外伝:Remember



 知らない道を歩いている。
 ここが、今いるはずのミディールのどこかなのか、はたまたもっと別の場所なのか、
 それすらもわからない。
 あるいは、また幻想の中へ舞い戻ってしまったのだろうか。
 深夜であるにもかかわらず、満月に近い形の月が辺りを照らし、ほのかな明るさを醸していた。
 ふと、クラウドは懐かしい気配を感じて顔を上げる。
 そこには、自分が心の奥底で求めている、影。
 「・・・・・・セフィロス・・・」
 自分が憎んでやまない、それでいて思い出す度にいとしさばかりが募る存在が、そこにいた。
 月の光が鮮やかに彼の存在を映し出し、その美しさを一層強める。
 敵対しているはずの存在のあまりにも幻想的な姿に、クラウドは状況も忘れて見とれた。
 クラウドが気付いたのを察し、銀髪の男が彼の方へと振り向く。
 「・・・今日はどうしてもお前に会いたかった」
 クラウドを見て、自嘲気味に笑う。ひっそりとしたその姿は、今にも消えてしまいそうだ。
 「どうして・・・・・・本当の、あんたなのか?」
 おそるおそる近づくクラウドがセフィロスの腕をとる。その感触は紛れも無く本物だ。
 本物だと感じた瞬間、思う間も無くクラウドはセフィロスを抱きしめていた。
 「セフィロス・・・・・・!たとえこれが夢でも嬉しいよ、セフィロス・・・」
 ますます強められる腕の力に、セフィロスの目が細められる。
 胸に押し付けられる金の髪は柔らかく、幸せだった過去の記憶を呼び覚まさせた。
 「夢ではない。現に私はお前のそばにいる。私の、お前に会いたかった気持ちは本物だ。だから・・・・」
 セフィロスが背中に腕を回してくる。
 その暖かな感触に、クラウドは笑みを浮かべた。
 「体調は・・・大丈夫なのか?」
 セフィロスが問う。
 以前クラウドがわずらった魔晄中毒は、非常に重いものだった。
 「ん。まだたまに頭がグラグラするけど・・・平気。特に今は・・・」
 痛ましそうなセフィロスの顔を自分の方に向け、軽くついばむように口付ける。
 「今は、あんたがいるから、平気。あんたが好きな気持ちだけをだしていられるから・・・・・・」
 「・・・・・・すまない」
 「あんたのせいじゃないさ。あんたを利用しようとした・・・・・・神羅が悪いんだから。・・といっても、今更遅いけど・・・」
 セフィロスの手をとる。
 一本一本の指を丁寧に口付けて、もう一度セフィロスを見上げた。
 「あんたのほうこそ、大丈夫なのか?」
 「私か?私なら、気にすることはない。あの時傷ついた体は、今では星が癒してくれている。私のことも星の一部として認めたらしいな・・・・・・」
 「・・・そっか」
 クラウドは再度セフィロスの胸に顔を埋めた。
 セフィロスの言葉に、自分との違いを思い知らされ、クラウドの心が痛む。
 そうだ。
 セフィロスは、自分が倒さねばならない存在だ。
 今更セフィロスへの想いを思い出したからといって、それでどうなるというのだろう。
 運命の輪は回り切ってしまった。
 もう、後戻りはできない。
 「・・・・・・クラウド?」
 沈黙してしまった金髪の青年に、抱き留める男の声がかけられる。
 不安と絶望の翻弄されたクラウドは、彼の存在感を追うように抱きしめる力を強めた。
 「・・・俺・・・あんたが欲しい・・・」
 そういって見上げる蒼の瞳には、一つのあきらめと一つの希望。
 今更、自分の運命から逃げようとは思わない。
 けれど、心だけは―――――。
 敵対するその時までは、いつでもセフィロスのことを想っていたい―――――。
 そんな瞳に応えるように、セフィロスは柔らかく笑った。
 「・・・・・・今日は何の日だか覚えているか?」
 「・・・今日?」
 「今日を逃してしまったら、もう祝えなくなるからな」
 「・・・祝う?」
 不可解な表情をするクラウドの首筋に顔を埋め、柔らかな髪の感触をおう。
 「抱いてくれ、クラウド。私とお前が戦う前に・・・もう一度、幸せな夢を見せてくれ・・・・・・」
 「セフィ・・・ロス・・・」
 クラウドがおそるおそるセフィロスの手をとった。その暖かさが互いの想いを伝え合う。
 どちらからともなく重ねられた口付けは、甘く、それでいて激しいものだった。
 「今日は・・・今日だけは・・・・・・クラウド・・・お前のものに・・・」



