Crasy Soul 07 〜 断想



 結局、眠れなかった。
 別に、いつもいつも傍にクラウドがいたわけでもないのに、
 一人で眠ることがこんなに寂しいと思ったのは初めてだった。
 浅い眠りは、
 自分を必ず悪夢の中へと誘い込み、
 覚醒を余儀なくされる。
 結局、
 セフィロスは眠ることを断念し、夜が明けるまであと数時間もあるという夜中に、
 あの例のバーへと向かった。
 もう、クラウドがこないことはわかっていても、
 セフィロスはどうしても壁から席を一つ空けて座ってしまう。
 出てきたメニューの中から適当なものを選んで、何も考えないままグラスをあおる。
 いつもはクラウドに任せっ切りだったから、彼が飲んでいた気がする酒を頼んでみて、そのキツさに思わずむせた。
 それでも、
 クラウドという人間1人に捉われたままの自分を戒める為には、
 このくらいいいか、と思った。
 頭がくらくらするくらいキツい酒をいくら飲んでも、
 自分の視界に映る幻想の中のクラウドは、一向に消える気配がない。
 挙句の果てには、キイという音に振り向いた視線の先に、望んでいた気がする彼の姿。
 「!・・・」
 クラウド、と名を呼びかけて、あわてて唇を噛む。
 だって、
 もう、名を呼べる立場じゃない。
 彼への想いを断ち切ろうと思って、またその名を口にだせば意味がなくなる。
 言えば、より鮮明に彼の姿が浮かぶだろうから。
 近づいてくる影は次第に大きくなり、案の定壁際の空席に座ってくる。
 そして、少し驚いたような顔で、「なんで、いるわけ?」としごく当然のことを聞いてきた。





 自分の隣に彼がいることに、違和感を感じる。
 聞きたいのはオレの方だ。
 なぜ、ここにいるんだ。オレの事なんか、何とも思ってないくせに。
 毎夜毎夜、とっかえひっかえ誰かを抱いてるくせに、
 どうしてオレなんかに構う?
 おかげで、オレは、
 牛乳のなかで溺れるちっぽけなネズミのように足掻くばかりだ。
 オレは、いつかそれが固まるのを知っている。
 けれど、それがいつかなんて、わからない。
 一生足掻いて、疲れて、へとへとになって、結局溺れ死にしてしまうかもしれないのに、
 お前はそれに気付いていない。
 いや、気付いているからこそオレを無視し続けるのか。
 悪魔のように残酷なお前。
 笑って人を殺すようなお前のその偽りの優しさが、
 苦痛で、・・・・・・そして、ひどく心地いい。
 疲れて、生をあきらめたオレが溺れた先には、何があるのだろう。
 真っ白な世界に、オレの求めたものはあるんだろうか?
 わからないから、いつまでもあがき続けて・・・・・・






 真っ白な、世界。真っ白な、空気。真っ白な、視界。。。。。。
 うっすらと開けた目が、天井の白さを捕らえた。
 あぁ、オレ、死んだんだ・・・・・・
 ぼんやりと考えるセフィロスに、横から声が掛けられた。
 「・・・やっと目が覚めた?ったく、早朝からあんなもん飲むなよな」
 やれやれ、と肩を竦めるクラウドは、風呂あがりなのか上半身裸で、
 見慣れたはずだというのにセフィロスは恥ずかしげに顔を背けた。
 そして、あのままクラウドに運ばれたことを悟る。
 彼は、居間でローブを羽織って来ると、セフィロスに薬を持ってきた。
 「飲んどけよ。酔い覚まし」
 「いらん」
 プイと横を向く。微かに頭痛がしたが、セフィロスは意地を張った。
 その様に、クラウドははぁ、とため息をつく。
 「・・・人の好意、受けてた方いいんだぜ。全く・・・・・・」
 無理矢理肩を掴まれ、セフィロスは身動きすら出来なくなった。
 サイドテーブルに置いていた小瓶の中身を口に含み、そのままクラウドはセフィロスに唇を重ねる。
 セフィロスは嫌だ、という風に眉を寄せたが、それ以外の動きは封じられていた。
 流れ込む、冷たい感触。
 喉の奥まで犯されている感覚に、そして久々の唇の温かさに、セフィロスの胸が熱くなる。
 けれど、自分の体のそんな反応が、今のセフィロスにはたまらなく許せなかった。
 心はクラウドから切れようと必死になっているというのに、
 どうして体は心を裏切るのか。
 何も生み出さない、自分達の間では何の想いさえ紡がれない行為だというのに、
 体だけはクラウドとの交わりを求めていた。
 そして、悪いことに、
 クラウドにもそれが知られていることが、セフィロスには哀しかった。
 「・・・っ・・・はぁ・・・」
 長い長い口付けから解放されたセフィロスは、肩で息をついた。
 見下ろす瞳は幾分冷たく、セフィロスに得体の知れない恐怖をかもしだした。
 「あんた、最近勝手だよな。何が不満だ?」
 剣呑な視線に気圧され答えられずにいると、クラウドが自分に圧し掛かって来る。
 胸元からシャツを引き裂かれ、セフィロスは息を呑んだ。
 自分の中心までが露わになる様に、羞恥がこみ上げる。
 先ほどのキスで既に立ち上がりかけていた雄を、クラウドは手で包み込んだ。
 「・・・体か?」
 その言葉に、必死に否定する。
 激しく振られる首筋に、銀の髪が張り付いた。
 「じゃあ、何?こんなに俺の傍にいさせてもらってよ・・・・・・」
 咎めるような口調に、セフィロスは瞳を閉じる。
 彼を想うが故に、彼の傍にいることが苦痛だったから。
 離れようとしていただけだ。
 それなのに、より互いを近づけるのは何故なのか。
 胸の内の痛みがより増大しているのえを止められないまま、
 セフィロスはクラウドの与える強引な愛撫に耐え続けていた。







***...to be continued...***

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