調教してやるよ



「不感症?」

近くのホテルで待ち合わせて、開口一番にそんなことを言ってくる少年に、
ギルバートは眉を顰めた。

「ああ。簡単に手篭めにできるかと思ったけど、やっぱり一筋縄ではいかなかった。見込んだとおり、楽しませてくれるよ、あのシン、って奴は」

よくよく聞いてみると、その不感症、というのはシン・アスカのことらしい。
遺伝子適性検査の際、『S.E.E.D.』の才能を見出した彼だが、なかなか駒として扱うには不安定な精神の彼を、少年自身が「自分の駒にしてみせる」と宣言しただけあって、レイは楽しげだ。
なにやらギルバートからビニール袋を受け取ると、早速中身を確認している。

「それで・・・、こんな、媚薬や・・・せ、精力増強剤などを大量に私に買わせたというのかい?そもそも、こんなもので治るものか・・・?その、不感症・・・とかいう病気は」
「ギルは研究者のくせにわかってないな。男は感じなくてもイけるんだ。不感症対策の第一歩はイかせるコト。」
「専門分野外だよ・・・」

ギルバートは脱力した。
そもそも、自分と比べて付き合ってきた相手の数のケタが違う相手に、自分が勝てるわけがない。
いや、勝つつもりもないのだが・・・、上目遣いで見上げてくる少年は相変わらずだ。

「ま、いいけど。試してみようか?今からでも・・・・・」
「い、いい。遠慮する」
「ははっ。ギルも怖がりだな。まぁ、俺も本当はこんなの嫌いだしね。これは特別。」

少年は背を伸ばしてギルバートの首に腕を回すと、そのままぴっちりと身を重ねた。
もちろん、セックスをするためだ。
少年の本命は、シンでもなければ、彼と付き合いのある他の誰かでもない。
目の前の、この15も年上の、かれ、なのだから。
ギルバートもまた、諦めている、といった体で少年のしたいように任せている。
ぱさり、と男の着ていたコートが床に落とされた。

「門限まであと4時間、か・・・。何がしたい?ギル・・・」

少年は、そう言ってニヤリと笑った。















「あ、レイ!!」

門限ギリギリに帰ってきたレイを迎えたのは、寮の前の喧騒だった。
少年の噂は誰もが知っているが、少年自身は人気がないわけではない。そもそも、皆に嫌われていたら生徒会長など務めていられない。
レイは、来る者拒まず、といった体で付き合った相手を片っ端から篭絡していたが、
ただのクラスメイト、ただの友人でいる分には、これほど付き合いやすい男は他にいないだろう。
加えて、その賢さは他の者の追随を許さず、基本的に面倒見もいい。
そういうわけで、何かあると、皆はすぐにこの生徒会長に無理難題を押し付ける傾向があった。
今回も似たようなものだろう、とレイは内心ため息をついた。
見回したメンバーにシンがいない。またやらかしたのは、シンか。

「どうした」
「ちょっと、シン!!どうしちゃったのよ、アレ・・・」

眉を寄せると、次々に少年たちが焦ったように状況を伝えてくる。

「体育館裏で、あいつ、気絶してたんだ」
「・・・シン、なんかDクラスの奴に呼ばれてて、もしかしたら、それで・・・」
「で、俺たちも外出禁止令がでちゃって・・・ったく、シンの奴・・・」
「Dクラス・・・」

レイは思わず呟いた。
Dクラスは、主に白兵戦を得意とする、その方面の強化を目指したクラスだ。
もちろん、ザフトのエリート育成のためのアカデミーだ。A〜Dまであるクラスのほとんどが同じ授業を受けられるようになっているが、それでも自分の専門分野は他より負けない、という自負がどこのクラスにもある。
そんなDクラスの人間に、シンが襲われたという。
皆はなぜ、と口々に言い合うが、レイには思い当たる節があった。
シンは、元々生意気故、よく売られた喧嘩を買う傾向にある。そんな奴が、肉体派を売りとするヤツラの目に留まらないはずがない。
多くの理由が考えられたが、とりあえずレイはシンの居場所を聞くと、
彼を迎えに走った。

シン・アスカは医務室にいた。

話を聞くと、今回はほとんど一方的だったらしく、シンにお咎めはないという。
レイはほうっとため息をついた。
まったく、もしまたお咎めなどでイメージを悪くしてしまったら、
それこそ些細なことで退学処分を食らってしまう。
ある程度のことは生徒会長の権限でどうにかできたが、あまりに覚えが悪ければフォローなど不可能だ。
シンが退学処分は、実はレイも困ってしまうのである。
―――シンは、俺の駒なのだから。

「・・・シン」

また眠っているらしいシンを、レイは見下ろした。
幸い、それほど傷はひどくない。反抗すればきっとひどいことになっていたはずだが、
もしかしたらただやられっ放しでいたのだろうか。
急所を庇い、それでもむき出しの腕や脚はひどい傷を負っているのを確認して、
レイは思わず楽しげに笑ってしまった。
体力の落ちた身体、抱き上げるとぐったりと身を預けてくるシン。
しかも、校医からは明日は休ませていい、とお達しも出た。

