Crasy Soul 06 〜 ひとときの夢
今は、
存在すること自体が、
罪なんだろう。
ベッドの端に座り込みながら、ふとそう思う。
白い布団に包まれ眠る青年の金の髪に指を差し入れながら、セフィロスはクラウドを見下ろしていた。
暑いのか、布団からはみ出している腕をとり、ため息一つ。
相変わらず横を向き、体を抱くようにして眠るクラウドに、セフィロスは小さく笑った。
昔、彼に抱かれて共に眠っていた時のことを思い出す。
あんなに幸せだった日々は、多分なかった。
5年前、憎悪のままに自分が手離した幸せは、もうはるか彼方。
失った物が二度と戻らないのをわかっていながら、セフィロスはたまにこうやって想いにふけっていた。
目が開けば、今なお美しい蒼の瞳が、自分を見据える様を。
そして、それが昔のような優しさや愛といったものではなく、憎しみと痛みに染まる様を。
セフィロスは一つのあきらめと共にそれを受け入れていた。
今の彼には、過去の自分との記憶が全て失われていた。
彼の身を襲った魔晄中毒は、彼の過去を奪い
、
そしてあの5年前の記憶だけが彼を支配しているのだ。
そんな彼に、自分の想いを伝えたって、もはや意味はないし、彼のためにもならないだろう。
もう二度と、この腕で抱かれることはない、と思うと、セフィロスの目元が熱くなった。
昔から、求めたことはなかった。
求める前に、自分の傍にはクラウドがいて、何も考えずとも自分は彼の腕の中にいた。
眠れば、必ず彼の夢を見。
ただ心地良さに身を委ねていた。
だからこそ、なのかもしれない。
彼と離れてから、初めて失ったものの大きさに気付いた。
彼の腕に抱かれたいと切実に願った。
けれど、現実に彼の腕はもはやセフィロスの物ではなく、自分の知らない誰かのものになっているのかもしれない。
そう思うと、考える間もなく涙がこぼれた。
必死に抑えようとするが、一向に止まる気配はない。
クラウドを起こさぬよう声を押し殺しながら、セフィロスは彼のかたわらで泣いていた。
今の自分は、彼に触れることさえ許されない。
どんな理由をつけたって、クラウドは星を守ろうとし、自分は星を壊そうとしているのだから、対峙は免れない。
そして何より、クラウドは自分を憎んでいるはずだ。
それでもまだ過去を引きずりここにいることは、もはや罪以外の何ものでもない。
変わらぬ姿、変わらぬ瞳、変わった心、変わった想い。
もう元には戻れない。
けれど、それは、自分が望んだことだった。
あの時―クラウドの腕を振り払った時から。
そう、―――――自分が望んだ・・・・・・
溢れた涙が頬を伝い、顎を伝い、幾筋も流れていく。
その一つがシーツではなく、クラウドの手の甲に落ちた時、クラウドの体がピクリと動いた。
セフィロスは泣き顔のままはっとしたが、けれど逃げることなくクラウドを見つめていた。
こんな想いのまま、彼の元を去ることなんで出来ない。
もし、今彼に殺されるなら、セフィロスはそれでも良かった。
「・・・セフィ・・・?」
ゆっくりと開かれる瞳をじっと見つめる。
クラウドは、夢を見ているかのようにうっすらと笑みを浮かベた。
それに誘われるように体を傾け、セフィロスがクラウドの唇に自分のそれを重ねる。
寝起きの割にしっとりとした感触が、心地良かった。
「クラウド・・・・・・」
耐え切れなくなって、セフィロスはクラウドの名を呼んだ。
蒼い瞳が自分の上にいる存在に焦点を結び、少し驚いたように目を見開く。
けれど、予想に反して嫌がらなかった彼は、そのまま腕を上げてセフィロスの髪を梳いていった。
「セフィロス・・・・・・」
だんだんと、口づけが深くなる。
考えもしなかったクラウドの反応に驚きながらも、セフィロスはその感覚に身を委ねていた。
瞳を閉じると、また新たな雫が頬を滑り落ちる。
それはセフィロスの首筋まで伝い、髪を掻きあげるクラウドの手に触れた。
「・・・あんた、泣いてるの?」
微かに離れた唇が、静かに言葉を紡ぐ。
驚いたような顔で自分を見つめるクラウドと、頬に触れてくる暖かな指に、セフィロスは彼の肩に顔を埋めた。
