Desire



 「クラウド」
 闇が自分の名を呼ぶ。
 暖かな感触が涙に濡れた瞳に触れる。
 「欲しいんだ、お前が」
 自分にのしかかる影が甘やかな声で囁く。
 その声があまりにも求めていた人に似ていて、クラウドは息を呑む。
 目を開けると、当然のように微笑む青年がそこに居た。
 「・・・セ・・・・・・」
 言いかけて、やめる。
 そんなはずはない。
 自分が欲しかったあの人は、何も答えてくれなかった。
 心を開かせたくて、本音を吐かせたくて彼に訴えても、自分の心は伝わらなかったじゃないか。
 だから、自分は彼を穢して、終わりにしたんだ。
 それなのに、今、セフィロスが自分を求めてくるなら、自分は、俺は、どうすればいいんだ。
 「・・・あんたは・・・誰だ・・・・・・?」
 問いかけると、その人はゆっくりとクラウドの肩に埋めていた顔を上げる。
 「わからないか?お前が愛した者だよ」
 「違う、あんた、セフィロスじゃない・・・・・・」
 「・・・じゃあ、何て答えが欲しいんだ?
 きつい瞳でクラウドを見据える。その碧い瞳が記憶そのままに澄んでいて、クラウドの心は乱れた。
 絶句したまま動かない金髪の少年に、セフィロスの姿をした存在はかすかにため息をつく。
 「・・・お前の望みだ」
 「俺の、望み?」
 「そう。お前の願望、記憶、セフィロスに対する想い。そのすべてがオレに集約されている。オレはお前の中の”セフィロス”だ」
 声もでないまま自分を凝視するクラウドに、『セフィロス』はうすく笑った。
 「オレはお前のモノだ。お前の好きにするがいい。それだけでも、あの”セフィロス”よりはマシだろう?」
 「・・・信じられないな」
 何とか震えを抑えて言う。
 想い募って夢にでてくるならいざ知らず、現実に、自分の望む存在がそのまま形になってでてくることなんてあるのだろうか。
 それとも、これ自体夢なのか。
 「夢ではない。オレは,お前に触れられるし、お前もオレを好きにできる。・・・こんな風に」
 クラウドの思考を読んだかのように、セフィロスが答えた。
 手のひらでクラウドの中心をたどり、両手で包み込む。
 いつのまにか熱を持っていたそれに唇を近づけ、口内へと受け入れた。
 「・・・ん・・・っ・・・」
 喉の奥まで含んだそれにしゃぶりつくセフィロスの銀髪を引っ張った。
 「やめ、ろ・・・セフィロス・・・」
 だが、セフィロスはクラウドの股間に顔を埋ずめたまま、離そうとはしない。
 それどころか、一層の快感を与えようと、歯と舌での愛撫を強めてくる。
 「・・・っ・・・・・・」
 気づけば、セフィロスの口内に精を放っていた。
 うっとりとした表情で吐き出されたものを飲み干すセフィロスに、愛しさと同時に嫌悪感が込み上げる。
 顔を上げたセフィロスの口の端から流れる体液は、彼の青年のおぞましさをかきたてた。
 それでも、今だ引かない熱が全身を支配する。
 目の前の、セフィロスに似たアクマは、理性もきかないまでに、妖しく、美しい。
 「欲しかったんだろう?」
 また勃ち上がりかけているクラウド自身に指を絡める。
 「・・・あんたが悪いんだよ」
 乱暴に手首をつかみ、体を反転させてベッドに押し付けた。
 されるがままに体をあお向けて、魔晄を映し込んだ様なキレイな瞳でクラウドを見上げるセフィロス。
 「あんたがセフィロスならわかるだろう?・・・あいつは・・・どうしたんだ?」
 「・・・・・・」
 だが、目の前の存在は唇をかみ締めたまま、答えようとはしない。
 「おい、答えろよ」
 「・・・その答えを、お前は望んでいない」
 「勝手に決めつけんじゃねーよ!言えっていってるんだ」
 自分の下でその存在を誇張し出しているそれを強く締め上げた。
 「・・・・・・っ!」
 「言えよ」
 さらに力を込めるクラウドに、セフィロスは観念する。
 「あいつは・・・・・・お前が嫌いになったんだ。ただ一度・・・心を開いたくらいで自分を手に入れたと錯覚した高慢なお前を」
 「・・・・・・そうか」
 感情のない声でそう言ったきり、クラウドはセフィロスの上へ覆い被さった。
 そのまま動こうとしない姿に、『セフィロス』の心が痛む。
 「それで?なんでアンタは俺のそばにいるワケ?」
 「・・・確かに、あいつはお前を拒んだ。だが、ここにいるオレはお前の望みだ。お前の望み通り、お前を愛し、欲する。オレはお前を愛しているよ」
 「・・・・・・なるほど」
 あまりに自分勝手な物言いに苛立ちを覚えながら、本物と寸分違わぬ形のよい唇をむさぼる。
 当たり前だ。目の前の存在は自分の望みであり記憶なのだ。
 本物なんてものは、記憶の中にしかない。
 これは紛れもなく、自分の中の"本物"なのだ。
 首筋を舐め上げて、そのまま鎖骨を唇で辿ると、組み敷いた存在は甘い声を上げる。
 血が出るくらいにその真珠のような肌を吸い上げて、花びらが落ちた様なきれいな朱の痕をつけていく。
 「・・・クラウド」
 「何?」
 「・・・・・・いや」
 硬質な声音で応じるクラウドに、視線を逸らす。
 そのまま、セフィロスは自分を抱く存在から与えられる快楽をただただおった。

