Healing Rain
雨が降っていた。
人の手が過度にかかったこのミッドガルでも、決して自然の力は皆無というわけではない。
だが、それは人間のためにどす黒く、それを浴びる者たちの不快感をあおっていた。
「・・・ったく、なんだってオレ達がこんな雨の中を歩かなきゃなんねーんだぁ?!」
とある5番街の片隅で、青い制服を着た神羅兵がうめいた。
神羅カンパニーが支配しているも同然のこの都市では、神羅の警備兵が実際の警察の役割を果たしている。
だが、この雨のなかでは既に外に出る者さえいなかった。
人一人見当たらないこの状況でただパトロールをして回るとは、例え仕事だとしても情けない。カイルはうしろに連れていたもう一人の相棒に目をやった。
「・・・ならそんな無駄口叩かないで早く終わらせたらどうだ」
「あいかわらず素直じゃねーなぁ。だからお前まわりから煙たがられるんだぜ」
「興味ないね」
素っ気なくいらえを返した金髪の少年兵……クラウドは、相手に目もくれず、前をスタスタと歩き出した。
「ま、待てよっ」
ほどなく追いついたカイルが、またすぐに立ち止まることを強いられた。隣の少年兵が唐突に足を止めたからだ。
「…どうした?」
足を止めた少年はスラムへと続くさびれた道路に目を向けている。カイルもクラウドに倣ってそちらを見てみたが、特に目に留まるようなものはなかった。
「…何かあったのか?」
カイルは不可解そうに尋ねた。
「いや……俺達、この後他に仕事はあったか?」
何の脈絡もなくでてきた質問に、半ば戸惑いながら彼は答えた。
「え?……いや、もう終わりだけど…ってちょ、ちょっと待てよ!!」
その言葉を聞くやいなや、金髪の少年兵は脱兎のごとく駆け出した。
カイルも後を追ったが、すぐに見失ってしまう。
「ちっ…なんだよアイツ……あとで上官に怒られても知らんぞ」
一人取り残された哀れな神羅兵は、一つ頭をかくと、そそくさとビル内へと戻って行った。
「セフィロス!!」
こんなところで聞こえるはずのない、だが聞き違えることのない声が、銀髪の青年の背にかけられた。
驚いて振り向くと、肩で息をしつつ立っている少年兵が視界に入った。
「……クラウド……」
「あんた、なんでこんな所にいるんだ?!」
金髪の少年がそのまま固まって動かない青年の顔を覗き込む。
だが何の感情も読み取れないセフィロスの表情に、彼はため息をついた。
「…とにかく、ビルに戻ろう、セフィロス。こんな雨に打たれていたらあんたが凍えてしまうよ」
「オレは、いい。お前が一人で帰ってくれ」
久しぶりに聞くセフィロスの声は、記憶にある落ち着いた響きがなく、どこか虚ろげだった。
「あんた・・・もしかして、戻りたく、ないの?」
金髪の少年は目の前の存在に問いかけたが、問いかけられた当人はうつむいたまま答えない。
「来いよ」
その態度を肯定と受け取ったクラウドは、青年の腕を引くと半ば強引に歩き始めた。
「・・・・・・ここは?」
セフィロスが連れてこられた場所は、とある閑静なホテルの一室だった。
シンプルな調度品がつくりだす落ち着いた雰囲気に、クラウドも常宿として利用していた。
「・・・服、脱いで。そんな濡れた服着てたら風邪ひくから」
慣れた手つきで戸棚からバスローブとタオルを取りだし、セフィロスに手渡す。
どこか危なげな彼の足取りを見送って、クラウドは嘆息した。
思わず声をかけてしまった。
ソルジャー候補生だった頃の、幸せな日々を思い出す。
あの頃の自分ならばいざ知らず、候補生落ちで一般生に戻ってしまった自分に、そもそもセフィロスに声をかける資格などあるのだろうか。
彼に会わせる顔などないはずなのに。
この身のふがいなさとやるせなさに、もう会うまいと誓ったのに。
わきあがる自分への嫌悪感に、ほどなく戻ってきたセフィロスにも冷たい言葉しかかけられなかった。
