お前は俺の所有物



パンッ!!
容赦ない平手打ちの音に、クラス中の人間たちが背筋を凍らせた。


オーブからの移民、いわゆる難民のシン・アスカと、エリートである教官たちは
些細な出来事でよく対立するため、
反抗的なシンはもちろん教官からの覚えは悪かった。
誰も、シンをよく思う者などいない。むしろ親身になってくれる教官がいたとしても、
教官内でまで叩かれる始末だ。
だからこそ、シンは成績優秀でなければならなかったわけだが、
今度の場合、同期でトップの成績を誇るレイと同等の点数を彼が取ったため、
教官が成績表を渡す際、皮肉げにカンニングを疑う言葉を吐き出したのがことの始まりだった。
もちろん、シンにとってはかなりの屈辱だ。
シンでなくとも、反論したくなっただろう。気の毒に、と思ったものは、何人いたことか。
だが、そんなシンの言葉を、教官がまともに受け止めるはずもなく、
さらにシンの怒りを煽るだけで終わってしまう。
ついに、シンの怒りに震える拳が教官の顔を狙った。
誰もが思った。これでは、シンは暴行の罪に問われ、間違いなく退学処分になる、と。
だが、止めるものはいなかった。元々、成績や出自に拘る者が多かった。
だから、シン・アスカを擁護する立場に居たものは少なかったのだ。

シンは、かくして退学処分になる、そのはずだった。




「っ痛・・・」
「さっさと席に戻れ」

ひどく淡々とした、無表情の声が、静まり返った教室に響き渡った。
シンは、もちろん反抗的な目を向けた。教官ではなくレイだ。
睨みあげた先は先は冷ややかで、氷のようだ。
突き刺さる視線。
激昂していたはずのシンは、次の瞬間一気に冷えた。唇を噛み締めて、席に戻る。
レイも何も言わず、席に戻った。
もう、教官も、この話題を続ける気迫はない。
一見すれば、何も変わらない授業、何も変わらないクラスメイト。
だが明らかに、空気は変わっていた。
真っ赤に腫れ上がった頬をそのままに、切れた唇の血を拭うシンは、
この中で一番哀れに見えた。










「馬鹿は死ななきゃ治らない、というのは本当だったみたいだな」
「っ・・・」

どさり、とベッドに転がされ、シンは涙を滲ませる瞳をレイに向けた。
張り倒された際の傷すら無視して、レイは冷ややかな視線を脅える少年に向ける。

「あれほど反抗的な態度は取るなと言ったのに。俺が揉み消してやった数々の違反行為を、無駄にする気か」
「・・・っでも!!アイツ!!あんなっ、オレのこと、あんな風に・・・っ!!」

再度渇いた音がして、その衝撃に、少年はドサリとベッドに沈み込んだ。
先ほどとは逆の頬を張られ、また血が滲んだ。もはや、シンに抗う術はない。あったとしても、その冷徹な瞳に気圧されていただろう。
何の感情も浮かばない、残酷な表情。
顔立ちが整っているだけに、ナイフのような切っ先が胸に突き刺さる。
レイはシンの襟元を掴みあげ、その顔を覗き込んだ。
シンはただ、恐怖を覚えた。だらりとシーツの上に下ろした拳に、力を込める。
必死に恐怖に耐えようと、シーツを噛み締める。

「う・・・」
「それとも、俺がバックにいるから、いい気になっているのか。お前の不利になることなら、すべて揉み消してくれる、と」
「・・・!ち、違う・・・!!」
「お前は俺の所有物だ。目に余る勝手な行動は許さない」

ハッと、少年の紅い瞳が見開いた。
己の今の立場を思い出したのだろう、視線が泳ぐ。
だが事実、シン・アスカは、目の前の少年、レイ・ザ・バレルのモノだった。
いつからなどわからない。彼の心が少年に囚われた時、そうなった。
言い返せずにいると、レイはそれを鼻で笑った。
抵抗もできず、彼の言葉に屈服し、それほどまでに自らを踏みにじられながら、なぜそれでも彼の元にいるのか、
シンにはわからない。逃げ出そうと思えば、いつでもできた。そう、今すぐにでも。

「事実だろう?それともお前は、俺の下から抜け出したいのか。別に構わないが」

別に構わない。そう告げられ、シンの心の奥底が冷えた。
逃げ出そうと思えば、逃げ出せた。襟元を掴んでいた少年の手の力が、すっと緩む。
そうしてその怒り心頭の表情も、また。
トーンの落とされる口調。そう、これが、
・・・静かな、元々あまり話すことのない、普段の彼。

