Re-SET vol.3



頭が混乱し、何が起こっているのかわからなかった。
自分を見下したような瞳で見つめているのは、自分が心を寄せていた少年。
ついこの間まで、自分の腹心として、
そして・・・コイビト、として柔らかな笑みを向けてくれた彼。
初めて、他人という存在に心を動かされた。
出会って、彼の姿を目で追うようになるまでに時間はかからなかった。
過去に強要され、散々屈辱に啼いてきた行為も、
彼と交わるなら幸せだとすら思えたのに。
故に、セフィロスは、
あの場所でクラウドに乱暴な行為を強要されながら、
心は助けを求めて叫んでいた。
目の前の存在が、自分の愛した存在であるはずがない。これは何かの間違いだ、と。
だが、彼の叫びもむなしく、残酷な現実は彼を手放さない。
愛のない行為で彼を犯し続ける彼は、
クラウドだった。
陽の光を集めたような金の髪に、理知的な輝きを宿す青の瞳。
彼のすべてに心惹かれた。
自分をまっすぐに見つめるまなざしも、よく気の回るそのかしこさも、自分に向けられる微笑みも、そのすべてに。
上の空で、好きだと何度口にしたかわからない。
誰にも、親にすら愛されたことのない自分が、初めて誰かに必要とされ、愛してると囁かれた。
それでは、クラウドのあの言葉は、
すべて嘘だったというのか。
信じたくない、信じられない。屈辱を受けながら、
なおもセフィロスは救いを求めて彼を見つめる。
意識を失う寸前に見た彼の表情は、
記憶にあったような柔らかで優しげなそれで、壊された心が少しだけ安堵を覚える。
自分を抱き締める腕は暖かく、力強くて、
それだけはいつもと何も変わらなかった。
ただ、―――ただ。

「・・・漸くお目覚め?ったく、折角のお楽しみの時間を潰すなよな」

目覚めた青年に、呆れたような声をかけたのはクラウドだった。
目の前の手術台と思しきベッドに、足を組んで座っている。
セフィロスは先ほどと同じく、両腕を広げられた形で頭上の壁に拘束されていた。
少年をにらみつけると、クラウドの瞳がきらりと光る。

「・・・・・・やつはどこだ」
「ヤツ?・・・ああ、残念だけど宝条なら仕事だぜ。重役会議はめんどいねぇ」
「ここはどこだ。俺をどうする気だ?」

たて続けに質問を投げかけてくるセフィロスに、やれやれと肩を竦めて。
クラウドは台から降りると、壁に拘束された青年のほうに歩んだ。
セフィロスには、睨みつけることしかできない。
先ほどの散々な行為のせいで、身体がまともに言うことを利かない。

「・・・そう、せっかちになるなよ。時間はたっぷりとあるんだ」
「・・・・・・!!」

クラウドが青年の唇をぺろりと舐めた。
濡れた感触が嫌で、セフィロスは顔を背ける。
だが、クラウドはそれを許さなかった。
片手で彼の顎を掴むと、強引に顔を自分のほうに向けた。深く舌を差し入れる。セフィロスはせめてもの抵抗に舌を噛もうとし、だが無理矢理クラウドの指で歯列をこじ開けられ眉根を寄せた。
苦しげに息をつく口元から、含みきれない体液が洩れる。
口の端を汚すそれを舐め取り、クラウドはにやりと笑みを浮かべた。
意地の悪いその表情に、セフィロスは恐怖を覚える。
だが、極力それをクラウドに知られたくなかった。

「・・・っは、あ、・・・っ」
「可愛いぜ、セフィロス」

ぎっと睨みつける。だがクラウドは全く意に介さない。

「・・・ほら、見てみろよ。みんな、あんたを見てる」

クラウドに促された先に、セフィロスははっと息を呑んだ。
薄く落とされた照明に照らされて、鉄格子の檻が山ほど設置されているのが見えた。
そして、その中には、・・・つい先ほどセフィロスが目撃した、
あの異形のものたちが目を光らせていたのだ。
セフィロスは背筋に強烈な悪寒が走るのを感じていた。
彼らからは、自分に対する明らかな敵意しか感じ取れなかった。
そして、殺意だけ。
刺すような空気がセフィロスの素肌を震えさせる。
初めてだった。
幾多の戦場を切り抜け、幾度となく死を意識させる局面を迎えたこともあった。
だが、死を目の前にして恐怖を感じたことはなかったのだ。
それならば、この異常な恐怖はなんなのか。
セフィロスは拘束されたままの拳を握り締めた。
恐怖などではない。
今から何が起ころうとも、自分は堪えられるはずだ。

