12:ナイフ



俺が、確か初等学校を出たばかりの頃から。
コーディネイター達の人権擁護を訴える組織、Z.A.F.T.が、軍事組織へと変貌し始めた。
それに伴って、元々ザフトに所属していたラウの休日も格段に減り、
家へと帰宅できる時間も、日も限られていった。
でも、だからといって、
代わりにギルがいない彼の分まで世話を焼けるかというと、そうでもなくて、
ただでさえ研究所の所長と評議会の議員を兼任していた彼は、
年々切羽を詰まらせる出生率の低下に、頭を悩ませていた。
もちろん、俺は。
帰ってきた家に灯りが灯っていないことや、
たびたびあった1人寝の夜に、正直始めは戸惑いもしたし、寂しいとも思ったけれど、
でも、やっぱり、それは仕方がないことで。
俺のためにどうにかしてよ、と泣く年でもなかったし、
何より、俺なんかのために、ギルや、ラウのいままでの生活を、
変えて欲しいなんて思っていなかった。
家を空けなければならない日、いつもいつも渋るギルの背を押して、職場に行かせた事もある。
だって、ねぇ。
もう、俺だって、子供じゃないよ?
背だって大きくなった。
・・・そりゃ、フツウより背の高い、二人には叶わないけど・・・。
でも、空いた家の番くらい、できるんだ。
もっと信用してよね、ギル。
本当に大丈夫かい、と不安げな顔をするギルに、俺は拗ねたりしていた。
ああ、ラウは、相変らずだったよ。
初めて留守番を任されたときは、すごく誇らしかった。
「できるか?」という彼の言葉に、「うん。」と頷いた。撫でられる頭が、やっぱり嬉しかったんだよね。
だから、次第に家にいられる時間が短くなって、
何日もあけなければならない時でも、
俺は、大丈夫だよ、って言った。正直言うと、ちょっと、不安だったんだけどさ。
まぁ、ギルもいなくて何日も、って言うわけじゃないんだけど、
やっぱ微妙だよねぇ。
なにせ、ギルはまったく役に立たないし?
こんなこと言っちゃ悪いけど、家事のセンスはないね、あの人は。
きっと、世話するのは俺だろう。
まず、朝起こすでしょ、それから、弁当作って、朝食作って、服着せて。・・・これ、ホントだよ?
いっそ、帰って来ないほうが安心かも。そりゃ、広い家で一人きりってのはヤだけど・・・
こっちだって学校あるんだし。大人の世話なんて焼いてられないよ。
あの人は、一人でできないわけがないだろう、って言うけどねぇ。
知ってるよ、ギル。
洗濯機回そうとして、壊したでしょ、こないだ。





「これを、お前に」
「・・・・・・ナイフ?」

ラウから手渡されたのは、綺麗な銀細工の柄の、小振りのナイフだった。
すごく、繊細なデザインで、思わず魅入った。これ、結構高かったんじゃないの?
目の前のかれを見上げた。相変らずの、薄い笑み。
ナイフ。刃物。連想するのは、もちろん赤だ。ヒトを殺すモノ。命を奪うモノ。息の根を止める、モノ。
それを、俺に?

「お前なら、これの正しい使い方ができるはずだろう?」

正・・・しい?
こんな、ただ、ヒトを殺めるたけのモノに、
どんな正しい使い方があるというんだろう、ラウは?
じっと、手の中のそれを見ていた。反射する光に、目を細める。

「大切なものを守るために、使いなさい。お前が一番、大切にしているもののために」
「・・・タイセツな、もの?」
「そうだ」

もう一度、手の中のそれを見やった。
俺が一番大切にしているものって、何なんだろう。
失いたくないものなら、ラウと、ギルと、そして3人で作る平和な時。
でも、こんなちっぽけなモノで、果たしてどこまで守れるんだろう?
・・・きっと、無理だよ。
だって、それは、つまり、・・・

「無理、だよ・・・」
「そんなことはない。」

そういって、ラウは、いつものように、頭を撫でてくれたから。
俺はなんか切なくなって、手に持ったナイフに気をつけながら、おずおずと手を伸ばす。
あの人は優しいから、すぐ抱き締めてくれて、
俺は目を閉じて、かれの温もりを追った。
時が、止まるような瞬間。いっそ、本当に止まってくれて、いいのに。

「私の帰る場所を、守っていてくれ。ここは、お前と、あいつと、私が共にいられる場所だから」
「・・・・・・ん。」

うん、任せてよ、ラウ。
きっと、守ってみせるから。俺と、ギルと、貴方が皆平和でいられる、
この、場所を。









[20のお題詰め合わせ] by 折方蒼夜 様
Update:2005/12/29/THU by BLUE

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