Wahr Nacht



いつも、見ていた。




初めて彼を知って、
いつの間にか憧れの存在になって、
彼のようになりたくて、神羅に入ってから、ずっと。
気付けば、視線が彼のあとを追っていた。
それは、ソルジャー候補落ちした今でもちっとも変わらない。
自分になんか眼中になぞないんだろうけど。
話していても、どこか遠くを見ているような、自分じゃない誰かを見てるような、その碧の瞳を、
一時でいい、自分の方に向かせたい。
たとえ、嫌われたとしても。




こんな夜遅くにまで仕事があるのか。
消灯間際に上官に呼ぱれた俺は、しぶしぶと話を聞いていた。
内容は、『朝一番にセフィロスに重要書類を届けること』。
ザックスと共に暇さえあれば3人で飲んでいるのを知っているのか、この上官はセフィロスへの雑用をいつも俺に押し付ける。
今回もその一貫なのだろうが、神経質そうなこの上官は俺にくどくどと忘れぬよう念を押していた。
・・・全く。
それほど重要なものなら今すぐ届ければいい。
半ばため息をつきながら、俺はその足でセフィロスの部屋へ向かった。
・・・本当は、セフィロスに会うのは、つらい。
会えば、嫌でもあの瞳を見てしまう。
魔晄を映したような碧の瞳が、自分でない誰かを見ている様を。
その度に、セフィロスの肩をつかんで、「俺を見ろ!」と叫びたくなる。
その衝動を抑えて、彼の前にいることはつらかった。
消灯間近の静かな廊下。
そこを通り、セフィロスの部屋の前で立ち止まる。
深呼吸をして、覚悟を決めた俺は、扉の横についているインターホンを鳴らした。
「・・・・・・?」
だが、内部から一向に返答がない。
本来なら寝ているはずのない時間なだけに、俺は眉を寄せた。
夜遅くまでセフィロスが仕事をしている、というのは、セフィロスに関わる者ならよく知っていることだ。
それに、何よりドアから洩れる光が、内部の存在が完全には寝ていないことを証明している。
少しためらったが、開閉ボタンを押してみる。
するとシュッと軽い音がして、難なく扉が開いた。
中を見渡すと・・・・・・、ソファに横たわるアイツが、いた。
俺が部屋に来たことにも気付かないまま、眠り続ける銀髪の青年。
俺は、公的な立場であることも忘れ、あまりにも無防備なセフィロスを眺めた。
デスクに書類を置き、備え付けのボタンでドアに鍵をかけると、意を決してゆっくりとソファへと近づく。
脇の絨毯に座り込み、俺は軽く口元をほころばせて眠るセフィロスの寝顔を見つめた。
俺をわずらわせる、あの碧の瞳は閉じられて。
見るたびに、見つめるたびに惹かれる存在が、今もまた俺を引き込み、離さない。
手を伸ばしても、決して届かない至高の存在。
彼を追いかけてここまで来たけれど、多分これ以上は無理だろう。
俺のいるところまで引きずり落とせたなら、彼を手に入れられるだろうか?
ジャケットの胸ポケットから手のひらにすっぽり収まるほどの小型注射器を取り出し、ソファからはみ出ている白い腕に押し当てた。
スラムで手に入れた、媚薬。
そんなものが天下の英雄に効くとは思わなかったが、かまわずに指に力を入れる。
浸透圧を利用して液体が体内に入り込む軽い衝撃に、セフィロスが小さくうめいた。
「・・・・・・なぁ、俺、あんたが好きなんだよ・・・」
きちんと目が覚めている時には決して言えない言葉を紡ぐ。
そう、セフィロスが好き。
敬愛・・・なんて言葉じゃ足りない。
その瞳を俺の方に向かせたい。
たった一つだけの、望み。
よく、クラウドはたらしだとか、遊び人だとか噂をされていることは知っているけれど。
本当は、どうだっていい。
セフィロスさえ、・・・手に入れば。
薬の効果か朱みが兆してきた頬に唇を寄せ、そのまま軽く息を吐く口元へ。
「・・・んっ・・・・・・」
セフィロスの頭の上に片腕を置き、俺は唇を重ねた。
初めての、感触。
少し冷たくて、でも柔らかなセフィロスの唇。
意識のない人間の唇を奪うなんて、最低な行為なんだろうけど。
あんた、こんな時ぐらいしか、キスなんかさせてくれないだろ?
名残を惜しむように唇を離すと、朱に染まったセフィロスの口元が、軽く笑みを浮かべた。