「・・・何があったんだよ」
壁に寄りかかったまま、セフィロスの方を見ずに問いただす。長い沈黙の後、今にも消えそうな弱々しい声が聞こえた。
「・・・・・・言えない」
「言えない、じゃ済まないだろ?あんた、こんなとこで一晩もいたら、死んでたかもしれないんだぜ」
どす黒く、澱んだ雨。
自然とはほど遠い成分を含んだ雨は、長時間それにあたる者を死に導く力をもっていた。
何も答えないセフィロスに痺れを切らしたクラウドは、彼の方を見やった。そこで始めて気づいた。
彼が、涙を流していることに。
「あんた・・・・・・泣いてる?」
よりかかっていた身を起こしてセフィロスに近づくと、目の前の青年は、今頃気づいたかのようにあわてて手でぬぐった。
「なんでも、ない」
「なんでもなくないだろ?」
言って、心の中で舌打ちする。今更彼に深入りできる立場でもないのに。
往生際の悪い自分に、クラウドは自嘲の笑みを浮かべた。
「言ったって、どうにもならない・・・・・・」
そう言ってさめた笑みを浮かべるセフィロスに、クラウドの胸が詰まった。
彼を愛していると思っていた。
それでも、候補生だった頃は、彼のその染み入るような深い声が自分を呼んでくれるだけでよかったのを覚えている。
候補生落ちをして彼と会えなくなってから初めて、彼の存在全てが欲しかったことを悟った。
でも、そんな想い、今更どうすることができるだろう。
彼が目の前のいるのに、その彼が哀しい思いをしているのに、それを癒せる存在ではない自分がひどく悲しかった。
「クラウド・・・・・・?」
セフィロスから離れると、背中におびえたような声がかけられた。
構わずにおいてあったジャケットを羽織る。
「とりあえず、一晩は泊まっていけるから」
「?」
「ここは自由に使って構わない。俺は寮に戻るから」
事務的な口調でそういって、ドアに手をかける。
これ以上、この部屋にいたら、自分が何を言いだすか知れたものではない。
自分の中の何かを狂わせてしまうような碧玉の瞳から、早く逃れたかった。
だが、
「まて・・・・・・!!」
強い制止の声と共に、後ろから腕をつかまれた。
クラウドは構わずに部屋をでようとしたが、セフィロスのその力を振り切ることはかなわない。
「手、放して、セフィロス」
苦労して淡々と告げる。
しかし、よりいっそう強められるセフィロスの力に、クラウドは唇を噛んだ。
「クラウド・・・・・・オレは恐いんだ。暗い中、何も分からず一人でいることが・・・・・・。研究のためだ、と言われて何かされるたびに、オレの中の何かが壊れていく。オレがオレでなくなってしまうようなんだ・・・・・・」
「・・・・・・」
「そうなれば、オレは今以上に孤独になる。「英雄」といわれながら、誰もオレ自身を見てくれなくなる。・・・きっと、お前も。だから・・・今は、今だけは・・・ここにいてくれ・・・・・・」
クラウドは息を呑んだ。
セフィロスの口から、そんな言葉が聞けるなんて夢にも思わなかったから。
何の取り柄もないはずの自分にぶつけられた彼の心に、自分の中の押さえつけていたモノが息を吹き返されたような気がした。
すなわち、彼をまっすぐに愛する心を。
「セフィロス・・・・・・」
愛しい人の名を口に乗せ、クラウドはゆっくりと振り向いた。
拒絶されるかとも思ったが、うつむいたままの彼の背中に手をまわして胸に引き寄せる。
誰からも愛情を受けることのなかった凍りついた彼の心を、どうにかして溶かしてやりたかった。
たとえ、自分が役不足だったとしても。
「・・・そんな悲しいこと言わないでくれよ。たとえ世界中があんたを敵にまわしても、俺があんたの傍にいてやる。あんたが望むならいつだって傍にいるから・・・・・・だから、一人で苦しまないでくれ・・・・・・!」
