悪い大人、無垢な子供。



「すっっっごくいい眺めだねぇー。なぁ、レイ?」
「うんっ!!いい眺め、いい眺めーー」
「・・・こら、はしゃぐんじゃないっ!!」

クルーゼの制止などお構いなしに、ギルバートとレイは初めて来た「露天風呂」なるものに大はしゃぎだった。
透明な湯に白い泡――いわゆる"湯の花"が浮いている、オーブ西部に湧く天然温泉。
結構な高度の場所にあるため、
宿の裏側には海が見える、といったなかなかの絶景である。
ギルバートとレイは、そんな初めての光景に、特にギルバートは年齢も忘れて楽しんでいた。

何度も言うが、プラントの自然はあくまで人工のものである。
従って、こういった温泉郷、観光地などにはプラントにいる限り無縁なわけだが、
この間クルーゼが出張でオーブに行った際、
なんの気紛れか旅行雑誌を持って帰ってきてしまったからもう大変。
それが、元々どこもかしこも似たようなつくりの森やら公園やらに飽き飽きしていたギルバートの琴線(爆)に触れてしまったらしく、
膝の上にレイを乗せては、2人でその本を眺め、行ってみたそうにほうっ、とため息をつくばかり。
だから仕方なく、時間を空けて2人を連れてオーブにやってきたのだが、
今更になってクルーゼは大変後悔していた。

「・・・連れて来なきゃよかった・・・」

クルーゼは相変わらず大はしゃぎの2人を眺めながら呟いた。
もう、正直言って穴があったら入りたい。
まるでお前はおのぼりさんか、と言いたくなるようなほどのはしゃぎっぷり。
珍しいものがあれば行ってみないと気が済まない、という2人に引き摺られ、どれほど走り回ったことか。
これがレイだけならまだいい。まだいいのだが、
いい年した大人まで一緒のレベルで騒いでいるのだから、もう堪ったものではない。
さほど周りの目を気にするタイプでもないが、
あまりに好奇の目を向けられるとさすがのクルーゼもお手上げだ。
まだまだ回りたい所があるのに、と不満を漏らすギルバートとレイを半ば無理矢理引き摺って、
どうにかクルーゼは、夜が更ける前にこの宿へとたどり着いたのだった。

・・・もう、何も言うまい。
本来、風呂から上がってから夕食、晩餐だと思うが、それが逆になったとて何だというのだ。
普通は寝静まっている時間にやっと風呂、だとて何のことはない。
かくしてクルーゼ達は、もはや日も回った時間に、しかもなかなか広大な露天風呂を、
家族3人水入らず、といった体で楽しんで(?)いたのだった。

「ほら、クルーゼ!あそこで灯台なるものが光っているぞ!!」
「・・・灯台が光ってなくてどうする!!第一さっき目の前で見てきただろう!!」
「ラウー!お空にプラントが一杯ー!」
「レイ・・・それはプラントじゃない・・・星だ・・・」

2人に立て続けに脱力するようなことを言われ、クルーゼは頭を抱える。
酒だ、酒が欲しい・・・。クルーゼは桶の中の二合瓶をそのまま呷る。
本来は月など眺めながら猪口についでちびちびやるのが風情がある、というのだろうが、
この2人の前で風情も何もないだろう。
クルーゼはふぅ、とため息をついて、はしゃぐ2人をそのままに、
岩に背を凭れた。

こうして、星を眺めたのはいつ以来だろう。
長くプラントでの生活が続いていたクルーゼは、懐かしい記憶に思いを馳せる。
数年前、まだレイが、自分の手元になかった頃。
あの、唯一の血縁を探して地上に降りたときのことだ。
あの時も彼の存在とともに、海を眺め、そして星を眺めた夜があったことを覚えている。
ふ、とクルーゼは口元を歪めた。
今頃、彼はどうしているだろうか。勿論、考えても仕方のないことだけれど―――。

「ずるいなクルーゼ。私には注いでくれないのかい?」
「ボクにはー?」

催促の声にクルーゼは現実に引き戻された。
さすがにレイは却下として、クルーゼはしぶしぶとギルバートにも注いでやる。
ギルバートは酒にはあまり強くない。というよりも、酒ぐせが悪すぎる。
そもそも日本酒というのは洋酒よりも強く、酔い易いのも特徴だ。
そんなものをギルバートに飲ませたらどうなることやら。
一抹の不安をクルーゼは感じたが、それも今更。先ほどの夕飯で、もう既に入ってしまっているのだ。
二合瓶から猪口に注いで渡してやると、ギルバートは嬉しそうに笑みを零した。
クルーゼは思わず目を逸らした。
不覚にも、レイのいる前でギルバートに欲情しそうになったからである。

