Sweety Night



 また、こうやって3人で話せるなど思ってもみなかった。
 あのとき、自分はソルジャー候補生だった。
 今は、ソルジャーになれない証として、補佐官などというあいまいな地位についている。
 ふと、セフィロスと目が合った。
 途端に、自分のしてきたことに羞恥心を覚えて目をそらす。
 ごめん。あんたのキモチ、フイにしちまったな。


 「は〜おいしかった〜」
 部屋に入るなり、ザックスが声をあげた。
 その後ろにはクラウド、そしてセフィロスまでも連れてきている。
 本人が喜んでもいないのに、補佐官就任パーティと称して飲み合おうという計画は、彼の為、というよりもむしろザックス自身の楽しみともとれた。
 「しかし・・・・・・ザックスの補佐官、というのは運がいいんだか悪いんだかな・・・」
 「運悪いですよ。四六時中アイツと一緒なんですからね」
 セフィロスもいつでもうるさい(良くいうと陽気な)ザックスには手を焼いているらしく、苦笑まじりにクラウドを見る。
 ガチャガチャと何本ものワインボトルを抱えたザックスに聞こえぬよう、声を落としていらえを返した。
 「なんだよ〜手伝ってくれりゃいいのに。」
 当然のようにテーブルについている2人に不平を洩らしつつも、手早くグラスを並べてワインを注ぐ。
 そうして自分もテーブルにつくと、ザックスはグラスを掲げた。
 「それでは!・・・このザックスさんの補佐官になったクラウド君。就任おめでとー!!」
 「・・・・・・」
 しかし、目の前の2人は無反応を決め込んだらしく、冷たい沈黙がおりる。
 「あーぁ。なんか傷ついちゃうなぁ、ザックスさん」
 「お前が一人ではしゃいでいるだけだろう」
 セフィロスの言葉の必殺剣をくらって、ザックスはしぶしぶと折れた。
 「・・・くそう。・・・わかったよ。じゃぁ、その変わりにあの話してやるよ。クラウド知らなかったよな」
 「なんだ?」
 ザックスはセフィロスの方をちらりと見てから話しだした。
 「キミの隣にいらっしゃる英雄殿がある日大変なミスをしでかしました。」
 「・・・?」
 「なんと、セフィロスともあろう者が、部屋のカードキーを持たずにミッションにでかけてしまったため、部屋にはいれなかったのです!」
 「・・・・っ!!キサマなんでそれを・・・」
 自分の失態を広められ、セフィロスは赤面しつつもザックスを睨んだ。
 「えー?これって一部の兵士たちには有名な話なんだぜ。で、その後、仕方なく夜勤の兵士に カギ借りて・・・」
 ピー。
 無感情な機械音がザックスの服の間から鳴った。ギクリと彼の顔がこわばる。
 「・・・なんだ?」
 2人の怪訝そうな瞳に見つめられ、ザックスはばつが悪そうに視線を泳がせた。
 「う゛っ・・・実はお前が補佐になんのもう少し後だと思ってたから、今日予定入れてたんだな・・・・・・」
 すっかり忘れてた。
 ザックスはクラウドの補佐官就任でうかれ気分だった自分を呪った。
 とはいえ、約束をすっぽかすのは男がすたる。
 彼は腹を決めた。
 「わりィ、"クラウド就任パーティ"、2人でやっててくれ。俺約束あるから。」
 「ザックス・・・・・・」
 彼の友人達は盛大にため息をついたが、内心ではザックスをこういう人間だと割り切っているためか、あまり気にしていないようだ。
 適当にひらひらと手を振って、隣のセフィロスに向き直ると、彼はその繊細で優美な指先で ワイングラスを弄んでいる。
 自分もグラスに口をつけて、セフィロスに話しかけた。
 「ザックスのあの話のことなんだけど・・・」
 「やめてくれ。ますます自分が嫌になる。」
 「俺、知ってたんだ。あの時あんたの応対したの、俺だったから。」
 「・・・え?」
 驚いて顔を上げたセフィロスの前髪に手を伸ばす。
 クラウドはそれを手でいじりながら先を続けた。
 「つまり、俺はあの日夜勤で、憧れてたあんたに初めて出会った。その1ヶ月後にザックスにあんたと引き合わされた、ということだ」
 「そうか・・・すまなかったな。気づかなかった」
 「嬉しかったよ。あんたに1ヶ月も余計に早く会えたんだからな」
 頬にかかるクラウドの手と甘い言葉に、自分の頭に血がのぼるのを感じて照れ隠しに思わず手の中にあったグラスをあおった。
 途端、セフィロスはあわてたためか咳き込んでしまった。
 「・・・大丈夫か?」
 少年が声をかけると、セフィロスの口から思いもよらない言葉が漏れた。
 「・・・・・・もしかして、これ水じゃないのか?」
 彼の手には、確かに水と寸分違わぬ液体の入ったグラスがある。だがこれはザックスの注いだアルコールのハズだ。
 「もしかしなくとも、ワインだけど?・・・あんた、もしかしてアルコール弱いの?」
 具合悪そうにうつぶせになった彼に問い掛けると、「全然」といらえが返ってきた。
 神羅最強と謳われる英雄の素顔をまた一つ発見したクラウドは、笑みをうかべて隣の絹糸を優しく撫でた。
