夢想郷 -2-



 「・・・しくじった」
 バタンとドアの開く音に玄関に行けば、血塗れのクラウドが壁によりかかっていた。
 「・・・クラウド」
 驚きの表情でクラウドに駆け寄るセフィロスの胸に上半身を預け、薄く笑みを浮かべる。
 荒く息を吐くクラウドの頭を抱きしめてやりながら、セフィロスは彼の全身を見やった。
 よほど激しくやられたのか、破れかけた服の隙間から見える傷はポタポタと血を流すものまである。
 全身に傷を負ってはいるものの、しっかりと意識があることから命に別状はないことを悟って、セフィロスはクラウドの体に負担をかけないように抱き上げてベッドに運んだ。
 「一体誰が・・・・・・」
 服を脱がせると、以前自分がスラムで受けたものとは比較にならないほど深い傷やあざが無数についていた。
 素手で殴られたというより凶器でつけられたような痛々しい傷跡に、セフィロスは顔をしかめる。
 「多分、前にあんたを犯した奴ら、さ。あいつら、あんたへの暴行が成功して、勢いづいてるっぽいぜ。気に入らない上司を呼び出して袋叩きにしたり犯したりしてるらしいからな」
 「・・・お前も、呼ばれた?」
 浅い傷には軟膏を塗りつけ、深い傷には包帯を巻いてやりながら、セフィロスはクラウドに尋ねた。
 薬が塗り込まれる痛みに顔をしかめながらも、セフィロスの介抱に身を委ねる。
 「・・・いや。俺んトコの上官が呼ばれたからさ。奴らを潰すいい機会だろ?」
 片目をつぶって、セフィロスへとウインクする。
 怪我をしているというのに何ら変わらないクラウドの熊度に、セフィロスは内心ため息をついた。
 「・・・お前でも、勝てなかったのか?」
 セフィロスはクラウドの実力を知っている。
 最年少のソルジャー候補生だったし、何より日々軍事演習を欠かさない彼は、下手なソルジャーよりも強い。
 そんなクラウドが、たかが一介の神羅兵に負けるとは思えなかった。
 「スタンガン出されたからな。・・・まぁ、半分は潰したけど」
 「・・・クラウド」
 髪を掻き上げてやれやれと溜め息をつくクラウドの首に腕を回し、セフィロスはクラウドを抱き締めた。
 クラウドの傷跡を見るだけで、涙が溢れてくる。
 「すまない・・・オレの為に」
 「気にするなよ。別にあんたの為だけってわけじゃない」
 傷だらけの腕を自分を抱く存在の広い背中に回して、クスリと笑う。
 自分の首に顔を埋めて肩を震わせるセフィロスが泣いているかのようで、不意に愛しさがこみ上げた。
 「・・・っでも・・・!」
 「そこまで言うなら、お返しに何かしてくれよ」
 二ヤリと笑ってセフィロスの腰を抱く。
 「とりあえず、あんたが欲しいな」
 「・・・馬鹿か!そんな体で・・・」
 顔を真っ赤にしながら、必死にクラウドの腕を外そうとする。
 けれど、クラウドは抵抗する両手を掴むと、力任せに引っ張って自分の上に引き倒してしまった。
 「・・・っ」
 「怪我なんか大したことない。それより、あんたを感じる事の方が重要。」
 頭を掴んで強引に唇を奪う。
 「それに・・・さ。あんたがいつまで俺のトコに居るかもわからないだろ。だったら、一日一日大切にしないとなっ!」
 ハッとすることをさりげなく言われて、セフィロスはクラウドの肩にかけていた指をきつく噛ませた。
 そうだ。
 どうしてオレは、今もここにいるんだろう。
 体も癒え、もうクラウドの世話にならずとも生きていけるはずだ。
 それなのに相変わらず世間では行方不明のまま、クラウドの家で毎日を過ごしている。
 クラウドは、何も言わない。
 ただ当然のように家の留守を任せ、帰った時にはその日の社内の様子を愚痴も含めて話してくるのだ。
 一見自然そうな、それでいてあまりに不自然な状況。
 「・・・クラウド・・・」
 セフィロスの何か言おうと開いた唇を塞ぎ、クラウドは深くくちづけた。
 歯列を割り、戸惑う舌を絡ませて強く吸い上げる。
 「・・・ふ・・・・うッ・・・」
 それだけで体の力が抜け、全身が甘く痺れたように震える。
 理性を、感情が支配していく。
 何も考えられなくなり、ただただ快楽に溺れようとしてしまう。
 抵抗の意を失くしたセフィロスを肌で感じると、クラウドはかすかに笑って背を枕に預け、誘うように手を伸ばした。





