睦闇
ニブルヘイムで、仲間達と一泊した。
セフィロスを追って、またこの村に来るとは皮肉なものだ。
5年前のあの記憶も、全て忘れてしまいたくて、ここから逃げ出したというのに。
眠れるはずもなく宿を出た俺は、宵闇の中を瞳に映る炎と重ねた。
記憶の中の、燃えさかる炎。
しかし、今のニブルヘイムには、それが村中をなめした跡はどこにもない。
まるで、村全体が入れ代わってしまったかのようだ。
記憶と現実とのギャップに戸惑いを覚えながら村を見回していた俺は、しかしこれだけは変わらないものを見つけた。
悪夢の始まり―神羅屋敷。
昔は神羅の上役達が利用していたのか知らないが、俺が物心ついた時には既に寂びれた状態であそこに建っていた。
あの時も、5年前も、そして今も、・・・時が止まったように変わらぬ建物。
足を踏み入れれば、自分の体が刻む『時』さえも止まるように。
床の軋む音に顔をしかめながら、俺は何かに導かれるままに地下へと向かった。
かの有名な狂った科学者が使っていたであろう地下の研究室は、何故かいても立ってもいられない恐怖を俺に与える。
そして、体の中から湧き上がる憎悪の念。
心の奥底に押さえ付けていた憎しみが、見えない手で引きずり出される感覚に、俺は胸を押さえた。
―・・・・・・裏切り者め。
過去の記憶か、この部屋の残留思念か、実体のないものが今の俺に訴えてくる。
裏切り者?それは、あんたの方じゃないか。
あんたを見ていたのは誰だ?紛れもない、この俺だ。それなのに、あんたは、手を差し伸べた俺を振り払い、それどころか、俺の大切な物を全て奪った!だから俺は・・・!!
どうしようもない殺意の衝動が込み上げてきて、俺は目の前の壁に拳を叩き付けた。
脆くなった壁がパラパラと崩れるが、俺の知ったことじゃない。
そうして何度も何度も叩き付けて。
もう一度壁を殴ろうと腕を振り上げると、その腕を掴む手があった。
血の滲むそこが、淡い緑の光で癒されていく。
「・・・もう、やめろ」
微かに悲しみを含んだ声が、耳元で聞こえた。
俺の一度失われた記憶の中で、唯一忘れたことのなかった、美しい水面(みなも)のような声音。
それが、今の俺にとっての最大の敵が発しているとわかるまで、数秒かかった。
「そんなことをしても、何にもならない」
「・・・じゃあ、どうすればいいんだよ」
捕らえられた腕を捻って逆に掴み返すと、突然の行動に驚いたのか奴の体がびくりと震えた。
体に燻ぶる憎悪のままに手首を拘束し、目の前の存在を睨み付ける。
「ならどうしろって言うんだよ。あんたが俺に刻みつけた・・・、この、憎しみを!痛みを!!」
セフィロスを無理矢理壁に叩き付けると、彼の綺麗な口元から苦痛の色が洩れた。
それは、自分が神だとかほざいてた奴とは別人のようで、身の内から嗜虐心が湧き上がる。
そう、俺をこんなにしたくせに、それを無視するなんて許さない。
絶対に。
「ほら、脱げよ」
両手首を頭上で拘束したままクロスべルトを外し、片手で胸元をはだけさせた。
怯える瞳を向けたまま、無言の抵抗をセフィロスが見せる。
「何?文句あるわけ?」
剣呑な表情で真っ直ぐに睨みつけると、唇を噛み締めて横を向く。
それを合図に、俺は露わになった白い肌に唇を這わせた。
傷跡一つない肌は、神羅の英雄として数多くの戦場を切り抜けてきたにもかかわらず、誰にも穢されなかったことを示していて、自分が傷つけてやりたいと何度思ったかわからない。
舌で骨の窪みあたりを濡れた舌でなぞる度に、上がる吐息が耳をくすぐった。
