Entreaty...



気がついたセフィロスは、折られた右腕を無意識に持ち上げてみる。
目の前で握る。開く。そんな動作を繰り返す。
痛みはなかった。
確かに粉々に骨を砕かれたはずなのに。
「・・・・クラウド、なのか?」
狂気の海に沈んでしまいそうになっている、愛すべき魂。
存在を思い出すたびに胸をしめつけられる。
逃れることのない悪夢の中に突き落としたのは自分。
そのくせ、囚われたまま動けないクラウドを救い出したいだなんて、
ずいぶんと矛盾していることだと、セフィロスは自嘲気味に笑った。
寝かされたままのベッドで身じろぎすると、先ほどの気がふれたような
情事のせいで全身に鈍い痛みが走る。
「クラウド?」
狂気の淵でせめぎあい、外にでることすらできないはずなのに。
それもこれも全て自分のせいなのだ。
探しにでるためにセフィロスは痛む身体を引きずるようにして起き上がった。
そのとたん、カシャリと乾いた金属音がした。
はっとして首元に手をやると、合金製の首枷がはめられ、ベッドの足に固定されている。
「なんだ・・・これは」
鎖の長さは部屋の中を移動するだけだったら問題ない。
「あんたが俺から逃げたりしないように」
「クラウド!」
開けられた扉を振り仰ぐ。
深紅の薔薇の花束を抱え、クラウドが微笑んでいる。
「おまえ、大丈夫なのか?
外にでたりして」
「何?
平気だよ。あんたが狂気の淵から
俺を無理やり連れ戻したんじゃないか」
非難めいた言葉を作り笑いでごまかして、
薔薇を一本全裸のセフィロスに投げる。
「・・・あんたは血の色がよく似合う」
冷たい魔晄の瞳だった。
「クラウド!」
「あんたの好きだったクラウドは、もういない。
俺のここで死んでしまったよ」
クラウドは己の胸を指差す。
抱えていた薔薇の花束をばらしながら、部屋中に花をまく。
「どう?墓場に似つかわしいだろう?」
「墓、場?」
「俺とあんたのだよ」
おかしそうにクラウドが笑う。
「クラウド!」
「・・・あんたはクラウドが、好きなんだろう?
葬式をしないとね。
ねえ、部屋中に散らした薔薇を拾ってきてよ」
「なに?」
「・・・・ねえ、セフィロス。
獣みたいに四つんばいになって咥えてここまで運んでよ」
「クラ・・・」
セフィロスを射抜く人工の瞳。
この奥に真実のクラウドは閉じこもってしまったのか?
「そのくらい、なんでもないでしょ。
あんたは俺に全身全霊で償ってよ。あんたが全部壊したんだ。
故郷も、家族も、夢も、希望も、全部あんたが持っていってしまった」
「・・・・・よせ!!」
目を背けようとしたセフィロスの顎を強引に捕らえて
息も触れるような距離でクラウドは邪悪な笑みを浮かべる。
「この、魔晄の瞳。
実験用のモルモットの証だよ。あんたがクラウドを殺したんだ」
クラウドはセフィロスを突き放す。
「さあ、弔いの花を拾ってきてよ」
クラウドは薄く笑ってベッドの上で片方の膝を立て、
セフィロスを凝視していた。
「・・・・・・・・・」
セフィロスは無言でベッドを下りる。首元の枷からつながった鎖が
流れるように自分の跡に従う。
言われたまま、四つんばいで薔薇の茎を咥えた。
二本、三本、四本、五本目で唇に痛みが走った。
薔薇の刺で唇を切ってしまったらしい。
散りばめられた薔薇を数本拾い集め、クラウドが座るベッドの上に置く。
膨大な数の深紅の薔薇の香りで頭の芯がくらくらする。
何度も往復する。
獣のように花を一本一本拾うセフィロスの動作をクラウドは楽しげに
鑑賞していた。
これもまた、復讐のひとつなのだろうかとセフィロスは思う。
甘んじて受け入れると決めていた。
絶望の淵からクラウドを救えるのなら、自分の誇りなどどうなっても構わなかった。
全ての薔薇を集め終るころには、足も腕も疲労で動かすこともできなくなっていた。
膝はすれて血が滲んでいる。
「綺麗だよね。赤い薔薇。赤はあんたの記憶につながる。
炎の中のあんたは凄絶なほど美しかった」
セフィロスが集めてきた薔薇をクラウドは束ねた。
「地上に降りてきた破壊の天使のようだったよ」
束ねた薔薇をセフィロスめがけて振り下ろす。
「・・・痛」
肩の辺りに刺で引っ掛けたような赤い傷が数本走る。
「神になんか、なれると思ってたの」
いいながら、凶器となった花束でセフィロスを打ち据える。
飛び散る深紅の花びらがセフィロスの銀色の髪を飾る。
「クラウド・・・・」
「今のあんたには、なにもできやしない。
こうして俺のおもちゃになるくらいしかね」
なおも打ち据える。
セフィロスの背にも引き裂かれるように赤い傷が走る。
飛び散る花びらはまるで血のようだった。
花弁の飛び散ってしまった薔薇を
クラウドは興味を失ったように床へ放った。
「・・・・・おいでよ。セフィロス」
自ら、苛んでいた相手をベッドの上に招く。
「早く。
命令だよ。あんた、俺に償ってくれるんだろう?」
嫌な笑みをたたえたまま、セフィロスを促す。
「・・殉教者みたいだね。綺麗で、清廉で」
不安げに近づいていくセフィロスをクラウドは予想外に優しく抱きしめる。
「でも、中身はとてつもなく汚いものでできてるんだろう?」
背中の傷跡に爪を立てる。
「・・ウア・・・」
引き裂くようにクラウドは傷口に爪を食い込ませる。
白い背を流れ落ちる血がクラウドの手を赤く汚す。
「痛い?
これくらい、なんでもないでしょ。
あんたは俺に殉教するんだから」
力をこめて背の傷をいたぶる。
「・・・クラウド」
セフィロスの哀願など耳にも届かないとでもいいたげに、
クラウドは楽しげな笑みを刻んでいる
「羽根をもぎ取られた天使みたいだね。
綺麗で背徳的で、逆らうこともできない。
・・・どれだけ俺があんたを好きだったか知ってる?
愛していたか、知ってる?
焦がれていたか、知ってる?」
「クラウド・・・・・」
「・・・・・・知りもしないくせに、
そんな哀れっぽい目で俺を見るな!」
セフィロスの頬を張る。崩れ落ちたセフィロスの肩を抑えつけた。
「あんたも、狂えばいい。
あがいても無限に出られない狂気の牢獄に
俺が、あんたを黒い鎖で繋いであげるよ」
クラウドはこの上もない優しい表情でセフィロスを見つめていた。



