肢の奥の奥。指先で触れると、無意識にかきゅっと入り口がきつく締まる。
いつも俊彦を受け入れるその場所は、今はまだ狭く、指を1本入れるだけで悲鳴を上げていた。
苦痛の色が、武人の表情に微かに浮かぶ。
武人もまた、予想以上の狭さに俊彦に申し訳ない気持ちにさえなった。
このままでは、愛する俊彦を受け入れることなどできやしない。

「力を抜いて・・・」

俊彦はそう言うと、入り口に舌で触れた。指先を射し入れたまま、慣らすように唾液でそこを濡らしていく。
武人はその感触に身を竦ませたが、俊彦の指が奥を目指して押しはいってくるのに、目を瞑ってそれを感じた。
体内に異物が侵入してくる感覚。だが、俊彦だから気持ちいいと思えてしまうのだ。
唾液で少しは滑りがよくなった内部を、俊彦はゆっくりと掻きまわす。
わかってやっているのかいないのか、時折爪先が武人の弱い部分に触れてくる。
その度に武人はひくりと身体を震わせ、下肢に埋めている俊彦の髪を握り締めた。

「あんっ・・・や、もっ・・・」

先ほどよりは慣れてきた内部を2本の指で拡げるように動かしてやれば、
息も絶え絶えな武人の懇願の声音が聞こえてくる。
奥を弄びながら同時に片方の手で武人の砲身を刺激していた俊彦は、その張り詰め、達きたいと先端から涙を流すそれを感じて顔を上げた。

「武人・・・・・・」

ゆっくりと内部に挿れていた指を引き抜く。内壁を擦る感触にひくりと身体を震わせ、武人は上半身を起こした俊彦の首に両腕を回した。

「前からで・・・いいか?」
「ん・・・」

きゅっとすがり付いて。
もう、どうでもよかった。ただ、俊彦のことを身体の深く深くから感じたい。それだけの感情が武人の心を支配していた。
そんなかれに、俊彦は軽いキスを落とす。
少しでもつらい思いをさせないようにと彼の背を腕で抱き締めて、それから俊彦はこちらも極限まで昂ぶった自身を武人のそれに宛がった。
一瞬先の痛みに武人が眉を寄せる。それと同じく緊張からその部分もきゅっと締まって。
俊彦は抱いた腕に一層力を込めると、そのままぐっと身体を寄せた。

「っ・・・!!」
「・・・武人・・・」

慣らしはしたが、それでも痛みが無くなる事はない。苦痛に眉を寄せる武人に、俊彦は唇を寄せる。
少しでも痛みを失くしてやれればと2人の間で息づく武人のそれを掌に包み込み、緩やかに刺激を与えてやった。
武人は俊彦にしがみついたまま、与えられる痛みと快感に溺れる。
同等の強さを持つそれに、しかしかれは恍惚とした表情すら浮かべていた。
俊彦に与えられる感覚は、もはや武人に悦びしかもたらさない。
武人の中で次第に痛みは薄れ、あとは深く重い快感だけが身体に残った。
浅い息を吐く。軽く唇を開けると、そのまま俊彦の唇が重なってきて。

「関さ・・・、んぅ・・・っ・・・」

深く口内を蹂躙されると同時に、ぐっと下肢に力が篭った。
中途半端に収まっていたそれを、俊彦が押し入れたのだ。思わず息を呑む。
だが、俊彦のものを全て収めた感覚は、武人に充足感をもたらした。
首にしがみついた腕に力が篭る。
―――離れたくなかった。ずっと、このままでいたかったから。

「・・・動くよ。」

唇を離して、俊彦は言った。
次の瞬間、内部が強く擦られ、背筋を走るぞくりとした感覚。
一度収めてしまえば後は慣れるだけだ。俊彦のそれから洩れる液体にも助けられて滑りのよくなった内部は武人により強い快楽を訴えてくる。
そして、俊彦もまた、武人の熱く絡みつく内部に自分を流されまいと軽く唇を噛んだ。
見下ろせば、熱に浮かされた武人の顔。
自分を受け入れ、そして気持ちいいと思ってくれる男のそれに、俊彦は知らず笑みが零れる。
抱えあげた足を一層広げさせると、より深くを求めて腰を打ちつけた。

