Entreaty...



不意に、下肢を襲う圧迫感が消えた。
それと同時に、上半身にのしかかる重みが失われる。
やっとのことで口内のシャツを吐き出し、かろうじて使える右腕の肘を支えにして身を起こせば、
自分の足の間で座り込むクラウドの気配を感じる。
「・・・・・・クラ・・・ウド・・・?」
禁じられていたはずの目の前の存在の名を呼ぶが、何の反応もない。
暗闇に包まれた視界にもどかしさを感じながらもクラウドの気配を追えば、かすかに鼻をすするような音を聞いた。
剥き出しになった足に、ぽたっと熱い雫がかかる。
「・・・泣いて・・・いるのか・・・・・?」
片方の腕を縛られ、もう一方も痛みの呪縛に囚われていては、手を差し伸べることもかなわず。
次々にこぼれてくる涙を拭ってやることもできないまま、セフィロスはもどかしさに唇を噛んだ。
「違う・・・」
クラウドの口元から洩れる、微かな声音。
「クラウド・・・・・?」
「違うっ・・・!俺は、ただ・・・・・・!」
「クラウド!!」
尋常ではない台詞を尋常ではない声で言い続ける少年に、セフィロスは叫んだ。
狂気の底で苦しむ存在に自分の声が届いたのか、軽く空気が揺れる気配。
目の前にクラウドの手が伸ばされるのを感じて、セフィロスは激痛にうずく右腕を上げた。
骨の砕けた手のひらでは、クラウドの手を握り返してやることも出来ない。
それでも、塞がれた視界の中で、クラウドのぬくもりを求めることが彼との繋がりを保つことだと、セフィロスの内のどこかが告げていた。
そして、それが、クラウドを狂気の底から一時でも救い出せるのなら、
どんな激痛を伴おうとも、そのせいで右手が使い物にならなくなろうとも、構わなかった。
セフィロスがゆっくりとクラウドの手に触れると、クラウドの体がびくりと震えた。
「・・・あんたも、俺を、責めるのか」
抑揚のない、ひどくかすれた声。
憑き物が落ちたかのように力の抜けた体が、べットの脇にもたれるセフィロスに覆い被さってきた。
その拍子に目隠しをしていたシャツの袖が外れ、
窓から射し込む淡い光と、自分を抱く存在の、日の光を集めたような鮮やかな金髪が、視界を彩る。
「・・・クラウド・・・・・・」
「俺は、ただ、・・・あんたが・・・・・・」
うつむいて肩を濡らすクラウドの背に触れ、ゆっくりと憮でていく。
小さな子供のように弱々しく肩を震わせている彼の姿が、本当に哀しかった。
「・・・・・・お前のせいじゃない」
かろうじていたわりの言葉を紡ぐ。
けれど、その台詞はクラウドにとってどうしても許せないもので。
クラウドは弾かれたように身を起こした。
「・・・あんたに、慰められたくなんか、ない」
目の前の存在が、これほどまで自分を自己嫌悪におとしめているというのに。
目の前の存在がいるからこそ、血にまみれたあの幻に責め立てられているというのに。
彼に、自分のせいじゃないなどと言われることに、無性に腹が立った。
「・・・そうさ、全部あんたのせいなのに・・・・・・どうして俺が責められなければいけない?なんでだよ?!」
荒れるクラウドに、必死に右手を伸ばす。
その度に手が軋み、折られた骨が悲鳴を上げた。
「誰も、お前を責めてなんか、いない」
「責めてるんだよ、あんたの存在が!!」
伸ばした腕を捕らえられ、押さえつけられる。
直接折られた箇所を掴まれたわけではなかったが、その衡撃による痛みに、セフィロスは眉を寄せた。
「・・・っ!!」
「・・・苦しめよ。俺が感じた何倍もの痛みを・・・・・・あんたにも味合わせてやる」
酷薄な笑みを浮かベたまま、戒しめていた左腕を外し、手を取って無理矢理立ち上がらせた。
「・・・来いよ」
脅えたようにクラウドを見つめたまま動こうとしないセフィロスに舌打ちして、先ほどまで自分が寝ていたベットへ放り出す。
咎めるように自分を見つめる碧い視線が嫌で、クラウドは組み敷いた存在の頬を張った。
「・・・っ・・・」
「あんたが俺にそんな目を向ける資格なんてないんだよ。その体全部で、俺に償ってもらうんだから」
切れた口の端から流れる血を舐め取り、強引に足を開かせる。
その奥で赤く色づく後孔を、指で一気に貫いた。
「・・・うぁ・・・っ・・・!」
痛みのためか快楽の為か、声を上げるセフィロスに構わず侵入させた指で内壁を擦れば、ぬめった感触が指先から伝わってきた。
先ほどの行為で受けた傷が、再度開いて真っ白なシーツを汚していく。
「・・・あ・・っ!」
「こっから流れる血、か。ははっ。まるで処女みたいじゃないか。よかったな、あんたの純粋さを証明出来て」
あざけるような口調でセフィロスを追いつめ、痛みに歪む表情にも構わず肛内を指で犯していく。
抵抗もできずに翻弄され、ひどい痛みと羞恥と屈辱に、セフィロスはシーツを握り締めた。
