沈黙



夢を、見ていた。

脳裏を過ぎるのは、かつての自分。
友がいて、仲間がいて。
崩壊寸前だった国を立て直すために、
広大な世界を旅してきた。

追う者と追われる者。確かに、ラクな旅ではなかった。
幾度となく死の危険にさらされ、
数多の犠牲を眼前に晒し、
手に入れたのは、

―――クリスタル。

どくり、と心臓が鳴る音がして、
ヴェルサスは目を開いた。
眠りを妨げる、雑音。もうすでに耳慣れたその音に、
彼は重い腰を上げる。

そのまま、ヴェルサスは無造作に気配のするドアの外へと足を運んだ。



かつての、
あの長い旅路の果てに、
自分は何を得たのだろう?

背後には、何も応えることのない、かつての平和の象徴。

それまで王族の守護の元、安寧の眠りについていたクリスタルは、
国が崩壊し、その身の危険が迫り、
ようやく焦ったようにその力を行使したが、
時は既に遅く。
力を失う寸前のクリスタルは、
けれどその最後の力を振り絞って、
新たな守護者を探した。
国は滅び、民は死に絶え、神殿にはかつての守護者であった
王族たちの血の跡。
そんな中、ひとり、立ち尽くしていた存在。
クリスタルは、使命を与えた。
自分を守る、使命を。

かくして、青年は生命の輪廻から切り離され、
永い年月をクリスタルの守護者として生きることとなる。

だが、迷いはない。

「これは、俺たちの意志―――。そうだろ?クリスタル」

胸元で光る、3つの石。
かつての友は、既に居ない。あの戦争で、皆、死んでしまった。
皆、自分に想いを託して死んでいった。
青年はそれを背負って生きてきた。

国を建て直し、再びクリスタルを取り戻し、あの繁栄の時を取り戻す―――。

もはや、夢すら滅びた。
あの繁栄の日々を見ることは、二度とないだろう。
目を閉じれば、
陽の光を眩しいと感じ、暖かいと感じられた、あの平和な日々が蘇るけれど。
あの時は、もう、戻らない。
国の名など、とうに忘れた。今の自分は、
王族でも、王子でもなんでもない。

ただの、守護者。

死んだようなクリスタルを、自分のためだけに守る、

エゴイスト。

そして、今もまた。

「待ってろ、クリスタル―――。この聖堂には、一歩も入れないさ。ただし、」

外はどんなになっても、保証しないけどな。
青年は、少しだけ口の端を持ち上げた。










毎回毎回、見るたびに思う。

一体、自分と、自分が守るあの役に立たないクリスタルのどこに、
これほどの人員を裂く必要があるというのか。
ヴェルサスは、小さく口笛を吹いた。
眼前には、蟻1匹入る隙間がない程に敷き詰められた、
鎧人間の大群。
別に、人を殺すことが好きなわけではないのに、
やれやれ、と溜息。
強いて言うならば、面倒だと思う。
何人来ようと、何百人で来ようと、
聖堂に足1本触れられないことがわかっているだろうに。

―――懲りない奴ら。

だが、青年は外の世界を知らない。
外の世界がどんなに荒んでいて、
どれほど平和の象徴とされるクリスタルを欲しているか、
わかるはずもなかった。
だが、わかったところで、
ヴェルサスには、このクリスタルを手放す気はない。

かつての、クリスタル争奪戦がどれほど醜かったかを、
青年は目の当たりにしてきた。
国一つが滅んだ。
何千、何万という命が失われた。

もう、悲しみを繰り返すべきではない。

それが、今ではたった1人となってしまった『国』の意志なのだ。

だから、

「もう・・・終わりにしよう」

一斉に銃を向けられ、
青年は呟いた。戦う決意。瞳がルビーの様に色を成す。

守護者となった青年に、
クリスタルが与えた力は、計り知れないものだった。
ときどき、青年自身すら恐ろしくなる。
まるで、血に飢えた獣を体内に飼っているような。衝動のように、人を殺す自分にはたと気づく。
手をかざせば、意志に応じて現れる剣。
それを手に取れば、
また己の中の獣が目覚めるのだろう。
青年は少しだけ躊躇った。

だが。

その瞬間。

足元の階段に向けて、銃声が響いた。
一度聞いたと思ったら、途端に立て続けに聞こえてくる騒音。
時折、自分に向かい軌道を描くものもあった。
無論、青年の身を傷つけるはずもなかったが。

けれど、そのかわり、

『何か』が、目覚めた。

「っぐ・・・!」

ドッ、と鈍い音を立てて、1人目の男が床に倒れ込んだ。
どくどくと溢れる鮮やかな赤。それが、腹の中心にぱっくりと開いた穴から溢れていることに、
後ろの兵士は数秒遅れて気づく。
死は、あっけなくやってきた。
見渡せば、兵士達は数百人に上るだろう。
だが、そのほとんどが、ものの数分のうちに血祭りに上げられる。

誰も目で追うことのできない身のこなしの中で、
ヴェルサスは気に入りの剣を振るっては、汚した血を一振りで払い、
また次の獲物を捕らえていた。

青年の息が上がることはない。
既に、数百年の時を生きた。人間、という枠に収まらないことくらい、
自分でもわかっている。
バケモノ?それは少し当たっている。
ただ、わかることといえば、
かつての友を想うときだけ、自分は『人間』に戻れた。





「―――早かったろ?」

ギィ、と音を立てて、ヴェルサスは聖堂へと戻った。
瞳の色は、既に先ほどの赤はない。落ち着いた、柔らかな夕焼けの色。
また、いつもの椅子に座る。
居心地は大してよくない。ただ、背にはクリスタル。

「・・・おいおい、守ってやったんだから、礼くらい言えよ。」

瞳を閉じる。
背もたれに身を預ければ、
クリスタルに寄り添っているような錯覚を覚えた。

冷たい、けれどどこか暖かな、空間。
それは、きっとこの場所に、かつての皆の意志が残っているからだと
ヴェルサスはぼんやりと思う。

今は、独り。

けれど、多分、孤独ではない。

見上げれば、クリスタル。
力も持たない、言葉も紡げない、ただの置物のようなクリスタル。
けれど。

「ま、いいや。」

沈黙したままのクリスタルに肩を竦めて。
ヴェルサスは再び、クリスタルと共にまどろみの時を貪った。





END











・・・ぶっちゃけ主人公は孤独じゃないんだよね、マジでw
でも、あの動画では王子が『人柱』として永遠の代、クリスタルを守り続けていく、
その決意みたいなものが窺えました。
思い出は思い出。
でも、クリスタルを守るために"ここ"にいる。
それは、孤独だからじゃない、自分の、そして皆の意志。
そんな雰囲気がいいなぁ。

というわけで、ものすごーーーーーーーーーーく捏造ワッショイ!!!!!
人間じゃないとか数百年生きたとか超捏造。
しかもあの場面が仲間達と生きた後だってのも捏造。


ていうか、王子の名前って何よ!?

もう最近ヴェルサスヴェルサス言ってるから、
もう、めんどい!
デフォルトをヴェルサスにしちゃいます。
でもブログとかでの呼称は相変わらず王子ってことでw






Update:2008/01/27/SUN by BLUE

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