 「歩けるか?もう夜も遅い。部屋まで送ってやるよ」
 「あぁ・・・すまない」
 足取りのおぼつかないセフィロスを支えて部屋を出る。
 以前の失敗をしないよう用心して近くのエレベータに飛び乗った。
 セフィロスの部屋はわかっている。
 ドアの前までくると、差し出されたカードキーを使ってそれを開けた。
 「ったく、酔って睡魔に襲われる英雄サマとはね」
 皮肉めいたコトをつぶやいて、すでに眠りかけているセフィロスを寝台に横たえた。
 隣に座って、瞳を閉じたセフィロスの顔をじっと見つめる。
 「・・・・・・あんた・・・キレイだよな・・・」
 その姿は、カラダを売り物にしているオンナ達にも劣らない。
 誘われるように前髪をかきあげて、クラウドは誰もが1度は触れてみたいと思うような美しい輪郭を描く唇に口付けた。
 だんだんと深さを増してゆく口付けに、青年の体が軽くこわばったのが見て取れた。
 不意に背に回された腕が、自分を抱きしめてきた。
 その暖かさに、強さに酔わされて、クラウドの体の奥から熱がせり上がる。
 「セフィロス・・・・・・」
 呼びかけると、うっすらと瞳を開き、自分に微笑み返してくる。
 我慢し切れなくなって、クラウドは彼のクロスベルトに手をかけた。
 カシャンと音を立ててそれをはずし、コートに覆われた上半身をはだけさせる。
 キレイに浮き出た鎖骨に歯を立てて舐め上げると、ピクリと体を竦ませた。
 均整のとれた胸に手のひらを滑らせて、紅く色づいた突起に触れる。
 それを指先で押しつぶすように愛撫すると、甘い吐息が口元からこぼれた。
 「・・・クラウド」
 顔を上げると、セフィロスが悩ましげな表情を浮かべている。
 クラウドは彼の頬に軽く口付けを落とすと、耳元で囁いた。
 「・・・ダメだよ。あんたはゆっくり寝ていて」
 そのまま頬に手を滑らせて、瞳に唇で触れる。
 宝石のような碧玉に微笑みかけて、愛撫を再開した。
 胸の上にある色づきを舌で弄びながら、左手をセフィロスの下肢に這わせる。
 服越しでもわかるくらいに熱を帯びたそれを感じて、クラウドはクスクスと笑った。
 「・・・ん・・・っああっ・・・」
 クラウドが服の上からそれに触れてくる。円を描くような彼の手の動きが生み出す刺激は、布の感触とあいまってセフィロスの情欲をたやすくあおっていた。
 クラウドが爪を立てて繰り返しその行為をすると、先ほどより熱を増し、張りつめたそれからあふれ出た体液が銀髪の青年の下着を濡らしていく。
 「や・・・あっ・・・クラ・・・ウド・・・」
 「・・・ずいぶん窮屈そうじゃないか?俺がとってやろうか」
 セフィロスの答えも聞かず、クラウドは下着ごとボトムを剥ぎ取り、床に放った。
 生まれたままの姿を目の前の少年に晒している彼は、羞恥のためかかたく目をつぶり、クラウドから顔を背けている。
 それでも微かに震える全身からたちのぼる色香に耐えきれず、クラウドは自分の着ていた服を脱ぎ捨てた。
 熱い素肌を重ね合わせると、それだけで感じるのか、セフィロスが体を戦慄かせる。
 妖しく横たわる彼の背中に腕を回し、もう片方の手で昂ぶるセフィロス自身へと這わせた。
 「・・・っ・・・や・・・あっ・・・!」
 下肢に伸ばされた淫らな手を払おうと、セフィロスの腕が抵抗を試みた。
 だが、クラウドはやすやすと彼の手首を捕らえ、背に両腕を回してしまった。
 「じっとしてて」
 そう言うと、彼はセフィロス自身へ触れるだけの愛撫を施し始めた。
 羽毛のような感触のそれにもどかしさを覚えながらも、セフィロスは唇を噛み締め必死に耐えている。
 「う・・・んっ・・・はあっ・・・」
 クラウドが彼の腹に顔を埋めている。だんだんと強める手の動きに合わせて、その場所をきつく吸い上げた。
 金髪の頭を抱える腕に力がこもるのを感じ、クラウドは笑みを浮かべた。
 「・・・あんたのカラダって、すごくイイ匂いするよね。・・・好き」
 「バ、バカ言うな・・・っあっ・・・!」
 クラウドの指が青年の奥まった場所に触れてくる。
 ゆっくりと内部への侵入を試みる異物の感触に、セフィロスは眉根を寄せた。
 侵入を拒もうと身を捩るが、眠気のためかうまく力が入らない。
 だが、内部に収まった指をクラウドが動かすと、抵抗する気力も失ってしまった。
 「・・・クラウ・・・ド・・・・・・」
 自分の中で蠢く異物の発する淫靡な音が、セフィロスの聴覚を犯してゆく。
 下肢から涌きあがる強烈な感覚に、何もわからなくなる。
 今や、セフィロスはただ快楽を享受するだけの獣と化してしまっていた。
 「・・・セフィ・・・ロス・・・」 
 自分の名を呼ばれてうっすらと目を開けると、間近にクラウドの顔があった。
 傍にいるその存在が嬉しくて、青年は笑みを浮かべる。
 その笑みに答えるように、クラウドはゆっくりと唇を重ね合わせた。