セフィロスがおずおずと背に腕を回してくる。
その暖かな体温に、もはや自分の感情が流れ出すのを止めることは出来なかった。
「クラウド・・・・・・」
(セフィロス・・・)
「あんたが、好きだ・・・・・・」
一瞬、腕の中の体が震えた。
何か言いたげに開かれた唇が拒絶の言葉を吐く前にと、癒すような口付けを与える。
何度も角度を変えて与えられるそれに、セフィロスは自分が溺れていくのを感じた。
「クラウド・・・オレは・・・オレのままでいたい。今も、これからも、ずっと・・・・・・。英雄といわれながら、孤独を感じるのは、もう耐えられないんだ・・・・・・」
クラウドが哀れな青年の銀の髪を梳いている。とても、とてもやさしく。
あやすようなその感触に、セフィロスももはや自分を止められなかった。
「・・・だから・・・クラウド・・・・・・」
それ以上の言葉は必要なかった。
クラウドが青年の顎を上向かせる。
近づいてくるクラウドの青い瞳に、セフィロスはゆっくりと瞳を閉じた。
力の抜けたセフィロスの体をベットに横たえると、彼の瞳が自分を見上げた。
魔晄の輝きを宿した瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えながら、クラウドは彼に覆い被さる。
期待と不安に震える銀髪の青年に優しく笑いかけながら、改めて形の良い彼の唇に触れた。
「・・・・・・ん・・・っ」
そのまま彼の胸元に差し入れた手でバスローブの前をはだけさせる。
そこから覗く小さな胸の飾りは、未だ暖まりきらない体のせいか、既に色づき立ち上がっていた。クラウドの唇がそこへ到達すべく首筋から胸へと伝っていく。その感触にセフィロスは体を震わせた。
「・・・あっ・・・!」
不意に突起を強く吸い上げられ、思わず唇から漏れた声に、それを発した存在は頬を朱に染めた。
抵抗のつもりか、彼の胸元に顔を埋めた少年の髪をにぎりしめる。
それを黙殺して丹念に指先と舌での愛撫を施してやると、冷たかったセフィロスの体が熱を帯びてくるのがわかった。
「セフィロス・・・・・・」
上半身を起こして胸の中の青年を見つめると、恥ずかしそうに顔をそらす。そんな彼の姿にたとえようのない愛しさがこみ上げてきた。
セフィロスの顔にキスの雨を降らせつつ、彼の腰に手を回す。そのまま、下肢にある敏感な部分に手を触れた。
それはクラウドの愛撫によって、既に熱を放って震えている。
「や・・・あっ・・・・・・」
焦らすように指先だけで触れると、セフィロスの唇から甘いと息がこぼれた。
しかし、熱に触れたのはほんの一瞬だけで、跡は足の付け根から下肢のラインをゆっくりとなで上げる。
触れて欲しい箇所になかなか触れてくれないもどかしさに、クラウドに組み敷かれた存在はその銀の髪を振り乱した。
「・・・っクラ・・・ウド・・・っ・・・!」
「ん?なに?」
わかってて訊ねる意地の悪い声に、セフィロスは身を捩る。
切なげに眉を寄せ、媚びるように自分を見つめる彼は、この世に存在するどんなものよりも美しい。
我を忘れて見入っていると、震える手が肩に爪を立てて限界を訴えてきた。
「・・・っ・・あぁっ・・・・・・」
「わかってるよ」
苦しそうにかをを歪めるセフィロスの頬にキスを与えると、クラウドはさらなる愛撫をほどこすべく彼の下肢に顔を埋めた。
足を開かせ、露になった彼自身を口内へと導く。なおも硬さを増すそれを責め苛むように舐めあげた。
「ん・・・っ・・・はぁ・・・っ・・・」
クラウドが与えてくる生暖かい感触に体を竦ませる銀髪の青年は、自分自身の限界を感じ、手元のシーツを握り締めた。
それを察したクラウドもまた、より彼の熱を高めようと唇に力を込める。
逃げ出そうとしないではいられない激烈な感覚の訪れに、セフィロスは全身を緊張させた。
