Passion



 「な、そう思わねぇか?」
 若手の兵たちの為にあつらえられたバーで、突然自分に振られた話題に、クラウドは我に返った。
 「・・・あ・・・あぁ、そうだな」
 いつになく歯切れの悪い彼の返事に、ザックスは不審そうな目を金髪の少年に向けた。
 「なんだよ。元気ねぇな。何かあったのか?」
 「・・・別に。」
 クラウドはついと顔を背けた。
 「ったく、いつものお前らしくもない。オンナにでも振られ・・・」
 ガタンのいきなり立ち上がった音に、ザックスの語尾は掻き消えてしまった。
 茶化したような彼の口調に怒りを覚えたクラウドは、そのままザックスに背を向けて歩き出す。
 「お、おい!・・・待てよ!」
 あわててクラウドを追いかけようとする黒髪のソルジャーに、隣に座っていた友人が深々と溜息をついた。
 「いい加減、そっとしておけよ」
 「・・・って、何があったんだ?」
 「本命サンにに約束すっぽかされて荒んでるんだよ、アイツ」
 友人から聞いたクラウドの以外な事実に、ザックスは目を見開いた。
 「本命?・・・あんなとっかえひっかえオンナ抱いてた奴が真面目に恋愛してるとはオドロキだな」
 クラウドが立ち去った方向を眺めつつ、彼の親友は呟いた。
 とことん我が道を行く(=ゴーイング・マイ・ウェイ)派のクラウドの心を射止めたのはどんな人物なのだろう。
 ザックスはほんの少しだけその人物に興味を抱いた。



 ザックス達のもとを立ち去ったクラウドは廊下を歩きながらもの思いにふけっていた。
 ミッションから帰って来たのはついこの間だ。
 3日ほどの遠征休暇に、彼はセフィロスと違う約束をしていた。
 だが、それは果たされなかった。
 待ち合わせの場所はいくら待っても人一人来る気配はなく、したがってセフィロスの姿など当然なかったのだ。
 急なミッションでも入ったのだろうか。
 そう思ってクラウドはひたすらに彼を待ちつづけた。
 そうしているうちに、深夜0時をまわり、とうとうクラウドは待つのを断念せざるを得なかった。
 一瞬、彼の部屋に直接会いに行こうかとも考えた。
 だが、内なる声がそれを妨げる。
 ─────セフィロスを信用しないのか?彼を裏切り者として訴えるのか?
 直接本人に確かめることは、どちらにしろセフィロスに対して不信用をつきつけることに他ならない。
 もしそんなことをすれば、どちらにしろセフィロスに傷つけることになるだろう。
 そこまで考えて、クラウドは身を震わせた。
 ・・・・・・傷つける?俺が、セフィロスを?
 クラウドは自分をあざ笑った。
 初めて彼を抱いた夜、自分は約束したはずだ。
 "あんたを傷つける奴からあんたを守ってやる"と。
 今思えば、何て浅はかな言葉をセフィロスにかけたものだろう。
 そもそも、あの時自分は彼の痛みを少しでも癒してやれたのだろうか。
 あの時自分がしたことといえば、ただ好きだと言い、冷たいそのカラダを抱きしめてやったに過ぎない。
 確かに、セフィロスはあの時自分を求めていた。
 だがそれは、自分だからではなく、雨の中助けてくれた存在だったからだ。
 決して自分だから、ではない。
 クラウドはあの夜のことを思い出していた。
 雨に打たれ、周りの者たちによって、傷ついた彼。
 何のためらいもなく自分を求めてきた白い腕。
 隠していても経験の深さを物語る慣らされた艶やかな体。
 それを甘んじて受け入れたのはこの自分だった。
 だから。
 彼を、信じなければいけない。
 彼を守る、といいながら些細な事でセフィロスを傷つける立場になってしまう自分が哀しかった。
 ふと、自問自答していた少年の耳に、警備兵たちの話し声が届いた。
 その中にセフィロスの名を聞きとめ、思わず聞き耳をたてる。
 ─────懲りないコレルのゲリラ兵殲滅に一番隊が出動するらしいぜ。
 ─────やれやれ、とうとう英雄セフィロスのご登場か。明日か?
 ─────そうらしいな。ゲリラ兵たちも幸せなもんだ。殺されるにしろ生のセフィロスがおがめるんだからな・・・
 明日からコレルへ?なら、2ヶ月はまた会えなくなるのか?
 クラウドは再度もの思いにふけりながら、ある決心をした。
 こんな気持ちのまま、セフィロスとまた会えなくなるのは嫌だった。
 今会わないまま2ヶ月も経てば、自分たちの関係はきっと終りになってしまう。
 そんな不安に、クラウドは駆られていた。
 今が、問いどきなのかもしれない。
 たとえ、それが互いに禍根を残したとしても。
 セフィロスに会って、確かめる。
 胸ポケットに入れてあったカードキーを握り締め、クラウドはセフィロスの部屋へと向かった。



