愛のカタチ



ほとんど意味のない、動物的な欲望を満たすべくセックスをしていた。
相手は、自分の部下の年下の男だ。
自分をひどく尊敬しているらしく、興奮した様子で話をしていたので、少し本音らしいものを見せたら食いついた。
彼の本音を聞き出すのは非常に簡単で、自分のことも性的に見ていることも察したから、
一度限りでよければ、と嫣然と微笑んで誘った。
もちろん、深夜が一度切り、と言ったところで、相手がそれで満足して関係が切れるかと言えばそうでもなく、
深夜もまた、身体の相性が良ければまた誘うこともあったから、
最近深夜が相手をしている男は数人ほどいた。
誰がより好きだとか、誰が本命だ、ということも特にない。単純にセックスがしたくなれば、
適当な相手をそこから探して、大抵は自分がその男の部屋に行く。
自分の部屋を許したことはなかった。
自分の私室に入ったことがあるのは、ときに強引にやってくる中将の兄と、そしてもう1人だけ。
己の心に立ち入らせることはほとんどなかった。
快楽に酔わされながらも、深夜はギリギリの所で理性を手放さない。
そして今夜も、そんな仮初めの恋人じみた関係を持ったばかりだった。

「・・・ん、」

ケータイの振動が鳴っている。
熱に浮かされたまま、ぼんやりと毛布の手触りを楽しんでいた深夜は、
何気なくベッドの下に投げ捨ててあった己の軍服に入れてあったそれを手に取った。
見慣れたメールアドレス、深夜は少しだけ顔を顰める。
先ほどまで目合いあっていた男は、シャワー室で尚も音を立てている。
ちらりとそれを横目でみてから、深夜はケータイ画面をスライドさせた。

(・・・グレン)

珍しい。彼から連絡を入れてくるのは本当に稀で、しかも大半が仕事の要件だ。
内容を開くと、どうやら用事で渋谷に来ているらしい。
拠点を新宿に置いている『月鬼ノ組』の指揮官である彼が渋谷に足を運ぶのは、会議の時か、
基本、本人が嫌がるような用件の時だけだ。
だから大抵彼はイライラしていて、そんなかれをからかうのを、深夜は至上の楽しみにしているのだが、
こうして彼のほうから連絡してくるのは本当に珍しかった。

「・・・部屋に行く、とか・・・ほんと身勝手」

苦笑してしまう。
自分が今どんな用事で、もしかしたら渋谷にすらいないかもしれないのに。
彼はそんなこと考えもしないのだろうか。
こうして強引に押しかけては、一夜の宿を確保しようとしているらしい彼に、深夜ははぁ、と溜息をついて身を起こした。
その表情は柔らかい。
深夜にとって、グレンは特別の存在だ。
唯一無二の存在だったし、戦場に出る時は彼の片腕でありたいと日々腕を磨いているつもりだ。
一時は身体の関係だったこともある。恋愛感情がないのかというと、それは嘘になるだろう。
ただ、少なくとも今は、恋人同士ではなかった。
彼が今、誰を愛しているかなんて、知らない。自分ももちろん言わない。それは暗黙の了解ということになっている。
男の精で穢れた己の身体を、濡れたタオルで拭う。余裕があるなら、自分の部屋で身を清めたかったが、
きっとあまり時間はないだろう。
彼が連絡を寄越すのは、いつも直前だから。
床に散らばっていた己の衣服を身に着けて、足早に部屋を出る。
勿論、男には声をかけない。そこまで気を遣う余裕は自分にはなかった。
どうでもいい。





自分の部屋は、渋谷本隊の官舎、その中でも上階の、幹部専用のフロアにあった。
足早に部屋に向かうと、部屋の前には既に人影。
一瀬グレン。
柊家を嫌っている彼がこんな場所にいるなんて奇跡みたいで、
深夜は思わず笑ってしまった。

「早かったね」
「どこ行ってたんだよ」
「僕だって暇じゃないんだよ?お付き合いとかいろいろあるの」
「・・・男の匂いがするな」

グレンの言葉に表情が変わる。けれどもちろん動揺するつもりはなかった。
こんな事、いつものことだ。
自分が他の誰と関係を持っていようと、今の彼には関係ないのだから。とがめられる筋合いもないし、
咎められたくもなかった。第一、彼だってきっと、今は誰かを愛しているのだと思う。
自分と違って彼は異性もいけたから、女子たちにウケのいい彼の好みの女の子がいてもおかしくなかった。