「や・・・んっ!」
声を漏らす口元を塞ぎ、指先で紅く染まった突起を嬲れば、目の前の柳眉がキレイに顰められた。
柔らかな唇の感触も、逃げようとする熱い舌も、
全てが懐かしい。
胸から脇腹へ手のひらで撫でていくと、くすぐったいのか微かに身を捩るその身体。
多分、愛していた。
気まぐれに付き合って、ただ体を重ねていただけの関係だったはずなのに。
「う・・・ふぅん・・・っ・・・」
唾液が含み切れなくなり、セフィロスの口の端を濡らす頃、苦しげな吐息が微かに開いた唇から洩れた。
「苦しいの?セフィロス・・・」
首筋に唇をずらし、そこを甘噛みしながら、指でセフィロスの頬を辿っていく。
咽喉の堅い部分に触れると、はっ、と吐息を漏らし、より顎を反らせた。
5年前。
あの日の前の夜も、こうやって彼を抱いていた。
綺麗な体で、白いシーツの上で、いつになく乱れるセフィロスに、
どこか不吉な予感を感じていた。
そして、真実、悪夢が起こったのだ。
あの時抱いていたかもしれない微かな想いも、一転させてしまうほどの悪夢が。
「なぁ、どうしてあんなことになっちまったんだ?」
半ば自問するように、俺はセフィロスに問い掛けた。
だが、セフィロスは薄目を開けて、小さく首を振ったまま答えない。
わからない、だって?
全ての始まりだったあんたが、わからないなんてどうかしてるぜ。
俺の憧れていた・・・愛していたあんたはどこへ行ったんだ。
あんたのせいで、俺はあんたへの憎しみだけを糧に生きてこなければならなかったっていうのに。
「・・・俺は、あんたが憎い」
形にすれば、真実になる。
だから、俺はあえて言葉にしてセフィロスに言った。
だって、仕方ないだろ?
例え過去がどんなに甘い夢だったとしても、今は違うんだから。
戻れないし、そんな過去の想いに、今の自分を振り回されたくない。
わかってる?セフィロス。
俺は、あんたが憎くて、あんたを殺したくて、あんたを追ってここまで来たんだ。
キスと手だけで愛憮を施してやると、押さえつけていた両腕から、全身から、力が抜けていく。
それを感じた俺は、口の端だけで小さく笑った。
自分の体でセフィロスを壁に縫い止め、両手を腰に回して細い皮ベルトを外す。
すかさずボトムの中に手を差し入れれば、快感に耐えるようにぎゅっと目をつぶった。
「ぃ・・・やっ・・・!」
「嘘付くなよ・・・もうこんなになってるくせに」
窮屈そうに勃ち上がったそれを強く握り込むと、思わず、といった風に声を上げる。
先端から溢れる体液が、痛みの中に快楽を得ていることを物語っていた。
「素直になれよ。あんたから俺のところに来たんだぜ?」
耳元で囁いて、空いてる方の指で真っ赤になった胸の飾りに血が出るほど爪を立てる。
痛いくせに声上げるなんて、さ。
根っからのマゾだよな、あんた。
手のひらの中のセフィロスが限界を訴えているのを感じて、俺はより激しくそれを擦り上げてやった。
「あ・・・っ・・・イく・・・っっ!」
あっけなく果ててしまったセフィロスの体を支え、顔を覗き込む。
恥ずかし気に目元を朱く染め、視線をさまよわせているセフィロスが、妙に弱々しくて。
あの時、俺を殺そうとしたくせに。
「・・・一度イったくらいで、解放されると思ってんの?」
セフィロスの体を反転させて、胸を壁に押し付けた。
剥き出しの肌に、ザラついた壁が擦れる痛みに、顔が歪んでいる。
苦しげに喘ぐセフィロスを無視して引き裂くようにコートを脱がせれば、身に着けていたアクセサリも装備も鈍い音を立てて床に落ちた。