こんなチャンスは、そうそう来ないだろう。

「さて、今日は何を使おうか・・・」

そんな楽しげな声音を手にぶら下げたビニール袋の中身に発して、
レイはどこかウキウキと少年を寮に連れて行った。
もちろん、今だに寮のレイとシンの部屋である402号室にわだかまっていた者達をきれいさっぱりと退散させて、である。

レイはシンをベッドの上にゆっくりと下ろしてやると、ガサゴソと袋の中を漁った。
その中で、彼が取り出したのは瓶に入った液薬。
巷では有名な、即効性の、かなり強力な精力剤である。無論、副作用はゼロ。

「俺が飲んだら、さぞかし辛いことになりそうだな」

脱力しきって眠る少年の隣で、レイはくくっと笑った。ただでさえ持て余しているというのに、これ以上煽られてはたまらない。
目の前の彼相手ならば、きっと彼を殺してしまうまで止められなくなってしまうだろう。
そう、これは一般人が軽々しく使うようなレベルのものではない。
ほとんど力の失った、それでもまだ"男"の見栄を張りたい壮年の男性が、たった一夜の夢を見るために作られたようなものだ。

「ま、不感症といっても、大切なのはきっかけ、だからな・・・」

レイは、シンの顔色がそれほど悪くないのを確認して、瓶の口を開けた。
瓶を煽り、一気に液体を口に含む。そのまま、顔を傾け、シンの唇に自分のそれを押し付ける。
キスも、セックスも、初めてではない。
もちろん、彼が快楽を感じることのできない体質だとわかってからは、無理はさせず、キスや肌への愛撫だけで止めてはいるのだが。

「っ・・・」

かすかに頭を揺らす彼の顎を掴み、すべて残さず飲み干させてしまうと、
レイは唇に残ったその変に甘いような液体を指先で拭う。
そう、ただ反抗する相手を無理矢理引き裂き、強引に行為を行うなど、面白くもなんともないのだ。
そもそも、噂にある「泣かせた相手は数知れず」というのは、レイ本人にしてみれば激しく間違っていると思う。
こちらから誘って手をつけたことは1度としてない。
求められたから、与えただけ。嫌だと言う相手に、行為を強いたことなどない。
付け加えれば、すべての相手に『本命は別にいる』と最初に告げ、割り切った関係を納得させているのだ、結局泣かれ、そしてただ悪魔だとか男女関係が荒いとか冷血漢とか言われても正直困るわけである。
まぁ、シンに対してだけは、本命のことは告げていないが。
・・・もちろん、彼を従順な手駒にするためだ。

「は・・・ぁっ・・・」
「今夜は楽しい夜になりそうだ」

意識を眠りに落としながらも、既に身体は薬の効果で熱を持ち始めている。
レイはそっと、彼の下肢に手を這わせた。
そこで、衣服の下で盛り上がっている感触に驚く。これは紛れもなく、反応を示している証拠だ。
眠っているのをいい事に、そっと下肢を奪ってしまえば、もうすぐにでも達してしまえそうなほど、怒張し、張り詰めたそれ。

(・・・どういうことだ。まさか、眠っている時は、不能ではなかったりするのか・・・?)

確かに、それは有り得た。
基本的に不感症の原因は、自分自身の過去の恐怖やトラウマ、その他諸々が原因となって心身の解放を己自身が許さないことにある。
ならば、その意識が薄れる、その瞬間ならば?
悪夢などでうなされている時ならば話は別だろうが、今は疲れ切っていて、夢など見ている状況ではない。
レイは失敗したな、と小さく舌打った。

「・・・シンにはキツいかもな・・・。ま、いい」

意外にあっさりと肩を竦めて、レイはシンに向き直った。
まだ、しっかりと目覚めていないシンは、今は熱にうなされ、顔を歪めている。
媚薬や精力剤の類は、見た目より内側の熱の暴走のほうが意外に激しいものである。さぞかし辛いことだろう。
しかも、普段不感症で、結局イけずにいる彼ならば、なおさら。

レイは少し考えて、少年の下肢に身体の位置をずらすと、そのまま彼自身を口に含んだ。

「あっ・・・っ・・・」

我ながら、珍しく優しい扱いをしてやっていると思う。
けれど、頭の上から微かに喘ぐような声が聞こえてきて、まぁいいかと彼のペニスをしゃぶってやった。
感じやすいのはもちろん薬のせいだが、それにしてもこんな反応が出来るということは、
潜在的に身体能力が悪い、というわけではないようだ。
それだけでもわかって、レイは満足げに笑みを浮かべた。まだまだ、篭絡の余地はある、ということだから。
もちろん、セックスだけがその手段、というわけではないが、
当然、性的関係は身体的精神的鎖でもある。ないよりはあったほうが確実にいい。
眠ったままのシンのそれを、レイは丁寧に嬲ってやった。
手を添え、根元に指先を絡ませる。絞るような動きで砲身を扱いてやり、もちろん片方の手では下の2つの嚢のほうも柔らかく揉みしだいてやる。
薬のせいで熱を溜め込み続けるそこは、すぐに達してしまいたい、と少年に訴えてきた。