「それは言わない約束でしょ、グレン」
「・・・そうだった」

深夜がドアを開けると、グレンは勝手知ったる顔で深夜の部屋に足を踏み入れる。
彼こそが、兄以外で、唯一自分の部屋に入れたことのある存在で、
昔は寝室で欲望のままに情事に耽ったこともある。少しだけそれを思い出して、深夜は目を細めた。
どかりとソファに腰を下ろして、テーブルに足をあげて。
そうして軍服の胸元を寛げて、適当に上着を放る。何の用事か問えば、
早朝に上層部に呼び出しを食らっているという。
新宿地下での実験施設で、最近貴重な吸血鬼のサンプルを数匹、実験の失敗で死なせてしまい、
それの御咎めと弁明のためらしい。まったくなんで俺が、とぼやいているが、
そもそも管理責任者は彼である。
であるならば、責任追及を受けるのも当然だろうに。

「おい、酒」
「いきなり押しかけてきといて、それ言う〜?」

お家訪問なら、そっちからワイン1本くらい持ってきてくれてもいいんじゃないの、と唇を尖らせながら、
ガラスケースからとっておきの年代物を取り出す。
元々、酒は嗜む程度にしか飲まない。だから、深夜の部屋にある酒は、大半が観賞用だ。
コポコポと2つのグラスに液体を注いでいく。
今日は琥珀色に輝く色合いのコニャックだった。度数の高いそれを、
グレンは一気に煽る。
やはり彼は少しイラ立っていて、そんな彼の隣に、深夜も座ってグラスを口に付ける。
情事の後のけだるい身体は、アルコールをすんなりと受け入れる。
軽い眩暈と、頭の芯が熱くなるような感覚。
特に交わす言葉もなく、時間が過ぎる。これがグレンの部屋ならば、
ジャズの一つもかかっていただろうが、いかんせん深夜は音楽を聴く習慣がなかった。
今の時代にテレビすらないから、深夜が部屋で過ごすときは、大図書館から借りてきた小説本を嗜んだりする。
けれどそれも、1人で過ごす時だからである。
グレンの傍で、なんとなくちびちびと酒を飲んでいると、
ふと、グレンの腕が己の身体を抱いてきた。
顔は相変わらずつまらなそうな顔。微かにそっぽを向いていて、深夜はくすりと笑う。

「どうしたの、グレン?ご執心の彼女にでもフラれちゃった?」
「・・・・・・」

そう言ってからかうが、グレンは表情を変えぬまま、深夜の胸元に顔を埋めてくる。
普段、こうやって無防備に甘えてくれる彼ではないだけに、少し戸惑う。
よほど疲れているのだろうか?
柔らかなクセっ毛を撫でてやると、グレンはそのまま両手で彼の身体を抱き締めてくる。

「・・・―――なぁ、深夜」
「・・・だーめ」

猫なで声で自分の名を呼ぶグレンに、深夜はゆるゆると首を振った。
苦笑する。
グレンが言いたいことは、なんとなくわかる。
こうやって甘えてくるときは大抵、彼が自分とのよりを戻したいと思っている時で、
深夜は控えめに彼を押し戻して、唇を引き絞る。
少しだけ、酔いが冷めた。
彼との関係は、終わったのだ。今はたまに身体を重ねても、ただの性衝動の処理の延長線上でしかなかった。
愛を紡ぐような、濃厚な空気を帯びた関係はもうまっぴらで、
深夜は窘めるようにの身体を引き剥がす。
グレンのアメジストの瞳が、何か言いたげに揺れた。
なおも食い下がろうとするそれに、深夜はもう一度、だめ、と首を振る。

「君のことは好きだよ。今でもね。
 ―――でも、もう恋人のような甘い関係になるのはごめんだよ」

グレンは、何も言わずに、深夜の肌を探る。
軍服の下、素肌に皺のついたシャツを羽織っただけの深夜は、明らかに別の男に抱かれた名残を残していて、
肌がじっとりと濡れている。グレンが掌を這わせると、まるで吸い付くよう。
胸元の飾りに指が触れて、アッ、と甘い声が漏れる。
肩口に額を押し当てたまま、指先でつまむように刺激すると、深夜の身体は明らかに震えた。
男に抱かれ慣れた身体。自分をこんなカラダにしたのは、明らかにこの目の前の男で、
彼の愛撫に、自分が抵抗できないことも知っている。
だが、それでも、
深夜にとってグレンは、もはや恋人ではない。
終わった関係だった。
自分が終わらせた。あの時深夜は一方的に、彼に別れを告げた。