「ラウー。ボクには?」
「・・・レイ、お前はまだ駄目だ・・・、っ!?」
「はい、レイ。」

クルーゼが突っぱねる横で、ほろ酔い気分のギルバートが、なんとレイに酒を渡していた。
喜ぶレイだが、こんな、年端もいかない子供に何を・・・!!
クルーゼが硬直している間に、
けれどレイは上品そうに猪口に口をつけてしまっていた。

「おいしー!!」
「よかったなぁ、レイ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

美味しいとかそういう問題ではないだろうレイ!
だが、クルーゼのその内心に気付く者など誰もいない。
ギルバートは更にレイのそれに酒を注いでやろうとさえしている。
さすがにクルーゼはそれを許さず、ギルバートの手から二合瓶を取り上げた。

「・・・クルーゼ。少しぐらい、いいじゃないか」
「よくない!!まったく、お前は甘すぎるぞ」
「くれないの?ラウ・・・」
「・・・もっと大人になってからな、レイ」

つまらなそうに唇を尖らせる幼い子供に、宥めるように頭を撫でてやって。
それからクルーゼは、残り少ない酒を飲み干してしまう。
やれやれ、露天風呂で、酒も満足に楽しめないとは。
ため息を吐きつつも、また湯に浸かっていると、
今度はギルバートが顔を赤くして、フラフラと揺れ始めた。
酒に酔ったのか、のぼせたか。きっと両方だろう。支えてやるとぐったりと身を預けてくる。
とりあえず、こんな格好で、こんな態度を取らないで欲しいものだ。
まるで理性を試されているような気になってくる。
だが、ギルバートはどうやら意識まで朦朧としているらしい。全く世話が焼ける。

「大丈夫か?」
「ん・・・・・・」
「全く・・・。湯からあがって、しばらく大人しくしていろ」

どうせ、季節は夏に近い。外に出ても、それほど寒くはないだろう。

「ああ・・・すまない」

ギルバートは頷くと、ゆっくりと立ち上がった。
足元がおぼつかない。支えてやるか、とクルーゼが身を起こしかけたその矢先。

「・・・あっ・・・!!」

次の瞬間、ものすごい水音を跳ね上げて、ギルバートはひっくり返った。
後ろだからよかったものの、前のめりにコケていたら大惨事になっていたことだろう。
転んだギルバートの下敷きになってしまったクルーゼは、
それでもはぁ、と安堵のため息をついた。
心配そうに、レイも近寄ってくる。大丈夫?と子供に聞かれる光景は、正直かなり滑稽だ。

「あ、・・・クルーゼ・・・」
「・・・お前は・・・」

クルーゼの腕の中で、ギルバートが身を捩る。
その動きが、意識的なわけではないだろうがクルーゼ自身を刺激し、
クルーゼは思わず唇を噛み締める。
上気したギルバートの顔や、すぐ近くにある甘い吐息。
それを目の前にして、クルーゼの欲望が我慢できるはずもないというのに、
どうしてこの男はこれほどまでに自分を煽ってくるのか。

―――罪だな。

クルーゼは白く濁り、誰にも見えないのをいいことに、
ギルバートの前に手を伸ばした。

「あ、っ・・・!」

ぼんやりとしていた意識が、ギルバートの中で突然晴れ渡った。
下肢を襲う直接的な刺激。慣れたそれは、考えずともわかる、クルーゼの手だ。
根元に指を絡めて、親指で先端を執拗に刺激してくる。
ギルバートは涙目になりながら、背後のクルーゼを睨みつけた。
けれど、クルーゼはにやけたように笑うばかり。
ギルバートは激しい羞恥に居た堪れなかった。第一、近くには幼い子供までいるのだから。

「っ・・・クルーゼ、やめっ・・・!」
「ギル?ねぇ、ギル・・・、どうしたの?」

レイはもちろんギルバートの状況など知るはずもなく、
顔を赤くし、眉を寄せるギルバートが苦しんでいると思ったのだろう。
それすらも面白く、クルーゼは耳元でくっくっと笑った。
クルーゼに翻弄されるのが悔しくて、それでいて熱くなる自分を止められない。
レイは心配そうに、ギルバートの胸を押さえてきた。

「っ・・・レイ、・・・っ・・・!」

心配させまいと、声を抑えてレイに言葉を紡ごうとするギルバートを、
自身を強く握ることで遮って、
クルーゼはまるで悪魔のような表情を浮かべた。
ギルバートは得体の知れない嫌な予感に背筋を震わせた。
こういうときのクルーゼは、何を考えているかわかったものではない。