 目をつぶったままおとなしく自分に抱かれているセフィロスが、まるで小さな子供のようだとクラウドは思う。
 以前彼が神羅の研究者達に傷つけられ、自分の腕に降って来た時のような弱々しさ。
 だから、クラウドは錯覚しそうになる。
 この目の前の存在は、あのセフィロスだと。
 「なぁ・・・俺を見ろよ・・・・・・」
 おとがいを掴んで無理矢理自分の方へ向かせた。
 噛み付くように口付け、その柔らかな唇の感触をたどる。

 こんなはずじゃなかった。
 自分がセフィロスに望んだものは、体なんかじゃない。
 その心が、その存在が、
 その全てが─────欲しかった。
 決して、体だけの関係を求めたわけではない。
 なのに、願望が姿になったというこの存在は自分に体を開き、自分の行為を易々と受け入れる。
 「足、開けよ・・・・・・」
 途端、セフィロスの頬が朱に染まった。
 「もっと、だ」
 羞恥心のためか、ためらいがちに震える脚を押し開き、中心を外気に晒す。
 まだ窄まったままの秘部に指を突き立てると、彼の全身に電流が走った。
 「・・・!やぁ・・・っ」
 「嫌?・・・俺の望み通りにするんじゃなかったのか?」
 クラウドの細められた青い瞳から、セフィロスが苦しげに視線を逸らす。
 中を激しくかき回す度に、指を離すまいと締め付けるそこに、クラウドは皮肉げな笑みを浮かべた。
 あの、自分を魅了していた美しい英雄が、こんな淫乱な存在だったとは。
 彼を腕に抱きたいと思ったのはどうしてだろうか。
 そして、そんな彼を受け入れ、そんな彼を望んだ自分は、なんて馬鹿な存在だろう。
 こんな自分を、彼が好きになってくれるはずがない。
 ・・・・・・今まで一度もセフィロスが自分を好きだといってくれなかったことに、今更ながらクラウドは気づいた。
 「おい・・・・・・」
 いい加減濡れそぼったそこから指を抜き去り、セフィロスの腕をとって体を起こす。
 顔を間近に近づけて、碧の瞳を覗き込む。
 どこか怯えた様な色の瞳は、確かに、あまりにも強く、そしてあまりにも脆いあの人のもの。
 「俺が好きか?」
 一瞬、戸惑った仕草を見せる。
 微かにうなずくセフィロスの頭を両手で挟み込み、自分の方へと向かせた。
 「俺が、好きか?」
 「・・・・・・好き」
 弱々しく告げるセフィロスに、クラウドは業を煮やした。
 「もっとはっきり言えよ!」
 「・・・・・・あぁ、好きだよ・・・っ!」
 強く腕を引かれ、バランスを崩したセフィロスは金髪の少年に身を預ける形になった。
 セフィロスのそれにクラウドの熱く猛る楔が触れ合わさり、それを感じた青年は羞恥心を覚える。
 「・・・来いよ。俺が好きなんだろ?」
 かすかに朱をはいた頬がますます赤くなる様に、クラウドは目を細めた。
