Puppe



今頃来て、何を言うつもりなのだろう。
セフィロスは唐突に部屋に入ってきた黒髪の科学者を睨みつけた。
男は変わらず薄い笑みを浮かべている。
「・・・・・・用件を手短に言え」
「せわしい奴だな。何か用事でもあるのか?こんな夜中に」
動かない表情に、からかうような声が響く。
図星だっただけに、セフィロスは表情に出さないかわりに手元の服の布を指で噛んだ。
感情を見せてはいけない。見せれば、男に付け込まれる隙を作るだけだ。
セフィロスは至って冷静に努めると、半ば男を無視するようにデスクの書類に目を向けた。
早くいなくなってくれと心は願っているのに、
それでもセフィロスにはこの男に逆らうことができない。
過去、何度も反発してきた。けれど、結局事態は何も変えられないのだ。
そんなセフィロスの内心を全て見透かしているかのように眼鏡の奥の瞳を光らせると、宝条はセフィロスへと歩み寄った。
「・・・っ」
うつむき加減の顎をデスク越しに掴まれる。
見下ろしてくる剣呑な瞳に、身に染み込んだ恐怖が湧き上がってきた。
けれど、それを自覚することは自分の弱さを認めることになるだけで。
セフィロスは歯を食い縛ると、男を睨みつけた。
物言わぬセフィロスの碧い瞳に目を細めて、宝条は笑う。
「・・・最近、お前の評判がえらく悪いようだが」
地方遠征の失敗。
『英雄』セフィロスが自ら指揮を執ったそれは、しかし相手の苦し紛れの抵抗に多大の被害を被るだけに終わった。
それからだろう、『英雄』伝説の話題ばかり追っていたメディアは手のひらを返したようにセフィロスのスキャンダルばかりを追い、
今ではあることないこと含めて派手に報道されている。
神羅が取り潰しにかかっていても、これでは『英雄』の化けの皮が剥がれたも同然だ。
けれど、セフィロスにはどうでもよいことだった。
『英雄』としての自分に、価値など全く見出していなかったから。
「・・・余計なお世話だ」
「そうはいかんな。『英雄』でないお前など、この神羅では何の価値もない」
「・・・っ!」
冷たい指先が頬を取り、有無を言わさず顔を上向かせる。
恐怖に男を除けようとしたセフィロスは、しかし体が全く動かせないことに愕然とした。
いつものように瞳が焼けるように痛む。
「・・・とはいえ、落ちてしまった評判をすぐに戻せるわけでもないがね。
だが、お前がそこまで堕ちた原因くらいは・・・・・・知りたいものだな、セフィロス?」
唇も触れそうな位置で、宝条は囁く。
セフィロスは指1本動かせないまま、デスクの上の時計をちらりと見やった。
約束の時間が迫っている。
けれど、今のセフィロスにはどうすることもできなかった。
セフィロスのその様子に気付かぬふりをして、宝条はなおも彼を縛り続ける。
「答える気はないようだな。・・・だったら」
片手がセフィロスの纏っていたシャツを首元から一気に引き千切る。
露わになった肌に、セフィロスは息を呑んだ。
「カラダにでも聞くか?」
変わらずの揶揄るような薄い笑み。
「・・・やめろっ!」
そこだけは自由になる口で、必死に抵抗を紡ぐ。
約束の時間が迫っているというのに、他の男に組み敷かれるなどもってのほかだった。
こんなところを目撃されたら、自分は生きていけない。
彼以外の男―それ以前に、父親も同然の人間に犯されているなど。
「抵抗はするだけ無駄だぞ?わかっていると思うが」
「・・・う・・・!」
首筋に当てられる冷たい唇。
ぞくりとした感覚が背筋を走り、セフィロスは身を竦ませた。
自分の意思など全く無視する体が、情けなくも熱を持ち始める。
服の上から下肢をまさぐられ、嫌悪感が思考を覆い尽くした。
耐えられなくなって舌を噛み切ろうとした口に、宝条の指が入り込む。
3本ものそれは含むのが精一杯で、歯を立てることさえできなかった。
「ふ・・・う・・・・・・!!」
苦しげに眉を寄せる。それでも、宝条の手は止まらない。
口内を指で掻き回され、下肢は前を開かされ、苦痛でしかない愛撫を受けさせられる。
けれど、濡れた音がそこから聞こえてくる頃、部屋のインターホンが鳴った。
『セフィロス?』
その声は、まさにこの時間に逢う約束をしていた金髪の少年のもの。
(・・・クラウド・・・・・・!)
セフィロスは絶望に身を浸していた。
こんな状態で部屋に入れられるはずもなければ、宝条は無視して行為を続けるだろう。
クラウドとの約束をふいにする自分は許しがたかったが、セフィロスは目の前の男のせいにすることしかできなかった。
しかし。
「ほう。こんな時間に、客人か?」
「・・・・・・」
セフィロスは視線を泳がせる。答える気はなかった。