それでも、クラウドの行為に慣れた体は、徐々に快楽を訴えてくる。
クラウドの掻き回す指が前立腺を刺激する度に、熱い弄流が全身を駆け巡った。
「あっ・・・はあっ・・・・・・!」
「何、あんた、感じてんの?」
セフィロスの下肢を見やれば、先ほどまで萎えかけていたはずの彼自身が、今は赤黒く張りつめ、もはや限界寸前だ。
クラウドが筋に沿ってそれを憮で上げれば、さらに容量を増し、先端から蜜を溢れ出させている。
「こんなに痛めつけてやってんのに・・・・・・快楽感じてるなんて、あんた、サイアク」
何の感情も伺えない冷たい表情でセフィロスを一瞥すると、クラウドは愛撫を中断して床に手を伸ばした。
引き裂いたシャツをさらにひも状に引き裂いて、怯えるセフィロスの視線に薄く笑いかける。
「・・・何を・・・する・・・」
「あんたは、黙って俺に犯されてればいいんだよ」
セフィロスに覆いかぶさり、乱暴にキスをする。
口内を蹂躙する熱い舌が、セフィロスの全身を麻痺させていく。
一瞬力が抜け、無防備になった体を再度押し開くと、その間で息づくセフィロス自身をきつく縛った。
「っああ・・・っ!・・・や、やめろ・・・!!」
きつく縛り上げられ、行き場を失くした熱がセフィロスを襲う。
はずそうと蠢く左手を捕らえ、頭上に押さえ付ければ、快楽と苦しさに歪む表情がクラウドを睨み付けた。
「そんなこと言える立場じゃないんだよ、あんたは・・・・・・」
苦しげな、懇願する瞳も意に介せず、薄笑いを浮かべたままセフィロスの体を反転させる。
右手を支えにしてしまったのか苦悶の声が上がったが、それすらもクラウドを喜ばせるだけで。
腰だけを上げさせて自分の目の前に晒されたそこがひくひくと蠢いていることに、クラウドは満足げに笑った。
「さぁ・・・お仕置きの時間だ・・・・・・」
今だ血を流すそこに怒張した自身をあてがい、一気に挿入する。
「―――――っ!!」
きつく歯を食い縛り、セフィロスは侵される痛みと羞恥に耐えた。
だが、一端奥まで入り切った猛りは、それで終わらず中を擦っていく。
出口近くまで引き抜かれたそれがより傷口を開かせ、また奥を貫かれれば深い充足感と共に訪れる熱い快楽の弄流が、
セフィロスの全身を駆け抜けた。
「やっ・・・くるし・・・っ!」
無理な体勢の中、快楽をせき止める障害物を取り去ろうと、自分の雄へと手を伸ばす。
しかし、寸前の所でクラウドに押さえられ、セフィロスは身を震わせた。
「・・・まだ、駄目」
冷たい声音で告げて、苦しげに喘ぐセフィロスをより一層攻め立てていく。
クラウドの体液とセフィロスの血で濡れたそこがインビな音を鳴らし、セフィロスの耳さえも犯していった。
いっそ、殺されてしまいたいと思う。
次々と押し寄せてくる波には耐えられない。
身を任せて、共に流されてしまいたいのに、自分の足に巻かれた鎖が邪魔をする。
このままでは全身が引き裂かれそうなほどの弄流に、セフィロスは涙を流した。
奥を貫かれる度に気が遠くなり、すぐに行き場を失くした欲望が出口を求めて全身を襲う。
白く染まった視界の中で、セフィロスは助けを求めるかのように腕を伸ばした。
「クラウド・・・・・・・!!」
脳裏に浮かべる、あの人の姿。
今自分を犯している存在ではない。もはや自分の記憶にしかない、優しげな青の光を宿す少年。
狂気に身を浸してしまったクラウドの中の、ただ一つの希望。
失くしたくない、失くせないそれを求めて、セフィロスは空に手を伸ばしていた。
「・・・セフィロス」
不意にその手を掴まれ、苦しさの中瞳を開ければ、脳裏に浮かベていた存在と寸分違わぬ姿が目の前にあった。
だが、自分を見下し哀れむような瞳の色は、もはやクラウドのものではない。
「・・・あんたの求めるクラウドは、もういない」
歌うように、告げる。
クラウドの体が、別の誰かに奪われたかのように、似つかわしくない、その表情。
「・・・やめろ」
「もう、いない」
「やめろ!!」
首を振って、浸透するように聞こえてくる言葉を振り払う。
認めたくなかった。
狂気の底に沈んだクラウド。
自分のせいで、絶望という苦しみを背負わせてしまった存在。
自分のせいで、自分にとって一番大切なものをも失くしてしまったことは、・・・わかっている。
それでも、セフィロスは、時折宿す柔らかな光の中に、過去の面影を探し続けた。
さっさとあきらめて、忘れられたなら楽だろうに、忘れられない想いがセフィロスをクラウドの元へと縛りつけていたのだった。
「・・・もう、お前の欲しかったクラウドは、どこにもいない」
「・・・ああ、わかってるさ。でも・・・」

でも。


それでもオレは―――――。




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