Kiss me...



 誰デモイイ
 誰でもいいから、傍に居てほしい。
 傍ニ、イテ。
 傍にいて、抱きしめて欲しい。
 独リハ
 独りは、嫌だから。
 イヤ。
 不安、不安、不安。
 このまま誰も自分に気付かなかったら
 自分は
 イキテナイノト同ジダカラ
 死んでしまう。




 ・・・・・・嫌だ、オレを一人にしないでくれ・・・・・・!
 伸ばした腕が宙を切り、セフィロスは目を覚ました。
 「・・・あ・・・・・・」
 見渡すと、いつも見慣れた部屋。
 まだ夜が明けていないのか、薄暗い寝室。
 すぐ傍らに眠るクラウドがいることを確認して、セフィロスは少し安堵した。


 昔・・・といっても小さな子供の頃だったが、セフィロスはいつもこんな夢ばかり見ていた。
 誰かを求めてさまよう腕。
 きまって宙を切る感触。
 そうやって飛び起きて。
 きまって涙を流す。
 頭では一人でいることに慣れたと思っていても、必ずその夢はセフィロスの心の不安をかきたてていた。
 一人であることへの不安。
 独りになることへの恐怖。
 それが彼の心の奥を支配していたのだった。


 それでは・・・・・・今は?


