明日
「その命は君だ、彼じゃない!」
俺は、彼じゃ、ない?
分かっている、そんなこと。
でも…本当に?
『ラウはもういないんだ。だが、君も…ラウだ。』
なら俺は彼?ギルにとっての、俺は。
『それが、君の運命なんだよ。』
人によって定められた運命だとしても、受け入れなければならないのだろうか。
彼はそれに抗い、散っていったというのに。
抗うことなど、出来ないのだろうか。
そんなはずはない。それを受け入れてしまえば、彼のしたことをも否定することになる。
もう一人の俺が願ったことを。
だから終わらせる。全てを。
そしてあるべき正しき姿へと戻るんだ。人は、世界は。
「けど僕たちは知っている。分かっていけることも、変わっていけることも。」
目の前に居るのは、キラ・ヤマト。あれほど、憎んだ相手。
なのに。
「だから明日が欲しいんだ。どんなに苦しくても、変わらない世界は嫌なんだ!」
明日が欲しい。それは、確かに俺が願ったこと。たぶん、きっともう一人の俺も。
願うことは同じ。でも、進む道はまったく違ってしまった。
「傲慢だね。さすがは最高のコーディネイターだ。」
「傲慢なのはあなただ。僕はただの、一人の人間だ。どこもみんなと変わらない。」
…そう、か。俺は一人の人間だったんだ。
「アル・ダ・フラガのクローン」でも、ラウ・ル・クルーゼでもなく。
明日が見えなくて、でも明日が欲しくて。
もがいていた、ただの一人の人間だった。
無意識のうちに、もう一人の俺の役割を演じていただけで。
俺は、俺だったんだ。
「…覚悟はある。僕は、戦う!」
その瞬間、どこから銃声が響いたのかさえ分からなかった。
ギルの胸から赤い血が流れ、倒れこんだ。
撃ったのは、ほかでもない、俺自身だった。
俺の、そして…彼の明日を、願うがゆえに。
泣きじゃくる俺を、抱きしめてくれた腕があった。
「あなたもよくがんばったわ。だから、もういい。」
「お、かあ、さ…。」
無意識に言葉が出てきた。そんな存在は知らなかったけれど。
クローンである自分に、両親なんて存在しないけれど。
この人たちなら、そう、思った。
――『明日』になれば、きっとまた会えるよね。