「あ・・・あ、あっ・・・」

まだ、うなされているように首を振る。
目を閉じていたけれど、もしかしたら起きているのかもしれない。
どちらでも構わない。レイはそのまま、強く下肢を扱いてやる。どくり、と血液が下肢に流れた。
砲身の筋もどくりと脈打っている。

「シン・・・ほら、イってみろ・・・」
「っあ・・・!」

耳元で囁いてやる。
その途端、手の中でそれが弾けた。
シンにとっては、ほとんど初めての経験だっただろう。
丁度、一番興味が出てくる思春期に、あの残酷な戦争の記憶を刻み付けられてしまったのだから。
身も心も縮こまり、恐怖に脅えていたのかもしれない。小さく、レイは笑みを浮かべる。
シンの放った白濁を手に掬ったまま、レイは下肢の周辺を柔らかく刺激してやった。
シンは、衝撃で漸く目が覚めたようだった。
不可解に息を乱したまま、ぼんやりと周囲を見渡す。
レイが覗き込むと、その顔に焦点を合わせ、ハッとしたように目を見開き、
それから自分がどういう状況に置かれているかを自覚する。
シンは一瞬、脅えたような表情を見せた。思わずレイは喉の奥で笑いをもらしてしまう。

「っな・・・、なんだよ、これっ・・・!」
「見た通り・・・、お前はベッドの上で、俺の愛撫に溺れて、精を放った。これが証拠だ」
「え・・・っ・・・!?」

見せ付けるように身を起こさせるレイに、シンは今度こそ驚きの表情でそれを見、
その次の瞬間は羞恥に頬を真っ赤に染めてしまった。

「なんで、オレっ・・・」

今まで、どんなにイきたくともイけなかったのだ。
自分で扱いてみても、レイの愛撫でも、まったくといっていいほど感じられなかった。
力なく垂れた彼の息子は、男であることをまったく示すことなく、
シンにとってはコンプレックスでもあった。
それが、知らないうちに、熱を持ち、精を放ったという。それどころか、今もわだかまる熱が下肢に存在している。
身を竦ませると同時に、レイの手の中のそれが、心持ち萎えていった。
やはり。彼の中の脅えが、不感症の一因になっているに違いない。
脅え―――無論それは、快楽を感じ、悦びを覚えるという事実に対しての脅えだ。

「なんで、も何もない。事実、お前は善がり、そうして達した。俺がすべて見ていた」
「ど・・・して、んなことっ・・・!」

シンはレイを退かせようと、身を捩る。
しかし、その途端、・・・下肢の奥のあたりを、激しい衝撃が襲ってきた。

「っあ・・・な、何・・・!」

シンは怖くなって、逃げようと腕に力を込めた。
それを、レイは止めた。辛うじて怪我のない手首を掴み、ベッドに押さえつける。

「怪我に響く。動くのはやめて、大人しくしていろ」
「だっ、って・・・!こんなの、オレっ・・・」

再び、シンの内部で激しい熱の波が襲ってきた。
感じたこともわからない彼には、それが快楽とは思えない。
ただ、体内に巣食うなにか別の生き物が、自分の中から出てくるような、そんないわれのない恐怖が、
シンの心を支配した。恐怖に、目の前の金の髪の少年に、縋る。
レイは、口元だけで笑みを浮かべた。ひどく残酷な笑みだったが、シンは気付かない。

「レ、レイ・・・!」
「助けて、欲しいか・・・?」

レイは、そっと、シンのペニスを握り締めた。
ひっ、とシンは脅えたが、ただそれだけで、レイのシャツを握り締める手の力は緩まない。
耳元で囁くレイの言葉に、シンは何がなんだかわからないまま、無我夢中で首を縦に降った。
何より、はやくこの熱から解放して欲しかった。快楽でもない、ただからだの中を灼くだけの熱だ、きっと耐えられない。

「あっ・・・、・・・っ!たす、けっ」
「心配することはない。俺が、調教してやるよ。お前の身体、すべて、な・・・」
「レイっ・・・」

物騒な単語も、シンの耳には届かなかった。
レイは、シンの足を掴み、彼の足の間に身体を滑り込ませ、シンの唇にキスを落とす。
セックスで感じられないシンにとって、レイの執拗に絡みつく舌は恐怖でもあり、それでいて不思議な感覚だった。
例えていうならば、高揚感。胸が高鳴る感覚を、初めて覚えたのが、あの夜だった。
今のシンにとって、レイは大切な存在だったのだ。

(この俺でなければ満足できない身体にしてやるよ。俺以外に、不感症になれ、シン)

再び、レイはシンの雄を扱き始めた。





00.Prologue
01.お前は俺の所有物
02.調教してやるよ
03.そのカオ、ぞくぞくする





Update:2005/08/29/WED by BLUE

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