その中で、俺はいくつか光を放つものを見つけた。
「・・・・・・あんた、俺を殺しに来たんだな」
地に落ちたものは、綺麗な色を放つマテリアだった。
ひと目でマスターだとわかるそれは、今はただの光る大きめのビー玉のようだ。
ハッと目を見開いて首を振るセフィロスの髪を引き、自分の方に顔を向かせる。
「・・・ま、今の俺はあんたにとって邪魔な存在だもんな。殺されて当然、っと・・・」
嘲るように笑って握っていた髪を強く引く。
壁から引き離されたセフィロスは、全身の力が抜けたまま床に崩れ落ちた。
うつ伏せたセフィロスを覆う衣服を全て剥ぎ取って、俺は腰だけを高く上げさせた。
先ほど放った精液を後ろの窪みに塗りつけ、内部を犯していく。
「今から、あんたのココに受け入れてもらうモンがある」
そう言って、指をねじ込むと、セフィロスは体を震わせながら重い痛みを耐えるべく唇を噛み締めた。
その姿に薄く笑って、床に落ちていたマテリアの一粒を無造作に拾い上げる。
淡く緑色に光るそれをセフィロスの秘部に宛がうと、想像だにしない冷たさにセフィロスの体が強張った。
「何考えてる?あんたの欲しいモンはまだ先だぜ・・・」
「い・・・やだ・・・っ・・・!」
拒絶の言葉を無視して、濡らした入口から内部へとゆっくり押し込んでいく。
逃げようとする腰を押さえ付け、指先で奥へと挿れていくと、ほどなく緑の光はぬめりの中に呑み込まれていった。
体の中の冷たさに身を捩るセフィロスは、しかし動けば動くほどその冷たさを感じて息を詰めた。
「あんたが落としたんだぜ?返してやるよ、全部」
目を見開いて、やめろとばかりに顔を向けるセフィロスの頭を押さえ付け、もう一つマテリアを取り上げる。
今度は青色に光るそれを彼の目の前に掲げれば、もう一度逃げようとするセフィロスの口元から甲高い嬌声が零れる。
白い双丘に触れるだけのキスを落とし、2つ目の石を内部に挿し入れていくと、セフィロスの内部でチン、とマテリア同士がぶつかる澄んだ音が鳴った。
重なった2つの石を指先で押し込み、指と冷たい感触でセフィロスの内壁を擦る。
その途端、奥の石がセフィロスの弱い部分に当たったのか甘い声が響いた。
そっと指を抜き、開かせた内部を締めるように腰を抱き、セフィロスの背に口付ける。
まだまだ、序の口だぜ、セフィロス。
「・・・・・・ぁあ・・・」
3つ目のマテリアを埋め込むと、耐え切れずに押し出すような声が上がった。
ただでさえ狭い内部。
それを無理矢理こじ開け、冷たい石を呑み込ませてゆく。
「力、抜かないと全部入らないぜ?まだ残ってるんだから・・・」
一方の指で内部を犯し、石で前立腺を刺激させながら、目の前にかざされた黄色いマテリア。
もはや痛みでしかない内部の刺激と、もう一つ入れられることの恐怖に、セフィロスの瞳が揺れる。
それが後ろに宛がわれた時、まるで懺悔でもするようにセフィロスの額が床に押し付けられた。
4つ目のマテリア。
もはや一杯になった肛内を、淡い黄色の光が彩る。
苦痛に歪む顔が一層歪み、快楽だけではない悲鳴が上がる。
途中、強い刺激にセフィロスは達してしまったが、それでも、俺はセフィロスの中にマテリアを押し込み続けた。
彼の泣き叫ぶ声を聞きたいがために。
ようやく全ての石が内部に収まると、セフィロスは安堵の息を漏らした。
泣き腫らした目は充血し、押し込んだ入口もまた充血していたが、俺に訴えるものは何もない。
「・・・立てよ」
荒い息をつくセフィロスに囁く。
