10:束縛



誕生日に何が欲しい、と訊かれたから、
俺は迷わず「ギル」と答えた。
あなたは一瞬驚いて、「いいよ」と笑ってくれた。
ほんとにいいの?
俺は、どんな手段を使ってでもあなたを俺のものにするよ?
いつも、どんなにあなたを抱いても、愛していると囁いても、
俺のものにはならないあなた。
俺の前に痴態を晒し、甘い声をあげて、潤んだ瞳で俺の名を呼んでくれても、
でも違う。
あなたの心を支配するのは、俺じゃない。
その証拠に。白磁のような肌には、俺じゃない男の証がちらほら。

「いっ・・・、レイ」

頭の上から降ってきた、ギルの咎めるような声音。
興味なんてない。そんなの、どうでもいい。
彼に残った紅い痕に、歯を立てる。強く、強く噛んで、血すら流されて。
悲鳴は相変らず続いていたが、とりあえず無視した。
だって、今日は俺の誕生日。
もらった玩具をどうするかは、当然、所有者である俺の勝手だよな?
すべて衣服をはがしてしまって、俺は改めてじっくりとかれの身体の品定めを始めた。
恥ずかしそうに明かりの下に全裸を晒すかれは、
興奮と羞恥に頬を真っ赤に染めていた。
それでも、逃げない。当たり前だ。逃げられやしない。
彼の手は両手首をしっかりと頭上に固定され、足はというと俺の手に囚われている。
彼の雄も、後ろの部分も、すべて俺の意志ひとつでどうにでもできる。
ひくひくと収縮を繰り返すその身体に目を細めた。
いやらしい身体。
「あの人」がいなくなってから、あなたが必死に心の溝を埋めようとして、あなたの身体はこうなった。
最初は、キレイだったのにね。あの人色に染まるあなたは、それはそれは美しかった。
でも、今は穢れてる。ただの淫売。知ってる?それって罪なんだよ。
彼の片手を外させる。戸惑うその手のひらに、溢れるほどのローションを落としてやる。
ひどくぬめった指先を、容赦なく彼の奥へと突き立てた。

「なっ・・・」
「自分で、やってみせてよ。できるでしょ、貴方なら」

戸惑う暁色の瞳。唇を震わせて、弱々しく首を振って、
できない、と訴えるあなた。
・・・嘘つき。
俺じゃない、誰かの前だって、平気でやってるくせに。
そんな初心な顔をしたって駄目なんだよ。ほら、無理矢理差し込まれた内部がひくついてる。
欲しいんだろう?疼いて、仕方ないんだろう?なら、俺の前でも素直に乱れてみせてよ。
それとも、俺の前ではできないって?
ああ、知ってるよ。いつもいつも、大人ぶって、保護者ぶって。
本当は、全然違うのに。
壊れたあなたを世話してきたのは俺だって、わかってる?
そう、非行なんて許さないよ。
たとえ気を紛らわせるためのあなたのたった一つの手段だとしても、
あなたはもう、俺のものなんだから。
それなのに、

「っ・・・、は、あっ・・・レイ、・・・」

また、あなたは。
熱に浮かされた瞳で、俺じゃない、誰かを見てる。
別に、あの人からあなたを奪いたいわけじゃない。俺だって、あの人が好きだ。
だけど、・・・ねぇ、ギル。
どうして、俺だけじゃ駄目なんだろう。
俺は、・・・俺は、
あんたを、他の男になんて抱かせたくない、ただそれだけなんだ。



―――心を束縛するものは、快楽でも、痛みでもない。
       屈辱と、それに伴う憎しみ。それを抱かせれば、こちらの勝ちだ

・・・そうだよね、ラウ。
いっそ、憎まれたほうがいい。俺はもう、彼を手放すことはないだろう。
抵抗を押さえつけて、彼の自由を奪い、そして閉じ込めて。
ああ、楽しそうだ。
自由気ままに生きてきた彼のこと、きっと、2日と耐えられずに、俺に憎しみの目を向けてくれるだろう。
逃げ出そうと画策する手足も、絶望に彩られたオレンジの瞳も、きっとすべて美しい。
だって、その時には、
もう、俺の姿しか、その瞳に映さないだろうから。

「っ・・・苦し・・・」
「俺を、憎んでよ。」

だから俺は、彼の首すら締め上げて、懇願する。
―――もう他の、誰のものにもならないで。
そう、熱浮かされた瞳に囁いてやる。
しかし、それが聞こえたのか聞こえなかったのか、彼はただ、
静かに笑みを浮かべるだけだった。










[20のお題詰め合わせ] by 折方蒼夜 様
Update:2005/11/28/THU by BLUE

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