緑の夢
どこからか歌が聞こえる。
どこか懐かしい感じのするその歌は、幼い頃からよく知っていた。
歌っているのは、あの人だ。
深くて、澄んでいて、心に響くあの人の声。
歌を歌っているのは初めて聞いたけれど、引きこまれるように美しい。
歌に導かれるように外に出ると、虚空を眺めるあの人の姿がそこに在った。
「・・・・・・クラウド。どうした?何かあったのか?」
「いや。・・・天気がよかったから俺も外に出てみたくなっただけだよ」
あんたの歌に惹かれて、なんて照れくさくて言えなかったから、クラウドはそう言った。
近くの岩場に腰を下ろしたセフィロスを後ろからそっと抱きしめると、その人はゆっくりとクラウドに身をあずけてくる。
「・・・不思議だな」
「・・・何がだ?」
かたわらの長い銀の髪に指を差し入れゆっくりとそれを梳くと、その人はくすぐったそうに身をよじり、やわらかく微笑んだ。
「・・・オレがここにいることだよ。・・・オレには、過去の記憶など一つも残っていない。それなのに、オレはお前の側にいると心が安らぐ。お前と過ごしていたという昔を一つも覚えていないのに・・・・・・。オレは、昔、本当にお前のことを愛していたんだろうなぁ。こんなにもお前といると気持ちいいのだから」
セフィロスは、胸の中で瞳を閉じている。
その暖かな感触を味わいながら、クラウドは腕の中の存在を見つめた。
あの戦いの後、どうなったのかはっきりと覚えていない。
光り輝くホーリーが星を包んで、ライフストリームが溢れ出して、それが2人を飲みこんでいって。
気づいたら、こんな所まで来ていた。
かたわらのあの人がいて、でもその人は10日間目覚めなくて。
やっと目覚めたと思ったら、全ての記憶を失っていた。
それがジェノバのためなのか、ウェポンのせいなのか、今のクラウドにはわからない。
それでも、セフィロスがいてくれたことは、この上ない幸せだった。
「なぁ・・・セフィロス・・・・・・もう一度、俺を愛してみないか?」
思わず洩れた言葉に、セフィロスは驚いたように顔をあげた。
「オレが・・・お前を?」
「・・・あぁ」
高く澄んだ空の蒼を宿した瞳が、自分を映している。
力強い腕が自分を抱きしめ。その暖かさを伝えてくる。
その心地よさに溺れそうになって、セフィロスは顔を伏せた。
本当は、人を愛するなんてどういうことかよくわからない。
行く所も帰る所もない自分を世話してくれたのは彼だ。
彼といて、自分がとても安心できることを教えられた。
けれど、その想いは、本当に彼を愛しているといえるものなのだろうか?
「・・・俺は、あんたを愛しているよ。昔も、今も、そしてこれからも」
それは、クラウドがいつも押さえつけてきた本音。
素直にその人を愛していると伝えられることはなんて幸せなことだろう。
クラウドはその人の顎をつかんで自分の方に向かせると、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
「クラウド・・・・・・」
(今でも・・・こんな、何もわからないオレを愛してくれているのか・・・?)