「俺は、お前のことをまだ、愛している」
「・・・知ってる」

くしゃりと顔を歪ませて。そうして笑う。
愛している。そう、だからこそ。
だからこそ、彼の傍にはいられなかった。彼が自分を愛して、そして自分も愛して。
相思相愛の関係。それはまるで奇跡のようだ。
グレンが自分を愛する理由なんて、これっぽっちもないのに。
それなのに、グレンは自分を愛している、と言う。
大切だと、守りたいと、そう告げる。それはひどく真摯で、胸が高鳴った。そうして絆されて、身体の関係を許した。
ただ傍にいるだけでは足りなくて、深い場所まで繋がって、息をついた。
自分は彼の一部で、彼もまた自分の一部だと。そう思えた時期もあったかもしれない。

だが、それは明らかな間違いだ。

ゆっくりと唇が重ねられる、濃厚な口づけ、はぁはぁと息が上がる。
グレンの舌遣いは、深夜が今関係を持っている誰よりも上手い。たっぷりと熱い唾液が流し込まれてきて、
目を開けていられずに深夜は瞳を閉じた。グレンの肩に縋るようにして爪を立てる。
衣服の上から、ぐっ、と押し込む。肌にまで傷をつけるように。痛みは快楽を呼ぶ。グレンの指先もまた、深夜の乳首の先端に爪痕を残していた。電流のように下肢に走る刺激。己の雄が熱を持つのがわかる。
まったく、浅ましい身体だ。
さきほどまで、散々、こういった情事に耽ったというのに。
しかも、他の男の下で。

「・・・まったく。グレン。君は本当にひどい男だよ」

歌うようにそう告げて。
ソファに押し倒して、体重をかけてくる男に、深夜は思わせぶりに下肢を押し付ける。
グレンのそれもまた、当然のように勃起していた。
欲情しているのだ。
上気した頬、酒を飲んで、少し機嫌直ってきたのかもしれない。
服の上から、ぐりぐりと押し付ける。
別に、セックスを拒むつもりはない。拒むのは、彼の真摯な言葉だけ。

「僕が君を愛していた時、どれほど僕を苦しめたか・・・君は覚えてないの?」
「・・・深夜」
「僕と君は、違う」

強い光を帯びた瞳で、彼を射る。グレンはそれを直視できずに目を逸らす。愛撫は止まらない。
はだけた胸元に、グレンは口づける。
乳首を摘むようにして刺激を与えながら、下腹の鍛えられた筋肉の痕を舌で濡らす。
もう片方の手は、深夜の片足を広げ、持ち上げている。
中途半端な性器がグレンの眼前に晒される。そうして、更に奥は、男に犯された証の白濁が、
未だ深夜の呼吸に合わせて漏れてくる。
それを見て、グレンは顔を顰めたが、もはや何も言わない。
ぐちゅりと、既に濡れた音を立てるソコに、グレンは指を突き立てた。
1本、2本、3本。
簡単に指を呑み込むそこは、柔軟に収縮して、再び男を待ち望んでいる。

「俺は、お前を特別な存在だと思っていた」
「っは、僕が・・・君のトクベツ?」

笑うしかない。確かに、自分にとって、彼は特別の存在だ。
それは文字通り特別で、例えば深夜は、グレンのためならばなんだってするだろう。
彼が命令ならば、何だってする。勿論、間違った提案ならば訂正するが、彼の望むことならばなんだってできた。
非人道的な行動だって、彼を守る為に誰かを犠牲にする必要があるならば、
迷わず深夜は犠牲にするだろう。
それくらい、深夜にとってグレンは大切な存在だった。
だが、グレンは。

「僕は、グレンの為なら何だってできるよ。
 今だってそう。―――君が望むなら、大切だったこの命だって投げ出すことができる。
 でも、君は違うでしょ?」

下半身の、中途半端に持ちあがった深夜自身を、グレンの長い舌が舐め取る。
舌を絡めて、たっぷりの唾液を塗りたくってぬらぬらと光るそれを、喉奥へと誘う。
身体がぶるりと震えた。
どの男にされるよりも、陶酔感がひどかった。
惑乱される。
頭が真っ白になり、ふわふわと宙に浮いたような感覚。ぎゅ、とグレンの髪を握り締めれば、
グレンの舌遣いが力を増す。
みるみるうちに飽和して、深夜の雄が目いっぱいに膨れ上がるが、
グレンは更に奉仕を続けるばかりだ。
くちゅ、と音を立てて、グレンの指先が深夜の秘部に呑み込まれていく。