「無視するつもりか?冷たい奴だな」
「っやめ・・・!!」
宝条が片手でデスクに備え付けの開閉ボタンを操作する。
シュッと渇いた音と共に、セフィロスの部屋のドアが開かれた。
案の定、現れたのは彼の想い人。
「なんだよ、いるなら返事くらいしろよな」
髪を掻きあげながら、多少不機嫌そうに呟く。
またこちらを確認していないだろう、声に驚く様子はまだない。
けれど、反応がないことに訝しげに顔を上げたクラウドは、次の瞬間目を見張っていた。
「ほ・・宝条・・・博士!?」
「クラウド・・・、来るな!!」
宝条の恐ろしさは身をもって知っている。だからこそセフィロスは、精一杯声を張り上げた。
せめて、クラウドまで不幸にしたくはなかったから。
けれどクラウドは目を見開いたまま、近づく宝条から逃れようとはしなかった。
否、できなかったのだ。
口元に笑みを浮かべたまま、宝条はクラウドへと歩み寄る。
「クラウド・ストライフ君・・・だね」
「・・・はい」
「君の噂は聞いているよ。この間のミッションでは、大きな業績を上げたそうじゃないか」
「恐れ入ります」
暗い灰色の瞳。なぜかそれに魅入られたまま、クラウドは無意識のうちに答えを紡いでいた。
肩に触れる手は、いやに温かい。
遠くでセフィロスが何か叫んでいたが、かすかなそれはクラウドの耳を通り抜けていった。
「・・・君は、セフィロスのことが好きかね?」
「なっ・・・」
瞬間、はっと我に返る。
暗い笑みを湛えた瞳が、自分を見据えていた。
言い知れない恐怖に、クラウドもまた体を震わせる。
「あ、なたには・・・関係ありません」
「なくはないさ。曲がりなりにも私はアレの父親なのだからな」
「え・・・」
神羅の企業秘密。宝条がセフィロスの父であることは、闇に隠された真実のはずだったのに。
こうも簡単に明かす男に、セフィロスは改めて恐怖した。
たかが一般兵。かれに秘密を知らせて、宝条が・・・神羅が生かしておくはずがない。
「貴方が・・・セフィロスの・・・父親?」
「そう。私が」
限りなく優しい声音。その奥に隠される残酷な空気。
それに気付いたクラウドは、しかし今更宝条から逃れることはできなかった。
目にも留まらぬ速さで喉元を掴まれる。
「う・・・」
「・・・クラウド!!」
セフィロスが声を上げる。しかし、動かぬ体はクラウドを助けることもできなかった。
喉を潰され、苦しげに喘ぐ金髪の少年に目を細めて、宝条は片手で白衣のポケットを探る。
手のひらにすっぽり入るほどのそれを、男は少年の首筋に押し当てた。
プシュッという微かな音がした後、クラウドはふっと意識をなくしたように宝条の足元へと倒れこむ。
それを目撃したセフィロスは、怒りに体を震わせた。
「・・・っ貴様・・・クラウドに何を・・・!」
「殺したわけでもあるまいし。そう怒るな」
セフィロスの方を振り向いて、宝条は口の端を歪ませる。
その瞬間、セフィロスは先ほどまでの拘束感がなくなっていることに気付いた。
宝条がクラウドから離れるのを見て、セフィロスは少年へと駆け寄る。
血の気を失った表情が、ただの気絶以上の不安をセフィロスにもたらした。
「クラウド!・・・クラ・・・っ!」
傍らで宝条が面白そうに見つめているのも忘れて、セフィロスは気を失う金髪の少年を呼び続ける。
がくがくと肩を揺らせば、ゆっくりと少年の瞳が開かれた。
「セフィ・・・ロス・・・?」
「!・・・クラウド・・・よかった・・・」
安堵したように、セフィロスが口元を緩ませる。
けれど、見上げるクラウドの濁ったような瞳に、セフィロスは怪訝そうな顔を向けた。
いつもの澄んだ青ではなく・・・遠くを見ているような、虚ろな瞳。
「クラウド」
唐突に、感情のない声が響いた。
はっと振り向けば、勝ち誇ったような光を浮かべる宝条の瞳とぶつかる。
しかし、宝条はそれを無視して、クラウドに声をかけた。
「欲しいだろう?抱かせてやるよ」
「な、にを言って・・・」
宝条の不可解な言葉に、セフィロスが男を睨む。
しかし、次の瞬間後ろから強く肩を掴まれ、青年はバランスを崩し、倒れこんだ。
驚くセフィロスに躊躇なく乗り上げてくるのは、先ほどとは打って変わって妖しい光を宿したクラウドの青い瞳。
―正気じゃない。
セフィロスはひと目で確信した。
「く、クラウド・・・!やめ・・・っ!」
思わず抵抗の手を伸ばす。しかし、口の端を持ち上げたクラウドが、易々とその手を捉えてしまう。
その狂気じみた雰囲気に気圧されたセフィロスは、しかし押さえ込まれる力に抵抗しきれず長い毛の絨毯へと背を押し付けられた。
信じられない、といった風にクラウドを見やれば、後ろには薄笑いを浮かべる男の存在。
