08:永遠



もし、永遠というものが存在したならば。
俺は迷わず、あの幸せだった時を望んだだろう。ギルと、ラウと、そして俺。
世界なんてどうでもよかったし、何が起こっても大した影響のなかったあの頃。
いつも夜にはギルが帰ってきて、そしてラウもまた。
何事もなく時が過ぎていった。求めれば、すぐ彼らの腕の中にいられたし、優しさだってもらえた。
けれど、今思えばそれは、ただ上辺だけのもので。
遊び疲れた俺を寝付かせた後は、俺の頭の上で常に話題に上る、深刻な問題の数々。
見えないところで着実に俺たちを蝕むこの肉体。ラウは嘲笑っていたけれど、俺はやっぱり、不安だった。

ねぇ、ラウ。もう一人の俺。
俺も、あなたのようになりたかった。己の運命も、未来もすべてを受け入れていた人。
そうしてなお、俺に笑いかけてくれた、強い人。だからきっと、ギルもあなたに惹かれたんだ。
俺があなたになれたなら、少しは彼の、
あなたを失った心の溝を埋めてやることができたろうか?

「お前はお前だ。こんな私のようになる必要などない。」

・・・うん。あなたがそう言うのは、わかってるけどね。
でも、知ってる?ラウ。あなたは、本当に残酷な人なんだよ。
ギルが酔っ払った時、あの人が何ていうか知ってる?

「ラ、ウ・・・?」

呼ぶのは、常にあなたの名前だ。
傍に居るのは、俺しかいないとわかっているはずなのに。
ギルが本当に求めているのは、俺の中のあなた。俺じゃない。あなたなんだ。
失ったものは大きすぎて。俺にも、ギルにも。
それだけ、あなたは俺たちに遺していってくれたんだ。知らないだろう?己の存在にすら空虚さを覚えていたあなた。
死してなお、"永遠"を紡ぐあなた。もう、俺たちは逃れられない。
魂に刻まれた痛みは、もはや覆すことはできないだろう。
こんな俺たちを、あなたは笑うかな?
でも、仕方ない。
今、あなたを失うには、俺たちは弱かった。ただそれだけのことだ。

「レイ」

手を差し延べられ、俺は彼の人の手を取った。
水をたたえたような、オレンジ色の瞳。知ってるよ。映っているのは、ラウだろう?
だから俺は、そんな痛々しいあなたの姿なんて見ていたくなくて、
シーツを破り、目を塞ぐ。
もう、何も見なくていいよ。永遠に、あの人を愛していて。

心もとない感覚に震えるからだを抱き締めて。
俺は静かに、唇を重ねた。










[20のお題詰め合わせ] by 折方蒼夜 様
Update:2005/10/04/THU by BLUE

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