あぁ、あんた、夢・・・見てるんだよな。
俺じゃなくて、誰かを・・・見てる
俺じゃない、誰かに・・・・・・笑いかけてる
なぁ、あんたの瞳には、誰が映ってるんだ?
・・・俺、だったらいいのに。
けど、後戻りはできない。
俺は、眠りとクスリのせいで朦朧としたセフィロスを抱きしめた。
「セフィロス・・・・・・」
答えはない。なくて、いい。
多分、セフィロスが完全に目覚めたなら、俺は、・・・終わりだ。
滑らかなラインを描く頬をなぜ、そのまま首筋へ。
遅れて唇を這わせ、指先でセフィロスの私服らしい黒いシャツをはだけさせていく。
露わになった均整のとれた胸を撫でると、口元から甘い吐息がこぼれた。
それだけで、俺の体は熱くなる。
「っあ・・・っ・・・」
胸にある突起を口に含むと、上から降る、甘い声音。
それは、クスリの効きやすい体だからか、元来から感じやすい体だからか、ほんの少しの違い。
歯を立ててそこを甘噛みすれば、ピクリと体が反応してきた。
綺麗な体、日に焼けたこともないような白磁の肌を指先でたどる。
カシャンと音を立てて外れるベルトが妙に生々しくて、俺はぞくりとした。
まだ、目覚めない、セフィロス。
寄せられた柳眉の扇情的な様に、俺の中に何かが膨れ上がる。
・・・抱きたい。
・・・愛してるんだ、セフィロス。
下着ごと、結構乱暴にボトムを脱がせて、床に放って。
露わになったセフィロスの雄を手のひらで包み込むと、手の中のそれが熱を持って形を変えていった。
「っ・・・っあぁ・・・っ・・・・・・」
洩れる声が、セフィロスの感じている様を露わにする。
手の中で躍動する彼自身も、先端から蜜を溢れださせている。
それを指先に絡ませ、一層激しく扱けば、快楽に顔を歪ませていたセフィロスの瞳がゆっくりと開かれ、腕が・・・・・伸ばされた。
自分を抱く存在を求めて、伸ばされた腕。
うっすらと微笑む顔。
薄く開かれた碧に映る、・・・誰か。
それほどの関係を持つ人間がいることに、慣れたような反応を示すセフィロスに、俺は自分でもわからない凶悪な感情が体の内を支配していくのを感じた。
激昂し、セフィロスを体を乱暴にひっくり返す。
「・・・・・・っ!だ、・・・誰・・・っ!」
案の定、セフィロスは覚醒した。
瞳を一杯に開き、自分を犯している輩を捉えようと、必死に首を曲げる。
けれど、一度でいいから、その瞳を自分の方に向かせたいと思っていたはずなのに、いざとなったらそれが怖くて。
俺はセフィロスの後頭部を手で捕らえ、その額をソファの端に押しつけた。
「ぐっ・・・・・・っ・・・!」
苦しげな声を無視し、その腰を持ち上げる。
屈辱的な体勢から逃げようと暴れるセフィロスは、だが思うように力が入らないまま弱々しい抵抗を示した。
「・・・おとなしくしてろよ・・・・・・」
慣らしもしていないセフィロスの奥に怒張した自身をあてがう。
そのまま、俺は考える間もなく一気に中へと突き入れていた。
「くっ・・・あああ・・・っ!!」
セフィロスの指先が、震えるほどにぎりしめられている。
既に誰かのモノになっていると思ったそこは、思いのほかきつくて、俺は顔をしかめた。
「・・・ほら・・・もっと力抜けよ・・・怪我したくないだろ・・・?」
耳元で囁いて、張りつめた前を弄ると、全身をびくつかせてセフィロスが啼いた。
ゆったりと腰を動かせば、クスリのせいで抗えない快楽が押し寄せてくる。
「くっ・・・や・・・やめ・・・っ!」
それでも、紡がれる言葉は抵抗の意を示し。
虚偽の快楽に揺れる体を手にした俺は、どうしようもない虚しさを感じていた。
けれど、今さら止められるはずもない。
続ければ続けるほど、痛みは増すとわかっていながら、俺の体はセフィロスを求める。
そして、か細くも俺とセフィロスを繋いでいた絆は、これであとかたもなく消え去るんだ・・・・・
気付けば俺は、涙を流していた。
「・・・セフィロス・・・」
「・・・嫌だ・・・っはぁ・・・っ!」
絶え間なく放たれる拒絶の声。
それでも構わずにもう限界な前に触れてやる。
指先で激しく扱き、同時にセフィロスの最奥を貫いた。
「・・・・・・っ・・・」
「た、たすけ・・・っクラ・・・っぁあああっ!!」