「君の大切は、僕だけじゃない。
 仲間だって、部下だって大切だ。僕なんかより、もっと一杯、慕ってくれる仲間がいる。
 人望、っていうのかな。きっと君は、僕だけじゃなく、そんな彼らのために命を掛けて戦ってくれるだろう?
 かっこいいよね、グレン」

その声音は、ひどく悲しい。
時折泣いているかのように口元が震える。そんなお前はかっこいい、と賞賛するわりに、
表情がついてこない。深夜の顔は、既に泣き笑いの様相を呈していた。
瞳にはこぼれんばかりの水滴。
だがグレンは気付かない。
深夜の雄への奉仕を続けている。深夜はくすぐったそうに膝を持ち上げて身を捩る。

「でもあの時の僕は、君のトクベツになりたかった。
 ただ守りたい存在、仲間、そんなレベルじゃない。君にとっての、唯一無二の存在に。
 だから、身体を開いた。堅物な君は、なかなか身体なんか許さないだろうから、
 君と関係を持てば、少しは君に近づけるかもしれない、そう思った」

指が、根本までじわじわと侵入を果たしていく。
散々男根を受け入れた個所は、簡単に指3本を呑み込んでいて、グレンが拡げると、ねとりと糸を引くのがひどく卑猥だ。
ナカは真っ赤に充血している。それを見やり、目を細めてグレンは内部をじわりじわりと犯していく。
深夜は甘い吐息を吐いた。
熱いそれに混じる、鼻に掛かったような卑猥な声音。
女のような。女が誘うようなその色香に酔わされそうになる。
グレンが深夜と別れて、深夜は更に妖艶になった。少年っぽさが抜け、大人になった。物静かな雰囲気と、ミステリアスな空気。一見近寄りがたいようでいて、けれどそのくったくない笑顔は、人々を魅了した。
自分だって、思わず魅入るほどだったのだから間違いない。
深夜は一段と美しくなった。
しなやかな腕が、顔を上げたグレンの首に絡みつく。

「でも、違ったよね。
 君の愛は、誰か個人に向けられるものじゃない。部下、仲間、同志、そういった括りの中で、
 等しく与えられるものだった。そこの中には僕だっていたけど・・・僕は、」

それじゃ、満足できなかったと。
自分だけを見て欲しかったけど、そんなことは君にはできないよね、と苦く笑って、
そうして深夜はついに、涙を零した。グレンへの思慕は本物で、今じゃ呆れてしまうほど。
自分の彼に対する温度と、彼の、自分に対する温度とはまるで違っていて。
それが、ひどく悲しかった。虚しかった。
彼がまともな恋愛ができなかったのは、幼い頃から、いずれ当主とならねばならない重圧が、
彼自身の我が儘な感情を押さえつけてきたからだ。
部下を、仲間を、同志を。
守り抜く。
それが彼の行動指標の全てであり、生きがいだった。
覆せる人間なんていやしなかった。

「それが辛かったから、別れたのに。それでも今も、僕を求める理由はなに?」

哀しく、儚げに笑う深夜に、グレンは痛々しげな表情を向けた。
何も言わずに、親指の腹で深夜の目尻を拭う。もう一度唇が重ねられて、今度は激しい口づけではなく、
唇を味わうような、啄むようなキスだった。間近で、視線が絡み合う。
重ねるだけのそれは、何度も角度を変えて、吸い付くような音を立てた。優しく、甘いキス。グレンはどうしようもなく優しかった。
見境がないのではないかと思うくらい。
特に泣いている人間にはひどく敏感で、なんとかして癒してやりたいと、
誰だって腕に抱いていた。
今もまた、グレンは深夜の身体を強くかき抱いた。
膝を立て、両足の間に男を挟み込んだ状況で。グレンは深夜を抱き起すようにしてきつく抱きしめる。
深夜は目を細めて、彼の熱を感じる。

