Ep.01 出会い



昔々、あるところに月の神様の力で繁栄を謳歌する世界がありました。
東にブルガス、南にフェイエール、北にケルンテン、中央にハルギータ、と四つの国によって統治されている
人々はコモネイルと呼ばれ、
月の神の代行者であるハイネイルの守護によって、
平和な日々を約束されていました。

しかし―――。

ある日、悪夢が襲い掛かりました。
突如現れたレオニードという男が、平和の象徴である月に鎖をかけ、大地につなぎ止めてしまったのです。
鎖により力の安定を失ってしまった月は、大地を腐らせ、モンスターを生み出してしまいました。
混乱の渦中の国々を更なる恐怖に陥れたのは、
レオニード―――闇公子率いる封印軍。
約束されたはずの平和は、一瞬にして崩れ去ってしまったのです。

けれど、神様はまだ、人々をお見捨てにはなりませんでした。
英雄があらわれたのです。
誰もが斬ることなど叶わなかった月の鎖を、見事断ち切ってみせたその男は、
名をシグムントといいました。
解放軍―――そう呼ばれる彼を中心とした一団は、
今もまた、次の鎖を断ち切るべく、旅を続けておりました。




Ep.01 出会い




「・・・腹減ったぁぁぁ・・・」

石作りの部屋に、なんとも間抜けな声が響いた。
ここは、封印軍の牢獄。
なぜか拘束されている少年はあまりの空腹に耐え兼ねたのか、鉄格子を叩いている。
仮眠のため机に突っ伏していた監視兵は、
五月蝿そうに顔をしかめた。

「あのー・・・、なんか食べ物を持ってきてもらえます?」
「はぁ!?囚人にやる食べ物なんかあるかよ。」
「でも、もう三日も食べてないですし、さすがに・・・」
「〜〜〜ったく、五月蠅ぇなぁ・・・それでもあの鎖を断ち切った人間なのかよ・・・」

げんなりと呟く兵士の態度に、少年のほうもまたむくれた。
そもそも、なんで捕まったのかがわからない。

「鎖を切った?ちがいます。武人じゃないです、芸人です。フルート吹きの癒しのカペル。聞いたことありません?」
「まったくねぇな。」
「そんなぁ・・・僕もまだまだだなぁ・・・とにかく、何か、食べ物・・・」
「やかましい!」

兵士は手をのばし、高圧電流の流れる槍を掴むと、
そのまま少年の腹を突いた。
不意に受けた激しい衝撃に、少年の身体が宙に舞う。
背中を壁にしたたかに打ち付け、
一瞬息が詰まった。

「ぐあっ・・・!」
「フン!光の英雄か知らんが、たかがガキじゃねぇか!・・・おい!」

身動きできないままうずくまる少年の前に、
複数の兵士が立ちはだかった。
牢の扉は開いたが、まさかこの状況で逃げられるはずもなく、
更に鉄靴で頭を押さえつけられる。
何故、自分がこんな目に合わねばならないのか。
全く身に覚えのない少年は、ただ与えられる苦痛に耐え続けた。

「どうやら仕置きが必要みてぇだな・・・」
「へっ・・・天下の英雄様をヤれるなんて愉しみだぜ」
「待て、これが公子様に知れたら・・・」
「顔さえ傷つけなけりゃどうにでもなるさ。おら、こっち向けよ!」
「っく・・・!」

髪を掴まれ、無理矢理顔を上げさせられる。
まさか、こんな所で男共に慰み物にされるなど想像もできなかった。
だというのに、現実はひどく残酷で、
抵抗するそばから欲望の満ちた手が身体を押さえつけてくる有様で。

「んぅ―――・・・!」

鼻先に突きつけられた欲の塊に、顔を顰めた。
逃げようと顔を背けたが、当然避けられるはずもなく、
無理矢理顎を掴まれ、乱暴な雄が口内を犯し始めた。
全身に広がる嫌悪感と吐き気。生臭い男のそれが喉に突き立てられる。
そうして奉仕を強要されたまま、背後から伸びる手が強引にボトムを引き下ろした。
年若い彼の、その柔らかな尻を鷲掴みにされ、
少年は悲鳴をあげた。もちろん、口は塞がれていたから、声は出ない。
涙が溢れた。
誰かにすがろうとして、誰も助けてくれないこともわかっている。
そもそも、根なし草で村や町を転々としていた自分がここに捕えられたとて、
誰が気づくだろう?
誰も、気付かない。気にする人間さえ、いないのだ。
そう、誰も―――

(・・・・・・っ誰か―――!)

放心したまま薄っすらと開いた瞳に、
青い影が映った。
次の瞬間、

「ぐあっ!!」
「うっ・・・・・・」
「がはっ・・・」

男たちの呻き声と、そうしてどさり、どさりと倒れ込む音。
何が起こったのか、わからなかった。
ただ、自分が自由になれたことだけはわかった。
見上げれば、大剣を携えた、黒髪の男が一人。振り向いたその顔が、あまりに凛々しくて。

・・・見惚れた。

「シグムント様!ご無事ですか!!」
「っえ・・・」

聞き覚えのない名前で呼ばれ、少年はぼんやりと男を見た。
気力を失い床に転がったままの裸の自分を抱き上げ、そうしてすぐさま薬を使い傷を癒していく。
見覚えのまったくない男だった。
だというのに、彼はなんのためらいもなく自分を介抱している。
男は、少年の身体にある痛々しい傷を目にして、
唇を噛み締めた。

「・・・ひどい・・・。申し訳ございません、俺が、早く助けに来なかったばかりに・・・」
「・・・・・・、君、は・・・?」
「シグムント様・・・?」

いつもの彼の反応とは違うと感じたのだろう、
男は怪訝な顔をして少年を覗き込む。
まさか、兵士らの暴行のせいで意識が朦朧としているのだろうか?

