慰安兵 sec.1



 補佐官を、自分から指名したのは初めてだった。

 ソルジャー補佐制度が確立した時、例外なくセフィロスにも補佐官がつけられたことになったのだが、元々人付き合いの嫌いなセフィロスは、指名することさえも億劫で、ただ拒むか、無理に寄こされた兵を身近に置いていた。
 けれど、自分の目にかなった者を補佐としているわけでなかったから、
 仕事が遅かったり、たまに間違いを起こしたりすると、たまらなく邪魔に思えた。
 結局、いつも不機嫌そうな自分に怖れをなして補佐が神羅をやめたのを機に、今度こそセフィロスは自分の部隊の中から指名することに決めたのだった。
 名前は、クラウド・ストライフ。
 最近入社したばかりという年若い兵士だ。
 まだ15歳だというのに、隊の中では目覚ましい活躍を見せ、じきにソルジャー候補生になると噂されている。
 しかし、セフィロスの目に止まったのは、それだけが理由ではなかった。
 彼とは、一度ミッションの際会ったことがあったが、その時セフィロスは彼の青い瞳に惹かれた。
 目の前のものをしっかりと見つめる、真っすぐな光。
 まるで刺すような鋭い瞳の色は、最近の少年にはない強さを秘めている気がした。
 だからこそ、補佐として自分の傍に置いてみる気になったのだ。
 セフィロスはちらりと時計を見た。
 補佐の仕事は、明日から、との契約だ。
 けれど、彼は、今日の仕事を終えて、その後に新たな自分の部屋―セフィロスと同室である―へと来ると言っていた。
 その時間が、もうすぐ来る。
 セフィロスは、どこか逸る気持ちを抑えながら、クラウドを待っていた。






