01:暗闇



「私は、安心するがね」
「安心?」

夜のベッドで共に寝ているラウが、いつもの皮肉げな笑いと共にそう言った。
俺は、怖いと思うのに。
もちろん、それは俺の過去のトラウマであって、
俺自身よくわかっていることなのだけれど、
月のない、全く光のない、闇。
自分すら呑みこまれ、消えてしまいそうな深淵だ。ざわりと背筋が震える。

「あと数時間もすれば朝だよ、レイ。心配しないでおやすみ」

ほとんど寝息と共に吐き出された言葉は、ギルのもの。
・・・別に、夜の話をしたわけじゃないんだけど。
夜は、いい。朝が来ることを信じられるから。闇とは違う。同じ暗闇でも、光があるし。
でも、俺が怖いのは、そんなものじゃない。

「闇に呑まれるのが怖いと?そうだな・・・
 ではレイ、お前は"人"が生まれる、ということをどう捉えているかね」
「・・・?女の腹から、ってこと?」
「そう。アレの中を考えてみたまえ。生まれ出た時は確かに光を知るだろう。だが、その前は?すべてが闇だ。我々人間に、闇を知らない者などいない。そして、光を知らない者もね」
「・・・・・・」

そんな、あまりに具体性のない話をされても。
要するに、闇はトモダチ、ってこと?
人の生に光もあれば闇もある、だからそれに脅えることはないってことかな?
幼い頃の俺にとって、闇は敵だった。
あんな狭い場所で、閉じ込められて。何度も、血が滲むまでドアを叩いたこともある。
まぁ、なんにも意味はなかったんだけど。

「闇が限りのないもの、と思うのは大きな間違いだぞ。もちろん、お前がそれを望むならどこまでも闇は続くがね・・・」

手が伸ばされ、髪を弄られた。
かれに髪を触られると、何も言えなくなる。もっと、触れたくなる。
傍にいたいと願うのは、いけないことだろうか。

「嫌、なのだろう?」
「あ・・・」

ごそごそと、衣擦れの音がした。

「・・・やっぱり、どんな夜にも朝は来るってことだろう・・・?」

聞くともなしに聞いていたギルの、簡単だけれど、すごく心に響く言葉。
どんな夜にも朝は―――。そう、かな。
そう、望めば?
それが、人、ってことなのかな?

「闇は褥だよ、レイ。安心しておやすみ」

かれの言葉に、俺はそっと目を閉じる。
幸せだな、と思った。
あの闇を、もう怖がらずによくなったことが、本当に。








[20のお題詰め合わせ] by 折方蒼夜 様
Update:2005/09/29/WED by BLUE

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