 セフィロスの拙い指先が自分の胸を這う感触に、クラウドはくすぐったそうに身を捩った。
 胸元を憮でるように手のひらを滑らせ、立ち上がった突起に触れる。
 「・・・セフィロス」
 腕を伸ばして首筋に触れれば、やはり感じやすいのかかすかに身を竦ませ、それでも必死にクラウドへと愛撫を続けるセフィロスが愛おしい。
 クラウドはセフィロスの綺麗な肌を隠す衣服をゆっくりと脱がせ、ベッドの下の床に放った。
 背筋を憮でるようにして骨の浮き出た感触を味わうと、セフィロスがとがめるように自分を睨んでくる。
 それでも、碧い瞳は熱に浮かされたように潤み、クラウドを煽ることにしかならず、
 クラウドはセフィロスの髪を掴むと熱を持つ自分の下肢へと近づけた。
 「な、にを・・・」
 「口でしてくれよ」
 目の前にあるクラウドのそれは、既に熱を持ち始め、脈打っている。
 誘うように足を開き、セフィロスがくわえやすいように自らの手で自身を扱くと、それはより大きく膨張し先端から淫液を溢れさせた。
 「い・・・やだ・・・ッ・・・」
 びくびくと躍動する赤黒いそれから逃げるように顔を背けるが、勿論クラウドが許してくれるはずもなく。
 締め切った口元にクラウドの雄の先端が液体を塗り付けるように触れると、セフィロスはあきらめたようにロ腔性交を施した。
 手のひらで根元を支え、おそるおそる唇を触れ合わせ、にじみ出る蜜をゆっくりと舐め取っていく。
 自分の行為がクラウドを興奮させていることを感じて、セフィロスは次第にボルテージを上げていった。
 アイスを舐めるように舌で全体を丁寧に濡らし、喉の奥まで含んで唇で挟み込み、頭を上下に揺らす。
 その度に大きさを増すクラウド自身が呑み込めないほどになったところで、クラウドの手がセフィロスの頭を優しく憮でた。
 「ん。もういいよ、セフィロス」
 下肢から顔を上げさせれば、クラウドの体液とセフィロスの唾液が混じりあったものが口の端に筋を作っていく。
 それを舌で舐め取ると、クラウドは体勢を反転させ、痛みを忘れた腕でセフィロスを組み敷いた。
 「・・・どうした?」
 セフィロスは、どこか不安気な、泣きそうな顔をしていた。
 クラウドがのぞき込むと、あわてて首を振る。
 「な、なんでもない」
 横を向いてしまったセフィロスの顎を強引に引き寄せ、口内を貪る。
 熱い舌に弄ろうされ、咎めるようにセフィロスはクラウドの肩に爪を立てた。
 その一方で、クラウドとこうしている時が一番幸せだと思う。
 朝、クラウドを送り出した時も、
 タ方、クラウドを待つその時も、
 いつだって、一人でいると急に不安になる。
 自分のいる場所はクラウドの家だというのに、帰ってこないのではと不安になる。
 別に、たまに帰ってこないことがあってもおかしいことはないだろうに、クラウドがいないという事実は自分にとって考えられなくなっていた。
 だから、もし、ここから出て、神羅に戻って、いままでと同じように一人で過ごすようになったら、自分は多分、耐えられない。
 それに、この家から出たら、クラウドとの繋がりも何もなくなってしまいそうで怖かった。
 「セフィ・・・」
 唇を離して、不意に自分を見つめるクラウドの視線と目が合う。
 自分の考えていたことが恥ずかしくなって、セフィロスは顔を朱く染めた。
 顔を見られたくなくてクラウドの首にしがみつく。
 それを合図に、クラウドはセフィロスの下肢に触れると、感じてやまないセフィロスの雄を指先に絡めた。
 「や・・・、クラ・・・っ・・・」
 先端を親指の爪で引っかくように刺激し、ひくひくと開閉する先端から液体を溢れ出させる。
 それを塗りこめるように後孔に指を挿し込み、自分を受け入れられるように内部を拡げていった。
 クラウドを前に足を広げ、あられもない姿を見せるセフィロスは大変に魅力的だ。
 彼が自分を受け入れ、自分の下で乱れる様を見れば、何があろうと手放せなくなってしまう。
 もし、今彼がここを出て、今までのように神羅の宿舎で一人で暮らすと言ったら、多分自分は彼を監禁してでもここから出さないようにするだろう。
 それほどまでに、クラウドはセフィロスを欲していた。
 正直、体だけが目的かと言われれば、今の状況では反論もできないけれど。
 長く一人で生きてきて、いつだって暗い家に帰ってきたクラウドにとって、
 帰った時にセフィロスに迎えられる時の喜びは、この上ないものであった。
 だから、・・・もう、手放したくない。
 手放したくないから、毎日体を繋ぐ。
 繋ぎとめて、そして。
 一生このままでいられるはずもないことぐらいわかっているけれど、クラウドはこんな日々がいつまでも続くようにと祈るのだ。
 「セフィロス・・・もう・・・いいか・・・?」
 張り詰めたセフィロス自身を手で扱き、恍惚とした表情の彼に問いかける。
 ゆっくりと肯くセフィロスを確認して、もう蕩け切った彼の秘められた場所へと自身を宛がった。
 そして、熱い中へと。
 ぐっと侵入してくる感覚に息を詰めながらも、セフィロスは体内に呑み込まれていく重い圧迫感に押し出されるような声を上げた。
 「く・・・あぁ・・・!!」
 体をのけぞらせて喘ぐセフィロスの白い首筋に、噛みつくようなキスを与える。
 奥まで貫き、セフィロスの呼吸が整うのを待ってからズルリと身を引き、また奥へと内壁を擦り上げた。
 その度にロ元からは嬌声が洩れ、クラウドの頭の奥を刺激する。
 セフィロスの独持の締め付けと内部のやけつくような熱さと共に。
 「セフィロス・・・セフィロス・・・!」
 必死に名前を呼んで、ぎゅっと瞑っていたセフィロスの瞳を自分の方に向かせる。
 快楽に浮かされ潤んだ碧をさらに潤ませようと、クラウドは腹の間で震えるセフィロスの熱を手で扱いた。
 「あ・・・っ、も・・・イ・・・!」
 もう満足に言葉を紡ぐことのできないセフィロスの口元が、限界を訴える。
 だが、限界が近いのはセフィロスだけではなかった。
 「あぁ・・・俺も、イきそうだよ・・・」
 霞んだ頭の中で、2人は互いの絶頂を目指して身体を激しく絡み合わせた。
 クラウドの先端が、セフィロスの最奥へと到達する。
 その瞬間、セフィロス自身から白濁した精が放たれ、その感覚がクラウドを受け入れていた箇所を締め付け、クラウドもまた自分の情をセフィロスの中へと解き放ったのだった。