「っ・・・」
「そう怖がるなよ。楽しくやろうぜ」
「やめろ・・・!」

クラウドの手が肌を這い、セフィロスは悲鳴をあげた。
青年を知り尽くしたクラウドの指は、かれの性感帯を正確に刺激する。恐怖が快感に摩り替わる感覚に、セフィロスは首を振った。
快楽など、感じているほうがおかしい状況だというのに。
クラウドは声をあげて笑った。
馬鹿にしたような、蔑んだようなそれに、セフィロスは唇を噛む。

「嫌なの?前はあんなによがってたのに」
「・・・!」

おもしろがるように彼の肌をくすぐる。
セフィロスはそれを感じまいと目を瞑って意識を極力反らそうと顔をも背けた。
それが気に食わなかったのか、クラウドは彼の肌に爪を立てる。
つぷり、と音を立てて白い肌に爪先が食い込んだ。
セフィロスが小さく呻いた。構わずそのまま肌に朱線を走らせる。

「・・・似合うよ、セフィ。すごく」
「や・・・」

舌を這わせ、溢れる血を舐め取る。
熱く濡れた感触にセフィロスは声をあげた。

「っ・・・、こんなことをして、なんになる・・・!」
「なんになる・・・ね。じゃ、率直に言うけど、あんた、もう嗅ぎ回んのやめてくれる?」
「・・・っな!」
「このまま、ここであったことを忘れてくれれば」

言葉を切り、クラウドは笑った。
なにかをそそのかすような笑みだった。
セフィロスは顔を背けた。
彼を見ていれば、引き込まれる。溺れてしまえば負けだと思った。

「っ」
「今までのように、一緒にいられるんだけど。今のあんたじゃ、無理だよね」

クラウドの声音に、少しだけ悲しみが滲んだ。
だが、今のセフィロスにそれが伝わるはずもない。
セフィロスはクラウドを睨みつけた。

「俺に、この悪事を見逃せというのか?」
「・・・そのほう、シアワセだろ?」
「ふざけるな!!」

セフィロスの腕の鎖が、ガチャリと揺れた。
怒りを露わにする青年に、クラウドは肩を竦めた。
手を伸ばし、髪の一房に口付ける。そのまま、彼の胸に頬を埋めた。

「・・・寂しいこと言うなよ。俺を好きだって言ってくれたのは嘘?」
「・・・・・・っ」

セフィロスは唇を噛み締めた。
そう、好きだったのだ。
彼とともにいたいと、ずっと傍にいたいと何度願ったかわからない。
だが。
こんな彼の真実を目にして、どうしてこのまま目を瞑っていられるだろう?
元の関係に戻れるわけがない。
信じられるわけがなかった。今までどおり、幸せなままでなどいられるはずがない。

「お前こそ・・・、俺を騙していたんだな」
「騙す?何を」
「・・・愛してると、言っていた」
「嘘じゃないさ」

事も無げにクラウドはそういうと、
青年の頬を愛しげに両の手のひらで包み込んだ。
セフィロスは嫌だ、と顔を背けた。けれど、強い力で正面を向かされる。
悪魔のような表情が目の前にあった。

「・・・っう―――・・・」
「好きだよ、セフィ。そう・・・ずっと前から」

甘い、甘いキスに溺れそうになる。
吐息すら奪われ、意識が朦朧とするのを、セフィロスは必死に耐えた。
囁く声音も、甘いキスも、すべて青年を惑わせるものでしかない。
何度も愛を囁かれ、体の力が抜けていく。
どうして、こんな。
彼は敵だ。戦わなければならない敵だというのに、
自分は彼に捕らわれ、そして惑わされる。