変わらない、ぬくもり。変わらない、腕の中。
「・・・お前・・・・・・記憶が・・・?」
過去の自分との記憶が戻ったかのように自分を抱き締めてくるクラウドに、セフィロスは尋ねる。
自分を憎んでいるとばかり思っていた彼は、クラウドの行動が不思議でならなかった。
けれど、クラウドはゆっくりと首を振った。
「・・・・・・いや」
「・・・だったら、なぜ・・・・・・」
目を見開いてクラウドを凝視するセフィロスに、彼は小さく笑みを浮かベた。
その瞳は、過去に見た柔らかい光を宿したまま。
「・・・たまに、あんたの夢を見ることがあるんだ」
「・・・・・・オ、レの?」
知らず知らずのうちに、声が震えている。
クラウドはうなずくと、再度セフィロスの背に腕を回し、身を起こしていた彼の体を自分の胸に引き寄せた。
「・・・俺が、まだただの一兵卒で、あんたが『英雄』だった時の夢だ。
あんなに立場も離れているのに、俺の傍にはあんたがいた。
俺は、ただの愚かな妄想を夢で見ていると思って、自分を、そしてあんたを責めてた」
憎しみは、愛よりも強く互いを結び付けるから。
殺してやりたいと思う心の奥で、彼に惹かれる自分がいることが許せなかった。
けれど、・・・それでも。
「懐かしい・・・気がしたんだ。あんたと俺・・・・・・あの5年前の悪夢でだけじゃなく、どこかで―――――・・・・・・」
セフィロスの潤む瞳を、何かを探すようにじっと見つめる。
必死に失われた記憶を手繰り寄せるクラウドに、セフィロスは唇を噛んだ。
言ってしまうのは簡単だ。けれど、セフィロスは耐えた。
過去を知ることと、納得することは違うのだ。例え、今彼にかつての幸せな日々を伝えても、もう戻れないし、意味だってない。
しかし、なによりも、セフィロスはクラウドのぬくもりを感じていたかった。
昔の思い出など、触れられない過去の残像にすぎない。
『今』を感じることだけが、引き裂かれた2人の唯一出来ることだった。
「昔のことなど、どうでもいい・・・・・・」
セフィロスはクラウドの手を取ると、自分の頬に寄せた。
暖かな手。求められるのは、今しかない。
今、この時を逃せば、本当に二度と触れられないと、セフィロスの中の何かが告げていた。
「思い出なんて、また作ればいいんだ・・・・・・」
例え、いつか殺し合う運命でも。
それまでは自分の想いに忠実でありたい。
そして、せめて死ぬ直前まで思い出を紡いで―――――・・・・・・
そう願うセフィロスの背に、クラウドの両腕が回された。
きつく抱き締められ、セフィロスの胸の奥が熱くなる。
もはや、言葉はいらなかった。
敵であるはずの2人。憎み合う運命にあった彼らが紡ぐ想いは、決して報われないものだけれど。
それでも、失われた何かを取り戻すように、互いを求め合う。
例えそれがただ心の痛みを増大させるだけだったとしても、
今は、構わない。
月の光が照らす中、2人は秘めやかな行為に身を委ねたのだった。
簿明るい部屋の中で、濡れた吐息が響いていた。
滑らかな肌を辿る指が、ゆっくりと服を剥ぎ、セフィロスの体を露わにしていく。
セフィロスの想いを受け入れたクラウドは、彼を組み敷き、彼の望む行為を続けていた。
「やっ・・・・・・」
ベッドの下に服を落としていくたびに、セフィロスの体がぴくりと震える。
じっと見つめる瞳が自分の体を這う様に、セフィロスは全身を赤く染めた。
恥ずかしさに目を閉じるが、一向に始まらない愛撫にシーツを噛む。
「クラウド・・・・・・」
とがめるように視線を向けるセフィロスに苦笑して、朱を散らした頬に口付けた。
「恥ずかしがらなくたってイイのに。綺麗だぜ、あんた」
「ば、馬鹿・・・!」
ますます赤くなるセフィロスに、クラウドはくすりと笑う。
けれど、次の瞬間セフィロスに向けた表情は、いつになく真面目だった。
「覚えてないんだ・・・・・・あんたの全部。こんなに懐かしいのに・・・・・・」
頭に焼き付いているのは、炎の中で振り返ったセフィロスの姿だけ。
