愛のカタチ。
チリ・・・ン・・・
微かなベルの音がして、宝条は顔を上げた。
視線の先には、よく見知る青年の姿。
「・・・偶然だね」
音もなく隣に座る存在を見る。
だが青年はそれには答えず、軽く手を上げてアルコールを注文した。
「よく、来るんですか」
視線を前に向けたまま、クラウドは男に尋ねる。
「・・・たまに、ね。一人になりたい時に丁度いいだろう?」
静かな、あまり人のいないバー。
マスターの趣味だろうが、ゆったりとしたピアノ曲が流れている。
カラッ、と宝条の持つグラスが鳴った。
「・・・俺、貴方に話があるんです」
「あぁ。・・・セフィロスのことだろう?」
そう言って、押し黙る。一瞬とも永遠ともつかない沈黙が2人を空気のように包んでいた。
「・・・・・・抱いたか?」
「ええ」
事も無げに告げる。
隠すつもりもなかった。隠していてもどうせ気付かれるのだろう。
宝条は胸元から出した煙草に火をつけた。
「・・・イイだろう?アイツは」
ふうっと煙を吐き出し、手の中で揺れる氷を見つめる。
「アイツは英雄なんかじゃない。いつも好奇の目にさらされ・・・強いのは外側だけだ。薄皮一枚はがせばまだまだ何も知らない弱く哀れな子供だからな」
その瞳に、子供を哀れむ父親の色が映ったことに、クラウドは気付いた。
「・・・俺はセフィロスから貴方が冷たい人間だと聞いていましたが」
「私は、冷たいよ。あの子に何もしてやれなかった」
ただ、傷つけただけで。
あくまで研究対象である息子に、親の顔など見せられるはずもない。
宝条はフッと自嘲の笑みを浮かべた。
「だから、頼むよ。あの子の心を捉えたのが君だったのなら・・・幸せにしてやってくれ」
そう言ってクラウドを見る顔は、確かに満ち足りた顔をしていた。
「・・・貴方は本当にセフィロスを愛していたんですね」
宝条の指から煙草を取り、口に咥える。
微かに感じる煙草の苦味は、哀しい父子の関係を示している気がした。
「・・・貴方の代わりに、必ずセフィロスを守りますから」