 呼び鈴がなって、セフィロスはハッと身を起こした。
 「クラウド・ストライフです、入ります」
 少しトーンを落とした、けれど澄んだ声。
 記憶と寸分違わぬ声に、何故か胸の高鳴りを感じながら、セフィロスは新たな補佐官を迎えた。
 現れた存在は、その金髪と青い目はそのままに、しかし見たこともない服装をしていた。
 これが彼の私服なのか、足腰のラインをしっかりと映す黒いレザーパンツに、上は素肌が透けるほどの薄い白のシャツを、襟元を大きく開けて着ている。
 いくら明日からだとしても、これから自分の上司に会おうという時にそんな格好をしているクラウドにあっけに取られ、セフィロスは固まってしまった。
 セフィロスのそんな様子に、何を考えたのかクラウドの口の端が持ち上がる。
 「セフィロスさん、これから貴方の補佐を務めさせて頂きますクラウドです。以後よろしくお願いします」
 しっかりと頭を下げる。どうやら格好はどうであれ、目上に対する礼儀は忘れていないようだ。セフィロスは心の中の憤りを引っ込めた。
 「ああ、セフィロスでいい。こちらこそ、よろしく頼む」
 「はい、セフィロス」
 真っすぐ見つめてくる瞳に、セフィロスはわけもなくドキリとした。自分があの時惹かれた光が、今、より輝きを増して自分を貫いてくる。
 「早速ですが、セフィロス、今俺がすベき事はありますか?」
 積極的な彼の言葉に、仕事熱心な奴だと苦笑する。だが、それでこそ自分と息が合うのかもしれない。彼を選んで良かったかもしれない、とセフィロスは思った。
 「いや、大丈夫だ。仕事は終わった。それに・・・お前の仕事は明日からだ。早く寝て、今日の疲れを癒しておけ」
 「・・・そうやって油断させておいて、俺を襲うんだ」
 一瞬、何を言われたかわからなかった。
 わかったのは、クラウドが一段声を低めたことだけ。
 「何を・・・」
 「別にいいぜ。俺もそのつもりで来たんだし。初回大サービスってことにしてやるよ」
 クラウドはそう言うと、胸元に手を這わせた。両手で、引き千切るようにしてシャツのボタンを外す。
 露わになったクラウドの肌に、自分でもないのにセフィロスの頬が赤くなった。
 「な、き、着がえるならそっちでしろっ!」
 「なにバカ言ってんだよ。もう仕事も終わったくせに」
 デスクの椅子で固まるセフィロスの首に手を回し、誘うように唇を舌でなぞる。
 味わったことのない濡れた感触に、彼の背に鳥肌が立った。
 「や、やめ・・・っ!」
 拒絶の言葉も無視して、ためらいもなく下肢に手を這わせる。
 途端、セフィロスの体が強張った。
 「ひ・・・!」
 「・・・何初心なフリしてんだよ。この俺を選んだくせに」
 クラウドの豹変ぶりとその言葉に、セフィロスはなおも続けようとする彼の手を押し留め、かろうじて身を離す。
 クラウドは不満そうにセフィロスを見ていた。
 「・・・なんだよ、これじゃ何のために俺がいるかわかんないだろ」
 「何の、ために・・・?」
 無論、自分の補佐をさせるためだ。
 しかし、それとどう関係があるというのか。
 「・・・オレは、お前を補佐に呼んだ」
 「そりゃそうだけど、・・・あ、まさかあんた、気付いてなかったの?」
 目を大きく見開くと、クラウドは両手を上げてセフィロスから離れた。
 小さく肩をすくめて、前髪を掻き上げる。
 「じゃあ、なんで俺なわけ?ただの補佐がお望みなら、あんたの補佐にふさわしい奴なんか沢山いるだろ?」
 畳み掛けるクラウドに、セフィロスは混乱していた。
 突然、何をされようとしていたのか、彼は何を勘違いしていたのか。そして、彼を選ぶことがどういうことなのか、自分は何に気付いていないのか。
 疑問は山ほどあったが、とりあえずセフィロスは一番の疑問を口にした。
 「何なんだ・・・お前・・・」
 あの、自分に敬語を使っていた時のクラウドと、今の彼とでは、二重人格と言えるほどに違う。
 それに混乱しながらも、セフィロスはクラウドを睨み付けた。
 椅子に座ったまま、迫られて外れた襟首を押さえ、片方の手で濡れた口元を拭う。
 あからさまに動揺しているセフィロスの様子に、クラウドは笑った。
 「ま、おかしいと思ったんだよな。人一倍プライドの高そうなあんたが、娼婦を買うようなマネするなんて、さ」
 「娼婦を、買う、だと・・・?」
 なぜ今ここでそんな話が出てくるのか。
 クラウドは、相変わらず謎めいた笑みを浮かベている。
 そう、まるで、人を誘う娼婦のような。
 「俺は・・・『慰安兵』だよ」
 聞き慣れない言葉に、セフィロスが顔をしかめた。
 「・・・慰安兵・・・?」
 「表向きは、ただの兵士。けど、ミッション中は、あんたたち上官の性欲処理の道具にされる。それが俺達慰安兵さ。補佐になった奴は、上司への奉仕も仕事のうちだけど、ま、こうやって指名してくる奴も珍しいな」
 クラウドが軽くセフィロスにウインクする。
 その『珍しい奴』が、そんな意図はなかったにしろ自分であったことに、セフィロスは言い知れない恐怖を感じた。
 「オ、オレはそんなつもりは・・・っ!」
 慌てて否定しようとして、近づいてきたクラウドに唇を奪われる。
 除けようと動く手を押さえつけ、舌で唇を舐めた。
 「ん・・・!」
 「わかってる。よく見たら、あんたまだコドモみたいだし。それじゃあ俺を抱く気にもなんないよなぁ」
 揶揄するようにそう言い、今度こそセフィロスの体を押さえ付けて胸元を開かせる。
 自分より5つ以上年下の少年兵に子供呼ばわりされたことに怒りを覚えながらも、クラウドの愛憮にセフィロスはびくりと体を震わせた。
 「や、やめ・・・っ!!」
 「ま、どっちでもいいぜ。とりあえず、今日はあんたを大人にしてやるよ」
 有無を言わさず下肢をまさぐられ、セフィロスの顔が真っ赤に染まる。
 逃げようとしても、肘掛のある椅子に腰かけ、背もたれに押さえ付けられていては身動きも取れない。布の上からなおも与えられる刺激に、セフィロス自身が立ち上がり始めていた。
 「そんなの、いらな・・・!」
 「やっぱ男だな。ちょっと弄っただけでこんなになってるし」