 気付けば、見慣れたベッドの上だった。
 「・・・大丈夫か?」
 声の方を振り向けば、あちこちに包帯の巻かれたクラウドが自分の目の前に冷たいタオルと飲み物を持って来てくれていた。
 コップをサイドテーブルに置き、余熱の残る頬に冷たいタオルを押し当てられ、その気持ち良さにセフィロスは瞳を閉じた。
 「・・・ったく、これじゃどっちが怪我人だかわかりゃしないな」
 苦笑して言うクラウドに、みるみる顔が朱くなる。
 さっき冷ました熱がまた上がるように。
 「・・・・・・。すまない」
 「いいよ、別に。どうせ俺明日も会社だし、部屋中漁ってポーション使ったし、それに」
 ニヤリと笑ってセフィロスの頬を憮でる。
 「あんた、って栄養剤ももらったしなv」
 「・・・っ!!」
 一気に体温を上昇させたセフィロスはクラウドを突き飛ばした。
 「いって・・・、怪我人にンなコトするなよ・・・」
 「・・・お、お前が悪いんだっ!」
 上気させてクラウドを睨むセフィロスにハハ、と笑うと、クラウドは謝罪のかわりとばかりにセフィロスの頬に唇を寄せた。





 ・・・今は、これでいい。
 未来の事はわからないけれど、今は。
 悩めば悩むだけ悲しくなるのだから、いつかそんな日が来る時に悩めばいい。
 だから、今は、互いを感じて過ごそう。
 泣いても笑っても、2人でいられなくなる日が来るのなら、
 それまでは笑っていたいから。





   

***END***

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