 自分は生まれた時から孤独だった。
 自分をいつも抱き上げていたのは、感情のない事務的な腕だけ。
 いつだって、父親の愛情が欲しかった。
 彼が、父親が自分でない誰かを想ってばかりいたのを知っていたから。
 そのたびに孤独を感じて、絶望ばかりが自分の中で増大してしまっていた。
 それ故に、いつしか誰に対しても本当に親しみを持つことなどできないでいた。
 そのはずなのに。
 そのはずなのに・・・今この胸にあふれる幸福感は何だろう?
 クラウドが傍にいる・・・それだけで嬉しくなる自分の心に、セフィロスは戸惑いを覚えた。
 だが、そんな微かな戸惑いも、口内に挿し込まれたクラウドの暖かな舌によって一瞬にして霧散してしまう。
 セフィロスにとっては、今が、今現在のこの感覚だけが世界のすべてだった。
 セフィロスのそんな想いが伝わったのか、クラウドもまた普段には絶対見せないような極上の笑みを浮かべている。
 十分に慣らされた彼のそこから指を引き抜くと、金髪の青年はセフィロスの耳元で囁いた。
 「足、開いて」
 脳に直接響いてくる、言葉での愛撫。
 より羞恥心を高められ、セフィロスが全身を真っ赤に染める。
 クラウドは身を起こすと、震えるセフィロスの足を肩にかけて青年を見下ろした。
 「・・・いい眺めだよな」
 そこには、どんな美しい景色も決して叶わない絶景が広がっていた。
 誰よりも愛しい、美しい恋人があられもない姿で横たわっている。
 「・・・見るな・・・っ」
 「いやだね。見とれるほどキレイなんだから」
 少しも悪びれない少年の声と共に、体の奥から重々しい圧迫感が襲ってきた。
 「・・・っ!!」
 クラウドのそれを受け入れることを選んだそこは、痛みと快楽を同時にセフィロスに伝えてくる。
 痛みが快楽を抑制するわけでもなければ、快楽が痛みを和らげるわけでもない。
 ただ、つながり合った場所の熱さとその強烈な感覚に、セフィロスはめまいを覚えてた。
 「・・・ク・・・ラウド・・・クラ・・ウド・・・っ」
 何も認識できない真っ白な視界の中で、彼はひたすらに自分を抱く少年を探し続けていた。
 かの少年を求めて伸ばされたしなやかな腕がクラウドの背を捉えると、無我夢中で彼を引き倒した。
 「・・・セフィロス・・・・・・」
 クラウドは自分が抱く存在の背に手を回し、そのまま最奥を求めてかの青年を突き上げた。
 奥を貫くたびに甘やかな悲鳴を洩らすセフィロスに、クラウドは我を忘れる。
 2人の体に挟まれたセフィロスのそれからは、悦楽を示す淫液があふれ、2人の腹を濡らしていた。
 「ああっ・・・はっ・・・はあっ・・・」
 「セフィ・・・イイよ・・・あんたももっと動いて・・・」
 もはや考えることを放棄したセフィロスは、クラウドの言葉を易々と受け入れる。
 与えられる快楽をひたすらに追おうと、セフィロスは自らの腰を揺らめかせた。
 「あ・・・っクラウド・・・もっ・・・」
 「セフィロス・・・」
 それに応えるようにクラウドの動きも激しさを増す。
 ひときわ強く最奥を貫かれ、セフィロスの意識の中で何かがはじけた。
 「・・・ああ─────っ!!」
 「・・っ」
 同時にクラウドも彼の中へ自らを解き放った。
 力なく崩れ落ちるセフィロスの体を抱きしめる。
 体の奥にくすぶる甘い余韻を感じながら、セフィロスは眠りの中へと落ちていった。