まるで刻み込まれたように脳裏に浮かぶあの時の記憶に首を振って、クラウドは自分の下で見上げる存在を見つめた。
あれだけが彼の全てではないと信じるために。
今、目の前で全てを晒す彼を、もう一度瞳に焼き付ける為に。
「クラウド・・・・・・」
セフィロスが、クラウドへと腕を伸ばす。
その手を掴み、指を絡ませてシーツの上に縫い止めると、クラウドは再度唇を重ねた。
「んっ・・・・・ふ・・・」
差し入れられた熱い舌が、セフィロスを探して口内を這い回る。
そのくすぐったさに身を捩りながらも、セフィロスは自分から下を絡ませた。
「セフィ・・・・・・」
何度も角度を変え、その度に視線を合わせる。
息をするのも忘れるほど互いを深く貪りながら、2人は甘いその感触に溺れていた。
やがて、セフィロスの口の端から互いの体液を交換しあった証の銀糸が筋を作る。
それを丁寧に舐め取りながら、クラウドの唇はセフィロスの淡い色を肌を這っていった。
唇から離れたことの寂しさに、セフィロスが声にならない声で、クラウドを名を呼ぶ。
それに導かれるように触れた手のひらは、綺麗に浮き出た鎖骨をなぞり、胸元まで降りていった。
「・・・っ・・・」
セフィロスが息を詰める。触れられた胸上の飾りは、既に硬く立ち上がり、誘うように赤く染まっていた。
片方を甘噛みされ、片方を指で押しつぶすように刺激されれば、もう声を上げるしかない。
必死に唇を噛み締めながら、セフィロスは繋いでいたクラウドの手を強く握り締めた。
「耐えるなよ。あんたの声が聞こえない」
胸に顔を埋めたまま口を開くクラウドの吐息さえも、敏感になった肌には快感をもたらす。
その上、羞恥を煽るような言葉を言われて、セフィロスの頬が朱に染まった。
「そ、んなこと・・・言われたって・・・っあ・・・!」
いきなり触れられた下肢の中心に、セフィロスの体が強張る。
それを解きほぐすように手で緩やかな愛撫を与えながら、セフィロスの足の間に自らの体を滑り込ませた。
「ほら・・・あんたのホントの姿・・・俺に見せてよ・・・・・・」
切なく響くクラウドの言葉に心を揺さぶられ、おずおずと体を開く。
それでもまだ強張ったままのそれを手で押し開いて、クラウドは彼の全てを自分の目の前に曝け出させた。
もはや真珠のようだった肌は真っ赤に染まり、それでもセフィロスは健気にシーツを噛んでいる。
そんなセフィロスに改めて愛しさを覚えながら、クラウドは金の髪を彼の中心部に埋めた。
「あ・・・や、めろ・・・っく・・・!」
あわてて下肢に手を伸ばし、クラウドを引き剥がそうと髪を引っ張る。
けれど、半ばそれを無視して愛撫を施せば、耐える間もなく甘い声がこぼれた。
先端を舌でなぞり、そのまま歯を立てるようにして亀頭をくすぐる。手にした雄を、筋に沿って刺激を与える度に、セフィロスの体は跳ね上がり、白い咽喉を仰け反らせた。
美しい体。それが自分の愛撫で乱れる様を、目を細めて見つめる。
快楽に喘ぐセフィロスを上目遣いに見上げながら、クラウドは限界を訴えて張り詰めたそれをより一層強く扱き上げた。
「あ、やめ・・・出る・・・っ!」
啼き声を上げたセフィロスの手を握り締め、快楽の扉へと導いていく。
促され、煽られた彼の体はあっけなく頂点へと達し、クラウドの口内へと精を吐き出した。
「あ・・・すまない・・・・・・」
口の端から零れ落ちる体液を手の甲で拭うクラウドに、セフィロスは申し訳なさそうにうつむいた。
けれど、完全にうつむく前に顎を捕らえられ、唇を掠め取られる。
もう何も言うな、とばかりに軽いキスを渡されたまま背を抱かれ、セフィロスは胸の鼓動が極限まで速くなるのを感じていた。
無意識に触れ合う、下肢が熱い。
こちらもまた張り詰め、今にも達しそうなほどのクラウドの熱を、セフィロスは震えるような期待感とともに感じていた。
待ち焦がれていた瞬間が、もうすぐだと確信する。
濡れた指先が自分の秘所に触れ、そのまま内部へと侵入する感覚さえ、今のセフィロスにはもどかしさを助長するもの以外のなにものでもなかった。