「・・・お前しかいない」
「・・・・・・」
「俺が愛せるのは、お前しか」
「っ、」

耳元で囁かれる低い声音が、直接腰の奥を揺さぶる。
下肢に宛がわれる雄、それは他の誰よりも大きく、深夜の秘所を圧迫する。
息を呑んだ。
焦らす様に、先端で滑りを押し広げるように、ゆるゆると腰を揺らされた。
早く来てほしい、そう思ってしまう自分に、深夜は心底呆れ返った。

「嘘」
「嘘じゃない」
「じゃあ、僕のために何もかも捨てられる?」
「・・・」

当たり前だ。そんな意地の悪い質問は、まるで鬼になった真昼のような言葉で、
心底そんな自分が嫌だと思う。
舌打ちすらしたくなるほど。

「ほら、ね」

苦しげな表情のグレンに、深夜は笑う。
来て、と耳元で囁いて、自ら腰を鎮めた。意思を持って、グレンのものを受け入れる。
熱かった。他の誰よりも。狂いそうになる。必死に理性を手繰り寄せ、そして男の背を抱き締める。

「真昼みたいなこと言いたくないから離れたのに、誘惑するの、やめて」
「・・・」

何も言えずにいるグレンに構わず、先を促す様に腰を揺らした。
グレンの腰を膝で挟み込んで、足を絡ませた。グレンは動き難そうだったが、しがみ付いていなければ、振り落とされてしまいそうだった。
快楽が、全身を駆け抜ける。
彼の肩口に、爪を立てて。もはや、溢れる声を抑えきれない。
最奥を貫かれるたびに、鼻から自分とは思えないような甘い声音が漏れた。
いつも、演技で喘いでいるはずなのに、グレンとだけは理性すら押し流される。
まるで全身が性感帯のようだ。
グレンの触れる箇所から熱が溢れ、自分の脳を狂わせる。
頭が焼き切れそうなほどの白さに染まる。思考回路が止まり、グレンの与えてくれる狂おしい程の快楽が
今の自分のすべてだった。
ぐちゅぐちゅと卑猥な水音、腰を打ち付けるたびに聞こえてくる、尻と尻が打ち付け合う音、
そうして、唇が離れて、グレンは首筋に噛み付くようにして、熱情を訴えている。
快感を逃がす様に首を振ると、汗か涙かわからない水滴が飛び散った。
ズン、とより一層深くを抉るようにして、グレンが額を付けるほどまで近づいて見下ろしてくる。

「・・・はは。君とのセックスが、やっぱ一番、気持ちいいや」

なにせ、彼に開かされたカラダだから。
自分の身体は、既に彼好みに変えられてしまっていた。
彼の形を覚えさせられた。彼の指の感触に喘ぐようになった、キスも彼に合わせるように。
彼の吐息が耳に掛かる度に、どうしようもなく下半身が疼いた。
全身が震えるのは、欲しくてたまらないから。
感情とは裏腹に、貪欲に彼を求めてしまうこの身体を、どれほど恨めしいと思ったか。

「壊れそうになる、」

手足がバラバラになりそうなほど、激しく腰を打ち付けあって。

「全部、なにもかもどうでもよくなって、君のことしか考えられなくなる」
「俺もだ」

はぁはぁと、吐息が零れる。
広い部屋なのに、ぐん、と空気が上がって、男の精のニオイが立ち込める。
それにすら興奮した。律動が再開される。強引な程の激しい抽挿と、壁をぐるりと抉るようなグラインド。
抜けるほどに腰を惹かれて、切なそうな声を上げてしまう。
欲しくて堪らないそこは、外部からの侵入者だというのに、それを拒むことを知らない。
グレンの楔は、深夜が一番弱い、前立腺から上までの肉襞を執拗に擦り上げていく。嬌声から悲鳴に変わる瞬間。
一緒にイかせてくれ、そう囁いてくるグレンに、深夜は苦笑した。
まったく、自分も本当に彼には甘いと自嘲する。