すべてを失った自分。
力も、記憶もすべて失ってしまった自分を、クラウドは受け入れてくれるのだろうか。
その答えは、触れ合った唇から直接セフィロスに伝えられる。
セフィロスは、自分の胸のどこかが熱くなっていくのを感じていた。
心が安らいでゆく。
心が暖かなものに満たされていく。
伝えられる熱い想いを、どうして無視することができるだろうか。
「オレも・・・」
唇が震える。それでも、セフィロスは必死に言葉を紡いだ。
「・・・お前を愛している・・・・・・」
口に出した瞬間、その想いは確かなものとなってセフィロスの全身を包み込んだ。
人を愛し、愛されることはこれほどに幸せなことなのだろうか。
クラウドがセフィロスを体ごと自分に向けさせた。
改めて想いを込めて抱き直すと、背中に触れてくる暖かなセフィロスの腕。
どちらからともなく唇を重ね、舌を絡めて互いをむさぼった。
息をするのも忘れるくらいの深いくちづけが、頭の中をピンク色に染めてゆく。
ただ目の前のことしか考えられなくなる。
名残り惜しげに唇を離すと、キレイな白碧の瞳にぶつかった。
「・・・本当に、あの時まではこんな日々がくるとは思わなかったな」
クスリと笑う。
目の前のその人は、よくわからない、といった風に首を傾げた。
本当に、あの日までは絶望を糧に生きていたかと思うと、なぜか自分が笑えてくる。
今大切なことは、この幸せをできるかぎり守っていくことだ。
クラウドは、セフィロスの右手を軽く引くと、その甲のくちづけた。
「俺は誓う。この先、何が起ころうとも、あんたを離さない。今度こそ、あんたの傍を離れないよ」
青々と生い茂る木々の間から洩れるやわらかな光が、2人を照らしている。
素肌に触れるみずみずしい若草が、やさしく自分を包みこんでいく。
森に棲む生き物たちは新しい恋人たちのために息をひそめ、空は2人を祝福するかのように涼しげな風を送った。
「・・・どうした?」
クスクスと笑みをこぼすセフィロスを抱きしめる。そのまま手と唇を滑らせて、白い肌の感触をおった。
紅く立ちあがった胸の飾りを舌で転がしながら、片手でセフィロスの下肢に触れると、胸の中の体が軽い緊張に身を竦ませるのがわかる。
緩く熱を帯びたそれを両手で包み込むと、甘い感触がセフィロスの全身に伝わった。
「・・・クラウド・・・・・・」
「セフィロス・・・気持ちいい?」
クラウドの問いかけに、セフィロスは赤くなりながらもコクリとうなづいた。
とはいえ、今のセフィロスにとって、初めての行為であることに変わりはない。
クラウドの自分を知り尽くしたような的確な愛撫に身を震わせながらも、セフィロスは戸惑いを隠せなかった。
「ふ・・・あっ・・・はあっ・・・」
クラウドの指が自分の秘部に触れてくる。それが体内に侵入してくる感触に、セフィロスは体をこわばらせた。
「怖がらなくていい。俺に、身をまかせて・・・・・・」
なだめるように背中をさすりられながら、指先が体内に入り、中をゆっくりと押し広げていく。
前から溢れる先走りの液が潤滑油となって、セフィロスの痛みを和らげる。
そこから生まれる甘い快感に体の力が抜けたところで、指の本数を増やされ、肉襞を激しく擦られた。
「あぁ・・・っ・・・もう・・・」
セフィロスが哀願する。その声に応えて身を起こすと、欲と不安に翻弄された彼の瞳がじっとクラウドを見つめていた。
誘われるようにセフィロスにくちづけ、自身を彼の奥にあてがう。
「大丈夫・・・俺を信じて・・・」
それに答えてうなづくセフィロスを感じた直後、クラウドは中へと侵入した。
「く・・・っああぁ・・・っ」
内部からゆっくりと押し寄せてくるじわりとした感覚がセフィロスを震わせる。
その後、全身を貫くような重い圧迫感が、セフィロスの全身を支配した。
痛みと快楽のせめぎあいに震える彼に唇を寄せ、クラウドはゆっくりと動き出す。
「あっ・・・はっ・・・はぁっ・・・」
クラウドが奥を貫くたびに、唇からもれる甘い声。
それを感じながら、クラウドは幸せに浸っていった。
「セフィロス・・・・・・」
きつく抱きしめ、唇を重ねる。次第に激しくなる腰の動きにあわせて、抱き合う力も増してい った。
─────もう離さないという願いを込めて。
「あっ・・・ああぁ─────っ!」
「・・・っ」
かたく抱き合った2人は、甘い快楽の中へと身をゆだねた。
空高く、鳥が鳴いている。
森の動物たちは、祝福の歌を恋人たちの耳に届けてくる。
2人はやっと、そんな幸せな時を見つけたのだった。