* * *



 闇の中、ほのかに光る月が二人の密やかな行為を暴き出す。
 本来ならば仇であるはずの男との背徳の行為に、クラウドは溺れていた。
 「・・・あっ・・・」
 クラウドの手がセフィロスの中心に触れる。
 思わず洩れたその声に、彼を抱く金髪の青年は笑みを浮かべた。
 「あんたの感触・・・久しぶりだ・・・・・・」
 片手でセフィロス自身をしごきながら、白く浮かぶ首筋を舐め上げる。
 歓喜の予感に銀髪の男の体が震える。
 自分を支配する青年を感じたくて、セフィロスはクラウドの首に手を伸ばした。
 一瞬合った視線を絡めて、クラウドの頭を引き寄せる。
 セフィロスの望みを察したように、クラウドは濡れた唇を重ねた。
 「・・・クラウド・・・・・・」
 「セフィロス・・・もっと俺を感じて・・・」
 口付けを続けたまま、セフィロスの中心への愛撫を強める。
 彼自身の先端からは彼の心の昂ぶりそのままに、透明な液体が溢れ出していた。
 「ふ・・・う・・・んっ・・・」
 口の端から洩れる喘ぎ声がクラウドの耳を打つ。
 いつも味わうことのない幸福感が全身を貫き、それをセフィロスにも伝えようと愛撫を与える。
 体液によって滑りのよくなったセフィロスのそれを擦りあげると、彼もまた与えられる快感に応えようと舌を深く絡めてきた。
 その素直に自分を預けてくるセフィロスに、クラウドの思考がかすんでくる。
 ただ、目の前のことしか考えられなくなる。
 過去も未来も忘れて―――――。
 今、セフィロスと過ごしているこの時だけがすべて・・・―――――。
 「セフィロス・・・・・・」
 唇を離すと、こちらも妖しく濡れた瞳で自分を見据えてくる。
 過去も、未来も見つめて揺るがない碧く美しい瞳。
 自分はどれほどこの美しい存在を欲してきただろう。
 けれど、今、まさにそれがこの腕の中に在る―――――。
 耐えられなくなったクラウドは、セフィロスの中へと侵入した。
 「く・・・っぁあ・・・っ・・・」
 体内に熱い塊がめり込んでいくのを感じ、思わずセフィロスはクラウドの首にしがみつく。
 緊張し、身体を竦ませながらも、クラウドを感じようと腰を動かす。
 そんなセフィロスにいいようのない愛しさを感じ、金髪の青年はもの悲しげの微笑んだ。
 セフィロスをこんな風にしてしまったのは、多分、自分。
 あのニブルヘイム事件で、自分は彼の心の叫びに答えられなかったのだから。
 消しようのない憎悪にとりつかれた彼に、手を差し伸べてやることもできなかった。
 それなのに、本当に自分を憎んだっておかしくはないのに、セフィロスはためらいもなく自分を求めてくれる。
 それに答えてやれるのが今しかないなんて、自分はなんと弱い存在だろう。
 どんなに愛したって、戦わねばならないことは変わらない。
 「セフィロス・・・好き。たとえ俺がこの先何を言おうとも・・・・・・それだけは信じていて・・・」
 「・・・オレ・・・も・・・クラウド・・・・・・」
 快楽が二人の全身を支配し、熱い体は互いの存在を求め合う。
 互いに同じ想いに捕われながら、長いとも短いともつかぬ時間を、二人は過ごしていた。



* * *



 クラウドが目覚めたのは、やっと太陽が顔を出したくらいの、早い朝だった。
 皆で身を寄せていたミディールの宿屋で、クラウドはゆっくりと身を起こす。
 仲間達がまだ寝ているのを確認してベッドから降り立つと、クラウドは頭を振った。
 (・・・やっぱり・・・あれは夢か・・・)
 あまりにも幸せな夢を見ていた気がする。
 もう二度とこの腕に抱けないと思っていた彼との甘い夢。
 (セフィロス・・・・・・)
 ふと、覚えのある気配を感じて、クラウドは顔をあげる。
 一呼吸おいて、窓際には慎ましげに咲いたとげのないバラの花束。
 それに気付いて窓際に駆け寄ると、花束には彼らしい流暢な筆跡で一言。
 「そっ・・・か・・・今日は俺の誕生日だったんだ・・・」
 花束にはこう記してあった。
 "Happy Birthday,Cloud,"
 署名はないものの、クラウドには誰がこれをくれたかは容易に想像できた。
 (セフィロス・・・・・・)
 クラウドは花束を手に取った。
 ・・・忘れていた。
 セフィロスを倒そうと心に決めた時、自分にはもはや何も無いと思っていた。
 自分にとって意味のあることは何一つ。
 それなのに、あの人だけは覚えていてくれていた。
 自分の、この世に生を受けた日を。
 花束を抱き締め、夢で感じたセフィロスの感触を思い出す。
 クラウドはつかの間の幸せをかみ締めていた。



***END***

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