「あ・・・やだ・・・!」
「ま、今更遅いけどね。あんたが悪いんだ。こんなところまで足を突っ込むから・・・」

歌うようにそう言ったクラウドは、一度セフィロスから離れ、にやりと笑った。
シャツの胸元からガラスの小瓶を取り出す。それは、先ほど宝条からクラウドの手の中に渡された薬品のアンプル。
息を呑む青年の目の前で、クラウドはそれを片手でぱきりと折った。
思わせぶりにそれを振る。見た目にはなんの特徴もない無色透明の液体。
だがセフィロスはこの先のことを思いガチャガチャと枷を鳴らした。

「や、め・・・!」
「ねぇ、知ってる?セフィ。これ、実はあいつ等も飲んでたんだ。突然狂いだして死んだ・・・」
「・・・!」

うっとりとした表情でクラウドはその液体を揺らす。
薬物反応のなかった彼らの、衝撃の事実を知らされ、セフィロスは目を見開いた。
無理だとわかっているのに、体が無意識のうちに拒否反応を示していた。
そんなセフィロスを、クラウドはただ笑って見上げる。
頬を掴み、彼の口をこじ開ける。
抵抗は、あっさりと少年によって無駄な行為と化していた。
傾けられる液体に、目を瞑る。
舌先にひりついた感触。飲み下してはいけないとわかっていながら、
さらりとした液体は喉に流れていった。
顔を顰め、だがもはや遅い。

「・・・お、っと。まだ全部はハヤイぜ。時間はまだまだあるんだ」
「っ・・・・・・?!」

口の端から洩れた液体を、クラウドは舌で舐め取った。
これは毒薬ではなかったのか。クラウドのその行動に、青年は驚きに目を見開く。
だが、クラウドは気にした風もなくニッと笑った。
耳元に唇を寄せる。耳殻に舌を這わされ、ぞくりと背筋が震える。

「ねぇセフィロス。どんな夢が見られると思う?」
「・・・・・・」

もう、何も考えたくなかった。
クラウドの声も、これから起こることも、すべて。
セフィロスは顔を背けた。
喉が焼けるように痛かった。かすかに視界がぐらついた気がした。

「幸せな夢かな?それとも、気持ちのいい夢?・・・でも、ほんとは全部逆だよ」

クラウドの言葉を聞いた、その瞬間。
どくり、と心臓が鳴った。
息があがる。突然の身体の変化に、セフィロスは恐怖した。
だが、それもつかの間。
脳天を貫く強烈な痛みに、セフィロスは繕う暇もないまま絶叫をあげていた。

「っあああ―――!!!」

気絶すらできないほどの激痛に、彼はただただ叫ぶしかなかった。
そんなセフィロスを、クラウドは前髪を掴んで顔を上げさせた。懇願するような瞳からは、生理的な涙が溢れだす。
痛みに霞んだ意識は、もはやそれ以外何も考えられなかった。
ただただ苦痛から逃れるべく、目の前の男に縋った。
耐えることなど、不可能だった。

「クラ・・・た、すけっ・・・!」
「・・・つらい?セフィロス」

クラウドが再び口付けてきた。
もはやなにもわからぬセフィロスは、クラウドに身を寄せるようにして口付けを受け入れる。
縋るように舌を絡ませ、深いキスを続ける。クラウドは彼の背に腕を伸ばし、抱き締めた。
強く抱き締められると、少しだけ苦痛が和らぐような気がした。
夢中で少年を貪る。洩れる体液など構っている余裕などない。クラウドが口を離すと銀糸が引いた。
腕が拘束されているのがつらくてしかたなかった。
これさえなければ、少年の背にただただ縋りつけるというのに。

「お、ねがっ・・・クラ、ウド・・・」
「・・・ひどいクスリだよね、これ。ただのひと昔前の記憶消去剤なんだけどさ」
「ひっ・・・」

クラウドの手が下肢に伸び、びくりと震えた。
乱れたままだった衣服を取り去られ、手のひらでセフィロス自身を探る。
すでに勃ちあがっていたそれは、快楽のせいではなく、強烈な苦痛からくる生理的な反応で、
クラウドは笑みを浮かべて砲身を扱きあげる。
苦痛の上にさらに強烈な快感が襲い、セフィロスを苛む。
歪んだ視界と頭の中で、ただクラウドの底の知れない笑みだけが浮かんでいた。