 唇を噛み締め、目を閉じて自分に跨るセフィロスの体に手を添えてやる。
 「・・・っく・・・ぁあ・・・っ!」
 体の中から搾り出すような声をあげ、ゆっくりとクラウドを受け入れる。
 大きさを増したクラウド自身が体内を侵食していく感触に、セフィロスは体を震わせた。
 「もっと奥までくわえ込めよ」
 腰に手を当て、一気に引きおろす。
 「─────っああっ!」
 強引に中へと侵入した異物が体の内側を擦り、青年に快感をもたらす。
 熱いセフィロスの内襞から伝わる愉悦に、クラウドは口の端を歪めて笑った。
 「ほら・・・腰動かして。そうじゃないと、あんたが楽しめないだろ?」
 「くっ・・・あっ、はあっ・・・」
 クラウドに言われるままに腰を揺らす。
 自分の上で痴態を晒すセフィロスを見つめて、これが自分の願望だったのかと改めて感じてみる。
 自分の望んだセフィロス。
 自分が愛していたあのセフィロスではなく─────。
 「セフィロス・・・・・・」
 指を絡めて目の前の存在を引き倒す。
 濡れた唇を重ね、深く口付ける。
 互いの下肢が激しく動く中、どちらともつかない唾液が口の端からしたり落ちていた。
 「ん・・・っう・・・!」
 淫靡な音を部屋中に響かせながら、互いの体を貪る。
 先端から滴をしたらせるセフィロスのそれを指で弄び、絶頂へと行き着く予感を煽った。
 「っ・・・ク、ラウド・・・・・・もう・・・っ!」
 「限界か?じゃあ、達けよ・・・・・・」
 セフィロス自身に与える愛撫の手を一層強めて、銀の髪を振り乱す青年の瞳を見つめる。
 眉を寄せて甘い声を上げるその存在を、目に焼き付けた。
 「・・・っぁああっ!」
 「・・・セフィロス・・・!」
 互いの体で昂まる2人は、同時に体内に疼く欲を解き放った。





 腕の中にセフィロスがいる。
 ぐったりと自分に身を預けたまま意識を失ったセフィロスの顔は、どこか寂しげだ。
 ゆっくりと長い銀糸を梳くと、指の間からサラサラと流れ落ちていく。
 その様がつかめそうでつかめないセフィロスの心を表しているようで、クラウドの心が痛んだ。
 ・・・仕方のないことだ。
 ただの一般兵に戻ってしまった自分に、あんな雲の上の存在が振り向いてくれるはずがない。
 そんなこと、わかっていたはずなのに、バカなことをしてしまった自分。
 好きになってくれるはずがない。
 忘れてしまおう。
 あの人のことなど忘れて、ただ自分の中の幻影を抱けばいい。
 それこそ、堕ちた自分にはふさわしいではないか。
 クラウドは腕の中のセフィロスを抱き直すと、苦しげな眠りへと落ちていった。



...to be continued...



 

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