Love after despair



やってきた人物は、よく似ていた。
けれど、見知った人物よりも頭二つ分小さくて、
ひねればすぐにでも折れそうなくらい華奢な腕が印象的だった。
髪の色は亜麻色で、瞳は優しい鳶紫をしている。
淡く柔らかい印象を受けるその面立ちに、クラウドは立ち尽くしていた。
「あなた・・・」
「ルクレツィア・・・」
近寄ろうとする女を、隣にいた長身の男が押しとどめる。
「いいご身分だな、ヴィンセント」
「どういう意味だ?」
長い髪を束ね、一時期より落ち着いた面差しを浮かべたヴィンセントの表情が険しくなる。
「言葉どおりだよ」
クラウドが口元に酷薄な笑みを浮かべた。
「何のようだ?」
「・・・・つれないな。元の仲間に向かって。
ずっとあんたを探してたんだ。ヴィンセント」
「クラウド・・・」
「そして、ルクレツィア、あんたを、ね」
クラウドの瞳にずっと昔の強い光がひらめいた。
けれど、その光はヴィンセントがともに旅をしていたころの彼のものではなく、
どこか悲しげで荒んだ印象を与えるものに変化していた。
「私・・・」
「ルクレツィア、ダメだ」
引き止めるヴィンセントの腕をやんわりと押しやり、女はクラウドを見つめ近くに歩み寄った。
「いつか貴方は、私の元にくるような気がしていたわ。
まだ、あの子を探しているのね」
ルクレツィアは目を閉じ、右の掌を胸に当てた。
「あんた・・・・」
クラウドはどこか浮世離れしたルクレツィアに気をそがれ、彼女を見下ろした。
「あの子のことで、きたんでしょう?」
あでやかに笑うルクレツィアは、すでに半世紀を生きているとはずなのに
少女の面影を残したままだった。
「セフィロスの居場所を知っているのか?」
「さあ、どうかしら?」
「あんた、母親、だろう?」
「・・・・母親、ね。確かに、生んだのは私よ」
「そうだな。あんたはあの人を生んだだけの人間だ」
クラウドが吐き捨てる。
「クラウド!」
ヴィンセントが咎めるようにクラウドを睨みつける。
「いいのよ、ヴィンセント。彼のいうとおりなんだもの。
そうよ。私はあの子を生んだだけ。愛したこともない、冷たい人間よ」
ルクレツィアはクラウドを見上げ、魔胱の瞳を見据えた。
「・・・・自分の子供を実験材料にするような女だからな、あんた」
憎々しげにクラウドは言い捨てる。
「そうよ。
私、あの人のために自分の子供を利用しようとしたの」
ルクレツィアは動じるどころか、まるで意に介さずクラウドに笑みを向ける。
「最低な女」
「なんとでもいえばいいわ。
私、宝条が好きだったの。けどあの人の頭の中は研究のことだけ。
・・・ずっと私の傍にいてほしかったから、子供を作ったわ・・・
でも、あの人の関心をひくことなんてできなかった。
だから」
「だから実験に身を投じたとでもいうのか?」
「そうよ。人類の未来のためなんて、そんな大義名分どうでもよかった。
私はただあの人の関心をひきたかっただけ。
実験に成功すれば、あの人を未来永劫自分の方に向けておくことができるはずだったわ」
「・・・・実験は、失敗だった」
「ええ。私たちは、神を創りだすつもりで悪魔を呼び覚ましてしまったの」
「悪魔、か・・・・・・」
嘲るようにクラウドは笑った。
「・・・・それでも、私、死ねないのよ。
あの人も逝ってしまって、この世にもう何の未練もないはずなのにね」
自虐的に答えて、ルクレツィアは息をついた。
「ルクレツィア・・・」
ヴィンセントが心配げに肩を抱く。
「・・・心配しないで。私が死ねないの、よく知っているでしょう?」
ヴィンセントに身を預け、ルクレツィアは静かに涙を流した。
「死ね、ない・・・・・?」
「そうだ。彼女は死ねない。
セフィロスに埋め込まれたジェノバ細胞が、
胎盤を通じて母親である彼女の中に巣食っていたからだ」
ヴィンセントがか細い女をかばうように答える。
「じゃあ、もしかしてセフィロスは・・・・」
「・・・多分生きている。だが、私たちは居場所を知らない」
「そうか・・・」
抑揚のない、押し殺した声だった。
「・・・クラウド、私たちはただ静かに暮らしたいだけだ」
ルクレツィアの肩を抱く腕に力をこめてヴィンセントがつぶやいた。
「知っている」
クラウドは静かに目を閉じて頷いた。
ただ安らかに、静かに時の流れにさからわずに暮らすことができたらと
そう願う気持ちは覚えがあった。
あまりにも色鮮やかに染み付いた想いに、今も眩暈を起こしそうになる。
「あんたたちのこと、誰にもいうつもりはないよ」
それだけを早口に伝え、クラウドは踵を返した。
「・・・私、死にたいの。でも死ねないことが、嬉しいのよ。
あの子が、生きてるって思うと、嬉しいの。
おかしいでしょう?
自分の都合で勝手に生んで、捨てたのに・・・・」
背中で泣き崩れるルクレツィアの声が聞こえた。

面差しだけじゃなく、愛することに不器用なところまでよく似ていた。
一途で激しくて、それでいて誰よりも純粋で。
今も思い出すのは、最期の微笑。最後の最後にやっと会えた最愛の人。
死にたくて死に切れなくて、あの人のいない一秒はまるで永遠のようで。
胸を焦がす想いは、いまもくすぶっている。
探している星は地上からはあまりにも遠すぎて、探し出すこともできない。
それでもまだ、夜が来るたびに探している。






***END***

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