その拍子に目隠しをしていたシャツの袖が外れ、
窓から射し込む淡い光と、自分を抱く存在の、日の光を集めたような鮮やかな金髪が、視界を彩る。
「・・・クラウド・・・・・・」
「俺は、ただ、・・・あんたが・・・・・・」
うつむいて肩を濡らすクラウドの背に触れ、ゆっくりと憮でていく。
小さな子供のように弱々しく肩を震わせている彼の姿が、本当に哀しかった。
「・・・・・・お前のせいじゃない」
かろうじていたわりの言葉を紡ぐ。
けれど、その台詞はクラウドにとってどうしても許せないもので。
クラウドは弾かれたように身を起こした。
「・・・あんたに、慰められたくなんか、ない」
目の前の存在が、これほどまで自分を自己嫌悪におとしめているというのに。
目の前の存在がいるからこそ、血にまみれたあの幻に責め立てられているというのに。
彼に、自分のせいじゃないなどと言われることに、無性に腹が立った。
「・・・そうさ、全部あんたのせいなのに・・・・・・どうして俺が責められなければいけない?なんでだよ?!」
荒れるクラウドに、必死に右手を伸ばす。
その度に手が軋み、折られた骨が悲鳴を上げた。
「誰も、お前を責めてなんか、いない」
「責めてるんだよ、あんたの存在が!!」
伸ばした腕を捕らえられ、押さえつけられる。
直接折られた箇所を掴まれたわけではなかったが、その衡撃による痛みに、セフィロスは眉を寄せた。
「・・・っ!!」
「・・・苦しめよ。俺が感じた何倍もの痛みを・・・・・・あんたにも味合わせてやる」
酷薄な笑みを浮かベたまま、戒しめていた左腕を外し、手を取って無理矢理立ち上がらせた。
「・・・来いよ」
脅えたようにクラウドを見つめたまま動こうとしないセフィロスに舌打ちして、先ほどまで自分が寝ていたベットへ放り出す。
咎めるように自分を見つめる碧い視線が嫌で、クラウドは組み敷いた存在の頬を張った。
「・・・っ・・・」
「あんたが俺にそんな目を向ける資格なんてないんだよ。その体全部で、俺に償ってもらうんだから」
切れた口の端から流れる血を舐め取り、強引に足を開かせる。
その奥で赤く色づく後孔を、指で一気に貫いた。
「・・・うぁ・・・っ・・・!」
痛みのためか快楽の為か、声を上げるセフィロスに構わず侵入させた指で内壁を擦れば、ぬめった感触が指先から伝わってきた。
先ほどの行為で受けた傷が、再度開いて真っ白なシーツを汚していく。
「・・・あ・・っ!」
「こっから流れる血、か。ははっ。まるで処女みたいじゃないか。よかったな、あんたの純粋さを証明出来て」
あざけるような口調でセフィロスを追いつめ、痛みに歪む表情にも構わず肛内を指で犯していく。
抵抗もできずに翻弄され、ひどい痛みと羞恥と屈辱に、セフィロスはシーツを握り締めた。
それでも、クラウドの行為に慣れた体は、徐々に快楽を訴えてくる。
クラウドの掻き回す指が前立腺を刺激する度に、熱い弄流が全身を駆け巡った。
「あっ・・・はあっ・・・・・・!」
「何、あんた、感じてんの?」
セフィロスの下肢を見やれば、先ほどまで萎えかけていたはずの彼自身が、今は赤黒く張りつめ、もはや限界寸前だ。
クラウドが筋に沿ってそれを憮で上げれば、さらに容量を増し、先端から蜜を溢れ出させている。
「こんなに痛めつけてやってんのに・・・・・・快楽感じてるなんて、あんた、サイアク」
何の感情も伺えない冷たい表情でセフィロスを一瞥すると、クラウドは愛撫を中断して床に手を伸ばした。
引き裂いたシャツをさらにひも状に引き裂いて、怯えるセフィロスの視線に薄く笑いかける。
「・・・何を・・・する・・・」
「あんたは、黙って俺に犯されてればいいんだよ」
セフィロスに覆いかぶさり、乱暴にキスをする。
口内を蹂躙する熱い舌が、セフィロスの全身を麻痺させていく。
一瞬力が抜け、無防備になった体を再度押し開くと、その間で息づくセフィロス自身をきつく縛った。