 ・・・セフィロスが自分の部屋へと戻ったのは、深夜を回ってしばらく経ってからだった。
 明日の出動の為に早く寝なくてはならなかったが、今彼の体を支配している男はなかなか自分を解放してくれない。
 ただでさえ連夜の行為に体が参ってしまっているのに。
 本来ならば吐き気を催すほどの嫌な行為も、今はなんとも思わなくなった。
 クラウドの命の代わりに自分を差し出した。
 その響きが、セフィロスの心を満足させているのかもしれない。
 もう、クラウドとは会わないのだから。
 セフィロスは部屋に入るべく、カードキーをドアへと差し込んだ。
 「・・・なん・・・・・・!」
 シュッと音を立てて扉が開かれる。
 それと同時に暗いとばかり思っていた室内から明るい光が漏れ、思わずセフィロスは目を細めた。
 やがて瞳が慣れ、部屋を見渡すと、そこにはいるはずのない、影。
 「・・・クラウド・・・!」
 目の前に立つ金髪の少年に、セフィロスはうろたえた。
 部屋にいたその存在は怒るでも笑うでもなく、探るような視線で自分を見据えている。
 自分がしていたことへの後ろめたさに、セフィロスは顔を伏せた。
 「どうして・・・お前がここに?いつからいたんだ?」
 かろうじて平静を保ち、問いかける。これから何が起こるのかが怖かった。
 「どうだっていいだろう、理由なんか。・・・ただあんたに会いたかったから・・・・・・」
 クラウドはそう言うとかたわらをすり抜けようとした銀髪の青年の腕をつかんだ。
 さりげなくそれを避けようとして、つかまれた力の強さに戸惑う。
 「・・・言っておくが、明日は早いんだ。お前の相手をする気はないぞ」
 「どうして、俺を拒むんだ?」
 逃れようとするセフィロスの瞳を見つめて、静かに問う。
 その碧い瞳の中に真実を捉えようとするかのように、クラウドはひたすらに彼の瞳を見つめた。
 「・・・拒んでなんか、いない」
 「じゃあ、どうしてあの時、来てくれなかった?急なミッションもなかったんだろう?」
 「・・・それ・・・は─────・・・・・・」
 銀髪の青年は沈黙した。
 クラウドとの約束は、彼と離れる以前に交わされたものだ。
 彼がかたわらにいない間に起こったあの小さからぬ事件の後、セフィロスは自分に禁を課していた。
 『クラウドとは会わない・・・・・・』
 そう決めた時、青年の頭からは想い人との約束も消えてしまっていたのだ。
 返す言葉もなく沈黙しているセフィロスに、クラウドはため息をついた。
 「・・・あんたが拒んでいないというなら、それを態度で示してみろよ」
 唐突に腕を引かれ、よろけたセフィロスを自分の胸に抱きしめた。
 「・・・!!やめ・・・!」
 あわてて離れようとする青年の体を強く抱きしめ、セフィロスの抵抗を抑え込む。
 そのまま、彼の頭を引き寄せ、強引に唇を重ねた。
 ─────嫌だ・・・!
 セフィロスはそれこそ必死で抵抗した。
 このままいけば、自分はクラウドに溺れてしまう。
 そうすれば、宝条は今度こそクラウドを殺しにかかるだろう。
 自分がクラウドに深くかかわること─────心の奥底ではそうありたいと願う姿が、宝条は気に入らないのだ。
 ならば、今ここでつながりを持ってしまうことは、あってはならなかった。
 「・・・んう・・・っ・・・やめ・・・やめろ・・・っ!クラウド・・・!」
 「できないね」
 クラウドは哀しげな微笑を浮かべた。
 「今の俺は、あんたの言葉を素直に受け入れることができないんだ。だから・・・・・・」
クラウドは胸倉につかみかかると、そのまま後方のベッドへと押し倒した。
   奇しくも宝条がセフィロスに対して行ったのと同じことをされ、彼の目がくらむ。