 セフィロスは、再度傍らで寝息をたてている人物を見つめた。
 (・・・クラウド)
 今自分の側にいるのは彼だ。
 自分より年下で、それでいて自分よりはるかに大人びた青年。
 自分の為に涙を流し、全てを捨てて自分と共に歩んでくれた存在が、今も側に居てくれる。
 軽く口を開けたまま眠るクラウドの顔にかかった前髪をはらってやると、夢でも見ているのか微かに笑みを浮かべた。
 初めて出会った時からなんら変わることのない、一見すると冷たそうな表情が、自分だけにはふわっと優しくなる。
 そんな彼の笑顔が、自分の心の大半を占めるようになったのはいつだったろう。
 散々すれちがい、傷つけ合い、もはや愛情など失ってしまってもおかしくない運命を歩んできたけれど。
 もう、失わない。
 失えない、この気持ち。
 自分が、今こうしてクラウドの隣にいられることこそ、夢のようなのだから。
 今だあの悪夢の余韻で震える腕を彼の頭の上に添えて、セフィロスは静かに寝息を立てるクラウドを見つめた。
 そのまま、眠ったままの青年に顔を近づける。
 ゆっくりと唇を重ねれば、触れたそばから暖かな感触が伝わってきた。
 冷え切った自分の心を、溶かしてくれた存在の熱。
 それを感じながら、セフィロスは今の自分がクラウドがいなくては存在し得なかったことを、改めて自覚していた。
 ふと、自分からすることなどほとんどなかったはずのロ付けに気付いて、セフィロスは苦笑して身を起こした。
 ・・・が。
 突然強い圧カで頭を押さえられ、クラウドから身起こすことはできなかった。
 それどころか、先ほど自分が施したキスよりも数段深い口づけが、セフィロスの口内を蹂躙していく。
 「う・・・っは・・、・・・んっ・・・!」
 不意を突かれて頭がパニック状態に陥ったセフィロスは、自分の愛する者であるにもかかわらず剥き出しの肩にきつく爪を立てた。
 「・・・っ・・・相変わらず手加減ナシだな」
 やっと開放された唇で貪るように空気を吸いながら、苦笑して肩の傷を見る目の前の存在にハッとした。
 けれど、かすかな動揺を顔には出さず、セフィロスはプイと横を向く。
 「お前が悪戯めいた事をするからだ」
 「ンな事言われてもね。あんただって寝込み襲ってたクセに」
 ニヤリと笑って自分の方を見るクラウドに、先ほどの自分の行為を思い出す。
 途端に二重に恥ずかしくなって赤面した彼は、クラウドに背を向けると布団を被り丸くなってしまった。
 そんなセフィロスの態度に、クラウドはクスリと笑う。
 「そう怒るなよ。別に責めてるわけじゃないんだ」
 そんなのわかっている。
 怒っているわけではない。・・・けど、非常に、恥ずかしい。
 どんどんと頭に血が上っていくのを止められないまま、被った布団の暑さに苦しみつつもセフィロスは無視を決め込んでいた。
 「・・・セフィロス。」
 いつも自分が抱かれる時に聞く甘い甘い声音。
 どんなに行為を拒む時でも、この声で囁かれれば抵抗する気力が失せてしまうのは何故なのか。
 理由はわからなかったが、それが真実であることは今回も身を持って知らされた。
 無視を決め込んでいたはずの全身に、このクラウドの一声で震えが走るほどなのだから。
 おまけに、やけに胸の鼓動が速まってきている。
 ・・・なんなんだ、オレは。
 それでも動かずにいたセフィロスに、クラウドは身を起こすと、布団からはみ出した頭を柔らかく憮で、軽く汗ばんだ銀の髪をゆっくりと梳いていった。
 「セフィ・・・悪い夢でも見た?」
 クラウドのその言葉に、びくりとなる。
 ・・・なんで・・・・・・
 自分が暗闇に一人立ち尽くすような、先ほどの寂しい光景を思い出し、セフィロスはきゅっと唇を噛んだ。
 それでは足りず、握っていた布団の端をきつく握り、体を固くする。
 けれど、自分の側から誰もが去っていく孤独感は、全く去ろうとはしてくれない。
 クラウドはそんなセフィロスの背を背後から抱き締めると、しっとりと吸いつく首筋に唇を這わせた。
 「・・・っ・・・」
 「怖い?」
 唇は耳朶へと移動し、そこを唾液で濡らし甘噛みする。
 震える肩をたどって、クラウドはセフィロスの手を捕らえた。
 ただでさえ寝起きは冷たい彼の手は、今はさらに冷え切っている。
 少しでも温めてやろうとしっかりとその手を握り締め、クラウドは唇での愛撫を続けた。
 「んはっ・・・クラ・・・ウド・・・」
 耳の中まで嬲られ、固く丸められていた背がのけぞる。
 すかさず片手をセフィロスの胸に這わせ、足は逃げようとするセフィロスの下肢を押さえ込む。
 そのまま膝でパジャマ越しにセフィロス自身に触れると、それは既に勃ち上がり、存在を主張していた。
 「セフィロス・・・」
 胸元を憮でて焦らすように下の方へと降りていくと、自由になったセフィロスの片手がクラウドの二の腕を掴む。
 まるで縋るように自分を求めるセフィロスを安心させるように口付けて、そのままクラウドは待ちわびているそこに触れた。
 「・・・は、あ・・・っ・・・」
 一瞬息をつめたセフィロスのそれを優しく扱き、力が抜けた所で下肢にまとう夜着を器用に脱がせる。
 先端を親指で引っ掻くように刺激すると、ほどなくしてくちゅっと濡れた音が響き、透明な雫が溢れ出した。  それをセフィロスの砲身へと塗りつけ、より強く手のひらを滑らせて涙をこぼれさせる。
 シーツに雫れ落ちそうなほどまで愛撫すると、今度はセフィロスの背後に手をやり、濡れた指先をひくひくとうごめく秘部に挿し入れた。
 「ふあ・・・っ・・・っあ・・・」
 ロ元から洩れる熱い吐息が、クラウドの体の奥をうずかせる。
 奥の奥まで指を侵入させて、突く度に体を戦慄かせ、熱い呼吸を吐かせる箇所を探し当てた。
 そこを中心に、内部を押し広げるように指を動かせば、セフィロスの前は極限まで張りつめ、さらなる刺激を求めて腰が揺れる。
 改めて片足を開かせ、肩に口付けながらクラウドはこちらも最高に膨張した己をあてがい、体を進めた。
 「・・・・・っ!」
 セフィロスが息を詰める。
 下肢の熱い衝撃に、全身が緊張の為かこわばる。
 「い・・・やだっ・・・クラウド・・・!」
 途端、洩れる悲痛な声。
 尋常でないセフィロスの拒絶の言葉に、クラウドははっとして動きを止めた。
 「・・・セフィロス?」
 彼の肩が震えている。
 両腕で抱き締めれば、セフィロスが自分の体を抱くようにしてクラウドの回された腕にしがみついてくる。
 「お前、が・・・」
 「ん・・・」
 セフィロスの言葉を促すように、その上気した頬に口付ける。
 「・・・いない・・・」
 消え入るような声で言葉を紡ぐセフィロスに、無言で眉を跳ね上げると、クラウドは彼をきつく抱き締めた。
 そのまま、のしかかるようにして肩を押し、セフィロスを仰向かせる。
 「セフィロス」
 耳元で囁いて、頬を手のひらで包み込む。
 「俺を見て」
 横を向くセフィロスを自分の方へと向けて、触れるほどに顔を近づける。
 吸いこまれそうな碧の瞳が、自分だけを映すように。
 「・・・クラウド・・・」
 思わず、といった風に洩れたセフィロスの自分を呼ぶ声に導かれ、クラウドは唇を重ねた。
 ゆっくりと口内を味わえば、セフィロスの方から舌を絡ませてくる。
 クラウドを離すまい、と頭に添えられる手。
それを感じながら、互いを貪るように深いキスを交していた。
投げ出された足を手のひらでつうっと憮でれば、びくりと震えてより自分から足を開く様が愛しくて。
 体内にくすぶる欲に耐えられないまま、クラウドは今度こそしっかりと目指す場所に自身を宛がい、セフィロスの瞳を見つめながら内部へと侵入した。
 「セフィロス・・・」
 きゅっと自分の首にしがみつくセフィロスの腕。
 まるで、今にも失くなりそうなものを必死でつなぎ止めているような、そんな彼の姿に、どうしようもない愛しさを覚える。
 必死に、セフィロスをつなぎ止めようとしていたのは自分だ。
憎しみとか、怒りとか。
彼を忘れられなくて、自分の気持ちをそんなマイナスの感情に変えて彼を追っていた時のことを思い出す。
彼と共に居たくて、居られなかった過去の日々。
でも、それは今ではもはや懐かしむ程度の思い出だ。
今は自分の腕の中に、一番欲しかった存在があるから。
例え過去がどんなにつらかったとしても、今は2人で想っていられるのだから。
自身の全てをセフィロスに埋め込み、絡みつく襞の熱さを感じながら腰を動かすと、甘い声がセフィロスの口元からこぼれた。
 「っあ・・・は・・・んっ・・・クラ・・・」
 いつになく激しく腰を揺らし乱れる様を、クラウドは目を細めて見つめる。
 欲しい。
 愛してるとか、大切だとかそんなヤワな感情じゃなくて。
 セフィロスが、欲しい。
 離れかけた唇を再度セフィロスの頬に寄せて、クラウドはその心のままに求める最奥を目指した。
 上がる嬌声。
 いつまでも見ていたいほどに、魅力的な彼。
 失うなんて考えられないほどに、彼はもはや自分の一部だった。
 「セフィロス・・・俺は・・・・・・」
 薄っすらと開けた瞳が自分を映す様に、クラウドの体の奥が熱くなる。
 セフィロスの背を抱き、互いの熱を感じて。
 「あんたの傍から離れないよ・・・・・・」
 何も考えなくていい。
 傍にいられるだけで、多分自分は幸せだから。
 ふわっと笑いかけてくるセフィロスの微笑みを見ていられるだけで。