だが、そんなの無理だと言わんばかりに首を振るセフィロスに、苛立ちが込み上げる。
・・・あんたがそんなこと言える立場じゃないんだよ。
「立てよ!」
手を引いて乱暴に引き上げると、内部のマテリアがセフィロスを刺激したのか、高い声が上がった。
「あ・・・っ嫌・・・・!!」
内部の異物を落とすまいと緊張していたそこから、粘つく糸を引いて一粒のマテリアが零れ落ちる。
淡い黄色のマテリアは、くぐもった音を立てて床を叩き、本棚の下まで転がっていく。
俺はすかさず後ろに指を持っていくと、内部の石をより奥へと押し込んだ。
「痛っ・・・」
「それ以上、落とすなよ?」
「や・・・」
耳元で囁いて、色づいた唇を重ねる。
強張った体が解れていくように、舌で口内を犯し、指先はセフィロスの奥を犯していった。
セフィロスの綺麗な指が、きつく壁を噛む。
感じているくせに、耐えてばかりのセフィロスが、思い通りにならない、遠い輝きのようで。
穢れた手の中で、壊してやりたい衝動に駆られた。
今度こそ壁に体を押し付け、頭上の壁に手を付かせる。
怒張しきった俺自身をそこに宛がえば、内部に石を埋め込んだままの挿入に恐怖を覚えたのか、全身が強張り、震えていた。
それでも、セフィロスを気遣う余裕なんか、俺にはない。
セフィロスを犯す内部のマテリアなんか、知らない。
たとえそこが充血してようと、血を流そうと、俺には関係ない。
「くぁ・・・・・・っっ!!!」
痛い、と訴える体も声も全部を手にしながら、俺はセフィロスの中に自身を押し込んだ。
それに合わせて、内壁を刺激していた石がさらに奥へと突き進む。
指も、楔も届かない最奥へと。
「いっ・・・!!」
痛みの為か、快楽の為か、セフィロスの言葉が出ない。
自身を全て収めると、泣き腫らした目からまた涙が溢れていた。
「気持ちいい?セフィロス・・・」
気持ちいいどころじゃないことは、聞かなくても分かっている。
それでも、俺は言わせたい。俺の与える快楽に、痛みに溺れるセフィロスが見たい。
だんだんと抜き差しを速めれば、一瞬の痛みと、安堵するような快楽とのせめぎあいにセフィロスの体が揺れる。
互いの汗が飛び散り、辺りを汚していった。
もはや、本当に何がしたかったのか忘れてしまった。
セックスなんて、多分つらい現実を忘れる為に、始めただけのこと。
憎しみなんかを糧に生きる人生ほど、つらいものはないのだから。
「・・・クラ、ウド・・・」
上がる息の合間に、セフィロスが言葉を紡いだ。
もう、セフィロスも俺も、意識が飛ぶ寸前だ。
快楽とか、痛みとかじゃなくて。
朦朧とした浮遊感の中で、俺はセフィロスの言葉を聞いていた。
「・・・愛してる・・・」
水の中で聞いたような、あやふやな声でセフィロスが呟く。
そんなの、知らない。
セフィロスが俺を愛してようと、俺はあんたが憎いんだから。
「・・・愛してる・・・」
聞かない。聞きたくない。アイシテルなんて、あんた、おかしい。
「俺は、あんたが憎い。愛してなんか、いない」
愛してる、といい続けるセフィロスを遮る様に、俺は言った。
憎しみが、晴れることなんてないんだから。
殺してやりたくて、この手に剣を持ったんだから。
首筋に爪を立てると、セフィロスは安堵したように笑みを浮かべた。
「愛している・・・クラウド・・・」
ぷっつりと意識を失い、果てるセフィロスを腕に抱き、俺は泣いた。
こんなに憎い相手が、腕の中にいるのに。
殺せないまま、俺は溢れる涙のままに嗚咽を上げ、その夜は過ぎていったのだった。