「・・・あっ・・・ぁあ―――――っっ!」
今までにないほどの強い快楽に包まれ、セフィロスは自身を解放した。
吐き出された情を残らず飲み下して、金髪の少年はセフィロスを見やる。
濡れた唇を拭うクラウドと目が合ってしまった青年は、あまりの羞恥に目を覆った。
「・・・セフィロス」
呼びかけて顔を背けてしまった彼の顎を捉える。唇を寄せ、互いを深く貪った。
そのまま閉ざされた下肢の奥に手を這わせた。裏筋を撫で上げ、到達した場所にある蕾に触れる。
「・・やぁっ・・・見・・・るなっ・・・」
足を胸につくほど折り曲げられ、自分の秘部がクラウドの目の前に晒されている。
熱っぽく細められた彼の視線に、身を裂くような羞恥心が全身を駆け抜けた。
「・・・綺麗だよ・・・セフィロス・・・」
「・・・ひぁ・・・っ・・・!」
クラウドが舌でうすく色づいた秘部に触れてくる。口内に残るセフィロスの体液と自分の唾液を舌に乗せ、彼の蕾を慣らしていく。
逃れようと身を捩るセフィロスの腰を押さえつけ、襞のひとつひとつに唾液を絡ませるように舐め上げると、締まったそれが徐々緩んでくるのがわかった。
「―――――っっ!」
息を詰めて痛みに耐えるセフィロスに慰めのキスを与える。彼の痛みを少しでも和らげようと、ゆっくりと身を沈めていった。
やがて最奥に達すると、クラウドが与えるゆるやかな律動に、痛みではない甘い感覚が青年の全身を包み込んだ。
「・・・クラ・・・ウド・・・っ・・・オレは・・・っ・・・」
快楽に震えるセフィロスの唇が何かを紡ごうと開かれる。だがすぐにクラウドの唇で塞がれ吐息もろとも彼の口中に吸い込まれていった。
なおも強まる律動に、セフィロスはなけなしの理性が崩れ去るのを感じた。
「んっ・・・あぁっ・・・ク、クラウ・・・ド・・―――――っ!!」
ひときわ強く指を握られ、そのままセフィロスは自らの欲求を解き放った。
同時にクラウドも彼の中に情を吐き出す。そのままぐったりと弛緩したセフィロスを抱きしめた。
いつの間にか雨がやみ、顔を出した月が窓の外から2人を照らしている。
一緒に同じ余韻を味わいながら、2人は幸せをかみ締めていた。
「クラウド」
自分の名を呼ばれ、金髪の少年は腕の中の存在を見やった。セフィロスはまるで子供のように自分に身を寄せている。
「オレは、何のために生まれてきたんだろう。神羅の誇る殺戮人形か?実験動物か?・・・やつらに言われるままの生活を余儀なくされて、それでなにが"英雄"だ・・・・・・そう考えるたびに、耐えられなかった・・・・・・」
クラウドは無言でセフィロスの髪を梳いた。慰めるように軽く口づけ、先をうながす。
「オレは英雄なんかじゃない。もっと醜悪で・・・穢れた生き物だ・・・・・・オレは、ただの・・・ただの・・・」
「セフィロス」
青年の悲痛な言葉をさえぎり、クラウドは彼の人の顔を上げさせた。
「それでも、オレはあんたが好きだ。好きだから、あんたが欲しかった。だから、何の為に生きているのかわからないのなら、俺のために生きてくれよ・・・セフィロス・・・・・・」
クラウドは青年の肩に顔をうずめた。孤独な道を歩んできた存在の哀しみを、少しでもやわらげてやりたかった。
「・・・こんな、オレでもいいのか・・・?」
セフィロスの瞳から留め止めもなく涙が溢れ、クラウドの肩を熱く濡らした。
クラウドには、それが喜びのためなのか哀しみのためなのか、にはかには判別がつかなかった。
「あんたはキレイだよ・・・世界中の誰よりも・・・」
クラウドが唇を寄せてきた。彼の静かな口付けに応えながら、セフィロスは幸せ浸っていった。
「おやすみ、セフィロス」
「・・・おやすみ」
たがいに想いを共有しつつ、2人は安らかな眠りの世界へと落ちていった。
...to be continued...