 くすっと耳元で笑われ、屈辱に唇を噛み締める。なぜ自分が15歳の少年に弄ばれているのかすらわからなかった。
 クラウドがセフィロスの噛み締めた唇を舐め、舌で歯列をなぞっていく。
 歯茎の柔らかな部分を舐められ、言い知れない震えが背筋を走った。
 「ふあ・・・っ・・・」
 一瞬緩んだ唇を割り、内部へと侵入する。
 首を振って逃げようとする頭を抑え、クラウドは深く口付けた。
 舌を挿し入れ、口内を蹂躙する。
 逃げ回る舌を捕らえて絡め合わせると、セフィロスがクラウドの肩に爪を立てた。
 けれど、熱い舌の感触と、同時に与えられる荒々しいほどの下肢への刺激に翻弄され、セフィロスの全身から力が抜けていく。
 舌を甘噛みしてやると、シャツに食い込む指に力が入らなくなり、クラウドはニヤリと笑った。
 これ幸いとズボンのべルトを外し、内部へと手を侵入させていく。
 「ど、どこに手入れて・・・っあ!」
 容赦なくクラウドの手がセフィロス自身を包み込む。初めての直接的な刺激に、セフィロスは思わず、といった風に大きな声を上げた。
 声の洩れた箇所を、再度自分のそれで塞ぐ。苦しげな吐息まで全てを奪い去るような激しい口付けが、セフィロスの抵抗心を失わせていった。
 「んはぁ・・・」
 口を離すと、目元まで真っ赤にしてクラウドを睨む。しかし、もはや抗う気力まで失っていた。
 「・・・憶えていろ。明日にはクビにしてやる・・・・・・!」
 「ああ、憶えておくさ。あんたがそんなことを言ってたってことをね」
 鼻で笑って、ズボンの前を広げる。
 クラウドの目の前に自身がさらされ、セフィロスは耐え難い羞恥を感じた。
 「・・・あんたの、すっげぇキレイ。さっき産まれたばかり、ってカンジだぜ。ちょっと感動したな」
 クラウドの手の中のそれは、先ほどまでの執拗な愛憮に反応し、勃ち上がっていたが、それでも淡いピンク色をしている。
 軽く擦るだけで溢れる蜜が、セフィロスの砲身を濡らしていた。
 「まさか、一人で掻いて出したこともない、とか・・・ないよな?」
 覗き込んでくるクラウドから顔を背ける。
 「・・・・・・」
 「え?!マジ?!そりゃ本気で初めてなんだ・・・可哀想に」
 クラウドが、人差し指でセフィロスの先端の割れ目をなぞる。それだけでそこはひくひくと開閉し、透明な液を溢れ出させた。
 「あっ、や、やめっ!」
 「ほら、どうせ明日には俺をクビにするんだろ?だったら、少しくらい耐えてみせろよ」
 逃れようと暴れる両足を、肘掛にかけさせる。無理な体勢にセフィロスの見動きが取れないのをいいことに、クラウドはセフィロスのそれをためらいなく口に含んだ。
 まだまだ大人になり切れていない、青臭いようなセフィロスのそれを、慈しむように何度も舌で舐め上げる。
 「ひ・・・!」
 快感、というよりは恐怖に近い感覚に、セフィロスが息を呑む。
 下肢に顔を埋づめるクラウドが嫌で、押し除けようと金の髪を引っ張った。
 「も、う・・・やっ・・・!」
 生温かな、湿った感触。それが、浮き出た筋に沿ってゆっくりと上下する。指で根元を刺激されながら、舌で鈴口を舐められる。
 空いた手で内股を何度も憮でてやると、セフィロスの体が大きく跳ねた。
 「感じてる?セフィ・・・・・・」
 クラウドが、愛憮の合間に声を掛ける。
 本来なら、無理矢理ヤらされるのは自分なのだ。
 それなのに、自分の行為に耐えるようにぎゅっと目をつぶり、羞恥どころか恐怖まで覚えているセフィロスが可笑しかった。
 英雄として、皆の前では毅然としている彼とのギャップに、苦笑する。
 端から見ていても、決してわからないセフィロスの一面。
 ―――プライドが高すぎるヤツってのはこういうことに抵抗ある、っていうけど、こりゃ異常だな。
 クラウドは内心ニヤリと笑うと、セフィロスの砲身にさらなる刺激を与えるベく、め一杯張りつめたそれに歯を立てた。
 「くあ・・・っ!」
 痛みと快楽。それが一瞬のうちに全身に伝わっていく。
 まるで波紋のように訪れた感覚は、セフィロスの脳を痺れさせた。
 そして、それが引くと同時に、『何か』がセフィロスの中から湧き上がってくる。
 「な、に・・・」
 体の奥が、熱い。
 その熱さが、下肢の奥で凝縮していくような感覚。
 味わったことのないそれに恐怖を覚え、抑えようとセフィロスの体が強張る。しかし、抑え切れないままなおも膨れ上がる熱にセフィロスは眉根を寄せた。
 もう、クラウドの存在など気にも留めていない。
 ただ、全身を襲う奇妙な痺れに耐えるのが精一杯だった。
 「く・・・あ・・・っ!」
 「我慢しなくていいんだぜ。解放されたいんだろ」
 いつの間にか身を起こしていたクラウドの声に、汗を飛び散らせながらセフィロスが首を振る。
 少しでも気を抜けば、次々とやってくる大波に流されてしまいそうだった。
 けれど、クラウドはそんな彼の気持ちなどおかまいなしに、セフィロスの熱を高めるべく彼自身を両手で扱き続けた。
 甘い声を洩らす唇を塞ぐ。行き場を失くした快楽が、出口を求めて一気に、闇雲にセフィロスの全身を駆けていく。
 (明日に、なれば・・・)
 こんな馬鹿げた行為から解放される。
 そう思うことが、セフィロスの極限まで張りつめた気を緩ませる。
 耐え切れず、セフィロスは椅子に爪を立てた。
 「う・・・ふっ、んう・・・―――っ!!」
 理性という壁を壊して、遂にセフィロスの欲が外へと溢れ出す。弾けるように放たれた精が、クラウドの手と互いの服、そして足下にひかれた絨毯までを汚していった。
 「どう?よかった?」
 クラウドがセフィロスの顔を覗き込む。
 が、肝心のセフィロスは、失神し、クラウドの言葉に反応を返すことはなかった。
 「なんだ、気絶しちまったのか?・・・ま、初めてだったみたいだしな」
 クラウドはフフッと笑みを浮かベると、手についた精を愛しげに舐め取った。
 そのまま、意識を失った彼に口付ける。
 セフィロスの望む『明日』は、まだ遠いようだった。





つづく


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