「やめたいなら、やめてやる。勝手に一人で暴走して、退学処分にでもなればいい。俺は関係ない」

ひどく優しげな声音が、シンにとっては死の宣告にも等しい言葉を紡いだ。
退学処分。それはザフトのエリートパイロットを目指すシンにとって、絶対に避けなければならないこと。
わかっている。わかっていながら、先ほどのように教官に腕をあげてしまった。
今のシンに、己の暴走を止める術などなかった。
頭が真っ白になってしまうのだ。
自分が自分でなくなるような、そうして何もかもがわからなくなるような、
そんな瞬間。
先ほどだってきっと、レイが間に入らなければ確実に教官を殴っていただろう。
レイには、感謝すべきことばかりが増えていく。
前は、ただありがとうと、それだけで済んでいた。
ただの同僚で、その義務でシンの暴走を止めていただけのことだと思っていたから。
だが、今は違う。
自分は、レイに囚われている。

「そこで1人で考えて、頭を冷やしてろ。・・・俺は行く」
「あ・・・」

ベッドに押し付けていた男の重みが失われ、シンは別の意味で脅えた表情をつくった。
男も女も構わず、噂になるほど夜遊びが激しい彼が、
こうして背を向けて出て行けば、夜に帰ってこない事は火を見るより明らかだ。
独りは、怖かった。悪夢を見、そうして叫び、目を覚ます、そんなことがよくあったから。
今のシンにとって、他人の拠り所は不可欠だった。
アカデミーに入った頃は、独りが気楽だと、独りで生きていけると、そう思っていたのに、
いつの頃からか、この同室の彼がいないと不安でたまらなくなった。
きっと、下手に優しくされてしまったからだろう。
本人はただの友情の延長のつもりだったのだろうが、こちらとしては大変迷惑だ。
どうして、こうなった。
たった一人でも生きていける、そのために、力が欲しかった。
だから、ザフトに入隊したというのに。

「ま、待ってくれよ・・・!オレが、オレが悪かったから・・・、だから、お願いだから」

ドアに手をかけようとしたレイの背に、シンは必死にしがみついた。
行かないで、とか細い声で告げる。背を向けたままのレイは、動かない。
彼にとってモノ扱いできる相手は星の数ほどいた。決して自分だけではない。だからこそ、シンは脅えた。
レイにしてみれば、自分の思い通りになる相手ならば誰でもいいのだ。
それは、シンだから、と望まれて彼の腕に抱かれたわけではないことを意味している。
いつだって、逆らえば、捨てられる。
こちらから切れたいといえば、ごくあっさりと手を離してくれるだろう。
だが、シンにとってレイは、特別だった。
だからこそシンは、彼の言葉に従う、忠実な犬でなければならなかった。
彼の興味を自分にひきつける、そのためだけに。

白いシャツを汚して、涙を零す少年に、レイは昏く笑った。
足元に蹲る彼を抱え、再びベッドに投げ出した。シンの瞳は、脅えと共に、かすかな期待が彩っている。

「お前はなんだ?」
「・・・オレは、貴方のモノ、です」
「なら、証を見せてみろ。俺のモノだという、その証を」

ぐっと顎を掴まれ、シンは胸の高鳴りを押さえられずにいた。
ベッドに腰掛ける少年の、その股間に、シンは躊躇わずに顔を埋めた。
教えられた通りに、歯でジッパーを下ろし、唇だけで男のそれを取り出す。生臭い"男"のニオイが鼻につくが、それを嫌だと思った時期はとうに過ぎている。
今まで、何人の男女に行為を強いてきたかわからないそれに、同じように愛撫を与えるのは、
胸が引き裂かれるようだ。レイにとって、自分は他の人間達とさして変わらないことの証のようだから。
どうすれば、そんな彼らよりもっと、レイに近づくことができる?
自分にとってレイが全てであるように、レイもまた、自分を想って欲しいと思うのは、
ただ自分が愚かだからか、それとも―――。

「・・・それで本気でやってるつもりか?」
「っ・・・」
「何度教えてやったかわからないというのに、これほど物覚えの悪い奴はお前が初めてだな」

容赦ない言葉の刃と、赤く腫れ上がったままの頬を強引に掴まれた苦しみに、
シンは眉を寄せた。
痛くて、苦しくて、それでいて涙が出るほど悲しい。
顎が外れるほど、必死に彼のペニスを呑み込み、快感を呼び覚まそうと奉仕を続ける。

「っ・・・ふ、うっ・・・んむ・・・」
「・・・・・・」

不意に、レイの手が、シンの髪を鷲掴みにした。
自身に引き寄せ、喉の奥に付き立てるように乱暴に動かす。わかっていながら、モノのように扱われるのが苦しい。
涙が零れた。その瞬間、叩き付けられる少年の精液。