そんなセフィロスを一瞥しただけで近くのソファに腰掛けると、宝条は合図でもするかのように顎をしゃくった。
「っな・・・!!」
セフィロスの襟元に絡まる指。それが、一気に胸元を引き裂く。
乱暴に服を剥がされ、セフィロスは息を飲んだ。
「クラ・・・」
「怖がることないだろ?初めてでもあるまいし」
抑揚のない声が紡ぐ言葉は、確かに真実だ。
けれど、今のクラウドは普段とは全く違っている。
操り人形のように感情のない瞳。そして、そんな2人を悠々と眺める男の姿。
クラウドとの行為を暴かれることは、セフィロスにとってこれ以上ないほど屈辱的なことだった。
そう、宝条自身に犯されること以上に。
「うあ・・・!や、めろ・・・っ・・・」
クラウドがセフィロスの全てを暴き、宝条に向かって足を開かせる。
羞恥心を刺激させる格好に耐え切れず、暴れ続けるセフィロスの腕を、クラウドは背後から拘束する。
床の上に座り込んだまま椅子に座る男に裸体を晒す青年は、屈辱に身を震わせた。
―見せつけられている―
そんな思いが胸を寄切る。
目の前で見つめる男を精一杯睨みつけるが、その途端耳に熱い吐息が吹き込まれ、セフィロスは息を詰めた。
「ほら・・・セフィロス・・・自分でやってみせてよ」
耳元で響くクラウドの声音は、その内容とは裏腹に限りなく優しい。
けれど、到底そんな言葉を承諾できるはずもなく、セフィロスは首を振り続けた。
「・・・っ・・・!」
クラウドの手が自分の手を掴み、そのまま前に回される。
自分の手のひらが下肢に触れ、セフィロスは声にならない声を上げた。
ひくりと痙攣する体を宥めるように、クラウドが耳たぶを甘噛みしてくる。
上を向いた拍子に宝条と目が合い、セフィロスは血が出るほど床に付けていた拳を握り締めた。
肉体的苦痛で少しでも気を紛らせようとする。
けれど、その手までクラウドに捕らえられ、セフィロスはあきらめたように瞳を閉じたまま自身を包む手を動かし始めた。
「っあ・・・・・・」
思わず、といった風に声が漏れる。けれど、セフィロスにはもはや抗う気力もなかった。
目を閉じれば、宝条も、狂気に満ちたクラウドも、何も見えなかったから。
ただ、下肢を襲う快楽がセフィロスの身体を満たし、
それはいつものクラウドから為される感覚と同じだった。
「や、あ・・・っクラウド・・・!」
自分から己を抱く存在にすがりつく。
そんなセフィロスに口の端を持ち上げると、クラウドはソファで足を組み眺めている男に声をかけた。
「・・・どうします?宝条先生」
宝条の瞳がきらりと光る。
「君に任せるよ。楽しませてもらおう」
2人の短いやりとりに、セフィロスは目を見張った。
自分が道具のように扱われていることを改めて自覚して、身を灼くような羞恥に駆られる。
投げ出した足を閉じようとした彼は、しかし無理矢理クラウドの足によって開かざるを得なかった。
「逃げるなよ・・・。あんたのキレイなカラダ、見せてやろうぜ」
「・・・っ」
首筋を後ろから軽く食まれ、セフィロスの体が仰け反る。
それと同時に、セフィロスの手ごと捕らえていた彼自身を大きく扱かれる。
溢れ出した体液が、絡まる指を濡らしていった。
「・・・っやだ・・・!」
今だ抵抗の言葉を紡ぐ彼の口を、クラウドは片方の手で塞ぐ。
指を差し入れれば、くぐもった声がその間から洩れて来た。
苦しげに喘ぐセフィロスの碧の瞳からは、透明な雫がとめどなく溢れ。
それをクラウドは舌で拭ってやった。
「ほら・・・セフィロス。一人でイってみせて・・・」
甘い声。考えることを拒否した彼の頭の奥に、易々と染み込んでくる。
下肢の限界を感じていたせフィロスは、2人が見つめている目の前で熱の奔流を解き放った。
「っああああ・・・!!」




自分の声は、どこか遠く。
現実に耐え切れず自分の心の奥に閉じこもった彼は、もはやクラウドに抗うはずもなかった。
宝条の立ち上がる音。どこか足を引き摺るようなそれが、自分の方に近づく。
目の前に膝をつく彼が自分を抱き上げたことをぼんやりと理解しながら、それでもセフィロスは男の為すがままになっていた。
なぜなら。
「クラウド・・・」
「大丈夫。俺は、いつだってあんたの傍にいるよ」
・・・名を呼べばすぐに返ってくるその言葉を、信じていたから。
たとえ他の男の手で弄ばれようとも、彼の―愛する者の存在を感じられたから。



だが、この日を境にクラウドの全てが変わってしまったことを―。



セフィロスは、まだ、知らない。









***END***

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