Ep.03 逃走者



「呪いだって!?」

皆はそれぞれに驚いた顔をした。
前回のヴェスプレーム攻城戦で、確かに解放軍は大きな痛手を受けた。
闇公子レオニードと直接対決したシグムントはあと一歩のところまで追い詰めるも、
解放した彼の月の力の前に敗れ、
仲間たちもまたかなり深い傷を負った。
だが、あれから十分日も経ち、完全回復に近い状態にまで戻ってきたはずだ。

「月印を使った一種の呪いだよ。―――これじゃ、僕の月印ではただ傷をふさぐことしかできない。
 根本的な治癒ができないから、また傷が開いてしまう・・・」
「どうすんだ!?こんな状態のコイツをプレヴェン城につれてくってのか!?」

バルバガンは真面目な顔でシグムントに問うた。
相変わらず、シグムントは無表情のままだ。
苦しげに呻くエドアルドを、冷静に見つめている。

「じゃあ、治せるところに向かいましょう!」

耐えかねて、カペルはシグムントに訴えた。
だが、シグムントは何も言わない。変わりに答えたのは、
周囲に集まる仲間たちだった。

「俺たちの目的は“蒼の鎖”の破壊だ」
「だから?」
「この国の民は消耗しきっている。これ以上、鎖の破壊を遅らせるわけにはいかない」
「仲間なのに、見殺しですか?」」

皆のあまりに冷たい反応に、カペルは耳を疑った。

「俺達には時間がない。だが、こいつを戦場まで連れてけってのか!?」
「そんなことをしても、エド君が傷つくだけだ。」
「・・・シグムント、様・・・俺は、大丈夫です・・・置いていってください・・・!」

エドアルドはなんとかそうシグムントに告げた。

「そんな・・・」

確かに、この男にはついさっきまで散々怒鳴られたし馬鹿にされたし、
正直気に入らないといえば気に入らない。
けれど、あの牢獄での悪夢で見たエドアルドは―――。
自分にとって、救世主のようにも思えたのだ。
たとえ勘違いであろうと、あのまま見捨てずに一緒に逃げてくれた。
今考えれば、あのまま自分が大人しく捕まったとて、命の保証どなかったはずだ。
それを、リスクを覚悟で自分を連れていってくれたこと。
カペルは覚悟を決めた。
このまま、エドアルドを見捨てることは、自分にはできない。

「・・・この近隣に、モンタナという村がある」
「ああ、確か・・・ブルガスの聖獣に縁の深い村だったと・・・」
「エドアルドをモンタナ村まで連れてゆき、治療する」

シグムントの意外な言葉に、皆は驚いて彼のほうを見た。
まさか、鎖の破壊を一番に考えているはずの彼がそんなことを言いだすとは思えなかったのである。

「おい、シグムント。僕たちにそんな時間は・・・」
「カペル君。君に連れていってもらいたい」
「なっ」

ユージンの言葉も聞かず、シグムントはカペルに告げた。

「シグムント!?本気か?!」
「そうですよ、僕1人じゃ無理・・・!」

口々に反対する周囲に、しかしシグムントは取り合わない。
それどころか、しっかりとカペルを見据えていて、
少年は心持ち身を引いた。

「君を信用している。エドアルドを任せる。」
「こんなひよっ子にエドアルドを任せられるわけがねーだろう!」
「・・・断らないだろう?君は」
「う・・・」

心の中を見透かされた気持ちになり、
カペルはうつむいた。
皆の気持ちは決まっているのだ。村まで引き返す時間もなければ、城へ連れていくこともできない。
だが、自分ならばー。
解放軍に属していない自分ならば、自由な身だ。
なにより、シグムントが暗に言う通り、自分は彼を見捨てることなどできない。