   多分、互いにそれだけを祈っているから。






 カーテンからは明るい日差しが射し込み、セフィロスを照らしていた。
 「ん・・・」
 ゆっくりと身を起こすと、寝室のドアの外からカチャカチャと食器の合わさるような音が聞こえてくる。
 先ほどまでの情事の跡は既になく、布団もきれいにかけられてあった。
 (・・・クラウド)
 どうして、あんな夢を見てしまっただろう。
 毎日のようにクラウドに愛されていると思える今の自分が、どうして昔のような不安をかきたてる夢を見たのか。
 悩んでも見当が付かなかったが、クラウドのおかげでその不安が消し飛んだことは事実だ。
 ベッドがら降りると、セフィロスは少しフラつく体で台所へと歩いた。
 「あ、セフィロス。起きた?」
 パタパタと近寄って来たクラウドがセフィロスに抱き付き、頬に軽いおはようのあいさつ。
 照れるように身を捩ったセフィロスは、ふっと頭をよぎった疑問を口にした。
 「・・・お前、仕事は?」
 時計を見やると、いつもクラウドが出かける時間はとっくに過ぎている。
 けれど、再度クラウドの方にセフィロスは向き直ると、彼はにやにやと笑っていた。
 「昨日、俺遅かっただろ?」
 「あ!!」
 そうだ。
 昨日は遅く帰って来ると連絡が来ていて、待っていようと思っていながらあまりの遅さに自分だけ寝てしまっていた。
 一人で眠ることなど滅多にないセフィロスは、心のどこかでクラウドが帰ってこないのではと心配していた。
 ・・・・・・だからあんな夢を見たのか。
 ふっと自嘲の笑みを見せたセフィロスを、クラウドがいぶかしげに覗きこむ。
 「なーに考えてんの?」
 「な、なんでもない」
 慌てて首を振る微かに朱に染まった顔を見つめながら、クラウドはクスッと笑った。
 「なんでかってーと、今日、明日って休みとろうと思ってさ。それ言ったら残業やらされるし。ま、いっけ ど。」
 「・・・今日はなにかあるのか?」
 「あ、セフィって薄情者ぉー。」
 首に腕を巻きつけて、唐突に唇を奪う。
 朝っぱらからのいちゃつきぶりに顔をしかめつつも、クラウドのキスに答えながら頭の片隅で今日は何かあったかな・・・と考えた。
 「今日は、俺の誕生日!!」
 「えっ?!」
 ちょっと待て。
 お前の誕生日は明日じゃなかったのか?!
 「何びっくりしてんの。だからあんた連れてどっか行こうかなーって」
 ・・・そんな。
 今日密かにクラウドにプレゼントを買いに行こうとか思ってたのに・・・・・・(爆)
 セフィロスの内心の葛藤をすっぱり無視して、クラウドはセフィロスを急かした。
 クラウドとの小旅行が嫌なわけではない。
 いや。・・・だが、しかし・・・・・・。
 内心涙を流しつつ、クラウドの手料理にセフィロスは手をつけた。
 


 セフィロスの「クラウドお誕生日計画」。
 また来年に持ち越しか・・・とセフィロスは深いため息をついたのだった。





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