「あっ・・・や、ああ・・・!」
「・・・脳に作用して、細胞を溶かすんだって。狂うに決まってるよな。こんなの飲まされて・・・よく生きてると思わない?」
「うあっ・・・ん、っ・・・・・・」

あっけなく絶頂に達し、セフィロスは白濁した精を放つ。
変わらず痛む頭と、全身を襲う倦怠感にセフィロスの足はもはや役目を果たしていなかった。
セフィロスの手首は体重を支えきれずに真っ赤に擦れ、血すら流していた。
クラウドはそんなセフィロスを抱き締めた。
片手には、いまだ先ほどのアンプルを持っている。

「あ・・・や、あっ」
「・・・これ、ぜんぶ飲んだらどうなるかな」
「あ、やめ、ろ・・・・・・!」

これ以上の苦痛には耐えられない。
文字通り脳が焼け、そして溶かされるようなほどの熱にセフィロスは首を振った。
クラウドに身を摺り寄せる。それしか、彼に訴える方法はない。

「ク、ラウ、ド・・・クラウド・・・っ!」
「でも、あんたには忘れてくれなきゃ困るんだ。だって、俺はあんたを殺せないし」
「・・・!」

クラウドは片手でセフィロスの奥を探った。
きついそこに、容赦なく指を突き入れる。強く内部を拡げると、それ以上の力でセフィロスの内壁はクラウドを締め付けた。

「あ・・・!」
「愛してるからさ、あんたのこと。だから、あんたはただ、忘れてくれさえすればいいんだ」
「んっ・・・あ、はっ・・・ああっ・・・」

頭を襲う激痛より、下肢に意識が回っていた。
クラウドの蠢く指が、セフィロスの中に強烈な快感を生み出していた。
苦痛と快楽で、なにもかもわからなくなる。
もう、どうでもよかった。
もっと、もっと、ただ快楽だけを求めて、セフィロスは首を傾けた。

「ねぇ、忘れてよ、セフィ。そしたらまた、いつもどおり幸せになれるんだ。だから・・・」
「っあ・・・!!」

思わず開けた口元に、すべての液体が注がれた。
はっとした次の瞬間には、クラウドの指が引き抜かれ、灼けた楔が秘部に宛がわれていた。
セフィロスのそこは夢中でクラウドを飲み込もうとしていた。
クラウドは逆らわず内部に滑らせる。
セフィロスの絶叫が再び地下室の闇を貫いた。

「い・・・あああ―――っ!!!」
「セフィロス・・・」

ずり下がるセフィロスの身体を、抱えるようにして下肢を突き上げる。
重力に落ち込む彼の身体は、よりクラウドとの結合を深くし、快感を高めた。
もはや、セフィロスの頭からは、目の前の男のことも、追っていた真実のことも、すべて吹き飛んでいる。
ただ全身を貫く強烈な快楽と、そして苦痛。
それだけが、彼の全てだった。

「あ、あ、あっ・・・、んあっ・・・!」

箍の外れた唇が、言葉にならない声を洩らしていた。
それは、繋がるその部分から洩れる濡れた音と相まって、クラウドの熱をさらに煽る。
うっとりと喘ぐ彼の顔を見つめ、そして口付ければ、
セフィロスは無意識のうちに舌を絡めてきて、
クラウドは口の端に笑みを浮かべた。
手のなかにあるのは、壊れた人形。
だが、その精巧な人形を壊したのはクラウド自身なのだ。昏い笑いがこみ上げてくる。
愛する男は、腕の中で大人しく収まり、そして声を上げていた。
その内部を、強く蹂躙する。
思いのままに青年を支配できることが、彼の欲を満たしていたのだ。

「愛してるよ、セフィロス・・・」

薄闇の中、激しい行為は長く長く続いた。
そして、とうとう1日が明けた時。
体力も気力もすべて失い、目蓋を蒼白く染めたセフィロスは、
その意識を失ったまま、
幾日も目覚めることはなかった。
そして、やっと彼が目を開けたとき。



あのセフィロスがあれほど追っていた記憶はすべて抜け落ちていた。
戸惑いを見せる彼に、
クラウドは変わらぬ笑みを浮かべてみせる。
すべてはリセットされ、また元通りの毎日が始まったのだ。





「愛してるよ」

だが、今も真実は闇の中。





end.




Update:2003/09/05/SUN by BLUE

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