「・・・そうですね。僕、行きます。モンタナ村に」
「おい」
「悪いね・・・。うちの大将は、この通り身勝手でね。よろしく頼む。」
「これを持って行くといい」

覚悟を決めたカペルの前に、シグムントが差し出したのはエンブレムソード。
蒼い刀身に、豪奢な装飾が施されたそれは、
一目見ただけで業物とわかる。

「い、いりませんよ・・・剣なんて・・・」
「ブルガス王から授かった剣だ。王家の紋章が柄に彫り込まれている。身の証だ」
「で、でも・・・」
「使うかどうかは君の自由だ。不要だ思えば、使わなければいい」

確かに、どこの馬の骨かわからない人間が助けを求めたところで、
誰も協力してなどくれないだろう。
だが、シグムントの私有物を預かっているとなれば話は別だ。
けれど、顔が似ているというだけで封印軍に捕まった少年がこれを持っていては、
更に狙われ安くなるのではないか・・・?

「うーん・・・わかりました」
「エドアルドを頼む」
「はい」

シグムントはカペルの肩に手を置くと、頷いた。

「そうと決まれば明日早朝に出発するぞ。皆、ゆっくり休め」
「おう」
「わかった。頼むよ、カペル君」
「は、はい・・・」

手にエンブレムソードの重みを感じながら、
カペルは憂鬱だった。










「・・・ち、くしょー!なんで皆襲ってくるんだよっ!」

翌朝。
出発してすぐさま、カペルは涙目になりながら叫んだ。
一応、モンタナ村の分かれ道まではシグムントたちが護衛をしてくれているため、
攻撃を受けることはなかったが、
何故かほとんどの敵がカペルだけを狙ってくるように思えるのだ。
別に、シグムントたちを信用していないわけではない。
けれど、迫って来られれば逃げたくなるのが人間の性というもので。
エドアルドを抱えたまま、カペルは右往左往する羽目になっていた。
しかし―――。
そんな危険がただの序の口であることを、カペルはすぐに知った。
ルセ平原―――。
モンタナ村へ向かう道中の平原で、カペルは世にも恐ろしいものを見た。

「・・・こんなの聞いてないよ・・・」

龍だった。しかも昨晩話題にしたばかりの聖獣、青龍そのもの。
しかも、何故かカペル目掛けて炎を吐いているのだ。

「次から次へと・・・。しかも、かるくなにかに取りつかれてない?!」

混乱しつつも、カペルは必死に走った。
ふりむけば、草原が火の海と化している。これは休んでなどいられない。

「うわぁっ!やばい!」

青龍の動きにばかり気を取られ、ふと目の前を見遣れば、
ランバー・シューターがいままさに弓を放とうとしていた。
カペルはあわてて逃げ出したが、
その瞬間、

ドゴオッ!

「ぴぎゃあああす!!」

物凄い轟音と悲鳴が聞こえた。
自分を狙ったはずの火球が、ランバーに直撃したのだ。

(ご愁傷様・・・)

カペルは少しだけ申し訳ない気持ちになったが、
背に腹は変えられない。壊れた柱の陰に隠れ、またランバーやコブラなどのモンスターを盾にしながら、
ひたすら駆け抜ける。

(めちゃくちゃだよぉ・・・見境なしに襲ってくるし・・・)

距離としてはそれほど長くない。しかし、今のカペルには何キロも離れているように思える。
エドアルドも心配だし、こんなところでもたもたなどしていられない。
何より、早くこの恐怖から逃れたかった。

(やった!やっと入り口・・・)

なんとか青龍の攻撃から逃げ延び、安堵したカペルだったが、

「そこまでだ!」
「え?!」
「この村一番の獣使い、ルカ様に見つかったからには、リャクダツなんてさせないぞ!大人しくオナワにつけ!」
「略奪・・・?ぅぇえええええ!?」

やっとたどり着いたモンタナ村で、
カペルはまたもや窮地に陥る羽目になったのだった。




...to be continued.




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Update:2008/11/06/SUN by BLUE

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