「あ、あの・・・助けてもらったことは、感謝します。でも、あの、僕・・・その、シグなんとかさんじゃないんですケド・・・」
「?何を言っているんですか、シグムント様?」
「だ、だから、僕はカペ・・・」

ビーーーーーーーー!!

「っな、何!?」
「・・・ちっ・・・もう気付かれたか・・・」

男は舌打ちをして、牢獄の外を覗き込んだ。
幸い、まだ包囲されてはいないようだ。急いで少年の衣服を着させて、
立ち上がらせる。
そして、落ちていた剣を少年に持たせると、男は口を開いた。

「・・・・・・」
「??」
「シグムント・・・様じゃないな。よくは、似ているが・・・。お前、名前は何という?」
「か、カペルです」
「俺はエドアルド。とにかく、話は後だ。他の奴らに捕まる前に逃げるぞ」
「っえ・・・!ぼ、僕も?いいですよ、痛いの嫌だし」
「何言ってるんだ。死にたいのか!?」

ぐっ、と腕を掴まれ、半ば強引に少年・・・カペルは脱走させられていた。
次の曲がり角を過ぎた瞬間、 
さらに大きな警報が鳴り響く。
そして、次々と兵士たちが立ち塞がった。

「ちいっ・・・!」
「うわあああああっ!!!!!」

エドアルドの大剣が閃いて、前の敵を蹴散らす。
カペルはわけもわからず剣を振るい、なんとか兵士たちを倒すことに成功する。
それを見て、エドアルドは少しだけ感心したように口笛を吹いた。

「・・・結構、上手いじゃないか」
「ぐ、偶然ですよ偶然。僕、戦うなんて、したことないし・・・」
「ほら、次も来るぞ!」

一人倒せばまた一人。次々に襲いかかってくる兵士たちをなんとか跳ね除け、
2人は上を目指して走り出した。
なかなか捕まらない脱走者に痺れを切らしたのか、
兵士たちは何者かを檻から出させる。
それは、人間の4倍もある巨体の・・・オーガだった。

「・・・あれは・・・」
「っ今は相手にしてられん!全速力で逃げるぞ!」
『逃げられると、思うなぁああああ!!!』

どしんどしんと、オーガが一歩前進するたびに、足元が揺れる。
この階段など、彼の体重では壊れてしまうのではないかとも思ったが、
悠長に考えていられる場合ではない。
後ろにはオーガ、前には弓兵。さらには木製のバリケードまで張り巡らされているのだ。
必死に上を目指すしか、今のカペルにできることはなかった。

「うわぁああああ!やめてよー!」
「ちっ・・・倒すたびに増えやがるぜ・・・っおい!」

今にもオーガの手にかかりそうになったカペルの腕を、
エドアルドの手が引っ張る。
間一髪、難を逃れたカペルは、そのまま男の腕にしがみ付いた。

「っ怖・・・」
「言ってる場合か!来るぞ!」
『おとなしくしろ!』
「っく・・・!」

このままでは、再度捕まるどころか、ここで死んでしまい兼ねない。
揺れる足元を必死に踏みしめ、とにかく剣を振りまわす。
次々に飛んでくる矢をすれすれでかわし、
気の遠くなるほどの階段を上り続けたその先に・・・

「見えた!あれが出口だ!」

ようやく地上への出口が目の前に現れ、2人は少しだけ笑みを浮かべた。
が、まだまだ安心してなどいられない。しかも、
牢獄の扉は固く、鍵なしでは到底開けられそうになかった。
背後には、迫ってくる敵。

「仕方ない!カペル、吹き飛ばされるなよ!」
「え、・・・ちょ、待っ・・・!」

エドアルドは、全速力で床に落ちている矢を拾い、敵陣に向かって投げつけた。
先には、脱走防止用の爆破樽。
矢が当たった瞬間、大きな爆発と共に、爆風が襲いかかる。

「うわっ・・・!!!」
「ぐあああああああっ!!!!!」

離れた場所にいた2人はまだ巻き込まれずに済んだが、
近くにいたオーガ達はひとたまりもなかった。
爆風で飛ばされ、そのまま階下へとまっさかさま。
しばらくして、下のほうで、ものすごい轟音が鳴り響いた。

「やった・・・!」
「よし、鍵も手に入った。逃げるぞ」
「よかったぁ・・・これでようやく、一安心・・・と・・・」

監獄の鍵を開け、ようやく外に出た、が・・・

「ちょっと・・・真っ暗なんだけど・・・」
「ああ。夜だからな」
「これで追っ手から逃げ切れるわけ、なくないですか・・・?」

どこかで、狼が鳴く声がした。
きっと、封印軍が自分たちを探しているのだろう。
このグラード監獄は、深い森林の奥に作られている。 
ということは、当然のごとく、森林にも監視の兵士たちがいるわけで・・・。

「五月蠅いな。仕方ないだろう!日中に侵入するほど危険なことはないんだ。
 それに、お前みたいなへなちょこと一緒だとは思わなかったからな。ったく予定外だ!」
「自分で助けて置いて、そんな言い方ないでしょう!?」

現状も忘れて言い合いを続けていた2人だが、
さすがに大声をあげては危険だということを思い出して沈黙する。
しんしんと更ける闇。
視界はほとんど効かない。だが、だからといってここで一晩を過ごすわけにはいかなかった。

「・・・・・・先に小さな明かりがある。それを目指して進むしかない」
「うう・・・やっぱり、敵、いるんだよね・・・」

とりあえず難を逃れた2人は、
更に追っ手の届かない場所へ逃げるべく、
暗闇の森の中を進むのだった。





...to be continued.




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Update:2008/11/05/SAT by BLUE

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