「レイ。ギルバートは、苦しんでいるわけじゃないぞ」
「えっ・・・?」

なにを、と睨みつけるギルバートなど全く相手にせず、
クルーゼはレイに一見人のよさそうな笑みを浮かべ、うなずいた。
ギルバートを握り締めていないほうの手で、レイの小さな手を掴む。
レイは首を傾げた。
その様子はかなり可愛いのだが、なにか不穏な空気にギルバートは恐怖する。
逃げようとして、腰をがしりと掴まれた。
クルーゼの足に絡め取られ、自分の足すら満足に動かせないまま、
無理矢理足を開かされる。
そんなことを、ごくごく涼しい顔でやってのけたクルーゼは、
そのまま捕らえたレイの手を、ギルバートのそれに近づけさせた。

「なっ・・・!」

ばしゃり、とギルバートが暴れるのを、クルーゼはがっちりと押さえつけて。

「レイ、これを両手で擦って御覧」
「おいっ、クルーゼ、何をっ・・・っあ!!・・・っ」

砲身を強く擦られて、ギルバートは嬌声をあげて黙り込む。
レイは不思議そうな顔で、手元のそれをおそるおそる握ってみた。張り詰めたギルバートのそれは、
幼い少年の手には大きすぎるものだろう。
レイはクルーゼの顔を見上げた。

「これ?」
「ああ。そうすれば、ギルバートがとっても悦ぶぞ」
「ほんと?ギルが喜ぶ?」
「ちょ・・・、なに教えてっ・・・や・・・!」

嫌がる自分を無視して、レイに笑顔を向け頷くクルーゼが恨めしい。
幼い子供は、クルーゼの促しに、ゆっくりと手の中のそれを擦ってみた。
小さな手で一生懸命扱くその姿に、クルーゼは内心の笑いを抑えるのに苦労した。
口元に済ました顔を浮かべているのも、もう限界である。
レイのほうはというと、手を動かしながら、喘ぐギルバートに顔を近づけて、覗き込んでいた。
うっすらとギルバートが目を開けると、小首を傾げて訊いてくる。

「気持ちいい?ギル」
「っ・・・!あ・・・、いや、その・・・」

正直、どうしていいかわからない。
ギルバートは熱に浮かされたまま、困ったように眉を寄せた。
こんな、自分の子供同然の子に、自分のそれを擦られて、快感を得るなんて馬鹿げている。
だが、正直な身体はそれにすら反応を示してきて、
だがギルバートは、それを認めたくない、と首を振りたかった。
けれど、相手は子供だ。
なんの邪気もない、相変わらず可愛らしい顔で、
少しだけ不安そうにギルバートを見上げてくる。
だというのにしていることはあまりに大胆すぎてこっちのほうが情けない。
ギルバートは顔を顰めた。

「気持ち・・・よくない?・・・」
「・・・う・・・。・・・気持ち、いいよ、レイ・・・」

そのとき、もう既に笑いを堪える限界だったクルーゼが、
ついに耳元で吹き出した。
ギルバートはぎろりとクルーゼを睨んだ。けれどクルーゼがそれに気付くはずもない。
ギルバートの前はレイに任せて、クルーゼは両手を一旦手放し、
それからギルバートの腰に手を当て、それを持ち上げた。
なん・・・!とクルーゼを押し留めようとギルバートは手を使ったが、
もはや後の祭り。
ギルバートはクルーゼに腰を持ち上げられ、彼の楔に腰を下ろすような体勢にさせられてしまった。
レイは、というと、ギルバートのためにその拙い手で頑張っている。

「あっ・・・クルー、ゼっ!!やめろっ・・・!」
「フ・・・許せ。私もそろそろ、達きたいしな」
「っだからって・・・、ああ・・・!!」

湯の中での結合に、ギルバートは思わず息を詰めた。
ぐっ、と押し入ってきたクルーゼのそれが動くたびに、隙間から熱い感覚が内部を侵食していく。
ばちゃり、と水の跳ねる音に、ギルバートはひどく羞恥したが、
幼い子供が目の前にいる手前、あまりあられもない格好を見せたくない。
見せたくなくて、必死に唇を噛み締めるのだが、
レイは相変わらず無垢な青色の瞳で自分を見つめてきて、
ギルバートはどうすることもできなかった。

「ギルバート・・・どうだ?」
「っ、・・・もう、いいだろう・・・っ」
「そうだな。お前のイイ顔が見れたしな?」
「くっ・・・」

クルーゼの言葉に、悔しげに背後の男を睨むが、
体内にある彼の熱と揺れる体、そして自身を手にする幼い子供に、
もう限界が近づいていた。
ギルバートはいやいやと首を振った。
レイの、自身を掴む手に、自分の手を重ねる。
拙い手の動きはもどかしさをギルバートにもたらした。
それが焦らされているようで、つらかった。