 

* * *



 「・・・今日は楽しかったよ」
 淡い月の光がセフィロスを照らしている。
 うっすらと色づく彼の頬を指でなぞりながら、クラウドはそっと語りかけた。
 「まさか、あんたが来てくれるなんてな。だから、それこそ夢かとおもったよ」
 銀髪の青年は眠りの国からでてくる気配もなく、静かに目を閉じている。
 むき出しの肩まで布団を引き上げ、まぶたにかかる前髪をはらってやった。BR>  「・・・でも、どうしてあんたは俺に体まで開いてくれる?・・・俺は、ソルジャーにもなれなかった落ちぶれ者だ。本来なら、あんたになんて目もくれられない存在なのに・・・」
 信じられなかった。
 初めて会った時は、自分の目を疑い、紹介された時は自分の耳を疑った。
 再び出会ったときには、その自分の運命さえも疑った。
 そうして、今、彼を腕に抱いた後でも、まだ夢ではないかと不安がる自分がいる。
 ふと、目の前の存在が消えてしまうような錯覚を覚えて、クラウドは思わずセフィロスの唇に口付けた。
 その確かな暖かさが、クラウドをほんの少しだけ安堵させた。
 「俺、あんたが好きだ。だから、あんたから離れたくないし、離したくないんだ」
 例え、それが夢だったとしても。
 例え、それが相手を傷つけることになったとしても。
 手放したくないのではなく、手放せないのだから。
 「だから・・・あんたも俺の傍のいてくれよ」
 また会えない日が続いても、その存在がずっと側にいられなくとも。
 "心"だけは互いを離れないでいて欲しい。
 クラウドは名残惜しげに見つめていた視線をセフィロスから引きはがし、寝台から降り立った。
 側で眠る存在を起こさぬよう、床にちらばったままの衣服を身に着ける。
 数刻後、その部屋に在るものは、夜の静寂だけであった。




...to be continued...


 

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