03:紅



紅色といったら、思い出すのはシンだな。
あの燃えるようなルビー。怒りを滲ませると、特に輝くんだ。
傍にいると、よくわかる。
でも、昔は違うものを考えたな。
真っ赤な、血の色。
あれも確かに、紅色だ。紅。真紅。
ラウに連れられて、いろんな場所にいったから、沢山見てきた。今思えば、なんて残酷なことをしていたんだろうね、あの人。
彼が俺たちの関係する研究所を潰しにいくのはよくあることで、
俺はいつもついていっていた。
でも、多分、あまり何も感じなかったんだろうな。
血なんて見慣れていたし。俺のいた研究所では、普通に動物実験や、非人道的な実験もやっていたから、突然凶暴化しその場で射殺されたサンプルや、生きたまま内臓を抉られたサンプルもたくさんたくさん。
もちろん、その当時は知らなかったよ。
ただ、怖いと思っただけだ。床を染め上げる血、血、血溜まり。
いつか、自分もああなるんじゃないかという、恐怖の対象。
でも、そうはならなかった。
ラウが、来てくれたからね。
ラウが情け容赦なく人を殺していくのを見ながら、あまり怖くなかったのは、
自分を引いていた彼の手が暖かかったからだ。
彼の傍にいれば、安心だった。
どれほどの血を見ようが、平気だった。
ああ、おかしいよね。わかってる。今だって、軍人として人を沢山殺しながら、
なんとも思わない。すべて割り切っていられる。
もちろん、殺さないに越したことはないけれど―――。
仕方ないことだってある。戦争である以上、仕方がないことのほうが多いだろう。
それが、近く来るはずの平和な未来のためなら、なおさらだ。
誰の血だって流させる。必要なら俺の血だって流そう。
血塗られた世界?ああ、そうだね。
でも、今更、だろう?
過去、どれほど人間が醜い争いをしていたか、知らない者などいないだろうに。

「レイ」

ギルは、よく自分を傍によると、俺の手を取る。
そしてすまなそうにこういうんだ。

「君の手だけは、汚して欲しくなかったのだがね・・・」

馬鹿だね、ギル。
人を殺そうが、殺しまいが、人の手は既に汚れているんだよ。
その存在自体が、罪なのだから。
その人としての生き様が、他人を殺すのだから。
だから俺は、平気であなたに誓う。

「あなたのための犠牲ならば、いくらでも差し上げます」

イケニエ、って、そういうことだろう?
紅色の、世界。でもそれはきっと、未来のためのイシズエ。
ラウなら、どう言うだろうな?

―――所詮、お前も一人の人間、ということだろうな。

うん、人間として生きられて、よかったと思う。
俺を助け出してくれて、ありがとうね。








[20のお題詰め合わせ] by 折方蒼夜 様
Update:2005/09/29/WED by BLUE

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