「っ・・・!」
「レイ。」

クルーゼは熱心にギルバート自身を扱いている少年に声をかけた。

「ギルバートは、もう達きたいようだぞ」
「『いきたい』?」

言葉もわからぬ幼い子供にこんな行為をさせるのは、
なにか犯罪めいた気分になってしまう。
けれど、そんな彼にギルバートを追い詰めさせるのは、なぜか楽しかった。
ギルバートはレイに甘い。だから、彼の手で苛めさせたくなってしまったのかもしれない。
我ながら性格が悪いとは思う。
だが、腹の中にある笑いは止められない。

「レイ。もう一息だ。頑張ってギルバートを悦ばせてやれ」
「うん!頑張る!」
「・・・・・・〜〜〜〜〜〜っ」

まるで無垢な子供を騙す、悪い大人。
だが、もうギルバートは何も言えなかった。
ただ、クルーゼと、・・・レイに与えられる感覚に酔って。

「あっ・・・、クルー、ゼっ・・・」
「ギル、ギル・・・」
「・・・っ、いいか・・・?」
「あっ」

深々と内部を擦られて、最奥が疼くようだ。
すうっと薄れそうになる意識の中、クルーゼの吐息が水音に重なる。
瞳を閉じると、もう周囲のことは気にならなくなった。
クルーゼの肩に頭を埋めて。

「ギルバート・・・」
「っ・・・、あ、ああっ・・・!」

クルーゼの囁きが耳を打った瞬間、
ギルバートはぶるり、と背を震わせ、そうしてついに精を放ったのだった。
遅れて、クルーゼもまた、ギルバートの内部に自身の欲を解放して。
達した衝撃に耐えられず、脱力したギルバートの身体を抱き締めながら、
クルーゼは笑みを洩らした。




「ああ、もう、いやだ・・・」
「仕方ないだろう。湯の浸かりすぎだ。黙って寝てろ」
「ギル・・・大丈夫?」

結局、大変な時間を湯の中で過ごしてしまったギルバートは、
ひどくのぼせてしまったらしく、まともに立てなかった。
仕方なくクルーゼが着替えさせ(もちろんレイも手伝った)、そのまま担いで部屋に戻ってきたのだが、
ギルバートは冷房のきいた部屋に直行され、レイにはうちわで扇がれていた。
なんとも情けないことだが、頭が痛くて、フラフラする。
そもそも一番の原因はクルーゼであるから、
悔しくてギルバートは彼を睨んだ。
クルーゼは肩を竦ませた。まったく自分が悪いなどと思っていないような彼の反応に、
ますますギルバートは機嫌を損ねてしまう。

「ったく・・・なんたって君達は、そんなに体力があるんだ・・・」
「?」
「さぁ。ま、お前よりはハゲシク運動してないからな」
「・・・・・・っ!」

湯につかった時間は同じだというのに、まったく普段どおりのクルーゼとレイに、
ギルバートはため息をついた。
折角明日の行く所を決めていたのに、
これではきっと、明日はほとんど回れない。

「それにしても、レイ」
「なに?」
「お前、具合は悪くないか?」
「ぐあい?へーきだよ?」
「そうか」

くっくっと笑うクルーゼに、ギルバートは視線を動かした。

「お前、素質あるな。きっとギルバートより酒が強いぞ」

この年で日本酒など飲むと、普通具合が悪くなって当然だというのに、
いたってぴんぴんしているレイに、クルーゼは破願する。

「ギルより?やったぁ!」
「なんだ、ギルバートより上で嬉しいのか?」
「うん!いつか、ギルのことを守れるようになりたいから!」
「・・・・・・・・・」

そのやりとりに、ギルバートは再び脱力してしまった。
自分よりも15も年下の子供に守られる将来・・・・・・。
なにかとても、情けない気がするのは気のせいだろうか。

「そうかそうか。じゃあ、まずはギルバートの苦手なものから制覇していこう。そうだな・・・手始めに奴の苦手なゴキブリを・・・」
「ごきぶり!うん、ボク、ごきぶりからギルを守るからねっ!!」
「・・・もう、やめてくれ・・・・・・」

具合が悪い上にもっと悪くされるような会話に、
ギルバートは眩暈さえ覚えた。
クルーゼは笑った。レイもまた、目一杯の笑顔を浮かべている。
まったく・・・と口の中で呟きながら、
再び額に乗せられた冷たいタオルの気持ちよさに、
ギルバートはうとうとと眠りに落ちたのだった。





end.




Update:2005/06/01/FRI by BLUE

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