・・・・・・・・・今、何て言った?
俺は、飛び込んで来た予期せぬセフィロスの言葉に、耳を疑った。
だって、そのまま受け取れるはずがない。
いつだって、セフィロスの口の端に自分の名が乗ること自体、奇跡のようだったから。



力が抜け、ぐったりとなった体を横たえる。
失神しているのか、またその瞳は閉じられていた。
「セフィロス・・・・・・」
涙の跡を唇で辿り、静かに耳元で囁くと、ゆっくりとその瞳が開かれていく。
もう、隠れるつもりもなかったけれど、その瞳に会うのはやはり怖くて、俺はセフィロスの首筋に顔を埋めた。
腕を後頭部に回し、子供が親にするようにぎゅっとすがりつく。
「・・・・・・クラウド・・・?」
静かな低音が、俺の耳を打った。
おそるおそる顔を上げると、宝石のような透き通った碧が俺を見上げてくる。
今だけは俺を映すその瞳に、求めていたものがやっと見つかった気がした。
「・・・・・・ごめん・・・・・・」
言うべき言葉が見つからないまま、俺を凝視しているセフィロスにいたたまれなくなり、俺はうつむいた。
「あんたが・・・・・・欲しかったから・・・っ・・・」
言うつもりもなかったのに、本音が洩れる。
そして、途端に沸き起こる絶望感と罪悪感に、勝手に涙が溢れていた。
セフィロスは、何も言わなかった。
ただ、腕が伸びてきて、俺の涙をぬぐう。
顔を上げれば、笑みを浮かべるセフィロスがそこにいた。
「・・・・・・夢を、見ていたんだ」
うっとりとそれを思い返すように目を閉じる。
「最初は誰かわからなかった。でも、いつも独りだったオレを暖かく包み込んでくれた。その腕は優しかった。目を開けて見れば・・・そこにお前がいた」
何も言えずに固まる俺を見つめる。
セフィロスの瞳に捕らえられ、身動きがとれない。
「嬉しかった。いつも求めていたものが手に入った気がした。その一方で、これは夢だとわかっている自分がいた。でも、オレは夢でもよかった」
「なん、で・・・・・・」
あまりのことに、声もでない。
当たり前だ。
どうしてセフィロスが俺を見てたなんで考えられる?
「・・・クラウド。俺はお前と出会って始めて喜びを知った。何気ないやりとりでも、お前と話していれば何故か嬉しくなる自分がいた。その理由はなんであれ・・・・・・お前の傍にいたいと思ったんだ」
今度こそ、俺の背に回される腕。
その温かさに、俺の心が熱くなる。
でも。
「俺には・・・あんたを愛する資格なんてない・・・っ・・・!」
ずっと見ていただけならまだいい。
でも、自分はセフィロスを犯してしまった。
そう思われていい存在なんかじゃない。
・・・なのに。
「じゃあ、責任取ってくれ」
フッと笑って、セフィロスが俺を抱き寄せた。
セフィロスの胸に顔を埋めると、彼の鼓動を感じる。
「責任取って、傍にいろ」
オレの傍に。
孤独な自分を支えるように。
触れるそばから伝わるその想いは、俺の心に深く染み渡っていった。
「セフィロス・・・・・・」
俺は、セフィロスの背に腕を回した。
想いを込めて、セフィロスを抱きしめる。
自分の想いが、セフィロスに伝わるように。
真実を映す夜。
ゆっくりと重ねられたキスは、本当に甘い気がした。






***END***



Update:2003/09/05/SUN by BLUE

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