「っああ・・・っ!・・・や、やめろ・・・!!」
きつく縛り上げられ、行き場を失くした熱がセフィロスを襲う。
はずそうと蠢く左手を捕らえ、頭上に押さえ付ければ、快楽と苦しさに歪む表情がクラウドを睨み付けた。
「そんなこと言える立場じゃないんだよ、あんたは・・・・・・」
苦しげな、懇願する瞳も意に介せず、薄笑いを浮かべたままセフィロスの体を反転させる。
右手を支えにしてしまったのか苦悶の声が上がったが、それすらもクラウドを喜ばせるだけで。
腰だけを上げさせて自分の目の前に晒されたそこがひくひくと蠢いていることに、クラウドは満足げに笑った。
「さぁ・・・お仕置きの時間だ・・・・・・」
今だ血を流すそこに怒張した自身をあてがい、一気に挿入する。
「―――――っ!!」
きつく歯を食い縛り、セフィロスは侵される痛みと羞恥に耐えた。
だが、一端奥まで入り切った猛りは、それで終わらず中を擦っていく。
出口近くまで引き抜かれたそれがより傷口を開かせ、また奥を貫かれれば深い充足感と共に訪れる熱い快楽の弄流が、
セフィロスの全身を駆け抜けた。
「やっ・・・くるし・・・っ!」
無理な体勢の中、快楽をせき止める障害物を取り去ろうと、自分の雄へと手を伸ばす。
しかし、寸前の所でクラウドに押さえられ、セフィロスは身を震わせた。
「・・・まだ、駄目」
冷たい声音で告げて、苦しげに喘ぐセフィロスをより一層攻め立てていく。
クラウドの体液とセフィロスの血で濡れたそこがインビな音を鳴らし、セフィロスの耳さえも犯していった。
いっそ、殺されてしまいたいと思う。
次々と押し寄せてくる波には耐えられない。
身を任せて、共に流されてしまいたいのに、自分の足に巻かれた鎖が邪魔をする。
このままでは全身が引き裂かれそうなほどの弄流に、セフィロスは涙を流した。
奥を貫かれる度に気が遠くなり、すぐに行き場を失くした欲望が出口を求めて全身を襲う。
白く染まった視界の中で、セフィロスは助けを求めるかのように腕を伸ばした。
「クラウド・・・・・・・!!」
脳裏に浮かべる、あの人の姿。
今自分を犯している存在ではない。もはや自分の記憶にしかない、優しげな青の光を宿す少年。
狂気に身を浸してしまったクラウドの中の、ただ一つの希望。
失くしたくない、失くせないそれを求めて、セフィロスは空に手を伸ばしていた。
「・・・セフィロス」
不意にその手を掴まれ、苦しさの中瞳を開ければ、脳裏に浮かベていた存在と寸分違わぬ姿が目の前にあった。
だが、自分を見下し哀れむような瞳の色は、もはやクラウドのものではない。
「・・・あんたの求めるクラウドは、もういない」
歌うように、告げる。
クラウドの体が、別の誰かに奪われたかのように、似つかわしくない、その表情。
「・・・やめろ」
「もう、いない」
「やめろ!!」
首を振って、浸透するように聞こえてくる言葉を振り払う。
認めたくなかった。
狂気の底に沈んだクラウド。
自分のせいで、絶望という苦しみを背負わせてしまった存在。
自分のせいで、自分にとって一番大切なものをも失くしてしまったことは、・・・わかっている。
それでも、セフィロスは、時折宿す柔らかな光の中に、過去の面影を探し続けた。
さっさとあきらめて、忘れられたなら楽だろうに、忘れられない想いがセフィロスをクラウドの元へと縛りつけていたのだった。
「・・・もう、お前の欲しかったクラウドは、どこにもいない」
「・・・ああ、わかってるさ。でも・・・」

でも。


それでもオレは―――――。




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Update:2003/03/07/FRI by BLUE

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