温度
――無機質な床からは、冷たい感触しか伝わってはこなくて。
小さな携帯を握り締めた手はもう、感覚すら失われていて。
何も見えない。何も、聞こえない。
ついさっきまで感じていた温もりが、何よりも恋しくて。
けれどその時、肩に触れられたところから感じた暖かさに、安心して…でも辛くて。
「君だけでも生き残ってよかった。」
力のない自分がなにより悔しくて、涙が溢れて止まらなかった。
――初めてあの子達と出会ったときは、特に何かを感じたわけではなかった。
彼らがどういう存在であるかは、理解しているつもりだった。
戦うために、生きてきた子どもたち。
情を移してはいけない。何度も自分に言い聞かせてきたけれど。それでも。
かわいそうだ、と、思うことは罪なのだろうか。
「ネオ!」
触れてくる少女の温もりが、いまはただ悲しかった。
――自分という存在は、いまはもうたった一人の大切な人のためだけに。
それ以外に、存在する理由などなかった。
その人のためならば、どんな苦労もいとわない。
誰が苦しんでも悲しんでも、自分の知るところではない。
あの人が笑っていてくれれば、それだけでいい。
「ギル!」
いつもの笑顔で、暖かな腕で、自分を抱きしめてくれる限り。
守れなかったもう一人の大切な人の分も、守って見せると心に誓う。
――選び得なかった道の先に、あったかもしれないもの。
未だにそれを考えてしまうのは、自分の弱さ故なのか。
もしもかの友人の進んだ道に、違う道筋があったとしたら。
今も自分の傍らで、微笑んでいてくれただろうか。
選ばなかった道などなかったと同じ。そう言ってはいたけれど。
「ならば私が変える。すべてを。戻れぬというのなら、始めから正しい道を。」
失ってしまった温もりと、自分を守ってくれると言ったあの子のために。
――しぬのは、こわい。
いつかくるかもしれない、そうかんがえるだけでもこわかった。
だからなくしてしまおうってネオがいった。こわいものぜんぶ。
あたしをこうげきしてくるあいつも、こわい、もの。
だから…こわくないものなんて、どこにもないようなきがして。
でもきがついたら、めのまえにシンがいて…だきしめてくれた。
すごくあったかくって。しぬってわかったけど、こわくなくなった。
「…シン…好き…。」
つめたくてしろいゆきのなかで、おちてきたしずくだけが、あたたかかった。
――守るって、約束したのに。
死ぬのは怖い、ずっとそう言ってたのに。
守れなかった。死なせてしまった。
辛かっただろうか。怖かっただろうか。
最後は笑っていたけれど。好きって言ってくれたけれど。
「怖いものはもう無いから。安心して、おやすみ…」
力が、欲しい。もっと強い力が。
消えていく温もりに、嘆くしかない自分を変えるために。
あいつは、必ず倒す。
深い水の底に眠る君に、今度こそ、約束を。