「ああっ・・・は・・・あっ・・・」
「イイか・・・?武人・・・」

こちらもまた、荒くなる息を抑えて。
耳元で囁くと、その言葉に武人はこくこくと頷く。
もはや今ではもう抵抗なく自分を受け入れるそこに、俊彦はひどく煽られていた。

「関さん・・・っ・・オレ、もう・・・」

武人の懇願に、俊彦はああ、と頷いた。
自分も、そろそろ限界だ。俊彦は腹を濡らす武人のそれを指先で扱いてやる。
極限まで高められた武人自身は、俊彦から受ける刺激にもはや耐え切れずにいた。
全身に、何度も何度も快楽の波が押し寄せてきて。その度に、武人はシーツを指で噛んで、押し流されまいと唇をも噛む。
けれど、俊彦はそれすらも絡めとるようにキスを落とした。
懇願に、許しを与えるように。
深く、甘い感覚が武人の強張りを溶かしていく。
―――押し流されたい。確かに武人はそう思った。

「ああっ・・・イく・・・!!!」

一層、しがみつく力を強めて。
その瞬間、武人の内部の奔流が限界にあふれ出した。
俊彦の手の中と胸元に次々に吐き出されるそれを、俊彦は笑みを浮かべて受け止める。
達した衝撃でびくびくと痙攣する身体に、次の瞬間俊彦もまた眉を寄せて自分の欲を解放した。

「武人・・・」

ぐったりと自分に身を預ける武人を抱き締め、俊彦は笑みを浮かべた。
荒い息をつく彼の、汗に濡れる髪を梳いて。
そのまま布団に2人して包まったまま、長い夜は過ぎていったのだった。










気がつけば、朝になっていた。
カーテンの隙間から差し込む光に、俊彦は目を細める。
あのまま寝てしまったから、腕の中には武人がいた。
ひどく安らいだ表情。それを見下ろして、俊彦は知らず口元に笑みを浮かべる。
気持ちよく眠るかれを起こさないようにしてベッドから降り立った俊彦は、それから昨日のままにしていた居間を片付け、寝室以外の部屋のカーテンを開けた。

「いい天気だな・・・」

太陽の光が目に眩しい。
俊彦はキッチンへ向かうと、朝1番のコーヒーを淹れた。
カップに口をつけると、ブラックの苦味が舌に沁みる。次第にはっきりとしてくる頭には、睡眠時間としてはあまり寝ていないわりに眠気はなかった。
一通り部屋のことを済ませてカップを手にまた寝室へ戻れば、
まだぐっすりと眠りにつく子安武人。
結構な時間だというのに目覚めない武人に、俊彦は片手を伸ばして彼の頭を撫でた。

「まぁ、久しぶりだったからな。無理させちまったかな・・・」

そういいつつも、くすりと笑って彼を見つめる。
片手でコーヒーを啜って。
最近はあまりなかった朝の光景だ。俊彦は差し込むカーテンからの光で十分に明るさを保っている部屋を見渡してくすりと笑った。
たまには、こうやって。
ゆったりと朝を過ごしたいと思う。
もう一度武人を見やって、俊彦は呟いた。
2人は、毎日こんな時を過ごせているわけではない。
けれど、こんな幸せなひと時を2人で出来る時に紡いでいく。
それで十分じゃないか。
お互いがお互いを必要として、その結果としてこうやって傍にいること。
きっと、これからもずっとこうしていられるはずだ。
俊彦はコーヒーをサイドテーブルに置くと、そのまま身体を傾け、武人に唇を寄せた。







「好きだよ、武人」




END.




Update:2003/03/29/MON by BLUE

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