 しかし、既に体力を落とされているセフィロスは、その力に抵抗することができない。
 衣服が引き裂かれる音が宙を舞った。
 「・・・あんた・・・・・甘ったるいニオイがする・・・」
 セフィロスはぎくりと体を強張らせた。
 宝条のつけていたフレグランスがうつってしまったのだろうか。
 はだけられた胸に手を這わせながら、感情のこもらない声でクラウドは呟く。
 「俺のいない間に、あんた、誰とヤったんだ?」
 激しく首を振るセフィロスを反転させ、腰を高く上げさせる。
 慣らしもしていない彼の秘部が収縮しているのを感じ、クラウドは目を細めた。
 「嘘つくなよ・・・・・・いい身分だよな、あんたが誘えば、俺みたいに誰だってあんたに寄ってくる。そうやって自分の欲を満たして・・・・・・」
 「違う・・・!クラウド・・・!」
 「俺は、騙されていたんだよな。キレイなあんたに・・・・・・。俺って馬鹿だとおもわないか?セフィロス」
 「・・・痛・・・ッ!」
 強引にクラウドの猛る楔を受け入れさせられ、青年のそこが悲鳴をあげる。
 悲鳴を無視して激しく擦り上げると、抵抗できない彼の瞳から涙が溢れた。
 「クラウド・・・」
 「俺は、バカだから、今更あんたがそんな奴だとわかっても、手放せないんだ・・・・・・俺は、あんたが好きだから、愛しているから!」
 クラウドはより一層セフィロスを突き上げた。
 耳元に荒い吐息をたたきつけながら、セフィロスを攻め立てる。
 「俺が嫌いか?嫌ならはっきりいってくれよ・・・またあんたが2ヶ月もいなくなって・・・・・・俺はどうすればいいんだよ?こんなあやふやな気持ちのまま・・・俺を置いていかないでくれ・・・・・・!」
 セフィロスは目を見開いた。
 クラウドの心を信じられなくなっていたのは、セフィロスの方だ。
 宝条に犯され、思い出させられた記憶。
 誰ともなく慰み物にされてきた自分に近づく者は、やはりこの体めあてだったのだ。
 そのために、幾度となく傷つけられ、裏切られてきた。
 そんなこと、わかっていたはずなのに。
 それなのに、また他人を求めてしまった自分。
 こんな自分を優しく受け止めてくれたクラウド。
 騙されたのは自分かもしれない・・・
 そんなバカな疑いを少しでも持った自分は、なんて罪深い人間なのだろう。
 セフィロスは罪悪感を覚えていた。
 「あんたは欲しいんだ、セフィロス。ずっと前から憧れていたんだ・・・それが偶然にもこの腕に降って来たら、手放せるわけないだろう?」
 さっきよりいくぶん優しく、緩やかに腰を動かしながら、セフィロスに語りかける。
 憔悴しきった彼を抱きしめ、背中にキスを与えた。
 「・・・クラウド・・・・・・」
 「愛しているよ・・・セフィロス・・・たとえあんたが俺を嫌いだったとしても・・・」
 クラウドの全身が震えた。
 セフィロスの中に情を吐き出しながら、クラウドに心の一部が凍りつく。
 どんなに訴えかけようとも答えてくれないセフィロス。
 決して傷つけまいと思っていたもに結局は彼を傷つけてしまった自分。
 傷つけて、手に入るのならそれもよかったかもしれないけど。
 何をしても自分に心を開いてくれないことに、クラウドは今更ながら気づいていた。
 「・・・ごめん・・・・・・」
 クラウドはベッドから降り立つと、乱暴に脱ぎ捨てた衣服を身に着けた。
 疲れきったセフィロスの方を見ずに、胸ポケットからカードキーをだしてテーブルの上に置く。
 そのまま、クラウドはセフィロスの部屋を後にした。



 「さよなら、セフィロス」




 ...to be continued...



 

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