「深夜、」
「んもぅ、わかったよ。一緒にイってあげる。・・・来て」

深夜の雄に絡みつくグレンの掌、包み込むように刺激すると、すぐに張り詰めて今にもイきそうになる。
掌のそれをぐちゅぐちゅと音を立てて擦り上げながら、激しく奥を打ち付けると、
ひっきりなしに聞こえてくる切ない声音と共に、びゅる、と掌から体液が溢れてくる。濃厚ではなかったが、それでも
グレンの愛撫により吐き出されるそれは、なかなか留まることを知らない。
それを見つめて興奮してしまうグレンの下肢は、今度は深夜の内部にどくどくと白濁を注いでいく。
含み切れない男の精液が、繋がった箇所の隙間からどろりと溢れてきた。
少し腰を引いて、ぬめりを楽しむ。なおも腰を揺らして、放心した深夜の身体に、すべての体液を呑み込ませていく。
身体の中が熱かった。
これこそが男を受け入れた証だと、深夜は恍惚とした表情を浮かべた。

「・・・ふふ、たっぷり出たね。もしかして、溜まってた?」

腰を引いて、ずるりと抜けたそこが、ひどく紅い。また欲望が頭を擡げた。
深夜は悪戯をする子供のような表情で、力の失ったグレンの雄を指先でやさしく拭ってやる。

「溜め込むのは、身体に毒だよ?あ、ねぇグレン、見て」
「あ?」

不意に深夜がグレンの背後を指さして、リビングの窓を示した。
上層階だったから、もはやカーテンなど閉めることすら面倒だった。だから外は丸見えで、けれど夜景は見えない。
だがそのかわり、室内の明かりを反射して、まるで蛍のようにちらちらと舞う白い光が見える。

「ほら、雪」

窓の外では雪が降っていた。
今では世界崩壊の影響で、日差しが少ない日々が多かったが、それでもこうして雪が降るのは珍しい。
ソファに身体を預けながら、深夜は懐かしげに目を細める。
何を思い出しているのかは明らかだった。

その昔、世界崩壊前。
あの年、珍しく東京にも雪が降った。セラフの影響下もしれないが、ひどい寒波が来て、
そうして全部雪に埋もれた。まだその時は、ヨハネの四騎士の活動はひどく活発でなくて、
自分たちは、仲間たちで雪合戦をしたのだ。
女子たちは、可愛らしい雪だるまを作り。自分たちは、負け判定がイマイチよくわからない、ただの雪玉のぶつけ合いをした。
あの時、深夜がひどく楽しげに、硬く握り締めた鋼鉄のような雪玉を自分に向けて剛速球で投げつけてきて激怒したのは良い?思い出だ。
あんなはしゃいだ時間は、後にも先にもそれきりだったと思う。
夢のような1年だった。
紆余曲折はあれど、今思えば、あまりに幸せな、穏やかな時間だった。

「だからさ、僕はあれで充分。
 君のトクベツにはなれなかったけど、仲間にはなれた。これ以上、もう、何も望まないよ。
 だからね、グレン、もう、愛してるとか、言わないで」

身を起こして、そうして、けだるげな身体を預けるようにして、抱き締める。
目を閉じた。
一晩に2人も相手をするのは、さすがに辛かった。
ましてや、最初の男は、ヘタクソなわりにねちっこい愛撫をするような男で、
上昇気流に乗れるようになるまで本当に長々と待たされたものだと苦笑する。
まったく、この男とは大違いだ。
もう、こんな男は二度と出会えないだろう。誓ってもいい。
男の引く甘い声音が、己の名を口にする。

「・・・深夜」
「っ」
「・・・それでも、俺はまだ、」

お前が欲しいと思う、と。そう言われて、深夜は苦笑するしかなかった。
彼が欲しがってくれるのなら、いくらでもあげようと思う。例えグレンが自分を愛してくれなくなっても、
誰を見ていても、既に自分は彼のものだったから。
捨て置かれるよりはずっといいと、深夜は笑みを浮かべた。

「それで、いいか?」
「うん、いいよ」

とっても嬉しい、と彼の首に腕を絡みつかせて、深夜はくすくすと耳元で笑った。
グレンの傍にいたいと思う。
恋人ではなく、仲間として。彼が片腕として頼ってくれるのなら、それで十分幸せだった。
彼と向き合って愛を紡ぐのではなく、彼と同じ方向を見て、同じ夢を見る。
彼の夢は、自分の夢だった。
彼の望みは、自分の望みでもあった。それを叶えるためならば、自分は鬼にだってなってみせるだろう。

「欲しがってくれて、ありがと、グレン」

むき出しの肌の熱が触れ合って、ひどく心地いい。
甘い快楽の余韻に誘われて、深夜はグレンの腕の中で瞳を閉じたのだった。





end.





Update:2016/01/25/MON by BLUE

小説リスト

PAGE TOP