「・・・飲め」
「ぐ・・・うっ・・・」

もちろん、シンに逆らえるわけもなかった。
いつものことだ。もう、彼の精を飲み干せること自体が、悦びのようにすら思える。
吐き気がした。だがそれを無理矢理押さえ込んで、たっぷりと放たれた白濁を嚥下する。身体が震えた。
レイはシンの口内から自身を引き抜くと、腕を伸ばし、シンを再びベッドに押し倒した。
また、あの乱暴な行為が始まる。
無意識に、シンの腕がベッドサイドの薬に伸びた。
いつも、行為の前には服用していたもの。だが、それをレイが遮る。

「・・・っレ、イ・・・!」
「今日は禁止だ。仕置きの一環だと思って、せいぜい耐えろ」
「いっ・・・!」

簡単にシンの身体をひっくり返すと、レイはすぐに後ろを責め立ててきた。
指を突き立て、乱暴に中をかき回す。
シンは身体を震わせて、痛みに耐え続けた。薬の効果がないシンの身体は、何の反応も示さない。
レイの指が根元まで入り込み、内壁を拡げるようにぐるりと刺激を与えてくる。
だが、シンはただ震えるだけで、快感などまったく感じていないようだった。

「レ、レイ・・・!いきなりっ、そこ・・・」
「感じもしないのに、前など面倒だ。ヤりたいなら、自分でヤってろ」
「・・・っ・・・」

右手を乱暴に掴まれ、だらりと垂れたままの自分のペニスを掴まされ、
シンは再びシーツを涙に濡らした。
どんな刺激を与えても、どんなに扱いても、まったく反応したことがない彼のそれは、
今もまた、ただ乱暴な行為に震えるだけで、熱はおろか、力すら示すことがない。
レイに抱かれ、薬を使い、初めてイくということを知った。シンの不感症は、おそらく精神的なものだろう。
もちろん、その原因はわかっている。心を呪縛し、身体すら呪縛する、あの記憶。

「い、やだっ・・・それはっ」
「五月蝿い・・・お前が悪い。ただそれだけのことだ」
「あ、ああっ・・・!!」

もちろん、痛みでしかない。
どんなに慣らされても、ただ指でおざなりに拓かれたそこが、
レイのその怒張した楔を受け入れるほどに柔軟になるわけがない。
だが、それでもレイは、彼の内部に押し入った。
血など、いつものことだ。鉄錆びの匂いに、むしろ彼を犯す少年は悦に入った笑いを零した。
その真っ赤な瞳と似た、真っ赤な色。白い肌には、よく似合う。

「あ、あっ・・・、や、」

ただ、衝撃だけでシンは声を洩らした。
もちろん、彼の砲身はだらりと垂れたまま。
ただ、身体が内部から壊れてしまいそうな、そんな恐怖と痛みだけが、
彼の脳を支配していた。
ぐちゅぐちゅと、気持ちの悪い水音が、下肢から聞こえてきた。
血と精液と先走りで、ひどい匂いが立ち込める。

「痛・・・、も、オネガイ、だからっ」
「ああ、ひどい血だ・・・。さぞかし痛いだろう。明日は1日、休暇かな」
「っ・・・!!」

息を呑んだ。ただでさえ教官の覚えが悪いというのに、これ以上無断欠席を重ねては、また怒られる。
そしてきっとまた、自分は彼らに反発し、暴走するだろう。
また、繰り返しだ。
シンは傷ついた唇を噛み締める。
どうあってもレイの掌に踊らされる自分。反吐がでる。だが、それこそが自身の望んだことなのだ。

―――やめて欲しいなら、いつだってやめるぞ

「レ、レイ・・・もっと・・・!犯してっ、オレは・・・!」
「ああ、俺の、モノだろう?」
「オレはっ、お前のっ・・・・・・」

玩具でいい。こうして、傍にいて、自分を見ていてくれるのなら。
背後から微かな呻き声がして、どくどくと吐き出される精。必死に後孔を収縮させて、零さないようにすべて呑み込む。
従順なシンに漸く満足したのか、レイは彼の肩口にキスを落とした。
首の周りには、いくつもの紫の所有印。
脱力したままの少年に笑みを浮かべると、レイは再びシンの腰を掴み、それを揺さぶり始める。
拷問のような、しかしシンにとって悦楽の時間は、長く長く続いた。




00.Prologue
01.お前は俺の所有物
02.調教してやるよ
03.そのカオ、ぞくぞくする





Update:2005/08/25/WED by BLUE

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