07:禁断



「人は、禁断の果実を食べて地に堕ちたらしい。」

決して食べるなと言われた林檎を食べて、人は地へと落とされた。
そそのかした悪魔が悪いのか、それとも己の欲と、その誘惑に負けた人間が悪いのか。
神に背いたのが罪なのか、悪魔に付け入られた心の弱さが罪なのか。
よく、わからない。
ただ1つわかるのは、神に与えられた楽園から、人が追いやられた、という事実だけ。

「人は、そのことをひどく悔やんでいた。もう二度と、こんな過ちを繰り返させるべきではない」
「神の意に従うも、悪魔の声に耳を傾けるも、すべて人の望んだことだ。そこに罪や過ちなどといった概念は存在しない。あるのは、"結果"だけだ」

真面目な顔で訴えるギルと、常に皮肉げな笑みを絶やさないラウと。
彼らが顔を合わせると、こうやっていつも言い合いばかり。
しかも、意見が合うことなんてほとんどないんだ。
俺が、幼い頃から。いつも二人はこんな感じで、今でもやっぱりよくわからないけど、
うん、でも。
唯一二人が口を揃えて告げることばだけは、俺も同感だ。

「「愚かなものだな、人は・・・」」

本当、人は愚かで、馬鹿だと思う。
ギルの言うとおり、楽園を追放されたアダムとイブは泣いていた。
後悔することぐらい、わかっていたろうに。そのくせ、報いを受けて悲しむなんて馬鹿みたい。
ラウの言うとおり、あるのは全て"結果"だ。常にそれを予測しながら生きるべきで、
己の行動を後悔する生き方なんて、俺には理解できない。
そもそも、間違ってるんだよ。
したいことがあって、欲しいものがあって、それが誰かを蹴落とさなければ得られないものとか。
自分らしく生きるために、誰かの信頼や心を裏切らなければならないときとか。
結末は、明白だろう?対立、争い、憎しみ、嫉み。全て、仕方のないこと。
なのに人間は、己の欲のままに争いを呼び、そしてまた、欲のために争いを嘆き、なくすことを望む。なんて、矛盾した願いだろう。
つまらない。人間なんて馬鹿ばっかり。
そんな馬鹿の欲望が俺たちを生みだしたっていうんだから、なおさら。
嫌い。
いいよ、ギル。
こんな人間たちなんか、生きている意味ないよ。
好き勝手に戦って、争って、奪って、手に入れて。そのまま、滅びてしまえばいい。
アダムとイブは、地に落とされてなお、神を崇め、神を称えたわけではない。
勝手に繁殖して、死んだり、生まれたり、殺したり、殺されたりを繰り返してる。楽しそうじゃないか。
だから、ギルが心を痛める必要なんて、ないんじゃないの?

「・・・でも、このままでは、また君達のような子供が生まれてしまう。私は・・・」
「それを止めたいと?・・・傲慢だな」
「ラウ・・・」
「お前のその崇高な心すら、ただの欲望でしかない。それを叶えるために、多くの血を流すだろう」

容赦のないラウの切り捨てに、ギルは俯いてた。
でも、俺の耳に、あなたの言葉は本当に嬉しく聞こえたよ。
ありがとう、ギル。ただ死に行くだけの俺たちを悼んで、そう言ってくれたんだね。
もう、こんな哀しい存在が生まれないような世界が欲しいと。
確かにラウの言うとおり、それもまた、人の欲なのかもしれないけど。
どうせ、俺たちは人間だし、ね。
ギルの望みに、俺は賛成だよ。
いつかそんな世界を目指せるときが来たら、俺にも手伝わせてね。
きっとだよ。










[20のお題詰め合わせ] by 折方蒼夜 様
Update:2005/10/04/THU by BLUE

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