羞恥よりも、セフィロスの中でクラウドに貫かれることへの欲望が勝った。
早く、感じたい。
一刻も早く体を繋げて、そして―――――。
「もう、いい・・・・・・」
セフィロスはクラウドの手を掴むと、自分から指を抜き、クラウドを引き寄せた。
クラウドの首にしがみつき、催促するように自分から足を絡ませる。
クラウドは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにセフィロスを抱き返してきた。
「大丈夫か?入れても・・・・・・」
彼を気遣う様子も、今はただ焦らされるばかりで。
セフィロスは必死で頷いた。
「痛くたって、いい・・・・・・お前が・・・」
欲しい。そう言ったセフィロスの頬に口付け、クラウドは彼の白い足を抱え上げた。
露わになった箇所に自身をあてがい、そのままゆっくりと彼の内部へと押し入れる。
久しぶりな上にあまり慣らさなかったそこは、思った以上にきつく、クラウドにもセフィロスにも痛みをもたらした。
けれど、それが、より互いを感じる結果となり、痛みは快感へとすり替わっていく。
「くあ・・・っは・・・あ・・・」
小さく息をつきながら、必死に自分を受け入れ、呑み込んでいくセフィロスの体が途方もなく愛しくて、クラウドその背をきつく抱きしめた。
セフィロスの呼吸が落ち着くのを待って、ゆっくりと腰を動かす。
「セフィ・・・・・・」
耳元で囁くと、セフィロスの碧い瞳がうっすらと開かれた。
涙で潤んだ瞳は、それだけで誘っているかのようで。
クラウドは途切れ途切れに息を漏らす唇を自分のそれで塞ぐと、セフィロスの膝を胸まで折り曲げて、彼の最奥を求めた。
「ん・・・ふっ、あ・・・あぁ・・・!」
先端から快楽の証を次々と零すそれを、手で包み込む。
焼けるほどの熱さのそれは、貫かれた刺激と指先での抱擁に更に硬さを増し、クラウドの腹を押し上げている。
綺麗だった。
喘ぐその姿も、自分を求めて必死に手を伸ばすその様も、何もかも。
夢のようなその感覚に溺れたクラウドは、彼の奥をひときわ強く突き上げた。
その瞬間、押し出されるように欲を解放したセフィロスが波のように揺れる。
そして、クラウドもまた、彼の内部の締め付けに促がされ、セフィロスの中に精を吐き出したのだった。
2人は、しばらくの間動かなかった。
クラウドはセフィロスを抱いたまま、セフィロスはクラウドにしがみついたまま、互いの鼓動を感じている。
まだ外は暗かったが、もう少しすれば朝が来る。
そう思うと、何も言えなかった。
先に沈黙を破ったのは、クラウドだった。
不意に上から笑い声が降ってきて、セフィロスはクラウドを見上げた。
「・・・なんだ?」
「・・・・・・いや。」
そういって、セフィロスの流れるような銀髪に指を絡ませる。
柔らかく梳かれるその感覚に、セフィロスは目を閉じた。
「・・・本当は、俺、夢だと思ってた」
セフィロスがクラウドの顔を見ると、相変わらず包み込むような笑みを浮かべている。
クラウドはもう一度ふふっと笑うと、セフィロスの剥き出しの肩を包み込んだ。
「本物のあんただ・・・なんてさ。考えられなかったから。多分、俺の望みを投影しただけの夢じゃないかってさ」
「オレは・・・・・・」
「わかってる。あんたは・・・あんただよね」
掠めるように口付け、クラウドはセフィロスを抱き直した。
さらりとした肌の感触が、今は心地いい。
「なぁ・・・どうして、ここに来たんだ?」
その問いに、セフィロスはクラウドの熱を感じたまま瞳を閉じた。
欲しかったのは、この感覚。
ただ触れ合いたかった。本当に、彼の傍にいたかった。
クラウドが与えてくれる、変わらない暖かい感触を感じていたくて、ここにいた。
それが叶った今、セフィロスはまた涙を零していた。
「お前が・・・・・・欲しかった」
それだけ言うと、セフィロスはクラウドの胸に顔を埋める。その背を、クラウドは優しく抱いた。
長いような、短いような2人だけの時。
噛み締めるように、2人は瞳を閉じたのだった。